行政や会社のニュース

全業種
行政機関・関連団体
安全情報
医療人・資格など
医療情報・業界団体
大学病院・国立病院
病院・医療法人
保険薬局・DgS
大学・教育機関
研究所・研究機関
創薬・開発ベンチャー
外資系製薬企業など
製薬業界・製薬専業
兼業・中堅・一般薬
バイオ・試薬・機器
CRO、支援、分析
医薬卸・流通・商社
その他
企業・病院の取材記事
国家試験合格実績
各薬学部の就職実績

(独)理化学研究所

(独)理化学研究所のホームページへ
閉塞性動脈硬化症に関わる3つの遺伝子領域を発見 -発症メカニズムの解明から臨床応用に向けて-(2015/10/22)
要旨
理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター循環器疾患研究グループの田中敏博グループディレクター、尾崎浩一上級研究員らの共同研究グループ※は、閉塞性動脈硬化症(PAD: Peripheral Artery Disease)の発症に関わる新たな3つの遺伝子領域を発見しました。
PADは、特に下肢の血管が慢性的に閉塞する疾患であり、高齢者における罹患率が10%近くと言われています。また、重症の場合には下肢が壊死することもあります。PADの発症には遺伝的要因が関与することは知られていましたが、これまでにPADの発症に直接関連する遺伝子は分かっていませんでした。今回、共同研究グループは一塩基多型(SNP)[1]を用いたPADにおけるゲノムワイド関連解析(GWAS)[2]を通してPADの発症に関わる遺伝子の同定を試みました。
共同研究グループは、まず日本人PAD患者785人、非患者3,383人を対象にヒトゲノム全体をカバーする約43万個のSNPを用いたGWASを行いました。次にこのGWASの結果から上位500個のSNPについてサンプル数を増やし、患者3,164人、非患者20,134人で検証した結果、確かな統計学的有意性を示す3つのSNP (IPO5/RAP2A、EDNRA、HDAC9遺伝子領域)を同定しました。最も強い関連を示した第13番染色体上のIPO5/RAP2A遺伝子領域については詳細な遺伝的地図を作製することにより、原因となりうるSNP群を割り出し、その中の1つのSNPがリスク型[3]の時、IPO5遺伝子の発現が減少することも発見しました。
本研究は、PADの発症に関わる遺伝子領域を世界で初めて同定したものであり、今後、詳細な解析を行うことによりPADの早期診断、治療法の開発につながると考えられます。
この成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLOS ONE』(10月21日付け:日本時間10月22日)に掲載されます
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20151022_1/

自発的なうつ状態を繰り返す初めてのモデルマウス  ―うつ病の新たな候補脳部位を同定―(2015/10/20)
要旨
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームの加藤忠史チームリーダー、笠原和起副チームリーダーらの共同研究グループ※は、うつ病・躁うつ病を伴う遺伝病の原因遺伝子の変異マウスが、自発的なうつ状態を示すことを発見しました。さらに、このうつ状態の原因が脳内の視床室傍核[1]という部位のミトコンドリア機能障害にあることを突き止めました。
精神疾患動態研究チームは、ミトコンドリア病[2]という難病の患者がうつ病や躁うつ病を示すことに着目し、その原因遺伝子の変異が神経のみで働くモデルマウスを作成しました。2006年に、日内リズムの異常や性周期[3]に伴う行動量の変化を報告した際、2週間ほど活動低下が続く場合があることに気づきました。
共同研究グループは今回、この活動低下を詳細に分析し、この状態が平均すると半年に1回見られ、うつ病の診断基準を満たす(興味喪失、睡眠障害、食欲の変化、動作の緩慢、疲れやすい、社会行動の障害)ことを示しました。また、この状態にあるマウスは、うつ病と同じような治療反応性(抗うつ薬を投与することで減少するなど)や生理学的変化(副腎皮質ホルモンの増加など)を示しました。
この活動低下の原因となる脳部位を明らかにするため、異常なミトコンドリアDNAが多く蓄積している脳部位を探索したところ、これまでうつ病との関連が知られていなかった視床室傍核という部位に著しく蓄積していました。また、同じようなミトコンドリアの機能障害は、うつ状態を示すミトコンドリア病患者の視床室傍部[1]でも見られました。さらに、正常なマウスの視床室傍核の神経細胞の神経伝達を人為的に遮断したところ、モデルマウスに似た低行動状態が現れました。これは、モデルマウスのうつ状態が、視床室傍核の病変により生じていることを示しています。
このモデルマウスは自発的かつ反復的なうつ状態を示すモデルマウスとしては初めてのもので、これまでとは作用メカニズムが異なる抗うつ薬や気分安定薬の開発につながると期待できます。また、今後の研究でうつ病や躁うつ病の一部が、視床室傍核の病変で起きることが証明できれば、こうしたこころの病気を脳の病変で生じる疾患と捉えることができ、新しい診断法の開発につながる可能性があります。本研究は、米国の科学雑誌『Molecular Psychiatry』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(10月20日付け)に掲載されます。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20151020_1/

小児慢性疲労症候群患児の脳活動状態を明らかに -注意配分時に広範囲の前頭葉を過剰活性させてしまう-(2015/10/15)
理化学研究所
大阪市立大学
熊本大学
兵庫教育大学
生理学研究所

要旨
理化学研究所(理研)ライフサイエンス技術基盤研究センター健康・病態科学研究チームの渡辺恭良チームリーダー、水野敬上級研究員らと、大阪市立大学、熊本大学、兵庫教育大学、および生理学研究所との共同研究グループは、小児慢性疲労症候群(CCFS:Childhood Chronic Fatigue Syndrome) [1]の患児の脳では、注意配分(2つ以上のことを同時に遂行すること)を行う際に前頭葉が過剰に活性化し、非効率な脳活動状態となっていることを機能的磁気共鳴画像法(fMRI)[2]を使って明らかにしました。
CCFSは3ヶ月以上持続する疲労・倦怠感および睡眠・覚醒リズム障害を伴う病気であり、不登校の児童・生徒の多くが発症しています。CCFSによる記憶や注意力の低下は学校生活への適応を妨げている可能性があることから、子どもの疲労と脳機能の関係の解明が期待されています。共同研究グループはこれまで小・中学生を対象に、平仮名で書かれた物語を読ませ、母音の拾い上げと物語の内容理解の同時処理を要求する仮名拾いテスト[3]と呼ばれる注意配分課題(二重課題)を実施し、同時に行った疲労度調査との関連について検討を行ってきました。その結果、CCFS患児の成績は健常児より低く、また健常児でも疲労を強く感じている状態では成績が低くなることを明らかにしました。しかし、注意配分機能が低下している脳内で何がおきているのかは分かっていませんでした。
共同研究グループは、CCFS患児15名と健常児13名を対象に、二重課題および一重課題(母音拾い上げ、または内容理解のどちらか一方)遂行中の脳活動状態をfMRIで測定しました。その結果、CCFS患児と健常児、いずれも、二重課題遂行中は一重課題遂行中に比べて前頭葉の一部である脳の左側の下前頭回背側部と頭頂葉の一部である左側の上頭頂小葉が活性化していました。つまり、これら2つの脳部位が、二重課題の遂行に必要な脳領域であることが示されました。次に疲労と脳の活性化の関係を調べたところ、疲労している健常児は、二重課題遂行中に左下前頭回背側部をより強く活性化させていることが分かりました。一方、CCFS患児と健常児を比較すると、CCFS患児では一重課題と二重課題いずれの時も右中前頭回が特異的に活性化し、活性度は物語の内容理解度と正の相関関係にあることが分かりました。さらに二重課題においては右中前頭回に加え、前帯状回背側部と左中前頭回も特異的に活性化することも分かりました。このことから、CCFS患児は過剰に神経を活動させて脳の情報処理を行っているために、さらに疲労が増強していることが懸念されます。前頭葉の過活動の抑制がCCFSの症状の緩和につながる可能性など、CCFSの病態の解明や治療法の開発への貢献が期待できます。
本研究成果はオランダのオンライン科学雑誌『Neuroimage: Clinical』(9月10日付け)に掲載されました。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20151015_1/

マウスの「父性の目覚め」に重要な脳部位を発見 ―オスマウスの子育て意欲は2つの脳部位の活性化状態に表れる―(2015/9/30)
要旨
理化学研究所(理研)脳科学総合センター親和性社会行動研究チームの黒田公美チームリーダー、恒岡洋右研究員(研究当時)、時田賢一研究員らの研究チーム※は、オスマウスの子育て(養育行動[1])意欲が「cMPOA」と「BSTrh」の2つの脳部位の活性化状態から推定できることを発見しました。
ほ乳類の子は未発達な状態で生まれ栄養源を母乳に頼るため、親による養育が不可欠です。メスマウスは若い時から子の世話をすることが多く、さらに母親になる時には出産時の生理的変化[2]により養育行動が強化されます。一方、交尾未経験のオスマウスは養育せず、子に対して攻撃的ですが、メスとの交尾・同居を経て父親となると、よく養育するようになります(父性の目覚め)。黒田チームリーダーらは2013年に、フェロモンを検出する鋤鼻器(じょびき)[3]の阻害がオスマウスの子への攻撃を抑え、養育を促すことを見いだしています注1)。しかし「父性の目覚め」現象は鋤鼻器が退化している類人猿でも見られることから、さまざまな感覚入力を受けとり子への攻撃や養育行動を制御する、類人猿にも共通する脳領域のメカニズムが重要であると考えられました。
研究チームは今回、オスマウスの子に対する攻撃と養育に必要な中枢の脳領域の同定を試みました。そして、交尾未経験オスの子への攻撃行動には前脳にある分界条床核BST[4]の一部であるBSTrhが重要であり、また父親マウスの養育行動には内側視索前野中央部cMPOA[5]が必要であることを突き止めました。また、cMPOAはBSTrhの働きを抑えること、cMPOAを光遺伝学的手法[6]により活性化すると交尾未経験オスマウスの子への攻撃が減弱すること、メスとの交尾経験後はcMPOAが活性化したことから、父親になる時にはBSTrhに対しcMPOAの活動が優位になることで、子への攻撃をやめ養育する「父性の目覚め」が起こる可能性が示唆されました。さらに、あるオスマウスが子を攻撃するか、養育するかは、cMPOAとBSTrhの2つの脳部位の活性化状態を測定するだけで、95%以上の高精度で推定できることが分かりました。
本研究は、子に対する攻撃と養育という正反対の行動のそれぞれに必要な中枢の脳部位を詳細に同定し、その活性化状態からマウスの行動意欲が読み取れることを示した初めての研究成果です。こういった脳部位の働きを霊長類において調べることで、人間の父子関係の理解とその問題解決に役立つ知識を得ることにつながると考えられます。
本研究成果は、国際科学誌『The EMBO Journal』(9月30日付け:日本時間10月1日)に掲載されます。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150930_1/

電気で生きる微生物を初めて特定 -微生物が持つ微小電力の利用戦略-(2015/9/25)
要旨
理化学研究所環境資源科学研究センター生体機能触媒研究チームの中村龍平チームリーダー、石居拓己研修生(研究当時)、東京大学大学院工学系研究科の橋本和仁教授らの共同研究チームは、電気エネルギーを直接利用して生きる微生物を初めて特定し、その代謝反応の検出に成功しました。
一部の生物は、生命の維持に必要な栄養分を自ら合成します。栄養分を作るにはエネルギーが必要です。例えば植物は、太陽光をエネルギーとして二酸化炭素からデンプンを合成します。一方、太陽光が届かない環境においては、化学合成生物と呼ばれる水素や硫黄などの化学物質のエネルギーを利用する生物が存在します。二酸化炭素から栄養分を作り出す生物は、これまで光合成か化学合成のどちらか用いていると考えられてきました。
共同研究チームは、2010年に太陽光が届かない深海熱水環境に電気を非常によく通す岩石が豊富に存在することを見出しました。そして、電気を流す岩石が触媒となり、海底下から噴き出る熱水が岩石と接触することで電流が生じることを発見しました注1),注2)。これらを踏まえ、海底に生息する生物の一部は光と化学物質に代わる第3のエネルギーとして電気を利用して生きているのではないかという仮説を立て、本研究を実施しました。
共同研究チームは、鉄イオンをエネルギーとして利用する鉄酸化細菌の一種であるAcidithiobacillus ferrooxidans(A.ferrooxidans)[1]に着目し、鉄イオンは含まれず、電気のみがエネルギー源となる環境で細胞の培養を行いました。その結果、細胞の増殖を確認し、細胞が体外の電極から電子を引き抜くことでNADH[2]を作り出し、ルビスコタンパク質[3]を介して二酸化炭素から有機物を合成する能力を持つことを突き止めました。さらにA.ferrooxidansは、わずか0.3V程度の小さな電位差を1V以上にまで高める能力を持ち、非常に微弱な電気エネルギーの利用を可能にしていることが分かりました。
本研究は、電気が光と化学物質に続く、地球上の食物連鎖を支える第3のエネルギーであることを示しました。今後、深海底に広がる電気に依存した生命圏である電気生態系を調査する上で重要な知見になると期待できます。成果は、スイスのオンライン科学雑誌『Frontiers in Microbiology』(9月25日付け:日本時間9月25日)に掲載されます。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150925_1/

炎症性腸疾患などに関与する免疫細胞の誘導メカニズムを解明 - Th17 細胞を誘導する 20 種のヒト腸内細菌の同定-(2015/9/24)
発表概要
株式会社ヤクルト本社(社長 根岸孝成)の梅﨑良則特別研究員(中央研究所)と慶應 義塾大学医学部(医学部長 岡野栄之)の本田賢也教授(理化学研究所統合生命医科学 研究センター消化管恒常性研究チームリーダー兼任)らを中心とする共同研究グループ (*)は、Th17 細胞(注 1)が腸内細菌によって誘導されるメカニズムを世界に先駈けて解 明しました。
Th17 細胞は、感染症への抵抗性、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)や、自 己免疫疾患(注 2)の病態形成に密接に関わっている免疫細胞として知られています。こ れまでに同グループは、マウスの腸内常在細菌の一種であるセグメント細菌(注 3)が Th17 細胞を誘導し、感染症抵抗性を高めることを同定していましたが、これらの細菌が Th17 細胞を誘導するメカニズムは明らかになっておらず、関連疾患の理解や治療応用 が進んでいませんでした。
今回の研究では、セグメント細菌が腸管上皮(注 4)に突き刺さるようにして強く接着して いるユニークな形態的特徴に着目し検証することで、この上皮への接着特性が Th17 細 胞の誘導に強く関与することを同定しました。この結果をもとに、ヒトの腸内細菌叢(注 5) において Th17 細胞を誘導する 20 種類の細菌の同定に成功しました。
今回の成果は、炎症性腸疾患の予見やプロバイオティクス開発への応用が期待され ます。本研究成果は、科学雑誌『Cell 』オンライン版(9月24日正午:米国東部時間)に掲 載されます。
発表内容
1. 背 景 感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり、その進行にはT細胞が
重要な役割を担っています。リンパ球の一種であるT細胞には、様々な種類の分化したT細 胞が存在しています。その中で、インターロイキン(IL)-17産生性T細胞(Th17細胞)は免疫反 応を活性化する機能を持っています。Th17細胞は病原性細菌やカビなどの感染防御に働き ます。一方で、Th17細胞は関節リウマチや炎症性腸疾患などの免疫疾患の病態にも関与す ると考えられています。このTh17細胞は、健康なマウスの腸管に多く存在し、腸内細菌によ って誘導されていることが知られています。
今回の研究に先だって 2009 年に同研究グループは、この Th17 細胞がマウス腸内常在細 菌の一種であるセグメント細菌(Segmented Filamentous Bacteria、以下 SFB と略す)によって 特異的に誘導されることを特定しました(Cell, 2009 Induction of Intestinal Th17 Cells by Segmented Filamentous Bacteria., http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21205640)。SFB は 上皮に突き刺さるように強く接着する独特な形態的特徴を持ち、健康なマウス、ラットなど 様々な脊椎動物の腸管に生息する細菌です。また、腸内感染症を引き起こす病原性細菌も Th17 細胞を誘導することが知られています。
しかしながら、これらの細菌が Th17 細胞を特異的に誘導するメカニズムは明らかになって おらず、関連疾患の理解やその治療応用が進んでいません。また、SFB はヒトの消化管には 存在しないことが知られていて、Th17 細胞を誘導するヒト腸内細菌の探索が求められていま した。
http://www.yakult.co.jp/news/file.php?type=release&id=144313875168.pdf

パーキンソン病の新たな発症メカニズムをモデル動物で初めて解明 ―糖脂質がαシヌクレイン蛋白質の異常構造変化を引き起こす―(2015/9/16)
ポイント
GBA遺伝子変異を持つと、パーキンソン病およびレビー小体型認知症が約5~8倍発症しやすい。
糖脂質グルコシルセラミドの蓄積によりαシヌクレイン蛋白質がプリオン様異常構造化して、神経変性を悪化させることが分かった。
糖脂質の蓄積抑制による、パーキンソン病およびレビー小体型認知症の新たな治療・予防法につながることが期待される。
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:樋口輝彦)神経研究所(所長:武田伸一)疾病研究第四部(部長:和田圭司)の永井義隆室長、鈴木マリ研究員らの研究グループは、パーキンソン病およびレビー小体型認知症の発症に関与するαシヌクレイン蛋白質の異常構造化が糖脂質の蓄積によって引き起こされることを明らかにしました。
パーキンソン病は、主に中脳黒質のドーパミン神経細胞の変性・脱落により、手足の震え、筋肉の強張り、動きづらさなどが現れる、進行性の神経変性疾患です。神経細胞内ではαシヌクレイン蛋白質が異常構造変化を起こして、レビー小体と呼ばれる封入体に蓄積することが知られていますが、その原因は未だ十分に解明されていません。近年の遺伝疫学研究により、糖脂質分解酵素の一つであるグルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子に変異を持つ場合に、パーキンソン病を約5倍発症しやすくなることが分かっています。一方、レビー小体型認知症と呼ばれる認知症でも、αシヌクレイン蛋白質がレビー小体に蓄積することが知られていますが、この発症にもGBA遺伝子変異が関わることが報告されています。
本研究グループはGBA遺伝子を抑制したパーキンソン病モデルショウジョウバエを作製し、GBAの働きが低下すると運動症状や神経変性が悪化することを見出しました。さらに、GBAの機能低下により糖脂質グルコシルセラミドが蓄積し、グルコシルセラミドが直接作用してαシヌクレイン蛋白質のプリオン様異常構造化を引き起こすことを、生化学的手法により証明しました。本研究成果はパーキンソン病およびレビー小体型認知症の新たな発症メカニズムを明らかにしたものであり、この過程を抑えることによる新たな治療・予防法の開発に貢献することが期待されます。
本研究は、理化学研究所の平林義雄チームリーダーらとの共同研究として、主に精神・神経研究開発費の支援のもとで行われたもので、研究成果は英国科学雑誌「Human Molecular Genetics(ヒューマン モレキュラー ジェネティクス)」に2015年9月11日、オンライン速報版が先行公開されました。
http://www.ncnp.go.jp/press/press_release150916.html

革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト 生きた霊長類の脳内で神経細胞の「スパイン」を観察 -学習や記憶を司る脳内神経ネットワークの解明へ-(2015/9/15)
要旨
理化学研究所脳科学総合研究センター高次脳機能分子解析チームの山森哲雄チームリーダー、定金理研究員、生理学研究所の伊佐正教授らの共同研究グループ※は、新世界ザル[1]であるマーモセットの大脳皮質において、2光子顕微鏡を用いてスパインと呼ばれる神経細胞の微細形態を生体内で可視化する手法を開発しました。
大脳皮質の神経細胞は、他の神経細胞群との情報伝達を行うために複雑な形態を持っています。その構成要素の一つである樹状突起には「スパイン」と呼ばれる微細な突起構造があります。神経細胞間のスパイン結合の度合いの変化は、個体の学習や記憶の基盤であると考えられています。したがって、生体内のスパインを直接観察する手法は、学習や記憶に伴って生じる神経細胞ネットワークの変化や、その基盤となる分子メカニズムを調べるためにあたって極めて重要です。しかし、スパインを生体内で可視化する手法は主にマウスでの研究に限られており、ヒトに近い霊長類での研究には適用されてきませんでした。本研究では、新世界ザルであるマーモセットにおいて、スパインを生体内で可視化する手法を開発することに取り組みました。
共同研究グループは、遺伝子発現を増幅させるTet-Offシステム[2]を用いることで強い発現を促し、Thy1Sプロモーター[3]が乗ったウイルスベクター[4]の濃度を適正なレベルまで調節したことで、マーモセットの脳内の神経細胞に緑色蛍光タンパク質(GFP)を「強く」「まばらに」発現させ、生体内のスパインを経時的に観察することに成功しました。これは霊長類の脳においては世界で初めての報告です。今後、霊長類の大脳皮質が関与する、学習過程における神経細胞ネットワークの変化や分子メカニズムを解明が期待できます。
本研究は、文部科学省『革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト』(平成27年度から日本医療研究開発機構へ移管)の一環として行われました。成果は、米国の科学雑誌『eNeuro』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(8月27日付け:日本時間8月28日)に公開されました。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150915_2/

細胞内を移動するタンパク質「ダイニン」が 動いているときの構造が見えた! —細胞内の物質輸送を行う分子モーターが動く仕組みの解明へ—(2015/9/15)
 中央大学理工学部 助教 今井 洋(元英国リーズ大学)、大阪大学大学院理学研究科 教授 昆 隆英、理化学研究所研究員 島 知弘(現東京大学大学院理学系研究科 助教)らの研究グループは、英国国立リーズ大学スタン=バージェス博士、ピーター=ナイト教授と共同で、細胞内で多種多様な物質輸送を行うタンパク質モーター「ダイニン」が駆動しているところを、低温電子顕微鏡法により直接観察することに成功しました。
 本研究をもとに、様々な疾患に関連したダイニンの変異体の可視化が実現すれば、将来、神経疾患や成長異常の原因の解明や治療などへの展開が期待されます。また、癌の原因の解明や治療への利用も期待されます。
 本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(日本時間平成27年9月14日(月)付)に掲載されました。
http://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2015/09/35227/

SACLAのX線自由電子レーザーを用いた新規タンパク質立体構造決定に世界で初めて成功(2015/9/14)
 中津亨 薬学研究科准教授、潘東青 同元研究員、村井智洋 同博士前期課程学生、加藤博章 同教授、山下恵太郎 理化学研究所放射光科学総合研究センタービームライン基盤研究部基礎科学特別研究員、吾郷日出夫 同専任研究員、山本雅貴 同部長、岩田想 医学研究科教授(理化学研究所放射光科学総合研究センターSACLA利用技術開拓グループディレクター)、 矢橋 牧名 理化学研究所放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループディレクター、登野健介 高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室チームリーダー等による合同研究チームは、非常に強力なX線を発するX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAを用いて、異常分散効果を利用した重原子同型置換法(SIRAS)により新規タンパク質の立体構造決定に成功しました。

 本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」誌に9月11日付けで掲載されました。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/150911_1.html/view

神経細胞の形態の複雑さを決める新しい因子を発見 -樹状突起の形成を抑制する因子とそのメカニズムを同定-(2015/9/1)
要旨
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター神経形態遺伝学研究チームのエイドリアン・ムーア チームリーダー、カグリ・ヤルギン研究員(研究当時)らの国際共同研究グループ※は、ショウジョウバエを使い、神経細胞の形態の複雑さを決定する新しい因子「セントロソーミン(Cnn)」とその動作機構を発見しました。
脳や末梢の神経細胞は、樹状突起[1]と呼ばれる枝分かれした細長い突起を伸ばし、周囲の神経細胞とのネットワークを形成しています。樹状突起の分岐の複雑さは神経細胞のタイプによって異なります。例えば、ショウジョウバエの感覚神経であるdaニューロン[2]は、樹状突起の形態が単純なクラスIから非常に複雑なクラスIVに分類されます。これまでの研究から、クラスI daニューロンでは、Abrupt(Ab)という転写因子[3]が樹状突起の形成を抑えていることが知られています。しかし、この転写因子が実際にどのようなメカニズムで樹状突起の形態を決めるのかは分かっていませんでした。
国際共同研究グループは、細胞骨格[4]の1つである微小管[5]をAbなどの転写因子が制御することで、樹状突起の形態が決まるという仮説を立てました。まず、ショウジョウバエのdaニューロン内の微小管を遺伝学的手法により可視化して観察しました。すると、クラスIVでは樹状突起内に散らばっている微小管が、クラスIでは樹状突起内の特定の場所に集積していました。この結果は、クラスによって微小管構造に違いがあることを示しています。さらに、Abが働かない変異体のハエでは、クラスI daニューロンの微小管構造がクラスIVと同じような構造を示すことから、このクラス特異的な微小管構造の違いは転写因子Abによって制御されることが分かりました。そこで、転写因子Abによって活性化され微小管構造の調節に関わる遺伝子を系統的に調べたところ、セントロソーミン(Cnn)というタンパク質を作る遺伝子が強く活性化していることが分かりました。樹状突起が伸びていくときに、断片状のゴルジ体[6]が微小管重合[7]の核となることが知られています。Cnnはこの断片状のゴルジ体が核となるプロセスを促進し、樹状突起の先端と反対方向に微小管の重合を促すことで、樹状突起の形成を抑えていることが分かりました。
ヒトでは、Cnnの相同遺伝子であるCDK5RAP2の変異が、小頭症[8]を引き起こす要因になることが知られています。Cnn・CDK5RAP2の樹状突起の形成における働きの解明は、こうした疾患の発症メカニズムの理解につながる可能性があります。
本研究は、米国の科学雑誌『Nature Neuroscience』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(8月31日付け:日本時間9月1日)に掲載されます。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150901_1/

自然免疫の記憶メカニズムを解明 -病原体感染によるエピゲノム変化が鍵-(2015/9/1)
要旨
理化学研究所(理研)石井分子遺伝学研究室の吉田圭介特別研究員、石井俊輔上席研究員らの共同研究チーム*は、自然免疫[1]に記憶[2]が存在し、病原体感染によるエピゲノム変化[3]の持続がその記憶メカニズムであることを明らかにしました。
ヒトの免疫系には、先天的に備わった「自然免疫」と生後獲得していく「獲得免疫[1]」があります。自然免疫はマクロファージなどにより病原体に対して初期防御を行います。一方、獲得免疫はB細胞やT細胞などのリンパ球により一度侵入した抗原を認識し、排除します。これまで、病原体に感染したことを記憶するのは獲得免疫だけとされていましたが、いくつかの現象から自然免疫にも記憶が存在することが示唆されていました。しかし、その記憶メカニズムが不明なため、自然免疫の記憶の存在を疑問視する声もありました。
共同研究チームは、グラム陰性菌[4]の細胞壁外膜成分のリポ多糖(LPS)をマウスに投与すると、ストレス応答性転写因子ATF7を介して免疫系遺伝子のエピゲノム変化が誘導され、その状態が長期間持続すること、そして、これによりグラム陽性の黄色ブドウ球菌に対する抵抗性が上昇することを明らかにしました。したがって、自然免疫の記憶は特定の抗原の情報を特異的に認識する獲得免疫の記憶と異なり特異性がない、という特徴を持つことが分かりました。
今回の研究により自然免疫の記憶メカニズムが明らかになり、自然免疫にも記憶が存在することが示されました。自然免疫に記憶が存在するかどうかは、免疫学の根本的な重要課題であると共に、衛生仮説[5]やワクチンに必要なアジュバント[6]の性質にも関わっています。このため、今回の成果はアレルギー発症機構の解明や、効率的なワクチンの開発にも役立つことが期待できます。
本研究は、科学技術振興機構CREST(エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出)、および文部科学省科学研究費新学術領域研究「ゲノムアダプテーションのシステム的理解」の助成を受け、米国の科学雑誌『Nature Immunology』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(8月31日付け:日本時間9月1日)に掲載されます
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150901_2/

神経回路構築を制御する脂質を発見 -異なる種類の感覚を伝える神経突起を脂質で誘導-(2015/8/28)
要旨
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター神経成長機構研究チームの上口裕之チームリーダーと神経膜機能研究チームの平林義雄チームリーダー、東北大学 大学院薬学研究科の青木淳賢教授、東京大学 大学院総合文化研究科の太田邦史教授らの共同研究グループ※は、異なる種類の感覚を伝える神経突起[1]を分別してその行き先を制御する新たな脂質を発見しました。
身体からの感覚を伝える神経突起は脊髄を経由して脳へとつながっています。痛覚(皮膚で痛みを感じること)と固有感覚(自身の関節の位置や動きを感じること)などのように、異なる種類の感覚を伝える神経突起が、それぞれ脳脊髄の異なる部位へ投射するため、私たちは感覚の種類を識別することができます。脳脊髄の神経回路が作られる段階で、痛覚と固有感覚を担う神経突起は同じ経路を通って脊髄へ到達しますが、脊髄に入った直後にこれらの神経突起は分別され、混線することなくそれぞれの目的地へ誘導されます。しかし、この神経突起を分別するタンパク質はこれまで見つかっておらず、分別の仕組みは明らかにされていませんでした。
共同研究グループは、この神経突起の分別の仕組みは脂質によって制御されていると考えました。その仮説を立証するためには脂質を解析する必要がありますが、現代の医学生物学では脂質を詳細に解析することは非常に困難でした。そこで共同研究グループは、有機合成化学・分析化学・免疫学など異分野の研究者と連携し、脂質分子の合成・精製・定量・抗体作製の技術を神経科学と融合しました。その結果、神経突起の分別を担う新たな脂質「リゾホスファチジルグルコシド」を発見しました。リゾホスファチジルグルコシドは脊髄内の固有感覚の神経突起が通る特定の部位にのみ存在し、痛覚の神経突起を反発[2]することで、両方の神経突起は混ざり合うことなく別の目的地へ投射することが分かりました。また神経突起の表面に存在してリゾホスファチジルグルコシドを感知するGタンパク質共役受容体[3]も特定しました。
本研究は、「脂質が神経回路の構築を制御する」という新原理を明らかにしました。これに伴い、損傷した神経回路の修復技術の開発が進むことが期待できます。また、タンパク質の働きのみでは説明不可能な生命現象に対する研究の成功例であり、脳科学における新たな研究分野の開拓が期待できます。
本研究は、米国の科学雑誌『Science』(8月28日号)に掲載されます。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150828_2/

「ビフィズス菌BB536」による腸内細菌を介した 生理機能の仕組みの一端を解明(2015/8/28)
~科学雑誌『Scientific Reports』(8月28日)掲載のご報告~
ビフィズス菌は整腸作用を示すことが良く知られていますが、実際におなかの中で、どのような変化が起きているの かはほとんど明らかにされておりません。
そこで森永乳業は、理化学研究所統合生命医科学研究センターの大野博司グループディレクター、同研究所環境 資源科学研究センターの菊地淳チームリーダー、および慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授 (理化学研究所統合生命医科学研究センター客員研究員)との共同研究にて、「ビフィズス菌BB536」の生理機能の機
そう 序解析に取り組み、腸内細菌叢に与える影響について評価いたしました。
その結果、「ビフィズス菌BB536」は自らが作り出す酢酸や乳酸などの有機酸や葉酸などのビタミンB群といった有用 物質に加え、ヒト腸内細菌叢と相互作用することで、ビフィズス菌以外が作る酪酸やビオチンといった有用物質の量を 増加させているという研究結果を得ました (図1)。酪酸は宿主の腸管細胞のエネルギー源になることや腸管内で抗炎 症作用を担う細胞の誘導効果を示し、ビオチンは宿主の細胞に必須のビタミンの一つであり、細胞の代謝や成熟に関 わることが示されているため、「ビフィズス菌BB536」による生理機能の仕組みの一つである可能性が考えられます。 なお、本研究成果はオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(8月28日付:日本時間8月29日)に掲載されました。
http://www.morinagamilk.co.jp/download/index/16036/1509011.pdf

細胞内膜の裏側で、機能性脂質の動態の可視化に成功 -ジアシルグリセロールの非対称な産生を観察-(2015/8/17)
要旨
理化学研究所(理研)小林脂質生物学研究室 小林俊秀主任研究員および上田善文客員研究員らの研究チームは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)[1]を基にしたジアシルグリセロール(DAG)[2]蛍光プローブを用いることで、細胞内膜の裏側(外層:ルーメン側)のDAGを、表側(内層:細胞質側)のDAGとは独立かつリアルタイムに観察することに成功しました。
細胞膜をはじめとした脂質二重膜の表裏では、その脂質組成は非対称です。細胞は、この非対称性を巧妙に利用してアポトーシスや細胞の凝集などの細胞応答を制御します。機能性脂質分子の一種であり、異常な増加によって癌やアルツハイマー病などを引き起こすDAGは、細胞内膜の細胞質側とルーメン側に存在するため、両方の動態を明らかにすることが求められていました。しかし、従来の手法では、ルーメン側のDAGを観察することは不可能だったため、新たな測定手法の開発が求められていました。
研究チームは、ルーメン側に局在するp24タンパク質[3]の膜局在ドメインをプローブに連結した「Daglas-lum」というプローブを開発し、ルーメン側のDAGを観察することに成功しました。具体的には、細胞内でカルシウム濃度が上昇するとルーメン側でDAGが産生されることが分かりました。一方、同じ測定条件下では、研究チームが既に作製していた細胞質側のDAGを観察するためのプローブである「Daglas-em」には変化がありませんでした。これは、カルシウム濃度上昇によって、細胞内膜の細胞質側とルーメン側とで非対称なDAG産生が起きたことを意味しています。これは、生体がDAGの非対称な産生を利用して、さまざまな細胞応答を制御している可能性を示唆するものです。
本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(8月12日号)に掲載されました。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150817_1/

ヒトとマウスの甘味受容体の機能の違いを解明 - ヒトの客観的な味覚評価法の構築に向けて -(2014/7/17)
ポイント
甘味は、舌の細胞表面にある甘味受容体というタンパク質が感知しますが、甘味受容体が細胞膜に移動する仕組みがヒトとマウスでは異なることを明らかにしました。
この成果は、味覚受容が動物種によって異なるということを示すもので、今後、ヒトの味覚受容体を使った、より客観的な味の評価技術に活用していく予定です。
概要
味は、食品の嗜好性を左右する因子の1つであることから、食品開発では味を実際の感覚に即して適切に評価することが重要です。専門家が行う官能評価は客観的に味を評価できますが、作業が煩雑であるなどの問題がありました。そのため、簡便で客観的な味覚評価技術の開発が求められています。
味を受け取る基本的な仕組みは、味の感受性の個体差が少ないマウスを利用することで解明されてきており、甘味や苦味は舌の細胞にあるセンサーが感知していること、センサーはそれぞれの味に対応した受容体と呼ばれる膜タンパク質であることが明らかになってきました。近年、味の感受性は動物ごとに異なるとの報告もなされるようになってきたところです。
細胞は、細胞内で合成した受容体の細胞膜への移動を調節することにより、細胞内への情報伝達を制御しています。また、マウスは味の評価にもしばしば使われていることから、ヒトとマウスの甘味受容体の違いを明らかにするために、甘味受容体がどのように細胞膜に移動するかに着目して研究を実施しました。
今回、農研機構、理化学研究所と岡山大学は、細胞膜上の甘味受容体を検知する方法を開発して、ヒトとマウスでは甘味受容体が細胞内で合成されてから細胞膜へ移動する仕組みが全く異なることを発見しました。この結果は、ヒトならではの甘味を受け取る仕組みがあることを示唆しています。今後は、ヒトの味覚受容体を使って簡便で客観的な味覚評価技術を開発し、食品の味の評価に活用する予定です。
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nfri/053110.html

2型糖尿病に関わるグルコース輸送体「GLUT4」上の糖鎖の機能を解明 -たった1つのN型糖鎖がインスリンに応答した血糖値調節を左右する-(2011/7/19)
◇ポイント◇
N型糖鎖の付加がインスリンに応答するグルコース輸送体の「品質管理」に重要
N型糖鎖の構造は、GLUT4が正しい経路で細胞膜へ輸送されるための「目印」
血糖値を調節する仕組みや糖尿病発症に糖鎖が果たす役割の解明に期待

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、2型糖尿病に関わるグルコース輸送体「GLUT4」上のN型糖鎖※1が、タンパク質の安定性とインスリンへの正しい応答に重要であることを初めて発見しました。これは、理研基幹研究所(玉尾皓平所長)糖鎖代謝学研究チームの鈴木匡チームリーダー、芳賀淑美日本学術振興会特別研究員らによる成果です。

糖尿病の一種である2型糖尿病は根本的な治療法が無く、具体的な発症の仕組みも十分に解明されていません。その治療法を開発するには、膵(すい)臓が分泌するインスリンに応答して、細胞ではどのようなことが起こるのかを解明することが必要です。2型糖尿病になると、血液中のグルコース(ブドウ糖)が正常に細胞内に取り込まれず、血糖値が上昇したままになります。インスリンに応答して血糖値を保つために重要な役割を果たしているのが、グルコース輸送体「GLUT4」です。通常GLUT4は、細胞内の特殊な小胞※2(GLUT4小胞)に蓄積しており、インスリンの刺激に応答して細胞膜に輸送され、血中のグルコースを細胞内に取り込みます。

一般に、細胞膜に存在する膜タンパク質のほとんどは糖鎖が付加されており、この糖鎖がさまざまな生理的・病理的現象に関わっていることは広く知られています。GLUT4もN型糖鎖が1カ所付加されていますが、その性質や機能にどう影響するのかは全く不明のままでした。

研究チームは、N型糖鎖の付加されないGLUT4は、付加された場合に比べて分解が速いことを明らかにし、N型糖鎖がGLUT4の品質管理に重要な役割を果たしていることを見いだしました。さらに、GLUT4がGLUT4小胞に蓄積してインスリンに応答するには、N型糖鎖の正しい構造が必要であることも発見しました。これは、GLUT4が正しい経路を経て細胞膜へと輸送される際に、糖鎖が「目印」となっている可能性を示しており、血糖値の恒常性維持の仕組みを理解するための大きな一歩となります。

本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Biological Chemistry』(9月号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(7月14日付け:日本時間7月15日)に掲載されました。

詳細は下記
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2011/110719/index.html

プロファイリングで、抗がん剤候補物質の作用機序を解明 -独自のプロテオームプロファイリングシステムで薬剤標的を迅速同定-(2011/6/24)
抗がん剤や抗生物質など病気の治療薬には、天然物質やその誘導体から生み出されることがしばしばです。候補となる物質を探査し、その作用や効果が確実になって初めて薬として誕生しますが、どのような標的に作用し、どのような機序で効果を発揮するのか、という仕組みを明らかにするには膨大な時間と労力が欠かせません。

基幹研究所ケミカルバイオロジー研究基盤施設の研究グループは、独自に開発した、薬剤の作用に応じて細胞が固有のタンパク質変動を誘導する性質を利用したプロテオームプロファイリングシステムを駆使し、新規抗がん剤候補の作用を解明することに成功しました。

これはまず、作用既知の多種の薬剤についてタンパク質変動を網羅的に解析したデータを取得し、データベース化します。次に、解析対象である作用未知の候補物質のタンパク質変動データを取得し、それをデータベースと統合しプロファイリング解析し作用標的・作用機序を予測します。

研究グループはこのシステムを用い、ブラジルに自生するオトギリ草の茎から抽出した成分を基にした、強力な抗がん効果が見込める誘導体BNS-22の作用機序を解明しました。その結果、DNAトポイソメラーゼIIと呼ぶ酵素を標的にするという予測を得るとともに、試験管や細胞レベルで実験的に、この酵素を特異的に阻害していることを明らかにしました。 DNAトポイソメラーゼIIはがん治療の有望な創薬ターゲットの1つで、その阻害剤は作用機序の違いにより、「トポ毒」型と「触媒阻害」型に分類されます。今回のBNS-22は「触媒阻害」型ですが、この型の研究は十分に行われておらず、今後BNS-22が、作用機序の異なる新しい型の抗がん剤候補になると期待されます。また、独自に構築したシステムにより高精度、かつ迅速な新規物質の標的予測ツールとして、創薬研究に広く活用されることが期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110624_3/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110624_3/index.html

味を受容する細胞が生まれる仕組みを解き明かす  ―甘・旨・苦味を感知できないマウスの作出から(2011/5/16)
甘・旨・苦・酸・塩味を呈する化合物は、それぞれ別々の味細胞によって受容されます。転写調節因子であるSkn-1a/Pou2f3を欠失させたマウスでは、甘・旨・苦味細胞が完全に消失し、これらの味を識別できなくなりました。一方、消失した味細胞に代わり酸味細胞数が増えました。このことから、甘・旨・苦味細胞と酸味細胞は、1つの共通の前駆細胞から分化することが示唆されました。味の細胞系譜の新発見といえます。
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics110516.html

ゲノムワイド相関解析で、骨粗鬆症の新たなSNPを同定 -日本人の骨粗鬆症の罹患しやすさに関与する新規遺伝子「FONG」を発見-(2011/5/12)
◇ポイント◇
FONG遺伝子内に、骨粗鬆症のリスクが1.3倍に高まるSNPを同定
ゲノムワイドな相関解析による骨粗鬆症の新規遺伝子の発見は、世界初
FONG機能の解明が、骨粗鬆症発症の新たな代謝経路の同定につながる

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、骨粗鬆(しょう)症(Osteoporosis)の発症に関与する新たな一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)※1を発見しました。これは、理研ゲノム医科学研究センター骨関節疾患研究チーム(池川志郎チームリーダー)の黄郁代リサーチアソシエート、文部科学省の個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド医療実現化プロジェクト)※2の研究グループを中心とする多施設共同研究※3による研究成果です。

骨粗鬆症は、骨量が減少し、骨が弱くなることによって骨折が起こりやすくなる全身性の骨疾患です。発症頻度が高い疾患で、日本だけでも患者は1,000万人以上にのぼり、社会的にも大きな影響をもたらす問題となっているため、その発症原因の解明や予防・治療法の確立が待ち望まれています。

研究グループは、全ゲノムレベルのケース・コントロール相関解析※4という研究手法を用いてゲノム全体を調べ、骨粗鬆症のなりやすさ(疾患感受性)に関連する新たなSNPを発見することに成功しました。オーダーメイド医療実現化プロジェクトで収集された約7,000人の日本人集団について、約27万個のSNPを調べ、骨粗鬆症との相関を解析した結果、P値※4が10-8(10のマイナス8乗)レベルと非常に強い相関を示すSNP(rs7605378)を同定しました。この強い相関を示したSNPは、ヒトの2番染色体長腕上に存在し、このSNP周辺のゲノム上には、既知の遺伝子がまったく存在しませんでした。そこで、このSNP周辺のゲノム上に存在する新規遺伝子を探索したところ、骨を含むいくつかの組織で発現する遺伝子「FONG」を発見しました。

これは、ゲノムワイドな相関解析で骨粗鬆症に関与する新規遺伝子を同定した世界で最初の成果となります。今後、FONG遺伝子の機能解析を通じて、より詳細な骨粗鬆症の病態の理解が進み、これまでにない新しいタイプの骨粗鬆症治療薬の開発を含め、骨粗鬆症のオーダーメイド医療に向けた研究の進展が期待されます。

本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLoS ONE』(5月6日付け:日本時間5月7日)に掲載されました。詳細は下記
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2011/110512/index.html

2011年 理研ニュース   5月号(2011/5/9)

No.359 May 2011

●研究最前線
進化する超微細加工技術 ELID研削法からブロードバンド加工へ
オントロジーで世界をつなぐ あらゆるデータベースを統合する技術に挑む

●特集
システムズケミカルバイオロジー研究を マックスプランクと連携してスタート 「理研-マックスプランク連携研究センター」を設立

●SPOT NEWS
遺伝子組換え作物の客観評価法を確立

●FACE
目に見えない原子核の大きさを調べる研究者

●TOPICS
新理事に大江田憲治氏
新研究室主宰者の紹介
わが国初のXFEL施設が完成、愛称は「SACLA」

●原酒
米国で得たもの
http://www.riken.jp/r-world/info/release/news/2011/may/index.html

ミトコンドリアに細胞を形作る「骨格」機能を発見 -細胞内小器官が精子形態の進化を促進する重要な役割-(2011/5/6)
◇ポイント◇
○ショウジョウバエ精細胞の体外培養とライブイメージングで、精子尾部の伸長を初観察
○巨大ミトコンドリアは、微小管の編成を制御し、精子尾部の伸長を促す
○ミトコンドリアと微小管の相互作用で、精細胞が200倍の長さに伸長

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、精子の形成過程をキイロショウジョウバエの精細胞※1の体外培養法とライブイメージング※2で詳細に検討し、細胞内小器官のミトコンドリアが精子尾部の伸長を促して細胞の形を決定することを発見しました。これは、理研発生・再生科学総合研究センター(竹市雅俊センター長)形態形成シグナル研究グループの野口立彦研究員、林 茂生グループディレクターらの成果です。

細胞内小器官の1つであるミトコンドリアは、呼吸によるエネルギー生産を担う細胞の「発電機」として働くことが知られています。研究グループは、キイロショウジョウバエの精細胞を培養して、精子尾部の伸長には精細胞内に存在する巨大ミトコンドリアと微小管※3が必要であることを見いだしました。この巨大ミトコンドリアは、その表面で微小管の成長を促進し、微小管は滑り運動と架橋反応を繰り返しながら、球形の巨大ミトコンドリアを取り囲み、その結果、形態的に安定した巨大ミトコンドリアが細長く伸長して極端に長い精子尾部を形成することが分かりました。すなわち、細胞内小器官のミトコンドリアは、「発電機」としての役割だけでなく、細胞を内部から押し伸ばすことで精子の尾部を伸長させる「骨格」としての役割も担っていました。

ショウジョウバエでは、精子の長さが受精率を高めることが知られており、進化的により長い精子が選択されてきました。従って、ミトコンドリアは細胞を伸長させる新たな役割を獲得することで、進化の競争や種の分化に関わってきたと考えられます。今回の研究では、細胞内小器官のミトコンドリアが細胞の形を決め、子孫繁栄の鍵を握る精子形態の進化を促進する役割を担っていることを初めて実証しました。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Current Biology』(5月24日号)に掲載されます。

背景

雄の孔雀の華麗な装いに見られるように、限られた数の生殖パートナーを競う生殖競争では、極端な形質を選択する例が数多く知られています。ショウジョウバエのある仲間では、雄(体長2mm程度)の精子が、最大6cmにもなる長大な尾部を発達させます。これは、限られた数の卵子に対して、複数の雄由来の精子が受精の機会を競う生殖競争の中で、より長い、受精能の高い精子を雌が選択してきた結果だと考えられています(Miller & Pitnick、Science、2002年)。

キイロショウジョウバエの場合、精子は精細胞の200倍の長さまで伸長します。精子は、球形の精細胞と比べて細胞の体積がほとんど変化しないことから、精子尾部の伸長は精細胞を細長く変形することが原因だと考えられていました。しかし、一般に分化中の生殖細胞はデリケートで、精子の成熟過程を試験管内で再現することは困難だったため、この極端に長い細胞を作り出す仕組みはこれまで不明のままでした。

研究手法と成果

研究グループは、キイロショウジョウバエの小さな精巣を、極細いガラス針の先端で短時間に切開することで、ダメージ少なく精細胞を取り出す手法を考案し、ガラスシャーレで培養することに成功しました。さらに、精細胞を培養しながら尾部の伸長反応をライブイメージングで観察する実験系を確立しました(図1)。

この実験系を用い、精子鞭(べん)毛を動かす鞭毛軸糸※4を完全に失った変異体、ミトコンドリアが小型化する変異体、そしてミトコンドリアと微小管をつなぎ止める分子の変異体で、精子尾部の伸長の様子を詳しく解析しました。その結果、鞭毛軸糸を失ったキイロショウジョウバエの変異体では精子尾部は伸長しましたが、ミトコンドリアが小型化する変異体、ミトコンドリアと微小管をつなぎ止める分子の変異体では精子尾部の伸長が途中でストップしました。この結果は、精子尾部の伸長には巨大ミトコンドリア、ミトコンドリアと微小管の相互作用が必須である一方で、精子運動に必須とされる鞭毛軸糸は必ずしも必須でないことを示しています。

また、巨大ミトコンドリアと微小管の相互作用を詳しく調べるために、同じ実験系で、正常なキイロショウジョウバエの精細胞を観察した結果、巨大ミトコンドリアの表面上で微小管が形成し、平行に滑り運動を行いながら架橋していく様子をとらえました。巨大ミトコンドリアは、架橋した微小管に取り囲まれることで形態的に安定し、球形の形から徐々に細長く伸長することが可能になります。これらの結果から、ミトコンドリアが精子尾部の伸長で「骨格」としての役割を果たすと考えられました(図2)。

今後の期待

今回、キイロショウジョウバエの精子の形成過程において、ミトコンドリアが精子尾部の伸長に積極的に関わることを明らかにしました。ショウジョウバエでは、精子尾部の長さが受精率を高めることが知られており、進化的に長い精子が選択されてきました。従って、ミトコンドリアは、細胞の形を決める新たな役割を獲得することで、進化の競争や種の分化に関わってきたものと考えられます。ミトコンドリアと微小管の相互作用を担う分子を探索し、種間の比較解析を行うことで、精子尾部の伸長を促した生殖競争の実像を分子レベルで解明することができると期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110506/index.html

ヒト神経細胞のDNA メチル化状態に個人差があることを解明(2011/5/1)
―精神疾患におけるエピジェネティクスの役割解明へ第一歩―

神経細胞におけるDNA メチル化状態は、脳機能に関わる遺伝子の働きと密接に関連しています。また、ストレスなどの環境要因の作用を受けることから、統合失調症や気分障害といった、遺伝子と環境要因の相互作用により発症する精神疾患の病態に深く関係していると考えられています。しかし、脳は、神経細胞の他に多種多様な細胞が混在しており、神経細胞のDNA メチル化状態のみを解析するのは非常に困難でした。

東京大学大学院医学系研究科分子精神医学講座(特任准教授 岩本和也、特任助教 文東美紀)と理化学研究所脳科学総合研究センター(チームリーダー 加藤忠史)の研究グループは、札幌医科大学、カリフォルニア大学との共同研究により、微量のヒト脳試料から神経細胞だけを分離し、DNA メチル化状態の詳細な解析を行うことに成功しました。

その結果、神経細胞では非神経系細胞と比べてDNA メチル化状態が大きく異なり、また、より大きな個人差が認められることを明らかにしました。神経細胞におけるDNA メチル化の個人差の意義は明らかではありませんが、環境要因が作用した結果である可能性が考えられます。本研究により、DNA メチル化が精神疾患の原因に関与するかどうかについて、精神疾患患者脳試料を用いた研究の道が初めて開かれたこ
とから、今後精神疾患解明につながると期待されます。

なお、本成果は米科学GenomeResearch 誌5月号に掲載されます。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/release_20110501.pdf
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/release_archives/20110501.html

植物が有害DNAからゲノムを保護するメカニズムを解明(2011/4/29)
-シロイヌナズナで有害DNAを不活性化する直接作用が明らかに-

生命の設計図として働くゲノムには、通常の生育時に活用されない遺伝子が多数存在しています。また、トランスポゾンと呼ばれるDNAの反復配列が多く挿入されています。これら不要な遺伝子やトランスポゾンが活性化すると、発生異常やがん、個体死などを引き起こすことが知られています。

ヒトや植物などの真核生物は、こうした異常に対抗するために、エピジェネティックな化学修飾であるヒストン修飾とDNAメチル化を用いて、遺伝子発現を抑えたり、有害DNAを抑制・不活性化するメカニズムを持っていると考えられています。しかし、その詳細なメカニズムはよく分かっていませんでした。

植物科学研究センター植物ゲノム発現研究チームらは、植物のゲノムに入り込んだトランスポゾンなどの有害なDNA配列の抑制・不活性化に、エピジェネティックな制御因子であるヒストン脱アセチル化酵素HDA6が直接作用するメカニズムをシロイヌナズナで解明することに成功しました。HDA6が直接、不活性化するトランスポゾンを含む特定の遺伝子領域を同定し、その6割程度がDNAメチル化酵素のMET1の標的領域と共通することを見いだしました。詳細な解析から、HDA6によるヒストン修飾(脱アセチル化)とMET1によるDNAメチル化が協調的に作用して、植物のゲノムの中の有害DNAを抑制していることを突き止めました。

この成果は、農作物のウイルス感染被害やヒトのがん化メカニズムの解明に役立つと注目されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110429/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110429/index.html

「iPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植による加齢黄斑変性治療の臨床研究」 に関する共同研究契約の締結のお知らせ(2011/4/28)
平成23年4月1日、独立行政法人理化学研究所(以下、理研)および財団法人先端医療振興財団(以下、FBRI)ならびに株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、J-TEC)は、「iPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植による加齢黄斑変性治療の臨床研究」を三者間で進めることに合意し、「共同研究契約」を締結しましたので、下記のとおりお知らせいたします。

1.共同研究の経緯について
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター網膜再生医療研究チーム(以下、理研研究チーム)は、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)から網膜のさまざまな細胞を作製し、網膜再生に資する研究を進めております。その成果により、加齢黄斑変性等の網膜疾患に対し、治療法確立の可能性が示唆されております。
加齢黄斑変性は、欧米では高齢者の視力低下原因の一位を占め、わが国でも増加している疾患です。加齢黄斑変性の治療には、網膜色素上皮細胞と呼ばれる細胞の移植が効果的であることが示唆されていました。しかし、患者自身の網膜色素上皮細胞の採取と培養が困難であること、他人の細胞では免疫拒絶されることから、従来の再生医療技術での治療は難しいといわれています。研究チームが開発したiPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞は、上記の課題を克服できると期待されます。
理研研究チームは、世界に先駆けてiPS細胞を用いた再生医療を実現するにあたり、J-TECがこれまで培ってきた再生医療製品開発技術ならびに品質管理技術等の実績をふまえ、平成21年9月1日にJ-TECと共同研究契約を締結し、共同開発を進めてまいりました。
一方、FBRIとJ-TECは、平成22年1月7日に独立行政法人科学技術振興機構が公募した平成21年度「戦略的イノベーション創出推進事業(S-イノベ)」に採択され、「iPSを核とする細胞を用いた医療産業の構築」という研究開発テーマの下、共同開発を進めてまいりました。
以上のとおり、理研とJ-TECとは共同研究契約(平成21年9月1日締結)に基づき、FBRIとJ-TECとはS-イノベに採択された後、平成22年11月5日に共同研究契約を締結し、iPS細胞を用いた網膜再生医療実現のため、それぞれ研究を行ってまいりました。このたび、当該三者間により「iPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植による加齢黄斑変性治療の臨床研究」を共同で進めることに合意し、それぞれの役割・分担を明確化することによりiPS細胞を用いた網膜再生医療の早期実現を目指すこととなりました。

※長文のリリースです。全文は下記URLを閲覧してください。
http://www.jpte.co.jp/ir/library/iPS_20110428.pdf

亜鉛トランスポーター複合体による亜鉛要求性酵素の活性化機構を解明(2011/4/26)
-亜鉛トランスポーターにタンパク質を安定化させる新たな機能-

◇ポイント◇
* 亜鉛トランスポーターは、亜鉛要求性酵素の安定化と活性化の2段階で制御
* 亜鉛トランスポーターが、タンパク質の安定性を制御していることを初めて発見
* 低フォスファターゼ症などの治療方法の開発などに大きく貢献

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、生命活動に必須なミネラルの1つである亜鉛を細胞内に輸送する亜鉛トランスポーター※1が、タンパク質を細胞内分解から防ぎ、安定化させる機能を持つことを明らかにしました。これは理研分子イメージング科学研究センター(渡辺恭良センター長)複数分子イメージング研究チーム(榎本秀一チームリーダー)の福中彩子研究員と、京都大学生命科学研究科の神戸大朋准教授らとの共同研究による成果です。

ヒトの体で働くタンパク質の約10%は、亜鉛と結合する構造を持っており、免疫や神経機能、糖尿病やがん転移など、さまざまな生命現象に関わっています。亜鉛と結合することで活性化する酵素は亜鉛要求性酵素と呼ばれ、低フォスファターゼ症※2の発症に関わる組織非特異的アルカリフォスファターゼ(TNAP)※3などが知られています。研究グループはこれまでに、TNAPの活性化には亜鉛トランスポーターが必要であることを明らかにしてきました。今回、さまざまな亜鉛トランスポーターの変異体を用いてTNAPの活性と挙動を観察した結果、亜鉛トランスポーターが、まずTNAPを安定化し、ついでTNAPに亜鉛を供給することによって活性化する、という2段階の制御を行っていることを突き止めました。これにより、亜鉛トランスポーターが単に亜鉛要求性酵素に対して亜鉛を輸送するだけではなく、亜鉛要求性酵素そのものの安定化も制御していることが判明しました。これらの発見は、疾患と関与するほかの亜鉛要求性酵素への亜鉛供給メカニズムの解明や治療方法の開発に、大きく貢献するものと考えられます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Biological Chemistry』(5月6日号:オンライン版4月29日付け)に掲載されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2011/110426/index.html

2009年新型インフルエンザの遺伝子変異を解析(2011/4/26)
-新タミフル耐性変異の発見など、インフルエンザ感染対策の基礎情報を提供-

インフルエンザが猛威をふるう冬は過ぎましたが、新型インフルエンザの驚異が無くなったわけではありません。20世紀には、1918年のスペインかぜ、1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜと、100年間に3回の世界的大流行(パンデミック)が起きました。21世紀に入ってすぐの2009年には、メキシコで豚由来の新型インフルエンザが発生し、世界保健機関(WHO)はパンデミックを宣言、このウイルスを「2009 pandemic A/H1N1」と命名しました。インフルエンザウイルスは、その遺伝子を1本鎖RNA上に持つため変異が極めて容易です。タイプにはA型、B型、C型と3 つありますが、なかでもA型は変異が生じやすいため、パンデミックを引き起こしやすいことが知られています。

このA型インフルエンザウイルスは、HA、NAなど8本のRNAを持ち、すでにHAで16個、NAで9個の大きな変異が見つかっているため、理論的には9 X 16=144種類の亜種が存在します。従ってパンデミック発生時には、迅速にインフルエンザウイルスを同定し、その結果に基づく適切な治療方針の決定が、さらなるパンデミックを防ぐうえで非常に重要と考えられています。

オミックス基盤研究領域は、関西・関東地区の20カ所の医療機関の協力を得て、2009年~2010年のインフルエンザ陽性の検体を444収集し、それら遺伝子の塩基配列を解析しました。その結果、253検体が2009 pandemic A/H1N1であると同定、このウイルスが多様な遺伝子変異を引き起こしていることを発見しました。これら変異を系統樹に分類したところ、感染初期と感染ピーク時ではその起源が違っていたこと、感染ピーク時には約20個の変異グループが存在し、そのうち12個が国内で新たに発生したこと、タミフル耐性遺伝子変異が1.2%発生したこと、などがわかりました。また、わが国における交通手段の発達を反映して、ウイルス感染が国内で急速に拡大した様子も明らかとなりました。

今後は、迅速・簡易に医療現場で遺伝子解析可能な手法を確立し、感染症対策へ貢献していきます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110426/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110426/index.html

ES細胞から人工網膜組織の3次元形成に世界で初めて成功(2011/4/7)
-画期的な自己組織化技術で、組織移植による臓器再生を目指す次々世代の再生医療実現へ-

すべての種類の体細胞に分化する能力を持つES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞は、医学的に有用な細胞の提供源として注目を集めています。すでに、マウスやヒトのES細胞・iPS細胞から、試験管内で中脳ドーパミン、大脳神経細胞、小脳細胞などを分化誘導することに成功しています。網膜の色素上皮もES細胞などからの産生が実現し、加齢黄斑変性の臨床研究が進んでいます。しかし、たった1、2種類の細胞の移植で治療できる疾患には限度があり、難病などの治療には、「複雑な組織構造」の産生と移植が課題となっていました。例えば、現在治療法のない網膜色素変性症は、多層構造の神経網膜をES細胞などから立体的に形成することが不可能だったため、再生医療は困難とされていました。

発生・再生科学総合研究センター器官発生研究グループらは、眼組織のもとである胎児型の網膜組織「眼杯」を、マウスのES細胞から試験管内で立体形成させることに世界で初めて成功しました。3,000個程度のES細胞から細胞凝集塊を作り、特殊な培養液の中で浮遊立体培養を続けると(改良SFEBq法)、9~10日後に初期胚の眼組織である眼杯と酷似した杯状の網膜組織が3次元的に形成しました。この複雑な眼杯の形の「自己組織化プログラム」について細胞計測とコンピュータシミュレーションを駆使して解析した結果、3つの単純な力学機序を見いだしました。 さらに2週間程度、眼杯様の網膜組織(胎児型網膜組織)の3次元培養を続け、生後マウスの網膜に近い神経網膜組織(生後型網膜組織)の立体形成にも成功しました。

これは、生体に近い複雑な組織の産生と移植による高度の機能再生を目指す「次々世代の再生医療」を切り拓く画期的な成果で、神経網膜の再生医療の実現に近づくと期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110407/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110407/index.html

理研ニュース4月号(2011/4/5)
研究最前線
直観をつかさどる脳の神秘
将棋プロ棋士に見られる大脳基底核の特異な動き

特集
生命をシステムとして科学する
生命システム研究センター 柳田敏雄 センター長に聞く

SPOT NEWS
凝集すると蛍光を発する有機系蛍光色素分子「ABPX」を開発
アルツハイマー病などの新しい治療法開発に期待

FACE
* 金属ナノ構造体をつくり新しいアプリケーション開発を目指す研究者

TOPICS
* 国民の皆さまへ
* 髙木義明 文部科学大臣が理研和光研究所を視察
* 「RIKEN Honorary Fellow」を李遠哲博士に

原酒
* 研究と社会をつなぐ科学のひろば ~サイエンスアゴラ出展記
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/news/2011/apr/index.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/news/2011/pdf/rn201104.pdf

免疫反応を沈静化する抑制性サイトカインIL-10の産生メカニズム発見(2011/4/4)
-時計遺伝子の転写因子E4BP4が、免疫反応の抑制を制御する-

私たちの体には、外部から細菌やウイルス、カビなどが侵入してくると、これら異物を察知して排除する免疫システムが備わっています。実際に異物が侵入すると、炎症性サイトカインという免疫反応を増強させる情報伝達物質が産生され、こうした異物を攻撃します。しかし、この攻撃が過剰になると、自らの正常な細胞までも攻撃してしまう自己免疫疾患を発症してしまうため、免疫反応を抑制する抑制性サイトカインの存在が非常に重要です。なかでも、IL-10という抑制性サイトカインは、免疫反応の司令塔的役割を持つさまざまなT細胞(Th2細胞、NKT細胞、抗原刺激を受けたTh1細胞など)が産生することが知られていますが、詳細な産生メカニズムは不明なままでした。

免疫・アレルギー科学総合研究センター シグナル・ネットワーク研究チームらは、マウス由来のTh1細胞を慢性的に抗原刺激して遺伝子発現パターンを解析し、このIL-10が、時計遺伝子の転写因子「E4BP4」によって制御されていることを発見しました。また、相同組み換え技術でE4BP4を欠失させたT細胞を作製し、IL-10の産生を観察したところ、Th2細胞、NKT細胞、記憶型T細胞、制御性T細胞、抗原刺激したTh1細胞のいずれもIL-10を産生しないことを見いだしました。さらに、このE4BP4欠失マウスでは、免疫反応の抑制が効かず、炎症性大腸炎を引き起こしやすいことも分かりました。

この一連のメカニズムの解明は、炎症の慢性化が深く関わる動脈硬化性疾患、アルツハイマー病、自己免疫疾患といった難治性疾患に対して、新しい治療の実現や根本的な予防を提案するものと期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110404/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110404/index.html

脊椎動物の進化的に保存された発生段階は、中期胚にある咽頭胚期と判明(2011/3/30)
-進化と発生の関係性をめぐる150年来の謎を、遺伝子発現情報とスパコンで解明-

◇ポイント◇
脊椎動物は、咽頭胚期に最も進化的に保存された遺伝子発現プロファイルを持つ
脊椎動物4種の胚発生に関する遺伝子発現プロファイルを時系列に沿って整備
遺伝子レベルの解析は、進化と発生の関係性として砂時計モデルを支持

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、哺乳類(マウス)、鳥類(ニワトリ)、両生類(アフリカツメガエル)、魚類(ゼブラフィッシュ)という4種の脊椎動物が発生する過程で、包括的な遺伝子発現プロファイルを同定・整備し、さらにそれら遺伝子発現情報を種間で類似性比較したところ、多種多様な発生段階の中でも中期胚にある咽頭胚期※1が最も進化的に保存された段階であることを明らかにしました。脊椎動物の発生過程は、「漏斗型モデル」と「砂時計モデル」という2つのモデルが主要な仮説として争われてきましたが、今回の結果は、砂時計モデルを支持する強力な証拠になると注目されます。これは理研発生・再生科学総合研究センター(竹市雅俊センター長)形態進化研究グループの倉谷滋グループディレクターと入江直樹研究員による成果です。

二足歩行するヒト、空飛ぶトリ、淡水から陸上へ生活の場を移すカエル、そして魚類と、私たち脊椎動物は形態的特徴が非常に多様です。こうした複雑な構造は、発生の進行に伴って体軸など基盤となる位置情報から順に形成されていくことなどから、初期胚こそが進化的に最も保存された胚段階であるという「漏斗型モデル」が提示されてきました。一方で、どの脊椎動物も1つの頭部や中枢神経、分節化した骨格からなる胴体など、共通の「基本ボディプラン※2」に従っており、このような共通構造と密接に関連する発生過程が中期胚に保存されていることを示唆した「砂時計モデル」も提示されてきました。これらは、両者ともに決定的な証拠を欠き、進化と発生の関係性における150年来の未解決問題となっています。

研究グループは、脊椎動物4種の初期胚から後期胚までの各発生過程で包括的な遺伝子発現プロファイルを同定・整備し、理研スーパーコンピュータRICC※3を駆使してそれらの類似性を解析しました。その結果、中期胚にある咽頭胚期と呼ばれる段階が、進化的に最も保存された遺伝子発現を持つことを発見しました。これは、脊椎動物の形態的特徴が基本ボディプランに従っているという概念とよく一致し、「砂時計モデル」を強く支持する結果となります。今回採用した情報生物学的な大規模解析アプローチは、解剖学的観察が主であった分野に革新的な成果をもたらしました。また、時系列に沿った遺伝子発現プロファイルの整備や、進化的に保存された発生関連遺伝子群を浮き彫りにするなど、動物進化だけでなく、器官・臓器形成の理解・基盤にも大いに役立つことが期待されます。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Communications』(3月22日号)に掲載されました。

※長文のリリースです。全文は下記URLを閲覧してください。
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2011/110330/index.html

細胞中の小さな分子を小さなタグで検出(2011/3/22)
-生きた細胞のDNA複製をリアルタイムで観察-

JST 課題解決型基礎研究の一環として、理化学研究所の袖岡 幹子 主任研究員、大阪大学 大学院工学研究科の藤田 克昌 准教授らは、細胞中の小さな分子の動きを小さなタグを付けて観察することに成功しました。

薬などの小さな分子が細胞内のどこに動いていくのかを知ることは重要ですが、そのままでは調べることができません。そのため、注目する分子に別の蛍光分子注1)をタグとして結合させて蛍光顕微鏡注2)で検出する方法がよく用いられています。しかし、このタグは20~30個以上の原子でできた大きな分子であるため、注目する分子本来の性質が変わってしまうことが問題となっていました。

本研究グループは、2個の炭素原子と1個の水素原子からなる極めて小さな構造のアルキン注3)タグを用いた観察法を考案しました。アルキンは三重結合注4)を持つため、分子間の結合状態を観察するラマン顕微鏡注5)を用いることで検出が可能です。一方、細胞の構成分子には三重結合を持つものが少ないため、アルキンタグを付けた分子の細胞内での位置を調べることができます。この特徴を利用して今回、細胞がDNAを複製する時の材料となる2’-デオキシチミジン(dT)によく似た2’-デオキシウリジン(dU)にタグとなるアルキンを結合させた「5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)」を使って、その動きを調べました。EdUを人間の子宮頸がん由来の細胞(HeLa細胞)の培養液に加え、分子の動きをラマン顕微鏡で観察した結果、EdUが細胞に取り込まれた後、細胞核に集まっていく様子を観察することに成功しました。また、DNAが作られる周期もdTとEdUでほとんど変わらないことが分かりました。dTは31個の原子からなる小さな分子ですが、アルキンタグを付けたEdUもdTと同じような性質を示したと考えられます。この結果から、小さな分子の生細胞内での動きを観察するためにアルキンタグは有効であると分かりました。本研究成果は今後、生きた細胞の中で薬などの動きを観察する技術の発展に貢献するものと期待されます。

本研究成果は、米国化学会誌「Journal of The American Chemical Society」のオンライン速報版で近日中に公開されます。

※リンク先や写真、添付資料があります。詳細は下記URLをご覧ください。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20110322/index.html

東北地方太平洋沖地震への対応(2011/3/14)
http://www.riken.go.jp/r-world/topics/110314/index.html

喘息・花粉症の原因物質産生は、合成酵素の2つのアルギニン残基が鍵(2011/3/2)
-気管支喘息や花粉症の発症機序の理解に加え、新薬剤の開発に寄与-

風邪を引くと鼻水や鼻づまりに悩まされ、シーズンが到来すれば花粉症で頭痛・涙目・クシャミなどに苦しめられます。これらの症状は、生体防御を担う免疫反応が原因です。気管支喘息やアトピー性皮膚炎も、この生体防御反応が関わっていますが、この反応が過剰になると、アナフィラキシーショックで知られるように、命を脅かす危険さえあります。

免疫反応は、免疫系細胞である肥満細胞が体内に入り込んだ異物を認識すると、システイニルロイコトリエン(Cys-LT)などさまざまな情報伝達物質を放出することで開始します。細胞から放出されたCys-LT は、粘液の分泌促進、毛細血管の透過性亢進など異物排除に欠かせない防御作用を誘導します。このCys-LTの代謝に関わるタンパク質の構造や機能を明らかにすると、気管支喘息や花粉症を含む複雑な生体防御反応を原子レベルで理解し、制御することが可能になります。

放射光科学総合研究センター宮野構造生物物理研究室らは、Cys-LT 産生の鍵となる膜タンパク質の「ロイコトリエンC4合成酵素」(LTC4S)の立体構造を、ヒト由来の膜タンパク質のX線構造解析で最高水準となる1.9Åという高い分解能で解析しました。その結果をもとに、タンパク質工学を使った生化学実験を行ったところ、 LTC4Sの活性部位に存在する2つのアルギニン残基が協調して働くことで酵素機能を発揮することを突き止めました。Cys-LTの特異的な受容体への結合を抑制する薬が、気管支喘息や花粉症に有効とされており、今回の成果は、これらの慢性アレルギー疾患の発症機序の理解に加え、副作用の少ない抗炎症・抗アレルギー創薬につながる可能性が期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110302/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110302/index.html

膜タンパク質の性状を簡便かつ迅速に解析できる手法の開発に成功 -膜タンパク質解析の最大のハードル「試料調製条件確立」の有効なツールに-(2011/2/25)
細胞や細胞小器官は、生体膜と呼ばれる膜で覆われ、外界と隔てられています。生体膜には多種多様なタンパク質が埋め込まれており、この膜タンパク質が、細胞や細胞小器官同士の情報伝達や物質輸送といった、生命現象に欠かせない重要な役割を果たしています。また、医薬品の約半数は、膜タンパク質をターゲットとしており、生命現象の理解や新薬開発のためには、膜タンパク質の機能・構造を明らかにすることが重要です。

しかし、膜タンパク質は、構造が壊れやすいなどの原因で試料調製が困難なことがハードルとなり、構造解析が進んでいません。理研放射光科学総合研究センター構造生理学研究グループ分子シグナリング研究チームは、調製した膜タンパク質試料が正しい構造を保持しているかどうかなどの性状解析を行う電気泳動法の条件を検討しました。その結果、界面活性剤の一種であるジオクチルスルホコハク酸を電気泳動試薬として用いると、良好な解析結果が得られることを突き止めました。さらに、膜タンパク質をGFP(蛍光タンパク質)とつなぎ、蛍光を検出することで、多くの試料を精製することなく迅速に性状解析できる「FN-PAGE法」を開発し、結晶構造解析に成功した試料と結晶化ができていない試料を、泳動パターンの違いとして検出できることを初めて明らかにしました。

研究チームが確立したこの「FN-PAGE法」をさまざまな電気泳動法に応用することで、より一層の自動化、サンプルの少量化、解析のスピードアップが期待でき、立体構造解析だけでなく、広く膜タンパク質研究を推し進めるものと注目されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110225/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110225/index.html

ES細胞から神経細胞へ分化開始させるスイッチ因子を解明 -高選択性で神経細胞を産生させる基盤を確立、脳疾患の応用などに期待-(2011/2/17)
私たちの体を構成するさまざまな細胞に分化する能力を持つES細胞やiPS細胞は、多能性幹細胞として再生医療などを実現すると世界中で注目されています。しかし、血液や増殖因子などを含む通常の培養液で培養すると多種類の細胞が混在して分化してしまうため、医療などに必要な一種類の細胞を限定して分化させる培養法などを特別に工夫することが必要となっています。発生・再生科学総合研究センター器官発生研究グループらは、細胞に刺激を与える物質を除いて培養すると、ES細胞・ iPS細胞が自発的に神経前駆細胞や神経細胞に効率よく神経分化することを明らかにしてきましたが、そのメカニズムは不明のままでした。

研究グループは、網羅的なゲノム・スクリーニングを行い、この培養液を用いたときにだけES細胞内で強く働くZfp521という核内タンパク質を同定し、このタンパク質の働きで、ES細胞が神経前駆細胞へ分化することを初めて明らかにしました。さらに、血液や増殖因子などが、Zfp521タンパク質の発現を抑えて神経分化を低下させることや、たとえ血液や増殖因子などが存在してもZfp521タンパク質さえを発現させれば神経分化が効率良く進むことを発見しました。また、Zfp521遺伝子の機能を阻害したES細胞の場合、試験管内でも、マウスの胎児の中でも脳の神経細胞を産生できないことを証明しました。同時に、 Zfp521タンパク質が脳・神経細胞への分化スイッチを特異的にオンにする役割を果たしていることが判明しました。

この結果、謎であったES細胞・ iPS細胞からの神経分化の開始機序が分かり、脳疾患の再生医療への応用に必至な神経細胞の選択的産生技術やそれに伴う安全性の向上に貢献すると期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110217/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110217/index.html

ビフィズス菌の作る酢酸がO157感染を抑止することを発見(2011/1/27)
-善玉菌(プロバイオティクス)の作用機構の一端を解明-

ヒトの腸内には、病気の原因となる悪玉菌や健康維持に活躍する善玉菌(プロバイオティクス)など、宿主の生態に影響を与える腸内常在細菌が、宿主の細胞数よりはるかに多い100兆個ほど存在しています。この常在菌叢を積極的に制御して健康を改善させる取り組みが盛んとなり、善玉菌の増殖が悪玉菌の脅威を防ぐ効果を持つことが分かってきています。しかし、その予防効果の作用メカニズムは、謎のままでした。

理研免疫・アレルギー科学総合研究センターの免疫系構築研究チームと東京大学の研究グループは、腸管出血性大腸菌O157の感染を抑止する効果が知られているビフィズス菌が、酢酸を生産し、腸管上皮細胞を保護するため、抵抗性を強めることを、マウスを使った実験で世界で初めて明らかにしました。通常では死に至る、1万個のO157菌を経口投与したマウス実験で、ある種のビフィズス菌(予防株)をあらかじめ経口投与しておくと感染死を防ぐことができます。しかし、予防できないビフィズス菌(非予防株)も存在し、ゲノミクス、トランスクリプトミクス、メタボロミクスを駆使した最新のマルチオーミクス手法で、予防株と非予防株の違いを詳しく調べた結果、予防株だけが腸管上皮に作用し間接的に感染死を防いでいました。具体的には、予防株だけに存在する果糖トランスポーター遺伝子を同定し、予防株が果糖から効率よく酢酸を産生することで腸粘膜上皮を保護することを突き止めました。

今回の成果は、マルチオーミクス手法が複雑な腸内細菌の相互作用の解析に効果のあることを証明しました。これにより、プロバイオティクスの作用メカニズムの全体像を明らかにすることが可能になり、健康増進や予防医学への貢献が期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110127/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110127/index.html

神経幹細胞が脳室側だけで細胞分裂する仕組みを解明(2011/1/27)
-神経幹細胞の分化と細胞極性維持の協調的制御が増殖位置を決定-

◇ポイント◇
神経幹細胞の増殖の仕組みを、ゼブラフィッシュで分子遺伝学的に解析
神経幹細胞の分化と細胞極性の維持を協調的に制御する機構を発見
神経発生機構や脳の進化の理解に重要な手がかりを得る

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、モデル動物のゼブラフィッシュ※1を用いて、脳を構成するさまざまな細胞に分化する「神経幹細胞※2」が、未分化性と細胞極性※3の協調的な維持によって、脳の内側(脳室側)だけで増殖する仕組みを解明することに初めて成功しました。理研脳科学総合研究センター(利根川進センター長)発生遺伝子制御研究チームの岡本仁チームリーダー、大畑慎也研究員と国立大学法人東京大学(濱田純一総長)総合文化研究科及び農学生命科学研究科、独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構(シドニー・ブレナー理事長)との共同研究による研究成果です。

神経幹細胞は、細胞周期に応じて脳の内側(脳室側)から外側(脳膜側)までエレベーターのように細胞核を移動させ、核が脳室側に存在する時にだけ細胞分裂を行い、増殖します。しかし、どのような分子機構で脳室側でだけ細胞分裂をするのかは不明のままで、神経発生学上の中心的課題として残されていました。

研究チームは、脊椎動物の中で最も単純な脳を持つゼブラフィッシュを用い、神経幹細胞の細胞極性を維持するために必須な因子(細胞極性制御因子)の機能を失った突然変異体を単離・解析しました。この変異体では、神経幹細胞が「中間神経前駆細胞※4」へと分化し、より脳膜側で細胞分裂を行っていました。この結果から、細胞極性制御因子が、神経幹細胞の分化と細胞極性維持の両方を協調的に制御することで、神経幹細胞の細胞分裂の場所を脳室側に限定していることが分かりました。

今回の成果は、細胞極性制御因子による精巧な神経系形成の分子機構を解明した世界初の発見となりました。今後さらにこの研究を進めることによって、神経幹細胞の増殖の全体像が明らかになることが期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Neuron』(1月27日号)に掲載されます。成果の一部は科学研究費補助金とJST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「生物の発生・分化・再生」研究領域における研究課題「Genetic dissectionによる神経回路網形成機構の解析」(研究代表者:岡本仁)によって得られました。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110127_2/index.html

独自の代謝動態解析法で微生物間相互作用を追跡(2011/1/27)
-食品科学における1次代謝物の重要性を再認識-

ヒトをはじめとする動物の腸管内には、多種多様な腸内細菌が共存しながら腸内細菌叢(腸内フローラ)を形成しています。この腸内フローラで善玉菌(プロバイオティクス)が活性化すると、アレルギーなどの免疫疾患、各種感染症の改善や予防の効果が高まることが明らかとなってきました。そのため、善玉菌投与の有用性が、健康維持や予防医学の面から注目されていますが、そのメカニズムには不明な点が数多くあります。

植物科学研究センター先端NMRメタボミクスチームは、免疫・アレルギー科学総合研究センターと協力し、善玉菌であるビフィズス菌と、悪玉菌である腸管出血性大腸菌O157の1次代謝物を介した共存関係を突き止めました。 1次代謝はさまざまな生物に共通する中心代謝経路で、種々の生物が混在する系では、どの生物がどの1次代謝物を産生しているのかを区別して分析することが今まで困難でした。今回、研究チームは、核磁気共鳴法(NMR)と13C安定同位体標識技術を駆使してその問題を解決し、ビフィズス菌が多糖類を分解して生産した酢酸やアミノ酸を、共存下のO157が活用して有機酸に代謝する事実を発見しました。これにより、免疫や健康維持における1次代謝物を介した宿主・細菌、細菌・細菌間の隠れた役割が明らかになり、その役割を活用した新たな食品科学の提案を可能にしました。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110127_3/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110127_3/index.html

蛍光イメージング技術によって抗がん剤の作用を再評価(2011/1/25)
-細胞周期をリアルタイムで解析する技術を創薬へ応用-

◇ポイント◇
コントラストよく細胞周期を追跡するFucci2
薬に対する個々の細胞応答を多面的にキャッチ
蛍光イメージング技術の創薬への応用

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、オリンパス株式会社(菊川剛代表取締役社長)と共同で、細胞周期をリアルタイムで可視化する技術を薬効評価実験に応用し、抗がん剤にさらされた細胞が示す細胞周期異常を多面的に解析しました。その結果、分裂をスキップして核DNA量を増大させる現象など多様な細胞応答を観察することに成功しました。抗がん剤を細胞周期制御の観点で再評価する必要性を示す研究データです。理研脳科学総合研究センター(利根川進センター長)細胞機能探索技術開発チームの宮脇敦史チームリーダー、独立行政法人科学技振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「宮脇生命時空間情報プロジェクト」(研究総括 宮脇敦史)の阪上(沢野)朝子研究員らと、オリンパス株式会社の小林民代研究員との共同研究による成果です。

細胞は、細胞周期を刻みながら分裂を繰り返して増殖します。生物の発生や再生では、細胞の増殖と分化とが協調的に制御されて、組織、器官、個体が形成されます。しかし、そうした協調的制御が破綻して細胞の増殖が無制限に繰り返されると、がんが発生します。研究チームは、2008年2月に、細胞周期を蛍光で可視化するFucci技術※1の開発を報告しました。Fucciプローブは、分裂後からDNA複製前の時期にある細胞の核を赤色の蛍光で、DNA複製から分裂前の時期にある細胞の核を緑色の蛍光でそれぞれ標識します。近年、Fucci技術を活用することで、生物個体の形態形成、創傷治癒、がん化などのメカニズムに関して新たな知見がもたらされてきています。また、がんの治療評価や診断法開発、さらには移植後の胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)の増殖をモニターする技術の開発に役立つことが期待されています。

今回、抗がん剤に対する細胞の応答性を調べる研究にFucci技術を活用し、個々の細胞が見せる反応を定量的に観察することを試みました。古典的な抗がん剤として有名なetoposide(エトポシド)で処理した細胞の反応を経時的に調べたところ、低濃度ではG2(分裂前準備期)期における細胞周期進行が停止する現象(G2 arrest)、中濃度では細胞核が分断化する現象(nuclear mis-segregation)、また高濃度では細胞分裂をスキップして核DNA量が増大する現象(endoreplication)が観察されました。nuclear mis-segregationを示す細胞が死に向かうのに対して、endoreplicationを示す細胞は、抗がん剤に対する抵抗性を獲得したものと見みなされます。この結果は、高濃度の抗がん剤投与によってがん細胞がより悪性化する可能性を示しており、現行の抗がん剤開発におけるスクリーニング方法に一石を投じるものと注目されます。

本研究成果は、英国の科学雑誌『BMC cell biology』に近く掲載されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2011/110125/index.html

自己と他者の動作を区別する仕組みを細胞レベルで初めて解明(2011/1/21)
― 「人の振り見て我が振りなおせ」に前頭葉の内側領域が関与 ―

独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構(シドニー・ブレナー理事長)の磯田昌岐代表研究者(神経システム行動ユニット)らの研究グループは、動物の前頭葉の内側領域の神経細胞が自分の動作と他者の動作を選択的に処理することを明らかにしました。

本研究成果は、米国科学誌Current Biology(カレントバイオロジー)のオンライン版に1月21日(現地時間1月20日)に掲載されました。本研究は、独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構の磯田昌岐代表研究者、東京大学大学院医学系研究科 脳神経外科学の大学院生の吉田今日子と東京大学大学院医学系研究科/東京大学医学部附属病院 脳神経外科学の齊藤延人教授、独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター象徴概念発達研究チームの入來篤史チームリーダーとの共同により行われました。また、独立行政法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業の一環として行われ、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」の支援を受けました。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archives/20110121.html
http://www.oist.jp/ja/pressarchive/150-2011/723-pr-isoda.html

プロ棋士の直観は、尾状核を通る神経回路に導かれる ―プロ・アマ棋士の脳機能画像研究が、直観的思考の神経基盤を明らかに―(2011/1/21)
相手の王様をとって勝敗を決める将棋やチェスなどのボードゲームでは、論理的な予想の積み重ねや直感的な次の一手の導出という妙技が繰り広げられていきます。この思考過程は、人間だけに高度に発達した思考の仕組みを解明する上で重要と考えられ、古くから研究対象として注目されてきました。特に 1950年代には、チェス熟達者や愛好家が、対局中に考えていることを声に出すことで、その思考過程を比較する研究が行われており、熟達者であるほど盤面の記憶能力が優れていること、最善手は直観的に生まれてくること、などが分かってきました。将棋のプロ棋士も、次の一手は「直観的に」頭の中に浮かび、残りの持ち時間は、他の手の確認や心理的な駆け引きなどに費やすとコメントしています。

脳科学総合研究センターの認知機能表現研究チームらは、富士通株式会社、株式会社富士通研究所、社団法人日本将棋連盟の協力を得て、将棋のプロ棋士が戦局を素早く理解し、最適な次の一手を直観的に思いつく神経基盤を実験的に解明しようとしました。プロ棋士やアマチュアがさまざまな盤面を見たときや、詰め将棋(または必至問題)を解くときの脳活動を、機能的核磁気共鳴画像(fMRI)で観察した結果、プロ棋士の脳で特徴的に活動する2つの領域―実戦局面を見て瞬時に駒組を認識する大脳皮質頭頂葉の楔前部(けつぜんぶ)と、最適な次の一手を直観的に導き出す大脳基底核の尾状核―を見いだしました。また、盤面を見て次の一手を直観的に導き出す過程では、楔前部と尾状核が連動して活動することも明らかにしました。

「熟達者固有の直観」という現象の神経基盤を解明した世界で初めての例として注目されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110121/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110121/index.html

協同乳業、理化学研究所、京都工芸繊維大学との共同研究で 腸内ポリアミン濃度を高める技術開発を発表 2011年1月27日~28日の第2回ポリアミン学会で発表(2011/1/18)
メイトーブランドの協同乳業株式会社(本社:東京・中央区/社長:山崎直昭)は、(独)理化学研究所・辨野特別研究室、京都工芸繊維大学大学院・微生物工学研究室と共同で、(独)農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出基礎的研究推進事業」の平成21年度採択課題「健康寿命伸長のための腸内ポリアミン濃度コントロール食品の開発」に関する研究を進めています。一連の研究で、腸内ポリアミン濃度を最適濃度に高める技術が開発されましたので、1月27日~28日に開催される第2回ポリアミン学会(帝京大学・宇都宮キャンパス)で発表する予定です。
【研究の目的】
協同乳業では、これまでの研究で、ビフィズス菌LKM512がアトピー性皮膚炎軽減に有効であることや、マウスの寿命を伸ばすことを確認してきた。更に、このメカニズムは、LKM512が生きて大腸に到着し腸管内で増殖することで、腸内菌叢が改善され、腸内細菌が作る善玉の代謝産物“ポリアミン”※1の濃度が最適化されるからであると考え研究を進めている。しかしながら、腸内菌叢は個体差が大きく、 LKM512の単独摂取では、全てのヒトで安定して腸内ポリアミン濃度を最適濃度に高めるのは困難であった。今回、あらゆるヒトの腸管内で、安定してポリアミン濃度を上昇させるための技術開発を目指した。
※1 ポリアミン:生体に普遍的に分布し、DNA・RNA・タンパク質の合成や細胞の増殖および分化に関与している生理活性物質。腸管バリア機能の増強や炎症抑制作用も知られている。

【方法】
食餌由来成分の影響を無くすため、20代~30代健常成人男性12名に5日間、同一時刻に同一食事(2,300kcal/day)を摂取させ、5日目の糞便を回収し、その糞便抽出物のメタボローム解析※2を行なった。検出された全成分と腸内ポリアミン濃度との相関性を調べ、相関性の高かった物質を、微生物および糞便を使った培養法にて選択した。
※2 試料中に含まれる低分子化合物や代謝産物の網羅的な解析。

【結果】
メタボローム解析の結果、プトレッシンおよびスペルミジンと有意に相関性がある物質が、それぞれ28種類および23種類見出され、特に、ヒト腸管内で濃度が高いプトレッシンとの相関性が高い28物質をポリアミン制御候補物質として、微生物および糞便培養系で絞り込んだ。その結果、アルギニンを添加することで、有意なプトレッシンの増加が得られることが認められた。 腸内菌叢の構成は個人差が大きいにも関わらず、全糞便サンプルで共通に増加が確認されたことから、アルギニンを大腸に届けることで大腸内ポリアミン濃度の上昇が誘導できる可能性が高まった。
http://www.meito.co.jp/press_125.htm

夕方の遺伝子発現の仕組みと役割を初めて解明 -体内時計の動作原理が“遅れを持った負のフィードバック”であることを証明-(2011/1/14)
ヒトの睡眠や目覚めをはじめとする生活のサイクルは、「体内時計」のシステムの影響を受けます。この体内時計は、さまざまな生物種に存在し、約24 時間周期で数多くの遺伝子がリズミカルに機能する複雑な遺伝子ネットワークから成り立っていると考えられています。すでに、哺乳類の体内時計遺伝子の転写ネットワークについては、朝・昼・夜の基本時刻に遺伝子を発現させるゲノム上の3つの制御DNA配列と約20個の転写制御因子が組み合わさって制御し合う設計図が描かれています。

発生・再生科学総合研究センターのシステムバイオロジー研究プロジェクトなどの研究グループは、この設計図によって昼と夜の遺伝子発現が説明できることを明らかにしてきました。しかし、朝については十分に解明できていませんでした。
図 Cry1遺伝子発現の遅れの大きさの重要性

一方、朝の遺伝子発現を強く抑制するCry1遺伝子が、夕方に発現することで形成する“遅れを持った負のフィードバック”が体内時計の転写ネットワークの動作原理と考えられ、 Cry1遺伝子の発現制御メカニズムの解明が体内時計システムを理解するカギの1つとされていました。

研究グループは、Cry1遺伝子を詳細に解析し、昼と夜の制御DNA配列の組み合わせがCry1遺伝子を夕方に発現させるメカニズムであることを突き止めました。さらに、人工的に Cry1遺伝子の発現制御を改変して、発現時刻を昼から夜の間で変化させたところ、体内時計の振動の振幅や周期に大きく影響することを明らかにしました。この発見は、体内時計の転写ネットワークの動作原理が“遅れを持った負のフィードバック”であることを初めて証明したもので、哺乳類の体内時計システムの理解を大きく前進させる成果と注目されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110114/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110114/index.html

些細な情報でも同じ樹上突起上のタンパク質を借りられる場合は長期記憶に残ることを発見(2011/1/13)
―樹状突起の枝はタンパク質合成依存的LTPを好んで統合する単位―

ある出来事の中でも、ほんのちょっとしたことがなぜか長く記憶に残ることが時々あります。MIT Picower Institute of Learning and Memory(以下Picower研究所)の神経科学者達は、その謎の一端を明らかにしました。この研究は分子レベルでこの謎を世界で初めて説明したとして、国際誌『Neuron』の2011年1月13日紙上で掲載される予定です。

自分にとって重要な人物に初めて会った時のことを思い出してみるときに、例えばその人物の印象的な発言のように自分にとって大事な情報以外に、それと同じくらい、その人のシャツの色というような一見不必要な情報を妙に鮮明に思い出すことがあります。共著者であるRIKEN-MITセンター利根川進センター長・Picower研究所教授らの発見はこの現象がなぜ起きるのかについて説明を与えるものです。研究グループらの実験結果は、不必要な情報が必要な情報より先に得られる場合よりも必要な情報に続いて得られた方が、長期記憶に、より統合されやすいということも示しています。

記憶を形成する

ある理論によれば、記憶の痕跡や断片は「記銘(engram)」と呼ばれている生物物理学的もしくは生化学的な変化として、脳中に散らばっていると考えています。しかし記銘を支配する機構はよく分かっていませんでした。

MITの神経科学者達、RIKEN-MITセンターのアシスタント・ディレクター、アーヴィンド・ゴヴィンダラジャン(Arvind Govindarajan)博士とPicower研究所のインバル・イズラェリ(Inbal Israely) 博士研究員、ホヮン・シュウイン(Shu-Ying Huang) 技術員と利根川進教授は、脳の中でどのように記憶が作られ蓄えられるのかを明らかにするため神経細胞一つ一つを調べました。先行研究はシナプス※1の役割に焦点を当てていました。個々のシナプスは記憶の記銘を確立するのに必要な最小単位であると考えられていました。しかし、RIKEN-MITセンターの研究グループは個々のシナプスを調べる代わりに、神経細胞の樹状突起の枝状のネットワークとその中にある複数のシナプスを探索しました。

入力信号を強める

外界の刺激に応じて、大脳皮質の樹状突起にあるスパイン※2は、脳内で繰り返される神経活動の影響を受けて徐々に大きく構造的に変化します。この構造変化は全ての記憶学習の機構を支配していると考えられています。神経細胞は外から入ってくる電気化学的刺激を幹状の細胞体へ伝達する役目となる枝状の樹上突起を伸ばします。樹上突起の枝のさまざまな場所にあるシナプスは樹上突起にとって信号増幅器としてふるまい、これらのシナプス入力を統合し、神経細胞が入力信号に影響される程度を決定する上で基本的な役割を演じます。

研究者たちは、ある樹上突起の枝上の2つのシナプスが互いに1時間半以内に刺激されるならば、通常は短期記憶へ追いやられるような一見不必要な事柄についての詳細な記憶であっても長期記憶を伴う、ということを見つけました。実験では、通常は短期記憶を伴うことになる弱い刺激を受けたシナプスでも、そのシナプスが存在する樹状突起の上の別のシナプスが上記の時間内に刺激を受けていれば、脳の中で長期記憶として残りました。これは弱く刺激されたシナプスが強く刺激されたシナプスの近くで生合成された一連のタンパク質をちょっと借りてくることが出来るためだと考えられます。この一連のタンパク質は樹状突起のスパインを肥大化して情報を長期記憶として残すのに必須なものです。 研究者たちは、些細な情報が必ずしも全て思い出されるとは限らない理由を、こうした情報が刺激したシナプスが、強く刺激されるシナプスがある樹状突起の枝とたまたま同じ枝上にいる必要があるためと説明しています。

本研究は独立行政法人理化学研究所、ハワード・ヒューズ医療研究所とアメリカ国立衛生研究所(NIH)により助成されました。
http://www.brain.riken.jp/jp/news/2011/20110113.html

IL6遺伝子がC反応性タンパク(CRP)測定値に関与することを発見(2011/1/11)
感染症や自己免疫疾患の病状を正確に知ることは、患者と向き合う医療現場で欠かせません。C反応性タンパク(CRP)は、体内に異物が侵入した際の炎症反応や組織壊死に伴い増加する血中のタンパク質で、病状を評価する検査項目として広く測定されています。さらに、正常時のCRP測定値が高い人ほど、心血管疾患や大腸がんなどの疾患にかかりやすいという報告もあり、予測因子としての重要性も増してきています。

しかし、同じ疾患で同じ程度の炎症反応であっても、このCRP測定値には個人差が有り、その原因解明が切望されていました。

ゲノム医科学研究センター統計解析研究チームらは、ヒトゲノム全体に分布する約220万個の一塩基多型(SNP)を対象に、日本人10,112人から得たCRP測定値との関連を調べる大規模なゲノムワイド関連解析を実施しました。 新たに「Genotype Imputation」という手法を導入し、未観測の個人別SNPを、観測済みのSNPの情報に基づいて統計学的に推定することで、測定対象のSNPを従来の4~5倍に増やすことができました。その結果、炎症反応に関わる遺伝子として知られていたIL6遺伝子のSNPが、CRP測定値の個人差と関係していることを突き止めました。同時に、30,466人から得た試料を解析したところ、この IL6遺伝子のSNPが白血球数、血小板数、貧血関連指標、血清タンパク質など複数の検査項目とも関連していることが分かりました。

炎症反応の個人差を説明するSNPを同定したこの研究成果により、個々人の体質に基づいた正確な評価、診断だけでなく、心血管疾患や大腸がん発症との関わりの解明が期待されます。また、IL6は関節リウマチなど炎症性疾患の治療標的としても臨床研究が進んでおり、これらの疾患におけるオーダーメイド医療への応用が注目されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110111/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110111/index.html

がんの死細胞を食べ、がん免疫を活性化する新マクロファージを発見(2011/1/6)
-効率的にがん免疫を誘導する新しい免疫治療への応用に期待-

◇ポイント◇
○新マクロファージは、がんの死細胞を効率よく取り込む
○食べたがん細胞の情報をキラー細胞(細胞傷害性T細胞)に伝え免疫機能を発揮
○新マクロファージの効率的な活性化が、がん免疫の治療に道

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、がんの死細胞を貪食し、がん免疫を活性化する新しいマクロファージを発見しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)自然免疫研究チームの田中正人チームリーダー、浅野謙一研究員らによる研究成果です。

がん細胞は、体の免疫監視をかいくぐり、免疫系の攻撃を受けずに増殖していきます。しかし、放射線照射などによってがん細胞を殺すと、死んだがん細胞を免疫系が認識し、がんに対する免疫が活性化する場合があることが知られ、この現象を利用した治療法が応用されつつあります。これまで、このがん免疫を誘導する具体的なメカニズムは不明のままでした。

マクロファージは、死んだ細胞を食べて処理する免疫細胞です。これまでの研究で、マクロファージの役割は、体に侵入した異物や自己の死細胞の掃除だけのようにとらえられていましたが、最近、食べた死細胞を有効活用して、多種多様な免疫反応を制御していることが分かってきました。研究チームは、マウスを用いた実験で、がんの死細胞を食べると、がん免疫を活性化するマクロファージの一種(CD169陽性マクロファージ)を発見しました。このマクロファージは、リンパ節の入り口で待ち構え、リンパ流に乗ってやってきたがんの死細胞を食べてしまう、門番のような働きをします。さらに、この門番のようなマクロファージの一部(CD169陽性CD11c陽性マクロファージ)は、がん細胞を直接攻撃するキラー細胞(細胞傷害性T細胞)に食べたがん細胞の情報を伝え、がん細胞を殺すよう指令を出す、重要な役割を持つことが分かりました。

今後、このマクロファージを効率的に活性化することによって、がん免疫を誘導する新たな治療につながる可能性があります。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Immunity』(1月27日号)に掲載されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2011/110106/index.html

中村特別研究室を企業の資金により開設(2011/1/1)
~計算科学を用いる生体ナノ領域場の研究がスタート~

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は株式会社地球快適化インスティテュート(三菱ケミカルホールディングスグループ)からの資金により中村振一郎(なかむらしんいちろう)地球快適化インスティテュートリサーチディレクター・三菱化学フェローを招聘し、2011年1月1日、理研社会知創成事業イノベーション推進センター(斎藤茂和センター長)内に中村特別研究室を開設しました。

中村特別研究室は、光合成を始めとする生体系柔構造が実現している高効率の化学反応に着目し、その構造と機能の解明をシミュレーションの手法によって取り組みます。量子化学を始めとした分子レベルの計算科学と独自のゆらぎ解析による信号処理技術を用いるのが特徴です。これらにより、生体系柔構造の機能発現の基礎に立つ人工デバイスの基本設計とその構築が期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/topics/110101/index.html

脳神経細胞の電気信号を読みとく新たな蛍光タンパク質(2010/12/25)
新たな蛍光タンパク質の発見により、海馬の複雑な神経回路網の謎に光が当てられました。理化学研究所脳科学総合研究センター回路機能メカニズムコア神経回路ダイナミクス研究チームのKNÖEPFEL THOMASチームリーダーらによって開発されたこのタンパク質「red-shifted VSFPs」は、神経細胞の集まりから発せられる高速の電気信号の解析に役立ち、神経回路網における神経細胞間ダイナミクスの観察が可能になります。今後、脳機能の研究がさらに推進されると期待されます。

神経回路網ダイナミクスを解析するための重要な課題の1つは、いくつもの神経細胞の活動を同時に観察することです。膜電位感受性蛍光タンパク質(VSFP)は、遺伝子レベルで電位センサーをコントロールし、非侵襲的に特定の細胞集団活動を可視化することができます。しかし、これまで、VSFPによる可視化には、長時間にわたって神経細胞で発現できないといった問題や、組織が持つ自家蛍光に邪魔されるといった問題がありました。

今回、研究チームによって新たに造られたred-shifted VSFPは、発光する波長を赤波長へシフトさせることで、これらの問題を解決しました。電位感受性ホスファターゼ(Ci-VSP)の電位感受性領域と、赤波長へシフトさせた蛍光タンパク質を融合させることで、これまでとは異なる色を発するVSFPを造り出したのです。『Journal of Chemistry & Biology』誌への報告によると、研究チームは、このタンパク質を用いてCi-VSPの電位感受性メカニズムを新たに解明し、さらには海馬神経細胞における電気信号を解析するための改良型(VSFP3.1_mOrange2)の有効性も実証しました。

神経回路網にある細胞レベルでの活動をVSFPで観察できれば、脳内の情報処理過程における理解はさらに深まります。現在のVSFPのメカニズムをさらに研究し改良すれば、蛍光波長を赤波長にシフトさせたこの新たなタンパク質は、脳機能を理解するための革新的な進歩をもたらすでしょう。
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2009/091225/index.html

小型霊長類コモンマーモセットの無麻酔下PET実験(2010/12/25)
イメージング科学研究センター分子プローブ機能評価研究チーム(尾上浩隆チームリーダー)らは、小型霊長類コモンマーモセットの無麻酔下PET実験技法を世界に先駆けて確立し、同種の脳内セロトニントランスポーター
の生体分布を明らかにしました。

脳機能を生きたまま長期にわたってモニターできるPETの技術は、遺伝子情報と行動発現を仲介する神経化学的な脳内分子動態を明らかにしてきました(図1)。近年、技術の発達によって動物PETが可能になりました。動物実験は、ヒト研究ではできない様々な実験的介入が可能であり、その結果はヒト行動を支える機構を理解するために重要です。横山ちひろ研究員(機能評価研究チーム)らが用いたのは、コモンマーモセットという小型の霊長類です(図2)。コモンマーモセットは繁殖効率が高く遺伝子改変が可能な霊長類として注目されています。また、ヒトと類似する高い社会性を示し、社会行動研究におけるモデル動物として優れています。覚醒下で行うマーモセットPET実験システムは我々の研究室が世界で初めて開発し、これにより麻酔薬の影響のない状態で脳内セロトニントランスポーターの結合活性分布を捉えることに成功しました
http://www.cmis.riken.jp/image/index/seika_yokoyama.pdf

過去の経験が新たな状況下において意識下の行動に影響を与えることを発見(2010/12/24)
―場所細胞の発火パターンは時間的に未来に起きる状況を「前」再生している―

RIKEN-MITセンター及びPicower 研究所の研究者達は、世界で初めて、過去の経験を通じて得た知識が新たな状況下においてどのように行動に意識下で影響を与えるかを明らかにしました。我々の過去の経験がどう未来の選択に情報を与えるかという問いに光を投げかけたこの研究は、出版に先立ちNature 2010年12月22日号のオンライン版に掲載されました。

先行研究では、げっ歯類が新しい場所を探索すると、学習と記憶の場である海馬の神経細胞が順に発火するということが分かっていました。場所細胞と呼ばれるこれらの神経細胞は、空間内での動物の動きを反映した特別な発火パターンを示します。発火する神経細胞から記録された時間特異的なパターンを見て、研究者はある時間に動物が迷路のどこを走っていたのかを当てることが出来ます。

RIKEN-MITセンターのジョージ・ドラゴイ博士研究員と利根川 進 同センター長兼picower研究所教授らは、初体験の迷路のような空間的に新しい経験をしている間に発火する神経細胞の発火パターンの一部がその経験の前に既に観察されるということを見つけました。この結果は、元々我々が持っている経験が、状況が新しくなったときに経験することに影響するという現象を神経回路レベルで説明します。これは、同じ状況に陥った時に、なぜ個体ごとに異なる脳内表現が形成されてなぜ同じように反応しないのかという問いに部分的に答えを与えるものです。

一歩先を考える

マウスが迷路の中で止まってじっとしているとき、脳内では直前の経験が再生(replay)されていると言われています。このとき神経細胞も走っているときと同じパターンで発火します。脳内再生の場合と違って、新しい迷路を走る前に起きる現象であるため、今回MITの研究者らが見つけた現象は前再生(preplay)と呼ばれています。本研究の結果から、じっとしているときに海馬内で神経回路が時間軸に沿った発火パターンになるように動的に変化して、将来起きる関連した経験を記銘する手助けになっているということが示唆されました。

今までの研究は新しい出来事や空間そして状況といったものの前に起きている先行知識の脳内神経表現をよく見てはきませんでした。今回の研究は、新しいけれどもよく似た経験に対して事前の知識へ個別にアクセスすればどういう応答が起きるかを予想する研究への手掛かりになります。

本研究はアメリカ国立衛生研究所(NIH)の支援により行われました。
http://www.brain.riken.jp/jp/news/2010/20101224.html

異常糖タンパク質を捕まえるレクチンOS-9の立体構造を解明(2010/12/23)
-糖鎖を目印とするタンパク質の品質管理の仕組みを解く-

体を構成する1つ1つの細胞には小胞体と呼ぶ細胞のタンパク質工場(細胞小器官)が存在し、タンパク質が正しく機能するように監視しています。工場の中では、タンパク質が正しい折り畳み立体構造をつくるようにさまざまな反応が繰り返されたり、正しい立体構造を形成することに失敗した異常タンパク質を正常な立体構造に戻したり、分解したりするなどの品質管理システムが働いています。これを「小胞体品質管理機構」と呼びます。

この品質管理機構が破たんすると、不要なタンパク質が細胞内に蓄積し、機能不全や細胞死を引き起こし、アルツハイマー病などのさまざまな疾患を引き起こします。

基幹研究所糖鎖構造生物学研究チームらは、糖鎖を目印にして異常なタンパク質を捕まえるレクチン「OS‐9」の立体構造をX線結晶構造解析と核磁気共鳴解析で初めて明らかにするとともに、糖タンパク質のマンノースが切り取られた異常型の糖鎖を選択的に認識する仕組みを解明しました。具体的には、構造解析の結果、異常型の糖鎖(α1,6結合したマンノース3糖)と選択的に結合するOS-9のWWモチーフを発見するとともに、OS‐9がWWモチーフを介して3糖を特異的に認識するという仕組みが存在していることを世界で初めて明らかにすることができました。

異常糖タンパク質を分解する酵素の存在も明らかになっており、これらの酵素の立体構造解明を進めることで、さらに小胞体品質管理機構の仕組みを解明することができると期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101223/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101223/index.html

分子イメージングで片頭痛の病態を捉える(2010/12/22)
独立行政法人理化学研究所 分子イメージング科学研究センター、細胞機能イメージング研究チーム(片岡洋祐チームリーダー)は、PET イメージング技術を用いて片頭痛発作に伴う脳内の免疫応答を捉えることに成功した。
片頭痛の病態に関しては、発作時の血管拡張による血漿タンパク質などの漏出が無菌性炎症を引き起こし、これらの炎症反応情報が三叉神経系を介して感覚中枢に伝達され、痛みとして認知されるという「三叉神経血管説」が提唱されているが、その痛みの原因となる脳内の炎症については実証が難しく、未だに確認されていなかった。
細胞機能イメージング研究チーム、崔翼龍副チームリーダーらは、脳内に存在するグリア細胞の一種であるミクログリアが炎症時の免疫応答によって活性化されることに着目し、分子イメージング手法の一つであるPET(陽電子放射断層撮影法)を活用して、片頭痛を再現したラット実験モデルにおける脳内の免疫応答を画像化することに成功した。
http://www.cmis.riken.jp/image/index/seika_sai_1.pdf

CAPS2が神経栄養因子BDNFの分泌を増強し、脳回路を正常に発達(2010/12/21)
-CAPS2の分泌増強効果の欠損が、抑制性シナプスの異常を起こし不安を亢進-

特に脳で多く発現し、神経細胞の生存・分化や神経回路の形成などに必須な神経栄養因子の1つ「BDNF」(脳由来神経栄養因子)は、うつ病や統合失調症、発達障害、アルツハイマー病などの精神神経疾患との関連が示唆されています。このBDNFは、神経細胞の軸索に分布している分泌顆粒「有芯小胞」に含まれており、この小胞が刺激を受けると、小胞膜が細胞膜と融合、開口してBDNFを細胞外へ分泌します。この過程では、約1,300個のアミノ酸からなる分泌調節因子「CAPS2」が関与すると考えられていましたが、 CAPS2がBDNFの分泌をどのように増強するのか、神経細胞上での実際の様子やその時系列的変化については不明のままでした。

脳科学総合研究センター分子神経形成研究チームは、CAPS2遺伝子を欠損させたマウスの海馬由来の神経細胞を用いて、刺激を受けた有芯小胞が放出するBDNFの量が、CAPS2の働きによって増強される動態を、蛍光イメージングで観察することに世界で初めて成功しました。CAPS2遺伝子が有る場合は、無い場合と比較して、BDNFを分泌する動的速度を約30%、頻度を約85%、量を約60%増強していることが分かりました。さらに、このCAPS2欠損マウスでは、海馬のGABA(γアミノ酪酸)作動性の抑制性神経回路が脆弱になるとともに、抑制性シナプス発達、抑制性シナプス電流、シナプス可塑性、脳波に異常を示すだけでなく、新奇な物体を設置した不慣れな環境下では不安様行動を亢進することも見いだしました。GABAは、GABA受容体作動薬が精神安定作用を発揮することからも、不安障害との関連が明らかとなっている神経伝達物質の1つです。

今後、CAPS2によるBDNF分泌増強効果を利用した、精神神経疾患や発達障害、不安障害に対する新たな臨床応用が期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101221/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101221/index.html

遺伝子解析受託サービス事業GeNASでISO9001認証を取得(2010/12/20)
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)オミックス基盤研究領域:OSC、林崎良英領域長)が展開する遺伝子解析受託サービス事業「GeNAS(Genome network Analysis Service)」は、12月17日、ISO9001の認証を取得しました。次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析事業分野でのISO認証は、日本で初めてのことです。*



OSCは、2008年度に次世代シーケンサーを利用した遺伝子解析受託サービス事業「GeNAS」を開始し、独自に開発したCAGE法などの遺伝子発現解析技術を広く提供しています。また、2009度には、文部科学省の「革新的タンパク質細胞解析研究イニシアティブ革新的細胞解析研究プログラム(セルイノベーション)」における次世代シーケンス拠点にも採択され、米国Helicos社の一分子シーケンサーHeliscopeTMを日本で初めて導入するなど、周辺の技術を開発しながら独自技術を確実に高めてきています。GeNASの受託件数も、2008年度29件に比べ、2010年度には3倍強が見込まれる状況となっています。



OSCでは、理研の創薬・医療技術基盤プログラムの方針に沿って、ライフサイエンスの基盤の充実を図っています。次世代シーケンサーは、創薬・医療技術を含め、生物学、薬学、農学などあらゆるライフサイエンス分野の発展になくてはならない基本技術です。GeNASでは、品質の高いサービスを提供するために、品質マネジメントシステムを構築し、臨床研究などでもGeNASの活用が可能となるよう品質保証体制を整え、薬事法に基づく臨床試験を展開しやすくなることを目指します。今後、産官学のあらゆるライフサイエンス研究に対し、一層、信頼性の高い、高品質の遺伝子解析事業を、展開します。
http://www.osc.riken.jp/news/101220/

細胞のストレス応答機構の分子メカニズムが明らかに -ストレスによるIP3受容体の機能破壊が、神経細胞死による脳障害を引き起こす-(2010/12/9)
体調不良、心の病、自殺など、過度のストレスが引き起こす現代の疾患は増加傾向にあり、社会問題となっています。私たちが健康的な生活を過ごすためには、ストレスを軽減して、ストレスと上手に付き合っていく必要があります。私たちの体を構成している細胞もまた、常にストレスにさらされており、過剰なストレスは、細胞が備えているストレス応答機能を破壊し、自らが死を選択する細胞死(アポトーシス)を引き起こします。神経細胞がストレスにさらされると、細胞死によって脳機能が低下し、さまざまな神経疾患を引き起こすと考えられています。

脳科学総合研究センターの発生神経生物研究チームらは、細胞内のカルシウム濃度を調節するIP3受容体(IP3R)が小胞体ストレスによって破壊され、神経細胞死を誘導することを世界で初めて発見しました。IP3Rは4量体を形成することでカルシウム放出チャネルとして機能するタンパク質で、 3種類のサブタイプが存在します。中でも、1型IP3受容体(IP3R1)は脳で高い発現を示し、その機能を遺伝的に喪失したマウスが運動機能障害を引き起こすことが知られています。研究チームは、分子シャペロンとして知られるタンパク質GRP78が、IP3R1の4量体形成を制御していることを突き止め、小胞体ストレスでGRP78 とIP3R1の結合が弱まると、IP3R1の4量体形成が阻害され、カルシウム放出活性が顕著に低下することを明らかにしました。このIP3R1の機能破壊が神経細胞死を誘導し、脳障害を引き起こすことから、IP3R1がストレスから脳を守る働きを担うことが分かりました。この発見は、IP3Rが細胞死を誘導するという従来の定説を覆し、ストレスによる神経変性疾患の発症メカニズムの解明や、神経変性疾患の発症予防などの治療に貢献すると期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101209/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101209/index.html

「理研RSC-リガク連携センター」を開設 ―X線を利用した物質構造科学に貢献する共同研究開発拠点―(2010/12/9)
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と株式会社リガク(志村晶代表取締役社長)は、2010年12月10日(金)、放射光科学総合研究センター(RIKEN SPring-8 Center:理研RSC、石川哲也センター長)に、「理研RSC-リガク連携センター」を開設します。

新連携センターは、X線発生・利用技術を、実験室レベルで行う小規模施設から放射光施設、さらに現在建設中のX線自由電子レーザー※1施設に至るまで活用することができる新規計測機器の技術開発を行い、タンパク質構造解析をはじめとする物質構造科学の分野にとって良好な研究環境を整備していくことを目的としています。具体的には、連携センターに「検出器開発チーム」、「放射光機器開発チーム」、「タンパク解析システム開発チーム」の3つのチームを設置し、検出器・データ処理系の開発、放射光利用計測技術の実験系への展開、タンパク質構造解析システムの開発に取り組みます。

理研RSC-リガク連携センターは、理研BSI-オリンパス連携センター、理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センター、理研BSI-トヨタ連携センターに続き、「産業界との連携センター制度※2」に基づいて設置した4番目の連携センターとなります。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/info/2010/101209/index.html

最新シーケンサー「HiSeq2000」を4台導入(2010/12/7)
独立行政法人理化学研究所オミックス基盤研究領域(OSC、林崎良英領域長)は、12月7日イルミナ株式会社の新しいシーケンサーHiSeq2000を4台導入することを決定しました。OSCでは、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析の技術支援事業「GeNAS(Genome Network Analysis Service)事業」を実施しており、文部科学省「革新的細胞解析プログラム(セルイノベーション)のシーケンス拠点として広く産官学に技術を提供しています。

HiSeq2000は、解析時間8日で1ランあたり最大200G塩基のデータ量を産出することができます。GeNASではこのようなハイスループットシーケンサーを導入することにより、ゲノム・RNA発現・エピゲノムなどの各種解析サービスを提供し、研究者の活動を支援いたします。

また、セルイノベーションプログラムのシーケンス拠点として、先導研究者をはじめ、協力機関の皆様にもご希望に沿った形でこのような最新の機器を利用して解析を行う場をいち早く提供いたします。

この他にも、理研OSCでは、米国ヘリコス社のHeliScope(ヘリスコープ)、ロシュ・ダイアグノスティックス社のゲノムシーケンサー FLX、ライフテクノロジーズ社のSOLiD、イルミナ社ゲノムアナライザーなどを有しており、多彩な研究に対応できるよう整備を行っております。
http://www.osc.riken.jp/news/101207-01/

アレルギー発症を決めるゲノム領域「HS2」を発見 -アレルギー発症メカニズムの本質を解明、新たな治療の実現へ-(2010/12/6)
私たちの体には、細菌やウイルスなどの異物の侵入を食い止める「免疫」というシステムが備わっています。この免疫システムは、体を守る働きを持つ一方で、アレルギーや免疫不全などの厄介な現象をもたらします。アレルギーは、Th2細胞と呼ばれるヘルパーT細胞が司令塔として働き、IL‐4やIL‐13などのサイトカインを産生して、一連の免疫反応を引き起こすことで生じます。血液中のナイーブT細胞が、アレルギーの基となる花粉などの抗原(アレルゲン)に接すると、 Th2細胞へと分化します。これまで、Th2細胞への分化にIL‐4が関与し、転写因子GATA-3がアレルギーを発症する分子であることが知られていましたが、そのメカニズムの詳細は謎のままでした。

免疫・アレルギー科学総合研究センターのシグナル・ネットワーク研究チームらは、既知の遺伝子配列(ゲノム領域)HS2をIL-4の遺伝子座の中に発見し、 GATA-3がHS2に結合することでIL-4遺伝子の発現スイッチが入るという、アレルギー発症のメカニズムを解明しました。同時に、既知の遺伝子配列CGREがIL-13の遺伝子座に存在することも発見し、 GATA-3がこのHS2とCGREに結合することでIL‐4やIL‐13の発現を別々に制御していることを明らかにしました。

この発見で、GATA-3によるサイトカイン遺伝子の発現制御そのものが、私たちが悩まされるアレルギー発症のメカニズム本質であることが分かりました。この成果を基に、新しい視点に立ったアレルギー治療や個人個人の異なる体質を理解することができると期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101206/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101206/index.html

ヒト細胞の多様性に初挑戦・・・国際プロジェクト「FANTOM5」が始動 -米国ヘリコスバイオサイエンス社の一分子シーケンシングを採用-(2010/12/6)
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)オミックス基盤研究領域(理研OSC、林崎良英領域長)は、さまざまな種類のヒト細胞を使って、転写開始部位の系統的マッピングに取り組む国際的プロジェクトFANTOM※15の開始とこの共同研究者募集のお知らせを、12月7日に神戸国際展示場(神戸ポートアイランド)で開催される日本分子生物学会年会・日本生化学会大会合同大会で発表します。

このプロジェクトに先だって、理研OSCは米国Helicos BioSciences社(ヘリコスバイオサイエンス社)※2と共同研究を行い、理研独自の遺伝子発現解析技術であるCap Analysis of Gene Expression(CAGE)法※3を一分子シーケンサーHeliScopeTMへ適用する技術を開発しました。本技術は、従来のシーケンシングで必要なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によるDNA増幅処理を行わずに、転写開始点を同定することが可能です。そのため、データの再現性が非常に高く、測定感度の幅も広がり(ダイナミックレンジが5桁以上)、わずか100ナノグラムのRNAサンプルから、遺伝子発現量の定量ができます。

国際コンソーシアムのFANTOMプロジェクトは、林崎良英領域長の発案により2000年に発足しました。FANTOM 1~3では、マウス百科事典計画で完全長cDNAを集大成しました。この成果は、現在でも最大規模の哺乳類完全長cDNAデータベースとして、さまざまな研究に活用されています。FANTOM 3では、CAGE法を導入し、ノンコーディングRNA(ncRNA)の大量発見という「RNA新大陸」を明らかにし、その発現制御に考察を加えました。FANTOM 4では、CAGE法と転写因子※4結合部位予測を使って転写因子ネットワークを描き、急性骨髄性白血病細胞株を用いた単球分化過程に関与する重要な転写因子を同定することに成功しました。

FANTOM 5では、さまざまな種類のヒト細胞を定義する転写因子ネットワークを解析し、さらなる飛躍を目指します。具体的には、ヒト細胞における転写制御の仕組みを系統的に理解することを目標に掲げました。ヒト細胞は、個体の中で同じゲノム配列を持ちながら、臓器、器官や時系列での位置により、非常に多くの多様性を持っています。異なる状態にある細胞は、異なる遺伝子を発現しており、それらは転写因子のさまざまな組み合わせにより制御されています。この細胞の多様性を系統的に理解するには、さまざまな状態の細胞種を可能な限り収集し、各々の転写因子ネットワークを解析する必要があります。

理研OSCは、ヒトの各種初代培養細胞を大規模に収集してきた下地をもとに、さらに希少なタイプの細胞を収集するため、サンプル提供とその解析を希望する共同研究者を募集します。

FANTOM4には、オーストラリア、シンガポール、スウェーデン、南アフリカ、イタリア、ドイツ、スイス、英国、米国などを含む全世界の15カ国から、51の研究機関などの研究者が参加しましたが、FANTOM5はそれを上回る規模の国際コンソーシアムになると予想されます。

プロジェクト開始と共同研究者募集のお知らせは、12月7日~10日に神戸国際展示場(神戸ポートアイランド)で開催される日本分子生物学会年会・日本生化学会大会合同大会にて発表します。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/info/2010/101206/index.html

細菌の遺伝子発現を阻害する新たな仕組みを発見 —とがった転写因子がRNAポリメラーゼに突き刺さって停止させる—(2010/12/2)
発表概要
細胞における遺伝子発現では,まずDNAの塩基配列を写し取ってRNAが合成され,次にそのRNAの配列をもとにタンパク質が作られます. この一連の流れはセントラルドグマと呼ばれ,すべての生命活動を支える中心的な仕組みです. RNAポリメラーゼは,セントラルドグマの最初の段階であるRNAの合成をつかさどる巨大なタンパク質で,すべての生物に必須です. 今回我々は,細菌のRNAポリメラーゼの立体構造を,その働きを阻害するタンパク質が結合した状態で解明することに世界で初めて成功し,RNAポリメラーゼの働きを阻害するユニークな機構を明らかにしました. この成果は,新しい作用機構に基づく新規抗菌剤の開発等の基礎となることが期待されます.

発表内容
図1:RNAポリメラーゼによるDNAの転写
NTPはRNA合成の材料(基質)を示す.RNAポリメラーゼは,NTPを1つずつRNAに付加していくことで,DNAと同じ配列のRNAを合成する.

図2:RNAポリメラーゼとGfh1の複合体の立体構造

図3:Gfh1がRNAポリメラーゼを阻害するメカニズム

1. 背景
DNA(注1)は生命の設計図であり,細胞を形作ったり,その活動を支えたりするための遺伝子を含んでいます. 細胞は,DNAに含まれる遺伝子のすべてを常に利用しているわけではなく,その時々の状況に合わせて必要な遺伝子をDNAから読み出して使用しています. RNAポリメラーゼは,DNA上で必要な遺伝子を見つけ出し,その部分のDNAの塩基配列をコピーしてRNA(注2)という分子を合成します(図1). これを転写(注3)と呼び,すべての生物において遺伝子が働くために必須な過程です. したがって,RNAポリメラーゼは生物にとって不可欠であり,現在利用されている抗生物質の中には細菌のRNAポリメラーゼを標的とすることで細菌の繁殖を抑えるものがよく知られています. 一方,細胞内では,転写因子(注4)と呼ばれるタンパク質群がRNAポリメラーゼの働きを制御し,正確な遺伝子の発現を実現しています. 細胞での遺伝子発現を制御する仕組みを理解するためには,RNAポリメラーゼと転写因子の作用メカニズムを明らかにすることが重要です. これまで,遺伝子発現の調節の仕組みに関しては,「オペロン説」(注5)のように,DNAに結合してRNAポリメラーゼの働きを間接的に調節する転写因子について,詳しく調べられてきました. これに対して,RNAポリメラーゼに直接に結合して働きを制御する転写因子については,その仕組みがほとんど調べられていませんでした.

RNAポリメラーゼは,複数のタンパク質からなる巨大な複合体です. 我々は,RNAポリメラーゼに直接に結合する転写因子による遺伝子発現(転写)制御の仕組みを理解するため,この巨大なRNAポリメラーゼにさらに転写因子が結合した瞬間の形をとらえ,転写因子の作用メカニズムを解明することを目指しました. このように複雑なタンパク質の立体構造解析は非常に困難で,今日までにその成功例はごく僅かしかありません. 特に,抗生物質の標的となりうる細菌のRNAポリメラーゼに転写因子が作用する状態の構造については現在まで全く報告がありませんでした.

2. 研究目的
RNAポリメラーゼに直接に結合して働きを阻害する転写因子について,その仕組みを明らかにすることを目的としました. 今回,我々は,細菌のRNAポリメラーゼを阻害することが知られているGfh1という転写因子に着目し,立体構造に基づく阻害の仕組みの解明を試みました.
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/press/press-2010-47.html

藍藻の「時計たんぱく質」のリズミカルな構造変化を解明 -分子時計の鼓動が聴こえる-(2010/11/27)
JST 課題解決型基礎研究の一環として、名古屋大学 大学院理学研究科の近藤 孝男 教授と秋山 修志 講師らは、藍藻の時計たんぱく質注1)が、あたかも心臓が拍動するかのように形状をリズミカルに膨張・収縮させ、24時間周期で時を刻むことを明らかにしました。

藍藻(シアノバクテリア)は生物時計を備えた最も下等な生物で、その時計は3種類の時計たんぱく質(KaiA、KaiB、KaiC)からなります。本研究グループは、これまでの研究から、この3つの時計たんぱく質をATP注2)存在下で混合すると、KaiCのATP加水分解酵素(ATPase)活性やリン酸化状態が24時間周期で振動することを示してきました。このことは、KaiCのATPase活性が生物時計の周期を規定する重要な因子であると考えられ、ATPase活性の増減に伴ってKaiCの分子形態がどのように変動するのか、その分子機構の解明が期待されていました。

研究グループは今回、大型放射光施設 SPring-8注3)の理研構造生物学ビームラインI(BL45XU:X線小角散乱法注4))や蛍光分光法を用いて、溶液中のKaiC分子が24時間周期で形状をリズミカルに変化させることを解明しました。KaiCは、ドーナツを2つ積み上げたような二重のリング状構造をしていますが、片方のリングにあるATPaseの制御状態と密に連動して、もう片方のリング半径が大きく膨らんだり、縮んだりを繰り返します。KaiAやKaiBはこの膨張・収縮を感知することで、KaiCと結合・解離するタイミングを計っています。ATPaseの基準信号をKaiCの構造変化へと変換し、さらにそれを通じてKaiAやKaiBの結合・解離と連動させることで、より頑強で安定な24時間振動を実現しているものと考えられます。

本研究によってKaiCの構造変化の一端が解明され、KaiCがATPase活性の自己制御を通じてどのように24時間周期を実現しているのかを解明するための分子基盤が整備されました。シアノバクテリアで解明されつつあるATPを使った分子時計のフレームワークは今後、人間を含めた高等生物の時計研究の手がかりになるものと期待されます。

本研究成果は、2010年11月26日(英国時間)に欧州科学雑誌「The EMBO Journal」のオンライン速報版で公開されます。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20101127/index.html

多剤排出トランスポーターの機能を分子シミュレーションで初解明 -多剤耐性化のタンパク質AcrBの3つの部分構造が順序良く機能する仮説を実証-(2010/11/17)
多剤耐性菌の院内感染やがん治療時の抗がん剤への耐性など、薬剤耐性化が医療の現場で大きな問題になっています。特に、抗生物質の効かない多剤耐性菌の出現は、社会問題にまで発展してきており、耐性化メカニズムの解明が精力的に進められています。例えば、緑膿菌では、多剤排出トランスポーターの発現量増加が多剤耐性化の主な原因となっています。

大腸菌由来の多剤排出トランスポーター「AcrB」は、すでにその構造の解明が進み、同じ分子が3つ集合した 3量体をとり、それぞれの分子が順序良く順番に機能を発揮し、薬剤を排出するという「機能的回転機構」も提唱されています。しかし、この薬剤排出のメカニズムを実験的に確かめることが難しく、機能的回転機構は仮説に留まっていました。

情報基盤センターと京都大学の研究グループは、独自に開発した数原子をまとめて表現する粗視化分子シミュレーション技法を駆使し、生体膜中のAcrBにプロトン(H+)が結合して引き起こされる薬剤解離過程が、機能的回転のボトルネックになっていることを突き止めました。AcrBの機能的回転機構を計算機上で再現し、薬剤を結合しているAcrB分子に細胞外からプロトンが結合すると、薬剤が外側に押し出され、それと前後してほかの2つのAcrB分子も状態を変化させ、機能的回転を起こす様子を初めて実証しました。

この成果は、粗視化技術を取り込んだ分子シミュレーションの研究開発から得たもので、次世代スパコン「京」が稼働する2012年以降には、より詳細な原子レベルでの動きを解明することが期待できます。多剤排出トランスポーターによって排出されない薬剤や、多剤排出トランスポーターの働きを止める薬剤の開発に貢献すると注目されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101117/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101117/index.html

電子の出し入れで硬さが劇的に変わる分子バネを開発 -たった1つの電子放出で分子全体の動きやすさが450倍も変化-(2010/11/15)
6個の炭素原子が環状につながったベンゼン環は、有機化合物において最も基本的な構成ユニットの一つであり、ベンゼン環をさまざまな形で結合させたものが盛んに研究されてきました。しかし、ベンゼン環を隣り合う炭素の位置で結合させた「オルトフェニレン」は、単純な構造でありながら合成が難しいため、これまでほとんど研究がなされておらず、その性質は未解明でした。

基幹研究所の機能性ソフトマテリアル研究グループらは、ベンゼン環48個を隣なり合った炭素の位置で結合させたオルトフェニレンを世界で初めて合成しました。オルトフェニレンは、3つのベンゼン環が1ピッチのらせんを形成するバネ状の構造をしています。このようなバネ状の構造を持った分子は、さまざまな機能を発揮するため、エレクトロニクスや分子機械への応用の可能性が高まっています。研究グループは、このバネ状分子から電子を1つ取り去るとバネの硬さが劇的に増して、らせんの反転速度が約450分の1も遅くなることを突き止めました。また、この1個の電子の出し入れに応じてバネのピッチが3.263Åから3.224Åと変化しました。

これまで、電子が高密度に含まれた分子バネは、電子を出し入れすることでその振る舞いが変化することが理論上予想されていましたが、このように電子を多量に含む分子バネの合成は難しく、実験的にも証明されていませんでした。「硬さの変化」というこれまで実現することができなかった応答をする分子バネの登場は、応答性分子の分野に新たなコンセプトをもたらすと注目されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101115/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101115/index.html

次世代シークエンサーで、日本人の全ゲノム配列を包括的解析 -日本人の塩基配列の多様性を詳細に解析した初報告-(2010/10/25)
ゲノム上の塩基配列の違いによって、発症リスクが異なる病気があることが知られています。このような病気にかかわる遺伝子を探索するために、ゲノムワイド関連解析が爆発的に行われています。しかし、この方法は、集団内で多くの人が持つ「一塩基多型」に着目したもので、より頻度の低い「一塩基多様性」までは探索しきれていません。頻度の低い多様性を探索する次世代の方法として、次世代シークエンサーを用いて余すことなくDNA塩基配列を解析する「全ゲノムシークエンス解析」が注目されています。これまでに海外の研究グループから全ゲノムシークエンスの解析結果がいくつか報告されていますが、いまだに精度良く解析する方法は確立していません。また、日本人の全ゲノム配列の包括的解析も進んでおらず、固有の配列や多様性があるのか無いのか、どのような描像なのかなども、不明なままでした。

ゲノム医科学研究センター情報解析研究チームらは 、米国・イルミナ社のGenome Analyzer IIという次世代シークエンサーを活用し、日本人男性1人の全ゲノムシークエンスを初めて包括的に解析しました。シークエンスデータにベイズ決定法という数学的手法を適用して、約313万個の一塩基多様性を約99.9%の高精度で検出し、さらに海外の別々の研究グループが報告した欧米人、アフリカ人、中国人、韓国人の6人の全ゲノムシークエンスデータと比較した結果、集団では見失われていた、遺伝子の機能に影響を与える一塩基多様性が個人個人には多いことを発見しました。またコピー数や構造の多様性も、高精度に検出する新たな手法を提案し、包括的に見いだしました。

この研究の一連の解析で、ヒトゲノムには未発掘の多様性に富んだDNA塩基配列が数多く存在し、全ゲノムシーケンス解析がヒトゲノムの多様性を理解する上で非常に重要であることが分かりました。今後、全ゲノムシーケンス解析によって日本人固有の多様性を検出することで、日本人のための病気の研究への展開が期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101025/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101025/index.html

脳血管内皮細胞特異的なアミロイドβ前駆体タンパク質を発見 -アルツハイマー病関連のアミロイドβ蓄積機構に新たな可能性-(2010/10/21)
◇ポイント◇
○ヒト脳血管内皮細胞が、アミロイドβ前駆体タンパク質770(APP770)を発現
○APP切断産物はニューロン型か脳血管内皮型か判別可能
○ヒト脳脊髄液中に見いだしたAPP770切断産物は、脳疾患マーカーの候補に

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、ヒトの脳血管内皮細胞に、神経細胞(ニューロン)と異なるユニークなアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)が発現していることを初めて発見し、このAPPがアルツハイマー病と深いかかわりを持つ老人斑の主成分であるアミロイドβペプチド(Aβ)※1を産生することを明らかにしました。理研基幹研究所(玉尾皓平所長)システム糖鎖生物学研究グループ(谷口直之グループディレクター)疾患糖鎖研究チームの北爪しのぶ副チームリーダー、立田由里子テクニカルスタッフらと脳科学総合研究センターの西道隆臣チームリーダー、福島県立医科大学の橋本康弘教授、本多たかし教授らとの共同研究による成果です。

アルツハイマー病は、最も代表的な老人性認知症疾患で、脳実質にAβが蓄積することが原因で発症すると考えられています。一方で、実に9割近いアルツハイマー病患者で、脳血管壁にもAβが蓄積することが確認されています。Aβは、APPが2種類のプロテアーゼで切断されて生じることが分かっていますが、脳実質に蓄積するAβは、主にニューロンに発現するAPP(APP695)から生じると考えられる一方で、脳血管壁に蓄積するAβの由来は不明のままでした。

研究グループは、脳血管内皮細胞にニューロンと異なるAPP(APP770)が発現していることを発見しました。APP770もAβを産生することが分かり、このAβが脳血管壁に蓄積し得ることを明らかにしました。さらに、Aβの生成過程でAPP切断産物として生じ、血清やヒト脳脊髄液に分泌されるsAPPβも、ニューロン型(sAPP695β)と脳血管内皮細胞型(sAPP770β)が存在し、相互識別が可能であることも見いだしました。

血管内皮細胞型APP770由来のsAPP770βは、血管内皮細胞が何らかの障害を受けて量的に変化することが考えられるため、今後、アルツハイマー病や脳血管性認知症などの認知障害の新たな診断マーカーとなることが期待されます。本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of Biological Chemistry』の2011年1月号に掲載されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2010/101021/index.html

理化学研究所と大阪大学が基本協定を締結(2010/10/8)
○理化学研究所と大阪大学は、連携・協力の推進に関する基本協定書に調印
○併せて生命動態システム科学に関する協力協定も締結

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人大阪大学(鷲田清一総長)は、両機関の包括的な連携・協力関係を推進するために、基本協定を締結します。

この協定の締結により、両機関の研究開発能力と人材などを活かした連携・協力が促進され、学術および科学技術の振興や人材育成に貢献することが期待できます。

また、生命動態システム科学に関する研究協力協定も併せて締結します。この協定に基づき、両機関では一層緊密な連携により新たに生命動態システム科学研究を推進して行きます。

2010年10月13日(水)午後12時50分より、東京・千代田区丸の内の理化学研究所東京連絡事務所にて、野依良治理事長と鷲田清一総長が出席し、協定の調印式を行います。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/info/2010/101008/index.html

固定化した酸を使ったタンパク質自動加水分解装置を初めて開発 -熟練技術に頼っていたタンパク質分析の自動化に貢献-(2010/10/6)
遺伝子が産出するタンパク質は、私たちの体を構成する重要な要素で、生命活動の維持にも深くかかわっています。タンパク質が機能を発揮するためには、遺伝情報には書かれていないアミノ酸の修飾が大きな鍵を握っていることが知られ、タンパク質そのものの分析のほかに、アミノ酸レベルでの分析も不可欠となってきています。

タンパク質をアミノ酸に分解して分析する方法は、1960年代から構成アミノ酸の量や比を求める為に使われてきましたが、近年高感度化が進み、修飾を受けたアミノ酸の同定や定量にも利用されてきました。一般的には、タンパク質の分解(加水分解)は塩酸などの揮発性の強酸を使用し、110℃で24時間加熱が必要なうえ、煩雑な手作業が結果に影響を与えてきました。しかし一連の操作の装置化と自動化は、強酸による腐食のため困難でした。

基幹研究所ケミカルバイオロジー研究基盤施設バイオ解析チームは、スルホン酸基を固定化した固体酸を触媒に使うと、タンパク質をアミノ酸までほぼ完全に分解できることを発見し、この固体酸触媒を組み込んだ自動加水分解装置の開発に世界で初めて成功しました。固定化した酸にタンパク質水溶液を送液して加水分解するので、装置の腐食も防ぐことができます。実際に、牛血清アルブミンを装置にセットしただけで、ほぼ完全にアミノ酸に分解することができました。

開発した技術は、触媒の再利用が可能、大量処理が容易、反応条件の調整でタンパク質分解を制御可能、加水分解物の中和が不要なため環境に優しい、などの特徴を持ち、食品などの産業分野、機能性ペプチドや有用なアミノ酸の産生といった応用へも期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/101006/index.html

tRNAにわざと誤ったアミノ酸を付加して修正する巧妙な仕組みを解明 -tRNAに直接に付加できないアミノ酸を利用するためのリスク管理機構を発見-(2010/9/30)
微生物から動植物をはじめとする地球上の生物は、遺伝情報をもとにアラニン、グリシン、グルタミン酸など20種類のアミノ酸を材料にタンパク質を合成しています。生命の根幹となるこの重要な反応は、DNAに書き込まれている遺伝情報が、まず伝令RNA(mRNA)へと転写され、タンパク質合成工場の役目を果たすリボソームで、mRNA上の3つの文字の並び(コドン)の情報が1つのアミノ酸に変換されて、アミノ酸を連ねたタンパク質ができあがります。

mRNA上のコドンを1つのアミノ酸に対応させるのが転写RNA(tRNA)で、20種のアミノ酸ごとに存在しています。ヒトを含む真核生物などでは、20種のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)の働きで、アミノ酸とtRNAが正しいペア(アミノアシルtRNA)を生成します。アミノ酸の一種であるグルタミンをtRNAに付加するaaRSが存在しない真正細菌、古細菌では、間違ったペアをつくり修正するという異質なメカニズムがあることが分かっていましたが、正しいペアのリスク管理の仕組みは謎のままでした。

生命分子システム基盤研究領域と東京大学大学院理学系研究科の研究グループは、 アミノ酸のグルタミンを運ぶ役割のあるtRNAとそれに働く2種類の酵素が巨大複合体の「グルタミン・トランシアミドソーム」をつくり、第1酵素がtRNAにグルタミン以外のアミノ酸を付加し、第2の酵素がこの誤りを素早く修正してグルタミンに変換するという巧妙なメカニズムを持つことを解明しました。

生命の重要な役割を担うタンパク質の品質管理や比較的新しい機能を持つアミノ酸をタンパク質に組み込む基盤技術を提供すると期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100930_2/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100930_2/index.html

乳がん治療薬の副作用に関連する遺伝子多型を発見 ―オーダーメイド医療の実現に向けた、個人ごとの最適な投薬法の確立へ大きく前進―(2010/9/28)
● ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、14番染色体上に乳がん治療薬の副作用に関連する複数の遺伝子多型を発見
● リスク型の遺伝子多型を持つ人では、骨筋肉系副作用の発症リスクが2倍以上
● 国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)※1による初めての論文成果

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)ゲノム医科学研究センター(鎌谷直之センター長)と米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)薬理遺伝学研究ネットワーク(Pharmacogenetics Research Network : PGRN、スコット・ワイス議長)※3は、乳がん治療薬であるアロマターゼ阻害剤が引き起こす骨筋肉系副作用の起こりやすさに関連する遺伝子多型を発見しました。これは、理研ゲノム医科学研究センターと米国薬理遺伝学研究ネットワークが共同で実施している国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)による研究成果です。

この成果は、国際薬理遺伝学研究連合 から発表される初めての研究論文となります。この国際研究連合は、理研ゲノム医科学研究センターとNIHファーマコゲノミクス研究ネットワーク(NIH Pharmacogenomics Research Network :PGRN)※3 双方の研究能力・資源を有効に活用し、共同研究やフォーラムの開催等を通じた連携・協力により個人ごとの遺伝子の違いと薬物の治療効果や薬物のもたらす副作用との関係を明らかにすることにより、個人ごとの遺伝情報に応じたオーダーメイド医療の確立に貢献することを目的として、2008年に創設されました。

米国では、乳がんの再発防止を目的として、数万人のエストロゲン感受性乳がんを持つ閉経後の女性にアロマターゼ阻害剤が投与されています。しかし、その1/4の患者さんには骨筋肉系副作用として関節痛などの症状が現れ、中には激しい痛みのため、延命になるはずのアロマターゼ阻害剤の服薬を中止せざるをえない場合もあります。

研究チームは、乳がん摘出手術後にアロマターゼ阻害剤を服用している閉経女性878症例のゲノム情報を比較しました。アロマターゼ阻害剤による骨筋肉系副作用を生じた293例と生じなかった585例のサンプルを用いてゲノムワイドSNP関連解析を行い、第14番染色体に位置している4つのSNPがアロマターゼ阻害剤による骨筋肉系副作用の発症に強く関連していることを発見しました。この4つのSNPを持つ女性は、持たない女性と比べ、2倍以上の確率で重篤な骨筋肉系副作用を示すことが分かりました。
詳細な解析の結果、このうちの1つのSNPが、近くに存在するTCL1A遺伝子の発現量を調節していることを明らかにしました。さらに研究グループは、TCL1A遺伝子の発現量が変化することにより、関節リウマチの炎症に深く関与しているインターロイキン17と呼ばれる免疫システム関連タンパク質の産生量が変化することを見出しました。このことから、アロマターゼ阻害剤による骨筋肉系副作用は、関節リウマチと同様の分子機構によって引き起こされると考えられます。

今回の研究により、乳がん治療薬の一つであるアロマターゼ阻害剤による重篤な副作用の有無を予測することが出来るようになり、乳がん患者の副作用の軽減と最適な再発予防法の確立に向けた大変有用な研究成果と考えられます。

本研究成果は、科学雑誌『Journal of Clinical Oncology』オンライン版(9月27日)に掲載されました。
http://www.src.riken.jp/news/100928/

免疫応答を抑制する分子メカニズムにミクロクラスターが関与 ‐T細胞を抑制する補助刺激受容体CTLA-4のミクロクラスターが存在‐(2010/9/24)
私たちの体は、ウイルスや花粉などの異物(抗原)が体内に侵入したのを察知し排除する免疫応答によって、守られています。この免疫応答で主要な役割を果たすT細胞は、抗原を感知して活性化し、外敵の攻撃やサイトカインの放出などの免疫応答を展開します。この免疫応答の開始時に、T細胞は「免疫シナプス」を形成して抗原の情報を受け取ります。これまでの研究から、免疫シナプスよりはるかに小さい構造体「ミクロクラスター」が存在し、刺激伝達のユニットとして、T細胞の活性化を制御することが明らかとなっていました。

T細胞は、正と負の活性化の制御を受けながら、免疫応答全体のバランスを調節していますが、その調節機構は複雑で、謎が多く残されています。

免疫・アレルギー科学総合研究センターの免疫シグナル研究グループは、負の補助刺激受容体CTLA-4を含むミクロクラスターの存在を発見し、T細胞の過剰な活性化を制御する分子メカニズムを最新のイメージング技術を駆使して解明しました。 細胞内に蓄えられていたCTLA-4は、T細胞が活性化すると細胞表面に現れ、ミクロクラスターを形成します。CTLA-4ミクロクラスターは、やがて免疫シナプスの活性中心に集まり、正の活性化を担うT細胞受容体-CD28のミクロクラスターを排除し、T細胞の活性化を抑制していることが分かりました。

CTLA-4の働きを調節することでT細胞の活性化を調節することができます。がんに対する免疫応答を強めたり、逆に移植拒絶、アトピー性皮膚炎など自己免疫疾患における過剰な免疫応答を緩和したりすることが可能でなり、新たな免疫治療への応用が期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100924/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100924/index.html

世界最大のN-結合型糖鎖クラスターの開発と体内動態解析に成功 -糖鎖の有無や結合部位で代謝が大きく異なることを分子イメージングで証明-(2010/9/21)
タンパク質は、生体でさまざまな働きをしていますが、特に糖鎖と結合した糖タンパク質は、細胞間の相互作用やタンパク質の品質管理、免疫応答の調整機能などと重要な役割を担っています。この糖タンパク質が、実際の生体内で代謝されながら変化し、ダイナミックに機能を獲得・消滅していくなどの様子を正確に知ることは、がんをはじめとする病気や生命現象の解明、さらには薬剤開発などにも欠かせません。

これまで、単分子の糖鎖の研究は進んでいますが、構造が少しずつ異なる不均一な状態がクラスターを形成する多様性の高い糖鎖の生体の様子は良く分かっていませんでした。

分子イメージング科学研究センターの分子プローブ動態応用研究チームらは、分子量が5万以上の世界最大の糖鎖クラスターを開発し、ヌードマウス内で糖鎖分子の動態を可視化することに世界で初めて成功しました。開発した世界最大の糖鎖は、生命活動に欠かせない重要な役割を持つポリリジンを基本骨格とするN-結合型糖鎖で、今回、放射性核種の68Gaや蛍光物質Cy5で標識し、可視化しました。

この分子イメージングの結果、糖鎖の有無や結合様式によって生体のダイナミクスや代謝が異なることを初めて明らかにすることができました。生きている動物内での糖鎖の動態を解明する一歩となるとともに炎症やがん組織を標的とした糖鎖診断薬の開発に貢献すると期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100921/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100921/index.html

細胞外マトリックスDel1が後方化シグナルを抑制する(2010/9/20)
脊椎動物の発生過程において、初期胚の組織は各種パターン形成シグナルの濃度勾配により背腹軸と前後軸に沿った領域化が行われる。特に中枢神経系の原基である神経板は後方からの後方化シグナルによって前後軸に沿った領域化が行われ、神経板の前方に位置する前脳などは後方化シグナルを防ぐ必要がある。後方化を促進する主要な因子としてWnt/β-cateninシグナルなどが知られているが、前方の組織はこれら後方化シグナルによる影響をどのように防いでいるのだろうか。

理研CDBの髙井啓リサーチアソシエイト(器官発生研究グループ、笹井芳樹グループディレクター)らはアフリカツメガエルをモデルにした研究で、細胞外マトリックスタンパク質として知られるDel1が、神経板の前方でWnt/β-cateninシグナルを抑制し、前脳の発生を促進することを明らかにした。この成果はDevelopment誌の10月号に掲載される。
http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/10/100920_matrix.html

マウス体細胞クローンの産子出生効率が10倍近くも改善 -X染色体上の遺伝子群発現の正常化が体細胞クローン技術を実用化に導く-(2010/9/17)
体細胞クローンのヒツジ「ドリー」が、世界で初めて英国で誕生したのは1996年のこと。有用な遺伝子を体細胞からそのままコピーして、均一な体質の動物を無限に生産することが可能になった・・・。基礎研究ばかりか、畜産産業をはじめとするさまざまな分野で期待が広まりました。

ところが、期待に反して体細胞クローンの出生率は低いままで、10年以上たった現在、実験動物の根幹となるモデルマウスの場合でも、核を除いた未受精卵子(除核卵子)へ体細胞核(ドナー核)を移植した胚のうち、数%以下しか生まれてくれません。体細胞クローン技術の発展には大きな壁が存在していました。

バイオリソースセンター遺伝工学基盤技術室らの研究グループは、体細胞クローンマウスを使って、着床前胚(胚盤胞)の遺伝子の発現を網羅的に解析しました。ほ乳類では、雄の細胞には1本、雌の細胞には2本のX染色体が存在し、通常は雌の2本のX染色体のうち1本が不活化され、雌雄のX染色体遺伝子の発現が均等になっています。ところが体細胞クローン胚では、X染色体を不活化するXist遺伝子が異常発現していることを突き止めました。さらに、このXist遺伝子を欠損させて、X染色体上の遺伝子群の発現を正常化させると、常染色体の遺伝子発現量も正常化し、体細胞クローンマウスの産子出生率を10倍近くまで改善させることに成功しました。

X染色体遺伝子の発現量を正常化して体細胞クローンを作出する技術は、基礎研究から畜産、製薬などの応用分野にわたり、実用化が進むと期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100917/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100917/index.html

細胞周期エンジンの司令で核膜孔複合体の形成が開始 -細胞内で最も精緻な構造体「核膜孔複合体」の形成機構解明への一歩-(2010/9/16)
細胞の機能を生み出す細胞核は、2層の脂質膜からできている核膜によって細胞質から隔てられています。この核膜に埋め込まれた核膜孔複合体は、タンパク質やRNAのほか、イオンなどの低分子からウイルスなどの大きな粒子まで、細胞核と細胞質を往来するすべての物質の唯一の通り道となっています。核膜孔複合体は、総分子量125MDaの巨大なタンパク質複合体で、その構成因子はこれまでにほぼ明らかになっています。進化的にも保存された8方対称の美しい幾何学的な構造をとり、1分間に数百万個もの膨大な数のタンパク質を正確に選択して通過させる機能を持つことが知られています。
しかし、この精緻な超分子構造体が、「いつ」、「どこで」形成されているのか、どのような制御を受けているのかは謎のままでした。

基幹研究所今本細胞核機能研究室を中心とする研究グループは、この細胞内最大の超分子構造体「核膜孔複合体」形成の可視化に成功するとともに、この形成が細胞周期エンジンとして知られるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の司令で開始することを発見しました。

研究グループは、核内でDNAに結合しているヒストンと核膜孔複合体構成因子のそれぞれに、CFPとYFPの2種類の蛍光タンパク質を結合させ、各標識細胞を細胞融合させて、核膜孔複合体の形成を観察しました。その結果、核膜孔複合体の新生にはCDKの活性が欠かせないこと、CDKを阻害すると形成中間体構造さえも見られないことを突き止めました。

樹立した解析系を利用することで、生きた細胞内で核膜孔複合体が形成する過程を詳細に解析することが可能になりました。また、CDKの活性を制御したり基質を同定することで、核膜孔複合体形成開始の分子機構も明らかになると期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100816_2/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100816_2/index.html

ES細胞から小脳プルキンエ細胞の誘導に成功(2010/9/16)
小脳は哺乳類の中枢神経系では大脳に次ぐ大きな領域を占め、緻密な運動やその学習を司る運動中枢として知られる。その小脳で中心的な役割を果たすのが、小脳皮質に存在するプルキンエ細胞と呼ばれる神経細胞だ。プルキンエ細胞は多くの情報を入力して複雑な情報処理を行なうことが知られ、樹状突起が大きく発達するなど特徴的な構造をもつ。小脳はその障害や変性により高度な運動障害を生じることからも重要な研究対象だが、ES細胞などからの小脳細胞の効率的な誘導はこれまで成功していなかった。

理研CDBの六車恵子研究員(器官発生研究グループ、笹井芳樹グループディレクター)らは、マウスのES細胞からプルキンエ細胞を選択的に誘導することに成功し、さらにこれらの細胞を小脳に移植すると機能的に生着し得ることを明らかにした。この研究は株式会社カン研究所と京都大学との共同で行なわれ、Nature Neuroscience誌に9月12日付けで発表された。
http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/10/100918_Purkinje.html

ES細胞からの小脳ニューロンの産生と移植に成功 -脊髄小脳変性症の原因研究と治療法開発の加速に期待-(2010/9/13)
私たちが体のバランスを取りながらスムーズな動きをしたり、書字やピアノ演奏などの緻密な運動を習得するのは、脳の中枢機能の1つである小脳の機能によって実現されています。この小脳の機能が損傷すると、強い運動障害が起こり、ふらつき、歩行障害、ろれつが回らない発音障害など、日常生活に支障をきたすことになります。代表的な病気として、小脳神経細胞がゆっくりと変性して細胞死を起こし、減少するために発症する「脊髄小脳変性症」が知られています。映画・ドラマ化された「1リットルの涙」の著者の少女がこの難病を患っていたことでも有名ですが、現在でも治療法のない難病の1つです。

発生・再生科学総合研究センターの器官発生研究グループは、マウスのES細胞からこの小脳の神経組織へと選択的に分化誘導させることに世界で初めて成功しました。研究グループは、大脳の分化のために開発してきた無血清浮遊培養法を改良して、胚発生の過程で小脳の発生環境を試験管内で再現させる方法を確立し、ES細胞の約8割を小脳幹細胞に、さらにその約3割を小脳プルキンエ細胞に分化誘導しました。さらに、株式会社のカン研究所と共同で開発した技術で、分化誘導した小脳プルキンエ細胞を約9割に純化させ、マウス胎仔の小脳に移植し、小脳プルキンエ細胞が小脳組織に生着するだけでなく小脳回路に正確に組み込まれることを実証しました。

これまで、試験管内での研究すら難しかった脊髄小脳変性症の原因研究や治療法の開発に新たなツールを提供するとともに、長期的には小脳も移植治療の対象となりうる可能性を示しました。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100913/index.html

鹿(しし)おどしの原理で神経細胞が入力信号を高速演算 ―神経細胞間コミュニケーションは微小信号の高速演算・威力増強へ最適化―(2010/9/10)
視覚、聴覚、触覚など私たち五感は、アンテナのようにさまざまな情報をとらえ、脳に送り、脳内の神経細胞がその情報を処理します。神経細胞は、活動電位と呼ぶ短い電気信号によって互いに情報を交換しています。活動電位がシナプスと呼ぶ神経細胞の接点に到達すると、受け手の神経細胞の電位が少しだけ変化してシナプス後電位となり、この小さな変化がある閾値に達すると次の神経細胞に信号を送る活動電位が生じます。神経細胞は何千ものシナプス入力を受けており、この効果は単純な加算によって決定していると考えられていました。しかし、実際の神経活動は加算だけでは説明できず、複雑な演算処理の理論的な証明が神経細胞の情報処理を解くカギとなると注目されていました。

脳科学総合研究センター計算神経物理学研究チームらは、脳内の神経細胞が微量な電気信号を使って情報をやり取りしている情報処理のメカニズムを、数理的に説明する新たな神経計算理論を提唱しました。具体的には、生体脳に似せた人工神経回路をコンピュータ上で再現する世界最高精度の手法を開発して、今まで無いものとして扱ってきた神経細胞の微量な入力信号の効果を考慮に入れた計算理論を構築しました。何千もの入力を受ける神経細胞を鹿おどしに例え、シナプスへの小さな入力を絶え間なく降り注ぐ雨粒になぞらえると、この新理論はよく説明できます。 鹿おどしが満杯になって傾き音を鳴らす動作は、神経細胞で活動電位が生じる現象に相当し、鹿おどしが作動するきっかけとなる最後の雨粒、すなわち活動電位が生じる最後のシナプス入力は、強力な乗算成分となります。この新理論に基づくシミュレーション結果は、神経細胞がこれまで考えられていたより高速で情報処理を行い、単なる入力信号の加算だけでなく乗算のような非線形演算もしていることを示しました。さらに、何千何万もの互いに関係のない信号が、互いから利を得る「非協調的な協調」で活動電位が生じることを発見しました。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100910/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100910/index.html

2型糖尿病に関連する2か所の遺伝子領域を新たに発見-日本人の糖尿病の発症リスクに強く関与-(2010/9/6)
文部科学省が平成20年度から実施している「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(第2期)」(プロジェクトリーダー:東京大学医科学研究所 教授 中村 祐輔)においては、公募にて研究者を募り、オールジャパンの研究連携体制を構築して、疾患関連遺伝子研究を推進してきました。

今回、メタボリック・シンドローム関連疾患遺伝子研究を進めている東京大学の門脇教授グループが、2型糖尿病(遺伝的要因と生活習慣が関係して発症)に関連する2つの遺伝子が存在する領域を新たに発見しました。

また、欧米などでこれまでに糖尿病に関連する可能性が指摘されていた26か所の遺伝子の存在する領域のうち11か所は、日本人の糖尿病にも関連するということが確認されました。今回の2か所の遺伝子領域の発見と合わせて、少なくとも13か所の遺伝子領域が日本人2型糖尿病に関わりのある遺伝子を含んでいることがわかりました。

今回の成果は、東京大学大学院の門脇 孝教授、山内 敏正特任准教授、原 一雄講師、東京大学医科学研究所の中村 祐輔教授、理化学研究所の前田 士郎チームリーダーを中心とした共同研究による成果です。

これらの成果は、2型糖尿病を起こす仕組みを解明することにつながり、新しい治療法や予防法の開発につながることが期待されます。今回の研究成果は、米国の科学雑誌「Nature Genetics」(10月号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(米国東部夏時間:9月5日13時)に掲載されます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/09/1297347.htm

非対称分裂の方向を決めるメカニズム(2010/9/1)
動物の発生では、多様な細胞が生み出されるだけでなく、それらの細胞は胚の中の適切な場所に配置されている。細胞の多様性を生み出すひとつの機構に非対称分裂がある。非対称分裂では、細胞内の運命決定因子が予め偏り、片方の娘細胞だけに受け継がれ、結果として異なる性質をもった2つの娘細胞が生み出される。非対称分裂の方向は、分化した細胞が胚の中でどこに位置するかを決定し、その後の発生に大きな影響を与えるが、細胞がどのようにして非対称分裂の方向を決めているのかは未解明な点が多い。

理研CDBの荒田幸信研究員(細胞運命研究チーム、澤斉チームリーダー)らは線虫をモデルにした研究で、非対称分裂の方向が細胞外からのシグナルによって制御される仕組みを明らかにした。生殖系列細胞の分裂において、PAR-2の非対称な分配は内因的に制御されているが、細胞境界への局在と分裂軸の決定は細胞外からのシグナルによって制御されているという。この研究はノースカロライナ大学との共同で行なわれ、Development誌の10月号に掲載された。
http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/10/100901_asymmetry.html

胆汁を介した排せつにかかわる薬物運搬分子の動きをPETでキャッチ -生きたまま体内の薬物分布を解析し、定量的に評価する方法を確立-(2010/9/1)
◇ポイント◇
○PETで、薬物の全身組織への分布や排せつ過程を速度論的に初めて解析
○薬物トランスポーター「Mrp2」の排せつの機能の可視化に成功
○胆汁を介した排せつの機能診断薬として、「Mrp2」のPETプローブが候補に

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、体内の物質や異物の輸送に関与するタンパク質群の中から、胆汁を介した排せつにかかわる「Mrp2※1」という薬物運搬分子(薬物トランスポーター※2)の機能を、生きたままのラットを用いたPET(陽電子放射断層画像撮影法)※3で観察することに成功し、薬物の体内動態を定量的に評価する新たな解析法を開発しました。これは、分子イメージング科学研究センター(渡辺恭良センター長)の分子プローブ動態応用研究チーム(渡辺恭良チームリーダー)高島忠之研究員らによる成果です。

薬物動態研究は、体内での薬の動きを調べ、副作用の少ない“患者にやさしい薬剤”を創りだす重要な創薬研究の1つです。一方PETは、薬物動態に関する情報を直接的に得ることができるため、薬物動態研究の分野で非常に注目されています。しかし、これまでの活用例は、薬剤などの異物から脳を守るために機能する「P糖タンパク質※4」と呼ばれる薬物トランスポーターの機能解析の報告に限られていました。その理由は、P糖タンパク質以外の薬物トランスポーターの機能を評価するためのPETプローブ※5が無く、正確に評価することができなかったためです。

研究チームは、薬物の全身組織への分布や排せつ過程を観察するために、胆汁を介した排せつにかかわる薬物トランスポーター「Mrp2」に着目しました。Mrp2は、多くの薬物、特にアニオン性薬物※6の胆汁を介した排せつや、黄疸の遺伝病にもかかわっていることが知られており、薬物動態研究において極めて重要なタンパク質の1つです。Mrp2が正常に機能している野生型ラットとMrp2の遺伝子を欠損させた変異型ラットを用意し、Mrp2の機能を調べるために合成したPETプローブ「15R-[11C]TIC-Me」を用いて観察した結果、全身組織への分布や排せつ過程がまったく異なることを発見し、Mrp2の機能をPETプローブの取り込みや排せつの速度を表す数値(クリアランス)で定量的に評価することに成功しました。

今後、胆汁を介した排せつの機能診断薬として、15R-[11C]TIC-Meの有用性をヒトでの臨床研究において検討していきます。また、Mrp2が主に運搬するプラバスタチン(高脂血症治療薬)などとほかの薬の飲み合わせの影響や、遺伝子多型に起因したMrp2の変異による副作用や薬効変化の予測を可能にし、Mrp2にかかわる薬物動態の予測研究に有効活用されることが期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics』に掲載されるに先立ち、オンライン版に近く掲載予定です。
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2010/100901/index.html

「産業界との融合的連携研究プログラム」の2011年度(平成23年度)研究課題を募集(2010/8/31)
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、「産業界との融合的連携研究プログラム」の2011年度新規研究課題の募集を、2010年9月1日から開始します。「産業界との融合的連携研究プログラム」は、理研社会知創成事業イノベーション推進センター(齋藤茂和センター長)が、産業界との新しい連携の試みとして2004年度から展開しているもので、企業主導のもとに研究課題の提案およびチームリーダーを受け入れて、理研内に時限的研究チームを編成するという企業側のイニシアティブを重視した研究プログラムです。

理研は、創出した幅広い分野の研究成果や最先端技術を広く社会に普及する、または技術移転を行うなど、研究成果の社会還元を実現するための取り組みを行ってきました。このような技術移転を効果的に進めるためには、リレー競技の“バトンゾーン”のような、理研の研究者と企業の研究者が、一定の期間、同じ方向に全力で突き進む場が必要であると考え、本プログラムを開始しました。

本プログラムでは、(1)企業のニーズに基づいた研究テーマの設定(2)研究計画の共同作成(3)企業からのチームリーダーの受け入れ(4)理研と企業の研究者が参加する時限付きの研究チームの編成(5)理研の研究設備などの活用(6)研究予算は理研と企業の両者で負担する、という特徴のもとに研究を実施します。現在、採択した課題について、8チームが研究を行っています。

今回、新たに2011年度に開始する課題を数テーマ募集します(提出締め切り:2010年11月26日(金)当日必着)。募集に伴い、9月1日から、事前相談窓口を開設するとともに、研究人材の情報提供として研究者データベース※を公開します。

本プログラムは、企業のイニシアティブを重視した理研の新しい技術移転の仕組みで、2004年の開始以来、より製品に近い形での技術開発が進められるなど、参加企業にとって大きな魅力となっています。理研は、本プログラムを通じて、バトンゾーンというユニークな産学連携モデルを提唱し、研究の場を提供することで、産業・社会との関係の一層の強化を図り、日本の産業技術の新しい展開に貢献していきます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/info/2010/100831_2/index.html

マウス胎仔の実験で心臓の形態形成に欠かせないIP3レセプターの役割を解明 -先天性心疾患の原因解明や予防に前進-(2010/8/30)
慶應義塾大学(清家篤塾長)と独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、命そのものである心臓が形成していく心臓発生の過程で、細胞内カルシウム放出チャネルであるイノシトール三リン酸受容体(IP3レセプター)が重要な役割を果たすことをマウスの胎仔を用いた実験で初めて明らかにしました。これは、慶應義塾大学医学部小児循環器研究室の内田敬子研究員、山岸敬幸専任講師と、独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター発生神経生物研究チームの御子柴克彦チームリーダーらによる共同研究(以下、研究グループ)の成果です。
この発見は、小児循環器領域で遭遇する先天性心疾患の発症機序を理解するための一助となるだけでなく、発症の予防や再生医療を含む治療への応用につながることが期待されます。
本研究成果は、米国科学雑誌「PLoS ONE」(9月1日号)に掲載されます。
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2010/kr7a43000003e40q-att/100830_1.pdf
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2010/kr7a43000003e40q.html

核酸のように振る舞うタンパク質を明らかに -翻訳因子EF-Pが転移RNAと同じ反応でアミノ酸を受け取ることを発見-(2010/8/23)
ワトソンと共にDNAの二重らせん構造を発見したクリックは、生物学の基本原理として「セントラルドグマ」を提唱しました。セントラルドグマとは、DNAの遺伝暗号から伝令RNA(mRNA)が合成され(転写)、mRNAの情報に従って、転移RNA(tRNA)が運ぶアミノ酸がタンパク質合成工場(リボソーム)で正しく結合され(翻訳)、タンパク質ができるという流れを表しています。翻訳因子「EF-P」は、tRNAのようなL型構造をとっており、翻訳の際にリボソームに結合することは分かっていましたが、その機能はナゾのままでした。


一方、tRNAは、20種類あるアミノ酸の中から自分と対応するアミノ酸を受け取る(アミノアシル化される)必要があり、この反応を触媒するのがアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)です。近年、aaRSと近縁なのにtRNAをアミノアシル化する活性を持たないタンパク質が数多く見つかり、その機能解明が望まれていました。

生命分子システム基盤研究領域と東京大学の研究チームは、aaRSと近縁で大腸菌由来の酵素GenXがEF-Pと結合することを見いだし、EF-P・GenX複合体やGenX単体の立体構造を解析して、 EF-PがGenXによってアミノ酸を受け取る機能を持つことを発見しました。さらに、GenXによるEF-Pへのアミノ酸の受け渡しが、大腸菌などの真正細菌の増殖に欠かせないことも見つけました。

核酸とタンパク質という、まったく異なる分子が、形だけでなく反応までも酷似していることを解明したのは世界で初めてで、生物進化の解明に貢献するだけでなく、 GenXを阻害する低分子化合物が、新規抗菌薬の有望なターゲットになる可能性が示唆されました。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100823/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100823/index.html

メタボローム解析を用いて生命維持機能(頑健性)の仕組みを解明 ‐生命維持機能は、重複遺伝子と複雑なネットワーク構造による相補が必須‐(2010/8/18)
ゲノム上には、多数の遺伝子があり、その情報に基づいて生物のさまざまな生命現象が営まれています。しかし、1つ1つの遺伝子を欠損させた変異体を作っても、その影響で表現型が変化しないことがあることが知られています。この現象から、生物には生命維持機能(頑健性)が存在することが明らかとなってきました。その生命維持機能のメカニズムとして、「コピー遺伝子(重複遺伝子)による機能の相補」と「ネットワーク構造に存在する代替経路による相補」が挙げられていますが、この2つの相補メカニズムが実際にどの程度、生命維持機能に関係しているかは不明なままでした。

植物科学研究センターの機能開発研究グループらは、モデル植物であるシロイヌナズナの遺伝子を欠損させた1,976個の変異体で、35種類の代謝産物の蓄積量をハイスループット(短時間に大量処理)な液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)解析を用いて定量的に解析しました。その結果、複数の代替経路を持つ代謝産物の生合成に関与する遺伝子には、同じ機能を示す重複遺伝子がほとんど存在しませんでしたが、代替経路が少ない代謝産物の生合成に関与する遺伝子には、同じ機能を示す重複遺伝子が存在する傾向の高いことが分かりました。これは、「重複遺伝子による機能の相補」と「ネットワーク構造に存在する代替経路による相補」の両方が、生体維持機能として重要な役割を持ち、トレードオフの関係にあることを示しています。

今回初めて行った2つの相補メカニズムの検証は、生物をシステムとして理解しようとするシステムバイオロジー分野の推進に貢献すると期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100818/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100818/index.html

膜透過ペプチドの併用により、腸管からのインシュリン吸収をPET分子イメージングで確認(2010/8/17)
糖尿病は、血液中から糖を細胞内に取り込むための”インスリン”というホルモンの不足や、インスリンがうまく働かないことで起こる病気です。そのため糖尿病の患者には、不足したインスリンを投与して補う必要があります。


しかしインスリンは消化されやすく、また消化管から血液中に吸収されにくいペプチドでできているため、経口投与することができず、毎回注射しなければなりません。これは患者にとって苦痛を伴うものです。このことから、経口投与できるインスリンを作ることは、薬剤学の大きな目標の一つと言えます。


星薬科大学の森下真莉子准教授らはインスリンを効率良く腸管から吸収するための研究を行っており、腸管内で膜透過ペプチドをインスリンと共存させることで、インスリンが腸管から吸収され血糖値が下がることを見出しました。 しかしどのような膜透過ペプチドで効果が高いのか、またどのくらいのインスリンが吸収されたのかを定量的に明らかにすることが難しい問題がありました。

今回、森下准教授らと理化学研究所 分子イメージング科学研究センター 複数分子イメージング研究チームの金山洋介研究員および分子プローブ動態応用研究チームの長谷川功紀研究員らの共同研究により、インスリンにポジトロン放出核種を標識し、その体内動態を陽電子放出断層撮像法(PET)で解析する手法を開発しました。この手法により、膜透過ペプチドによってインスリンが腸管から吸収され、各臓器へ分布していく様子を解析することに世界で初めて成功しました。
http://www.cmis.riken.jp/1008kanayama.html

タンパク質機能の謎を解く新たなカギは小分子化合物 -高速探索システム「化合物アレイ」で新規バイオプローブを発見-(2010/8/16)
生体を構成しているタンパク質は、生命活動の担い手として、複雑な生命現象を生みだしています。しかし、その膨大なタンパク質の中で機能が解明できているものはほんの一握りで、多くは機能が未知のままとなっています。このため、タンパク質の機能解明の糸口となる、タンパク質の機能を阻害する小分子化合物(バイオプローブ)を探索することは、医薬品開発や生命現象の解明に欠かせません。

基幹研究所ケミカルバイオロジー研究基盤施設の研究チームは、生体に広く存在しながらその機能が不明なタンパク質「ピリン」の機能を阻害する、分子量がわずか400程度の小分子化合物「TPh A」を化合物アレイという手法を使って発見しました。さらに、発見したこのTPh Aを活用して、機能不明なピリンが悪性黒色腫の運動に関与することを突き止めました。


機能が未知のタンパク質に結合して、その機能を阻害する小分子化合物を見いだすためには、数千種、あるいは数万種の小分子化合物を用意し、目的のタンパク質と結合するかどうかを調べる必要があります。

今回の研究では、研究チームが独自に開発した、すべての小分子化合物を一度に、しかも簡単に固定化させる化合物アレイにピリンを流し込み、結合する小分子化合物を効率的に探索することに成功しました。

化合物アレイを活用したバイオプローブの探索が、機能の未知なタンパク質のカギを解くツールとして機能すること証明したと注目されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100816/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100816/index.html

生物に必須な元素「セレン」をタンパク質に正しく取り込む仕組みを解明 -21番目のアミノ酸と注目される「セレノシステイン」の生合成過程が鍵-(2010/8/13)
◇ポイント◇

* 毒性あるセレンを安全に用いるため、セレンをアミノ酸へ導入する仕組みを解明
* リン酸化酵素PSTKがtRNAを正しく認識し、強い結合でセレン取り込みを高選択
* 遺伝暗号が進化した仕組みに基づいた新機能タンパク質の創生などへ期待

セレン(Se)は土壌に微量に含まれる元素で、セレンが欠乏している地域の土壌改良材や、ガラスの着色剤、メッキ処理剤の原料など、工業的に広く利用されています。セレンという名前はギリシア神話の月の女神に由来していますが、そのイメージとは対照的に高い反応性を持ち有毒です。しかし、セレンは、私たち人間から細菌にいたるまで、多くの生物に微量元素として不可欠で、その欠乏とがんや高血圧などの疾病との関連が指摘されています。生物は進化の過程で巧妙な工夫を施し、有毒なSeを安全な形で取り込み、その高い反応性を活性酸素に対する防御などのために有効に利用しているのです。一般にタンパク質は 20種のアミノ酸から構成されていますが、Seを取り込んだセレノシステイン(Sec)は「21番目のアミノ酸」として知られ、20種のアミノ酸と同じように遺伝暗号に従って正確にタンパク質に取り込まれます。その結果、このSeを含んだタンパク質は、抗酸化作用などを持つ酵素として機能を発揮しています。

生命分子システム基盤研究領域は東京大学と協力し、このSecの生合成に欠かせないリン酸化酵素(PSTK)と、Secだけを運搬する転移 RNA(tRNASec)の複合体の結晶構造解析に成功し、PSTKが選択的にtRNASecを認識し、 Seを取り込む仕組みを明らかにしました。tRNASecは標準的なtRNAの構造と大きく異なっており、特に、中央部を占めるD アームと呼ぶ部分が特徴的な構造をしていました。PSTKのC末端ドメインは、この固有なDアームを足場に強力に結合し、Secの合成に必要なリン酸化を触媒します。ほかのtRNAは、このDアームと適合しないためPSTKに認識されず、 Secが不適切なタンパク質へ取り込まれることはありません。今後、有用な機能を持った天然、あるいは非天然のアミノ酸を組み込んだ機能性タンパク質などの創製を通して、新しいタンパク質医薬などの開発に貢献すると期待されます。

本研究の成果は、「Molecular Cell」(8月13日号)の表紙を飾ることになりました。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100813/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100813/index.html

子どもの言語発達に合わせて親もマザリーズ(母親語)の脳内処理を変化 -育児経験、性差、個性により親の脳活動の違いが歴然-(2010/8/10)
「あんよ」や「ねんね」という育児語は、大人が乳幼児に対して使う言葉です。同時に声高で抑揚をつけた韻律で話します。この話し方はマザリーズと呼ばれ、言語圏や文化圏が異なったすべての国々で見られ、老若男女を問わずに口から突いて出ます。マザリーズを受け取る乳幼児も心地よく聞くとされ、言葉の獲得や情動の発達への影響が注目されています。

このマザリーズが、何らかの機能を持つとすれば、育児経験や男女差、個人差が現れることになるかもしれません。

脳科学総合研究センターの言語発達研究チームらは、この検証を行い、「マザリーズ」の脳内処理が育児の経験の有無、性差、性格の違いによって変化し、単なる気持の高揚でなく、言葉を伝えようとする意図の表れであることを突き止めました。

親の経験のない男性や女性などの6つのグループで、マザリーズを聞いたときの脳活動をfMRIで調べた結果、前言語期乳児の母親の脳活動が最も盛んで、その活動部位は、言葉をつかさどる言語野であることが分かりました。さらに、性格検査を行い、社交性や活動性を示す「外向性」が高い人ほど、発話にかかわる運動野の脳活動が強いという傾向を見いだしました。

また、言語野や運動野の活動は一過的で、二語文期幼児や小学生児童の母親では見られなくなり、成人向けの話し方と差が無くなりました。マザリーズの脳機能解明で、産後うつの診断や乳幼児を持つ母親らのメンタルヘルスケアの技術開発に貢献するものと期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100810/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100810/index.html

ヒトES細胞とiPS細胞の培養を困難にする細胞死の原因を解明 -細胞培養の効率と臨床応用への安全性の向上に貢献-(2010/8/7)
◇ポイント◇

* ヒトES細胞、iPS細胞は分散培養すると「過剰な細胞運動(死の舞)」を起こし細胞死に至る
* 「死の舞」と細胞死の原因はミオシンの過剰な活性化。その阻害で細胞死を回避できる
* 「細胞死」と「生存」を切り替えるスイッチ機構の異常が腫瘍化を促進する

私たちの身体がもつ全種類の細胞を生みだすことができる胚性幹細胞(ES細胞)や誘導多能性幹細胞(iPS細胞)は、再生医療への切り札として大きな期待が寄せられています。しかし、ヒトES細胞やiPS細胞(以下、ヒトES細胞など)を活用していくためには、解決すべき技術的な課題がいくつか残されています。ヒトES細胞などを分散培養すると99%が細胞死を起こし、細胞数を著しく損なうことがその一つです。分散培養は大量培養や遺伝子導入など高度な培養に必要な技術です。マウスES細胞など通常の培養細胞では、このような細胞死は見られないため、ヒトES細胞などに特有の現象が起きていることが考えられました。

発生・再生科学総合研究センター器官発生研究グループは、この高頻度で発生する細胞死のメカニズムを解明し、細胞培養の効率化と安全性を向上させる技術を開発しました。ヒトES細胞などを分散培養すると、細胞骨格タンパク質であるミオシンが過剰活性化して、 「過剰な細胞運動(死の舞)」を起こしながら細胞死に至っていました。ミオシンの過剰活性化を阻害すると、細胞死をほぼ完全に抑制できました。一方、細胞運動の調節因子であるRacタンパク質がヒトES細胞の生存を促進することも分かり、分散培養ではこのRacの働きが抑えられるために細胞死が加速していることが判明しました。さらに、細胞死と細胞生存の制御バランスに異常があると、生体に移植した場合に腫瘍を形成する頻度が高くなることも発見しました。

この成果で、ヒトES細胞などの培養が効率化するとともに、再生医療への応用に必須な細胞の品質管理や安全性の向上に確かな道筋が見えました。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100807/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100807/index.html

胚体外組織にDNAメチル化は不要? 肺体外組織にDNAメチル化は不要?(2010/8/6)
遺伝子の発現はDNAの塩基配列によって制御されるだけでなく、DNAに二次的に付加した情報、例えばDNAの化学修飾や染色体の構造によっても制御されている。このような二次的な情報は細胞分裂を経ても受け継がれ、胚発生における細胞の運命決定や分化状態の維持に重要な役割を果たしている。DNAのメチル化はこのようなゲノムの二次的な制御、いわゆる「エピジェネティクス」を担う主要な機構の一つだ。ところが興味深いことに、DNAのメチル化は体細胞の生存と分化に必須である一方、ES細胞の生存には不必要であることが知られる。いったいどのような細胞でDNAのメチル化が機能しているのだろうか?

理研CDBの阪上守人研究員(哺乳類エピジェネティクス研究チーム、岡野正樹チームリーダー)と大田浩研究員(ゲノムリプログラミング研究チーム、若山照彦チームリーダー、現京都大学助教)らは、DNAのメチル化が起こらないマウス胚を作成して発生への影響を調べ、胚体外組織の形成にDNAのメチル化が必須でないことを明らかにした。この研究はCurrent Biology誌の8月号に掲載された。
http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/10/100806_methylation.html

ミクロな凹凸の人工構造で細胞の速い移動を制御 -狭く深い凹凸は細胞をはね返し、幅広な格子状の凹凸はトラップする機能を持つ-(2010/8/3)
◇ポイント◇

* ミクロの凹凸構造が高移動性細胞をはね返す確率は90%以上に到達
* 幅広な格子状の凹凸構造は、細胞の移動効率を100分の1以下に低減
* バイオマテリアル設計に新たなコンセプトを提供

私たちの身体を構成している細胞は、ある目的を達成すべく常に自由に動き回ったり、あるいは適正な場所に定着したりして機能を発揮し続けます。また、個体が発生し組織を形成していく時や、がんの浸潤・転移の時には、細胞が活発に動き回ることが知られています。こうした細胞の移動を制御するために、これまで、化学物質や電場などで細胞を刺激する侵襲的な方法が提案されてきましたが、こうした外的ストレスは、細胞自体に悪影響を及ぼす懸念がありました。また、足場材料と細胞間の相互作用を利用して移動を制御する方法は、非侵襲的ではありますが、比較的制御が容易な低移動性の細胞を用いた研究に限られていました。

イノベーション推進センターVCADシステム研究プログラム細胞シミュレーションチームと加工応用チームは、韓国のプサン大学と協力し、高移動性で典型的なモデル細胞の「ケラトサイト」が、シリコン製のチップに刻んだマイクロメートルサイズの凹凸に出会った時の挙動を、リアルタイムに観察しました。その結果、狭い単線溝や格子状溝(幅1.5μm )では90%以上の確率で細胞がはね返され、少し幅広(幅4μm)の格子状溝にはトラップされることを発見しました。トラップされた細胞の移動効率は、平らな領域と比べて、100分の1以下に低下することも分かりました。
図 構造が無い平らな領域から単線溝(a, b)もしくは格子状溝(c, d)へと移動してきたケラトサイトの振る舞い

凹凸の大きさやパターンに依存した細胞の移動制御は、細胞に直接ストレスを与えない非侵襲的である、というメリットがあります。そのため、正常細胞とがん細胞を区別する診断チップや、目的の形状に誘導するためのパターニングチップにも活用でき、バイオマテリアル設計に新たなコンセプトをもたらします。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100803/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100803/index.html

前立腺がんの発症に関連する新たな5つの遺伝子多型を発見 -日本人の前立腺がんをゲノムワイドで遺伝子多型(SNP)関連解析-(2010/8/2)
◇ポイント◇

* 日本人の前立腺がん罹患(りかん)者4,584人を対象にゲノムワイドなSNP関連解析
* 欧米人の前立腺がんと関連する31個のSNPのうち、19個が日本人とも関連
* 新たに発見した5つのSNPによる日本人の前立腺がんの発症リスクは1.15~1.26倍

欧米で男性のがんの発症率のトップに位置付けられている前立腺がんですが、食生活の変化や高年齢化に伴い日本人でも増加傾向が続いています。このがんの発症因子は、人種、食生活、ホルモン環境、加齢とされていますが特定の因子は見つかっていません。しかし、遺伝子による研究が進み、欧米では関連遺伝子やSNPが発見され、前立腺がんの発症には遺伝的要因が深くかかわることが明らかとなってきています。また、人種的要因では、アフリカ人、欧米人、アジア人の順番で多いとされています。

ゲノム医科学研究センターは、東京大学医科学研究所らと協力し、文部科学省が推進するオーダーメイド医療実用化プロジェクトで実施した遺伝子の解析をもとに、日本人の前立腺がん発症に関係する新たなSNPを発見しました。収集した4,584名の前立腺がん罹患者群と8,801名の対象群について高速大量タイピングシステムを使い、約50万個のゲノムワイドSNP関連解析を行いました。その結果、これまで欧米で前立腺がんとの関連が指摘されていた31 個のSNPのうち19個は日本人においても関連があることを確認しましたが、残りの12個では関連がありませんでした。さらに、新たに5つのSNPが日本人の前立腺がんの発症と強い関連のあることを発見しました。この知見により、人種や民族間での前立腺がんの遺伝的要因の違いを解明することや、PSA検査以外に新たに遺伝的素因で前立腺がんの発症リスクの評価ができる可能性がひろがるものと期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100802/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100802/index.html

免疫センサーを制御する動植物に共通な仕組みを解明 -免疫センサーの制御タンパク質複合体の立体構造解析から機能を解く―(2010/7/30)
◇ポイント◇

* 免疫センサーの制御にはRAR1-SGT1-HSP90複合体形成が必須
* RAR1が複合体形成を促進し、HSP90のATP分解活性を上げ、複合体の機能を増大
* 機能タンパク質複合体の立体構造情報を基に耐病性作物の作出戦略に道を開く

温暖化や農耕地の削減などが原因で、地球規模の作物・食糧不足が深刻化しています。特に、病害による作物への影響は、収量被害が毎年8億人分の食糧に達すると言われ、病気に強い作物を作りだすことが、食糧の安定供給のための最も重要な課題の一つとなっています。

細菌やウイルスなどの病原体から植物の体を守る免疫システムが、この課題克服を可能にすると期待されています。巧妙な免疫システムの主役として、外部からの病原体の侵入をいち早く察知し、その情報を細胞に伝える役割を持つのが「免疫センサー」です。

植物科学研究センター植物免疫研究グループらは、免疫センサーに結合し、その働きを制御する、RAR1-SGT1-HSP90タンパク質複合体の立体構造を解析し、その仕組みを明らかにしました。3つのタンパク質が複合体を形成する部位の立体構造情報を基に解析を行った結果、RAR1は、SGT1と HSP90に直接結合することで複合体の形成を促進し、免疫センサーとの結合を増強すること、また、複合体の機能を高める役割を持つことを発見しました。さらに、これら3つのタンパク質が複合体を形成することが免疫センサーの働きに必須であることを突き止めました。今後、複合体の機能を増強することで、免疫センサーの働きが活性化するような耐病性作物の作出が可能になるかもしれません。また、動物の免疫センサーの制御にも同じシステムが使われていることから、この複合体の立体構造情報を利用したヒトの疾患治療薬の開発につながる可能性も期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100730/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100730/index.html

無麻酔下でのマウスの脳 PETイメージング法を確立(2010/7/28)
独立行政法人理化学研究所分子イメージング科学研究センター(以下、理研CMIS)の分子プローブ機能評価研究チーム(尾上浩隆チームリーダー)の水間広研究員らは、マウスの脳の活動を生きたまま無麻酔の状態でPETイメージングする方法を世界に先駆けて確立しました。

病院などでPET(陽電子断層撮影装置)やfMRI(機能的磁気共鳴画像診断装置)などの生体イメージング検査を行う際には、撮像中に体の動きがあると良質な画像を得ることができないことから、検査を受ける人は体を動かさないようにと指示されるのが一般的です。動物実験ではヒトのように指示することができないため、撮像中は麻酔薬を使って動物を眠らせて動かないようにして撮影します。しかし、麻酔薬は眠ることによって意識のレベルを低下させるだけでなく、脳や全身の血流、心拍数、体温など、すべての機能に影響を及ぼすことから、生体本来の機能を正しく知るためには、ヒトと同じように意識のある状態で測定することが必須となります。この問題を受けて、分子プローブ機能評価研究チームらはこれまでに霊長類のマカクサルやマーモセットに対して、麻酔薬を使わない無麻酔の状態でのPETイメージング法を世界に先駆けて確立し、脊髄損傷後のリハビリテーションの脳内機構やセロトニントランスポーターの生理的な活性分布について世界で初めて明らかにしてきました。げっ歯類のマウスは、他の哺乳類の実験動物と比較して小型で扱いやすく、また、遺伝子操作が容易であることから、アルツハイマー病モデルマウスなど様々な遺伝子改変モデル動物が作製され、多くの病態研究に使われています。しかし、その小ささゆえに、PETでの高精度の測定は難しく、しかも脳の細部を観察し機能を調べることは不向きであると考えられており、がんの研究以外にはあまり用いられていませんでした。本研究では、侵襲性の低いユニークな頭部固定法を開発し、PETによる無麻酔状態のマウスの脳機能を観察するための精度の高いイメージング法が確立されました。
http://www.cmis.riken.jp/1007mizuma.html

神経活動の「読み出し」を生きた脳で実現した光遺伝学ツールが登場 -電位感受性蛍光タンパク質を開発、遺伝子導入で脳の神経活動を画像化-(2010/7/12)
生体を構成している細胞は、それぞれの特性を発揮しながら活動し、生命現象そのものを生みだしています。細胞同士の活動や個々の細胞の活動状況をリアルタイムで知ることは、生命の複雑な謎解きや、病気の治療などに革新をもたらすため、研究者らの重要なターゲットとなっています。特に、頭蓋骨に守られ、自由に観察することが困難な脳内の、膨大な情報を処理する多数の神経細胞の活動を可視化し、リアルタイムで観察することは、難題とされています。

分子イメージングの研究が盛んに行われる一方で、神経細胞同士の会話をホームビデオのように画像として記録するツールの開発が望まれていました。

脳科学総合研究センター神経回路ダイナミクス研究チームは、生きた脳内の神経細胞に生じる電位変化を検出する光センサーとなる電位感受性蛍光タンパク質(VSFP2.3/2.42)を開発し、初めてマウスの脳の特定部位に遺伝的に組み込み、ヒゲ1本を刺激するとこで生じる神経活動の様子をリアルタイムで画像化することに成功しました。電位感受性蛍光タンパク質を遺伝的に組み込んだ新タイプの光センサーは、2種類の蛍光タンパク質をセットにして細胞膜に発現し、神経細胞の微妙な活動の変化を2種の蛍光量を比較してキャッチします。遺伝学と光の発光現象を活用して細胞活動を「読み出す」光遺伝学の実用ツールとなります。このセンサーで得た画像を見ると、どのヒゲを触れたのかを知ることができる精度を持ちます。将来は、神経疾患でどの神経回路が変化したかなどの疾患の解明に役立つと注目されます。
mlhttp://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100712/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100712/index.html

IP3レセプターは、心不全治療の新しいターゲット -IP3レセプターを介するカルシウムイオン流出が心肥大の原因に-(2010/7/9)
心臓のポンプ機能が低下して血液が滞り、全身に十分な酸素を送ることができない慢性心不全は、欧米の先進国で死亡原因が第一位の治療が難しい疾患として知られています。心臓の収縮拡張障害を引き起こし、心肥大や心筋組織の繊維化が観察されます。さらに、カルシウムイオン濃度の上昇で活性化するカルシニューリンなどのシグナル分子が、心肥大形成を引き起こすことが分かっています。しかし、心筋細胞ではカルシウムイオン濃度の変動が大きく、カルシウムイオンが心肥大形成を引き起こすメカニズムは、不明のままでした。

シンシナティ大学と脳科学総合研究センター発生神経生物研究チームらは、生きたマウスの心臓を使って、心肥大の形成に細胞内カルシウムイオンチャンネルであるイノシトール三リン酸受容体(IP3レセプター)がかかわっていることを明らかにしました。具体的には、心肥大を引き起こすGタンパク質共役受容体刺激によってIP3を生成すると、IP3レセプターを介してカルシウムイオンが流出することを突き止め、さらに、このカルシウムイオン流出がカルシニューリンを活性化して、心肥大を引き起こすことを証明しました。

現在、慢性心不全の治療には、Gタンパク質共役受容体刺激を抑制する薬が効果を発揮していますが、心筋細胞でIP3レセプターの機能を制御することで、新しい心不全治療薬の開発が期待されます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100709_2/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100709_2/index.html

細胞運動の“ブレーキ”の特性が明らかに(2010/7/7)
 この度、名古屋大学大学院理学研究科の武田修一研究員、前田雄一郎教授を中心とする研究グループは、独立行政法人理化学研究所播磨研究所の似内靖先任研究員、名古屋大学大学院情報科学研究科の太田元規教授の研究グループ、及び東北大学大学院薬学研究科の山國徹准教授の研究グループと共同で、細胞運動を調節する重要なタンパク質である「アクチンキャッピングタンパク質」(CP)の活性制御の仕組みを明らかとすることに世界で初めて成功しました。
 高等生物の細胞運動は、タンパク質アクチンの離合集散によって行われており、その細胞運動において、アクチンは駆動力を与えるエンジンであり、CPはそれを制御するブレーキに相当します。今回の研究では、これまでほとんどわかっていなかったブレーキの特性が解明されました。本研究の成果は、細胞中にもっとも大量に存在するタンパク質であるアクチンの分子運動を理解する上で非常に重要であり、今後、がんや筋疾患などの治療研究への寄与も期待されます。
 なお、本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「前田アクチンフィラメント動態プロジェクト」(研究総括:前田雄一郎教授)の一環として行われたもので、平成22年7月6日付(米国東部夏時間)米国科学雑誌PLoS Biology電子版に掲載されます。

(論文) 
"Two Distinct Mechanisms for Actin Capping Protein Regulation - Steric and Allosteric Inhibition"
Shuichi Takeda, Shiho Minakata, Ryotaro Koike, Ichiro Kawahata, Akihiro Narita, Masashi Kitazawa, Motonori Ota, Tohru Yamakuni, Yuichiro Maéda, Yasushi Nitanai
PLoS Biology (2010)


《背景》
 私たちの身体を作っている細胞は、ある時期に活発に動きます。神経回路を形成するときには、神経細胞は“手”を伸ばし相手の神経細胞と“手”をつなごうとします。母胎内で身体が形成されるときには、個々の細胞は正しい配置を取るために、適切な場所へと移動します。免疫細胞は、細菌など異物が侵入した場所に駆けつけ、外敵を“飲み込み”ます。また制御不能な移動能を獲得したがん細胞は、別な組織に転移します。

 これらすべての細胞運動は、たった一種類のタンパク質アクチンの離合集散によって引き起こされます(アクチンの分子運動)。細胞内ではアクチン分子は二つの状態をとります。すなわち、個々バラバラに存在する状態と、多くの分子が数珠のように互いに連なって(重合)アクチンフィラメントを作っている状態です(図1)。アクチンが重合し、細胞膜を内側から押すことによって、細胞は移動します。

 細胞内には、アクチンの分子運動の速度を調節する多くの補助タンパク質が存在します。このような補助タンパク質の一つに、アクチンキャッピングタンパク質(CP)があります(図1)。CPはアクチンフィラメントの端に結合して、そこを塞ぐことによって重合を抑えます。CPが多すぎると、アクチンの重合が進まず、アクチンフィラメントができません。反対にCPが少なすぎると、細胞はアクチンフィラメントだらけになってしまいます。実際、細胞は時と場所に応じてCPの量を調節し、それによってアクチンフィラメントの量が調整され、それゆえ細胞運動の速度や強さを変動させることができます。つまりアクチンを細胞運動のエンジンに例えると、CPはブレーキに相当します。

 さらに細胞は、このCPのブレーキ能力を調節する仕組みを備えています。本研究では、二種類のタンパク質、V-1(ブレーキの数を減らす)とCARMIL(ブレーキをアクチンフィラメントから外す)がどのようにCPを調節しているのかを、世界で初めて明らかにしました。

《研究成果のポイント》
1. アクチンキャッピングタンパク質(CP)とその作用を抑制するタンパク質V-1、及びCARMILそれぞれとの複合体の詳細な立体構造を解明した。
2. V-1はCP上のアクチンフィラメント結合部位を直接覆い隠すことによって、CPとアクチンフィラメントとの結合を不可能にする。その一方CARMILはV-1とは全く別の位置に結合する。
3. これまで“硬い”タンパク質であると考えられていたCPが、実は常にねじり運動を繰り返す“柔らかい”分子であることが判明した。
4. CARMILはCPを束縛し、ねじり運動を抑えることによって、CPをアクチンフィラメント端から解離させると結論された。

《研究の内容》
 研究グループは今回の研究で大型放射光施設SPring-8※1の理研 構造ゲノム I ビームライン BL26B1を利用し、X線結晶構造解析法※2によりCPとV-1、及びCPとCARMILのそれぞれのタンパク質複合体の構造を解明することに成功しました。これによって、それぞれの分子同士がどこにどのように結合しているかを、詳しく知ることができました。

 V-1はCP表面上の、アクチンフィラメント端と結合する部位を覆い隠すように結合していました(図2)。そのためV-1が結合したCPは、もはやアクチンフィラメント端には全く結合することができなくなる、つまりブレーキとしては働けなくなります。

 一方CARMILはCP上のV-1とは反対側の位置、すなわちアクチンフィラメント端結合部位とは全く異なる場所に結合していました(図2)。これはCARMILがアクチンフィラメント端に結合しているCPにも結合できることを意味しています。

 CARMILはCPをアクチンフィラメント端から解離させる(ブレーキを外す)ことが知られていますが、それでは、なぜ離れた場所に結合するにもかかわらず、CARMILはCPをアクチンフィラメントから外すことができるのでしょうか?この遠隔操作を実現するためには、CARMILが結合することによってCP全体の形に何らかの変化を起こす必要があります。今回の研究では、その変化の実態を解明することができました。

 今回得られたいくつかのCPの構造を比較することによって、CPは大小二つの領域(ドメイン)から成り立っていることが示されました(図3)。二つの領域は互いにねじれるように揺れ動くことができるようになっており、それによってCPは分子の形を変えることができます。つまり、これまで“硬い”分子であると考えられていたCPが、実は“柔らかい”分子であることが判明しました。CPはアクチンフィラメント端にいったん接触すると、このねじり運動によって自身の形をアクチンフィラメント端にピッタリと合うように変化させるようです。CARMILはCPの二つの領域にまたがって結合しています。これらのことから、CARMILは二つの領域間のねじれ具合を変え、CPをアクチンフィラメント端とは合わない形に束縛するため、アクチンフィラメント端との結合を著しく弱めると考えられます(図4)。本研究では、この考え方を支持する証拠も得ることができました。


《成果の意義》
 冒頭に述べたように、アクチンの分子運動はすべての細胞運動の駆動力であり、アクチンと共に働く補助タンパク質も、CPを含めてすべての細胞に共通であります。よって今回明らかとなったCPの作用を調節する仕組みは、細胞運動全般の仕組みを理解する上で非常に重要な知見となります。すなわち免疫、がん、神経発生といった重要な生命現象のメカニズムを理解する上での基礎となります。またV-1は心臓肥大の原因タンパク質の一つとして知られており、今回の結果が心臓病の治療薬の開発につながると期待されます。さらにCARMILがアクチンフィラメント端に結合したCPを外す仕組みは、CP自身の形の揺らぎを巧みに利用したもので、タンパク質相互作用の制御の方式一般を考える上で非常に興味深い例です。
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2010/100707

T細胞になるという運命決定を支配するマスター遺伝子を同定 -転写因子Bcl11b欠損型のT細胞性白血病の発症機序を解明-(2010/7/2)
T細胞は、免疫反応の司令塔として働く細胞です。多能性の造血幹細胞からT細胞がつくられる過程では、分化能が少しずつ限定され、最終的にT細胞にしかなれない前駆細胞になるという過程を経ます。この最終の過程は、T細胞になるという運命を決定づける重要なステップです。しかし、このステップの分子メカニズムはわかっていませんでした。

免疫・アレルギー科学総合研究センター免疫発生研究チームは、これまでの研究で初期T前駆細胞はマクロファージ(大食細胞)に代表されるミエロイド系細胞への分化能を保持していることを明らかにしています。今回の研究で、転写因子Bcl11bが欠損したマウスでは、T細胞へ向けた分化がミエロイド -T前駆細胞段階で停止していること、さらにこの分化停止した前駆細胞が自己複製を続けることを見いだしました。すなわち、Bcl11bは T細胞系列への運命決定を司っているマスター遺伝子であることを突き止めました。

T細胞性白血病の中にBcl11b遺伝子が不活性化されているタイプがあることが報告されていますが、その発症機序は不明でした。この研究により、Bcl11b欠損T前駆細胞が自己複製サイクルに入ることが示され、これが白血病化の第一段階であると考えられました。この機序をさらに研究することで、治療法の開発にも結びつけられると期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100702/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100702/index.html

ナノグラムレベルのRNAから遺伝子発現をキャッチする新解析手法を確立 -2つの新たな解析手法がRNAの網羅的な機能解析を促進-(2010/6/14)
◇ポイント◇

* nanoCAGE法でナノグラムを解析、CAGEscan法で5´と3´側の両配列を決定
* 未知のトランスクリプトーム解析や細胞核と細胞質のRNAの比較を実現
* RNAの研究を促進させ、がんの個別診療など医療分野への応用に期待

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、イタリアのSISSA※1(Scuola Internazionale Superiore di Studi Avanzati)と共同で、従来のCAGE 法※2の感度を1,000倍以上向上させ、ナノグラムレベル(ng:1ngは10-9グラム)のmRNAを解析して遺伝子の転写開始点を決定することができるnanoCAGE法と、mRNA鎖の5´ 末端※3と3´ 側※3の両方の配列を一度に解析することができるCAGEscan法という2つの高感度な新遺伝子発現解析方法を開発しました。理研オミックス基盤研究領域(OSC、林崎良英領域長)のピエロ・カルニンチ チームリーダーと SISSA神経生物学部門のステファノ・グスティンチッチ(Stefano Gustincich)博士らの共同研究による成果です。

nanoCAGE法は、現行のCAGE法などの遺伝子発現解析法がマイクログラムレベル(μg:1μgは10-6グラム)の RNAの量を必要とするのに対し、ngレベルのRNAの量でも解析できるように設計した技術で、DNAの断片であるプライマー配列の工夫とcDNAの特異的な増幅法の導入によって、CAGE法と比較して1,000 倍以上の感度向上を実現しました。このため、単一の細胞に存在している微量なmRNAの5´末端を検出し、関連するプロモーター※4をゲノム上で同定することができます。このことは、個々の細胞内の遺伝子発現がどのように制御されているかを網羅的に知ることで、例えば、神経細胞やがんを発症している細胞などで発現する微量なRNAを解析することを可能にします。

一方CAGEscan法は、nanoCAGE法と同様に微量なmRNAを解析できる上に、次世代シーケンサーの能力を活用し、5´末端とその反対側である3´側の塩基配列の両方を同時に解析できるというメリットがあります。その結果、5´末端が、自分自身やほかのmRNAの3´側の塩基配列に結合する様子を明らかにして、mRNA間の相互作用を理解することができるようになります。

さらに、CAGE法では、すべてのRNAを逆転写した後、mRNAだけを分離する必要があるため、解析終了までに約5日の日数を費やしますが、 nanoCAGE法とCAGEscan法は、mRNA だけを逆転写することができるため、解析に要する時間を2~3日と短縮することができます。

両手法を導入することで、研究グループが「RNA新大陸※5」と名付けた全遺伝子の半分以上を占めるncRNA※6に関する知見を増やし、これまで、ほとんど不明確なまま取り残されてきたRNAの理解が飛躍的に向上すると期待できます。

この成果は、英国の科学雑誌『Nature Method』の7月号に掲載されるに先立ち、オンライン版(6月13日付:日本時間6 月14日)に掲載されました。
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2010/100614/index.html