新薬の創製を可能にする
ペプチドに関する複数の研究と
研究者を養成する様々な取り組み
抗菌ペプチド研究のパイオニア
創薬につながる研究
抗菌ペプチドは細菌や昆虫、哺乳類まで、生物が持つ生体防御(免疫)機能だ。
ヒトでは、外部と接触する皮膚や口腔などあらゆる部位から抗菌ペプチドが産生されている。抗菌ペプチドによる防御は先天性免疫機構のひとつであり、体内に微生物(ばい菌など)が侵入する前に殺す防御機能をもっている。この防御機能が破られて微生物が体内に侵入すると、抗体やリンパ球などの獲得免疫が機能する。そうなる前に体内に侵入しようとするばい菌を、まずたたいておこうという防御機能である。
松﨑教授が研究生活をスタートした約30年前、抗菌ペプチドに関する研究成果が発表された。松﨑教授は、抗菌ペプチド(生体防御機構)に興味をもち研究を開始した。中でもアフリカツメガエル由来のマガイニン2、カブトガニ由来のタキプレシン1などの抗菌性ペプチドの作用機序の解明に力を注いでこられた。
先生は「ほとんどの抗菌ペブチドはばい菌の細胞膜に孔をあけて殺してしまいます。ペプチドが細菌選択的に結合し、細胞膜にペプチド-脂質超分子複合ポアという孔をあけます。私たちは、細胞内にペプチド自身が侵入することなどを世界に先駆けて明らかにしてきました。中でも孔をあけるメカニズムについて研究してきました」という。
抗菌ペプチドは菌だけでなく、がん細胞に対する強い作用を持っていることが分かっている。最近は、ヒトの細胞を傷つけることなくばいきんやガン細胞だけを殺す研究をすすめており、最終的な狙いは創薬への展開である。
アルツハイマー病の
根本治療を実現する
85歳以上では4人に一人が認知症であるといわれており、認知症患者の60%以上を占めるのがアルツハイマー病。社会問題として注目される疾患だ。
アルツハイマー病は、脳内のアミロイドβというペプチドが不溶化して、脳に凝集・沈着してシミをつくる。これが神経細胞に溜まってしまうと脳がダメージを受けて発症することが分かっている。
しかし現在臨床で使用されている医薬品による治療は対処療法に過ぎず、根本治療につながる新薬の登場が待たれる。
「我々は、アミロイドβペプチドが凝集・沈着するメカニズムについて研究しています。アミロイドβペプチドが、神経細胞を殺すメカニズムが解明できれば、そのシグナル伝達のどこをブロックすればいいかが分かります。その成果を糸口に研究を続ければ、新薬創出の可能性があります」と松﨑先生。
脳に沈着したアミロイドβペプチドは、脳神経細胞中に存在するスフィンゴ糖脂質(GMIガングリオシド)と結合していることが明らかになっている。アミロイドβペプチドとスフィンゴ糖脂質の相互作用が、アルツハイマー病発症の機構解明につながる可能性があり、ペプチド研究が貢献するかも知れない。
タンパク質の機能を
生きたまま観察する技術
85歳以上では4人に一人が認知症であるといわれており、認知症患者の60%以上を占めるのがアルツハイマー病。社会問題として注目される疾患だ。
アルツハイマー病は、脳内のアミロイドβというペプチドが不溶化して、脳に凝集・沈着してシミをつくる。これが神経細胞に溜まってしまうと脳がダメージを受けて発症することが分かっている。
しかし現在臨床で使用されている医薬品による治療は対処療法に過ぎず、根本治療につながる新薬の登場が待たれる。
「我々は、アミロイドβペプチドが凝集・沈着するメカニズムについて研究しています。アミロイドβペプチドが、神経細胞を殺すメカニズムが解明できれば、そのシグナル伝達のどこをブロックすればいいかが分かります。その成果を糸口に研究を続ければ、新薬創出の可能性があります」と松﨑先生。
脳に沈着したアミロイドβペプチドは、脳神経細胞中に存在するスフィンゴ糖脂質(GMIガングリオシド)と結合していることが明らかになっている。アミロイドβペプチドとスフィンゴ糖脂質の相互作用が、アルツハイマー病発症の機構解明につながる可能性があり、ペプチド研究が貢献するかも知れない。
研究者マインドを学び、身につけ
研究生活をスタートさせる
京都大学薬学部では、4年次から研究室配属になり、人がやらない最先端のテーマが与えられる。研究成果が得られて科学雑誌で発表するとたちどころに世界に知られる存在になる。そんな夢のある世界だ。
しかし、誰も踏み込んだことのない世界では、上手くいくことは少ない。大学院に進学すれば、修士課程でさらに2年間。博士課程に進学すると通算6年間同じテーマを研究することになる。限られた期間で成果を出すことは難しいが、一定の成果につなぐことが期待できる。
「研究とは雲をつかむようなところがあります。上手くいくまでは、試行錯誤しながら仮説を立て、それを実証する実験の繰り返しです。実は、この試行錯誤する時間が重要です。上手くいく時は、数カ月で論文に必要なデータを得ることがあります。中には4年次に成果を出して学会発表する学生がいます。
一方で、誰もやったことがない全く新しいテーマに挑戦する学生は手探りの研究になります。修士課程に進んでもなかなか成果につながらないことがありますね。学生たちは社会に出るとリーダーとしての活躍が期待されます。上手くいかないとき、自分で調べて、試行錯誤する。そんなプロセスを経験することが将来社会に出て役立つ力になります。京都大学には最先端の研究を行うラボがたくさんあり、優秀な研究者を養成しています。自由な学府という伝統があり、やる人はどこまでも追究できる。そんな環境が研究活動でも発揮されます」と松﨑先生はいう。
創薬研究などの舞台でリーダーとして活躍する人材を育成する研究室だ。