大阪大学大学院 薬学研究科 応用環境生物学分野


光合成生物の環境ストレス応答の機能進化プロセスを追求。
医薬品原料や機能性素材の開発への応用により人の健康の維持・増進に貢献


光合成植物を使った
機能解析を社会貢献につなぐ


 平田先生は「研究室のコンセプトは、光合成植物を使った研究です。ユーグレナやクロレラなどの光合成をしている生物の機能解析を行い、その機能が何かに応用できないか。医薬品の生産や環境浄化、食品への応用などへの可能性を求めて研究しています」という。
 植物では、生薬や漢方薬など薬用植物をメインに光合成生物の機能解析や成分解析、機能進化を行う。中でも光合成植物の機能進化プロセスに興味をもっておられる。
 「30数億年前の生物が生きているわけではありませんが、光合成生物は生活環境や機能を変えずに生き残っています。原核生物から真核生物になり、真核生物が機能分化して細胞になる。さらに陸上に上がって高等生物になるという歴史があります。陸上では乾燥や強い光など環境ストレスらさらされます。環境ストレスに適応して生き残った進化の過程があり、それら特定の機能に注目しています」と平田先生はいう。

ケシは何のためにモルヒネを
作っているのだろう?


 「ケシは何のためにモルヒネを作っているのだろう?」これが特定機能に注目するきっかけになったという。
 「何万種ある植物の中でモルヒネを作るのはケシだけです。ケシがモルヒネを作るのは人間のためではありません。苦い種や実は鳥などから身を守るため。もし食べられても食べた動物がモルヒネの成分で弱っていく。進化の過程で生き残るためにそのような機能を身につけたと考えられます」と平田先生。
 ケシが生き残り戦略としたものを、たまたま人間が痛みをやわらげる成分を見出した。さらにモルヒネという医薬品として利用してきたわけだ。
 研究室は、このような進化の過程を分子レベルで考察しようとしている。

機能進化の研究は
化石を発掘する考古学のよう


 機能進化の過程を遺伝子配列からたどる。例えば、ラン藻、緑藻、高等植物に進化した過程が遺伝子配列から読めるというのだ。2つのタンパク質が一緒になって違う機能をもつなど、進化の過程が分かるという。
 研究室では、酵素が生体内でどう作用するかを研究している。進化過程をゲノムレベルで証明している。
 進化のプロセスを探る時、遺伝子配列を人工的にくっつけたり、バラして細胞の中に入れた時の機能変化を観察する。
 何千年という時間で営まれた進化を手元で再現できるという。下等生物と高等生物の遺伝子を混ぜ合わすと途中の過程がみられる面白さがある。
 「私の研究は、化石を発掘して解明する考古学のようなものです。遺伝子レベルで比較解析するなどしてエビデンスをとることに一番の興味があります。しかし、研究成果の応用も進めなければなりません。薬学部の使命は、ヒトの健康・生命に貢献すること。理学部など一般的な理系学部と異なるところです」と平田先生。

機能解析の技術を機能性食品・
化粧品の開発で発揮


 有毒な成分を持つ生物であっても、人は薄めたり熱したり、また構造を変えて薬として使ってきた。機能解析研究は、医薬品原料の生産や高機能食品の生産、環境浄化、環境耐性に有効な植物の生産などに応用できるのではないかとの視点で解析している。
 主に医薬品原料の生産技術についてはアッセイ系を確立している。機能性食品の開発にも目を向け、とくに食品は薬学が関わらなければならない分野と考えている。薬学には、医薬品開発で培った高度な技術があり、人の体に入るものと考えると食品への応用は重要と考えられる。
 薬学の視点から機能評価して、食品分野ではヒトの健康への貢献を目指す。
 また化粧品分野は、美容効果が期待できる化粧品やアンチエージングが発揮できる化粧品をめざす研究を進める。
 研究室では、食品会社や化粧品会社、製薬会社と機能解析で共同研究を進めている。

ASEANにグローバルな
研究体制を築く


 医薬品原料やシーズ研究で、世界中くまなく調査されてきた。平田先生は「機能性食品やアンチエージング機能などの視点で見れば、新しいものが見つかる可能性があります。この研究を文化人類学の研究者と研究しています。食というテーマで共通しており、彼らは食文化を東南アジアのどこにルーツがあるかを研究しています。モンゴルや雲南省など厳しい環境の中で生き延びた生物の生理活性物質をスクリーニングしています」という。
 東南アジアは、薬用植物の宝庫といわれる。研究室では、ブータンやベトナム、タイ、インドネシアで資源を探す活動を行なっている。大阪大学にはグローバル連携オフィスがあり、仮想キャンパスをこれら4カ国に設置している。留学困難な学生が現地にいながら大阪大学レベルの学びができるのである。資源の持ち出しを禁じる国もあるが、現地で学ぶ大学院生と共同研究することでこれはクリアできる。
 またベトナム・タイ・ベトナムは、東南アジアで日本への留学ベスト3の国。これら発展した国の大学と協力して生物資源開発を進めたいという。ASEAN4カ国と連携することで東南アジアの生物資源ネットワークを構築し、育った人が日系企業で活躍してほしいと考えている。

生薬・漢方薬の研究は、
日本にとって切実な課題


 また「近年、西洋薬では治せない病気に漢方薬が有効という報告があり、欧米での需要が高まっています。生薬には、何が効いているかある程度わかっています。しかし複数の生薬を混ぜ合わせた漢方薬は違う効果が生じます。そのような複合的な効果や因果関係は未解明です。それらを明らかにするため製薬会社と共同研究を進めています。
 一方で日本は、生薬材料の多くを輸入に頼っており、欧米の漢方薬使用が増えてたため良質な生薬の確保が難しくなりました。国内栽培も一部で行われていますが日本薬局方の規格を満たすかが課題です。また栽培農家の高齢化が進み、今後の供給も課題になっています。将来的には、植物工場での生産も考えていかなければなりません。生薬・漢方薬の需要に応える研究も大切になっています」と平田先生。
2018年5月取材

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