京都大学大学院 薬学研究科 システムケモセラピー(制御分子学)分野


天然物・合成化合物ライブラリー、創薬科学
が研究対象。ケミカルバイオロジーの創薬
研究で多くの成果・業績を示し続ける。


探索源は古くて新しい天然物
「モダンな天然物化学」


 研究室の理念は「切れ味の鋭い小分子化合物(新薬)は新しいサイエンスを切り開く」。掛谷先生は、「例えば、抗がん剤には色々な効き方があり、化合物に対する結合タンパク質を見つけて、タンパク質のこれまで知られていない機能を明らかにします。抗がん剤を見つけつつ、なぜがんになるのか、どうやったら治せるかという一石二鳥の研究です」という。
 創薬研究のテーマは、天然物を主力とする幅広い医薬資源を探索源としている。漢方・生薬など薬用植物、微生物代謝産物、機能性食品、ホヤや海綿など海洋無脊椎動物などの天然物だ。さらに歴代の合成系研究室が残した財産である合成化合物ライブラリーだ。
 扱うテーマを見ると従来からある基礎研究と考えがちだが、掛谷先生は「モダンな天然物化学」と表現する。

薬理活性がある物質。微生物は
人類のために作っていない


 「研究対象の材料を何にするかが面白い」と掛谷先生。研究室で培養できる微生物は、自然界の1%程度に過ぎないというのだ。
 99%の微生物は、高塩濃度、高圧力(プレッシャー)、低酸素、海底の土壌など特殊環境にあるからである。これら培養できない微生物を材料として利用するには遺伝子を利用するという。
 掛谷先生は「微生物は人間のために物質を作っているわけではありません。微生物は低濃度で物質を作っており、作っているのはなぜかを解明することが大きな目標です。昨年から文部科学省に採択されて大きなプロジェクトを推進しています」
   

探索から薬理作用までカバー、
幅広い研究内容

 

 「私の研究室では、ターゲットを決めて、細胞レベルや酵素レベルのスクリーニングを行い、天然物・合成化合物ライブラリーから有用な薬剤を探し出しています。しかも探索から合成、そして薬理評価まで幅広くやっているのが特徴です」という。
●天然物化学グループ
 創薬リード化合物の探索研究を担当している。天然物を医薬探索資源に創薬リード化合物の開拓研究を行う。このグループには、生合成を遺伝子工学的に解明する研究グループも存在する。共生微生物などは培養が難しいため、それら遺伝子を利用できるシステム開発を進めている。また、異なる微生物の複合培養によるし新しい物質生産法の確立などを他大学の研究室と共同で行っている。
●メディシナルケミストリーグループ
 天然物・合成化合物ライブラリーから見出した有望な化合物の化学構造を創薬化学的に磨き上げる(薬らしさに近づける)ことを担う。有望な化合物に結合するタンパク質などを見つける方法論も開発する。
●ケミカルバイオロジーグループ
 多因子疾患(がん、心疾患、感染症、糖尿病、自己免疫疾患など)を対象とする化学療法の開発をケミカルバイオロジー的手法を用いて行う。オリジナルな化合物の薬理活性評価やバイオインフォマティクスを使った研究も特色である。

血管新生をブロックして
固形がんの栄養源を断つ研究


 いま注目を集める研究に低酸素誘導因子HIFs(hypoxia-inducible factors)がある。腫瘍は増殖するために血管を新生して栄養補給を行う。固形がんは、低酸素環境なので腫瘍が血管を呼び、HIFsは、そこに介在する因子だ。
 掛谷先生は、「低酸素誘導因子HIFsは、抗がん剤開発の有望な分子標的です。私たちは、HIFsの機能を阻害する創薬リード化合物として微生物がつくりだす環状デブシペプチドを見出し、薬らしさにする化学研究と作用機構解析を追求するケミカルバイオロジー研究を進めています」という。

臨床試験が待たれる
プロドラッグ型クルクミンCMG


 がんに関するトピックスとしてプロドラッグ型クルクミンCMGの開発研究がある。漢方・生薬で使用されているウコンは、抗がん活性や抗炎症、抗酸化活性が知られ、食品会社などが効果をうたっている。ウコンに含まれるクルクミンが代謝疾患やがんに有効性を示すからである。
 しかし、医薬品としての開発段階では途中で止まってしまうという。
 研究室では、抗がん試験のデータを詳細に解析した。クルクミンはポリフェノールの一種であり、経口では吸収されず排泄された。そこでグルクロン酸を結合させたプロドラッグ型クルクミンCMGの開発に成功した。
 グルクロン酸をつけることで水に溶けるようになり、注射剤として医薬品にできる可能性を高めている。マウスやラットに投与すると血中濃度が1000倍以上に活性化するという成果も得た。ヒト大腸がん細胞HCT-116を移植したヌードマウスに投与した結果、3週間後、投与を受けたマウスの腫瘍は半分以下にとどまっていた。
 この成果は、2017年の臨床腫瘍学会で講演するなど国際的なシンポジウムに招待されて講演している。PMDAと臨床試験を視野に入れたディスカッションが行われている。
 クルクミンは古い研究と思われがちだが、戦略的には新しい。そんなところから掛谷先生は「モダンな天然物化学」と表現する。

オリジナリティをもつ研究者
オリジナルな研究成果を目指す


 掛谷先生は、微生物が産生する免疫抑制剤シクロスポリンを学生実習の題材にしている。学生実習で使用するのは珍しいという。掛谷先生の研究室を希望する学生に、「実習で扱ったような創薬リード(薬のタネ)を探したいですか、合成したいですか、薬理評価を極めたいですか」と聞くという。探索から薬理評価まで幅広い研究領域をアピールする。化学と生物学の両方の研究を行う研究室は稀だが、研究室配属当初は、化学か生物学を担当して専門性を身につける。修士課程までに自分が目指す研究を育てて、博士課程でケミカルバイオロジーの専門領域に入っていく。
 好奇心を持ち、オリジナリティのある研究、オリジナリティがある研究成果を目指すという。

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