ブルーオーシャンを切り開け


ブルーオーシャンという言葉をご存じだろうか。直訳すると青い海であるが、競争相手がいない未開拓の市場のことをいう。フランスの大学院教授であるW・チャン・キムと
レネ・モボルニュが書いた「ブルーオーシャン戦略」の中で提唱された言葉である。バリューイノベーションとも言われ、価値を見直すことにより、価値の向上をはかることを意味する。ブルーオーシャンの反対はレッドオーシャンといい競争の激しい市場をいう。

このブルーオーシャンの発想が医薬品開発でも積極的に行われている。新薬を開発するには10年~20年、費用は数百億円から1千億円以上かかり、成功確率は3万分の1と
低く、画期的な新薬を発売することは非常に難しいといわれている。年間販売額が1千億円以上販売した大型製品はブロックバスターと呼ばれているが、2000年くらいまでは、患者数が多い循環器系薬や高脂血症薬などの大型製品が販売され、レッドオーシャンの時代であった。しかし大型新薬の開発が滞る現在では、アンメットメディカルニーズのもとに、患者数が少ないオーファンドラッグやワクチンなどの開発が盛んに行われており、ブルーオーシャンの製品を開発・販売している企業が収益を大きく伸ばしている。

 その代表的な企業は塩野義製薬である。成長の牽引となっているのが、エイズウィルスに効果があるHIV感染症治療薬である。海外での販売は、大手企業のグラクソ・スミスクラインに任せていて、そのロイアリティが利益に貢献している。また、今年3月に発売されたインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」は、インフルエンザウィルスの細胞内増殖を抑制する作用、さらに1回の服用という画期的な治療薬であり、流行によっては大きな販売額が期待されている。海外での販売は競合薬をもつロシュと提携しており、戦略的にも興味深い。塩野義製薬は売り上げ規模からしたら決して大手企業とはいえないが、規模の大小にかかわらず、ブルーオシャンでの新薬をもつことで主役となっている。

 では、ブルーオーシャンの発想で薬剤師のキャリアをどう捉えたらよいのだろうか。現在、薬剤師の資格をもった人は日本に29万人ほどいる。これは医師数に近い数である。その約6割が薬局に勤務している。薬局は5万8千店ほどあり、まだ薬剤師が足りないことから現在の市場価値は高い。しかし、この状態は長く続くとは決して思えない。テクニシャンやAIの導入、流通システムが一変することがあれば薬剤師が一機に過剰になる恐れが考えられる。生き残るためには、薬剤師の病態や検査値などの専門的スキルを深めることも重要であるが、別の専門スキルの修得などにより新しい職能の開拓が必要と考える。例えば、マネジメントであればMBA、地域医療であればケアマネジャーの資格取得などにより活躍の場を広げることが、薬剤師の価値を高めることにつながる。このように考えると薬剤師の未来も明るい。頑張れ、薬学生!!



斎藤由紀夫(さいとう ゆきお)
薬系キャリアコンサルタント
外資系製薬企業でMR、宣伝企画、教育・研修、プロダクトマネージャー、ヘルスケア、人事採用部門を歴任する。
その後大学院心理学研究科入学、修了後薬科大学に入職、キャリアセンター長としてキャリア・就職支援に携わる。
2015年に合同会社キャリアパフォーマンスを設立、イベント企画や研究会開催、講演、執筆などの活動を行っている。

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