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成人 T 細胞白血病リンパ腫における遺伝子異常の解明(2015/10/5)
概要
成人 T 細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia lymphoma: ATL)は、日本を主要な流行地 域の一つとするヒト T 細胞白血病ウイルス 1 型(human T-cell leukemia virus type-1: HTLV-1) 感染によって生じる極めて悪性度の高い血液がんの一つです。乳児期に HTLV-1 ウイルスに感 染した T 細胞に、数十年間にわたってさまざまな遺伝子の変化が生ずることによって ATL の発症 に至ると考えられていますが、従来こうした遺伝子の変異については多くが不明のままでした。
今回、京都大学大学院医学研究科 腫瘍生物学 小川誠司 教授、宮崎大学医学部 内科学講 座消化器血液学分野(第二内科)下田和哉 教授、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析セ ンター 宮野悟 教授、国立がん研究センター研究所 がんゲノミクス研究分野 柴田龍弘 分野長、 京都大学ウイルス研究所 ウイルス制御研究領域 松岡雅雄 教授、東京大学大学院新領域創 成科学研究科 メディカルゲノム専攻 渡邉俊樹 教授を中心とする研究チームは、約 400 例の ATL 症例の大規模な遺伝子解析を行い、ATL の遺伝子異常の全貌を解明することに成功しまし た。本研究では、全エクソン解析・全ゲノム解析・トランスクリプトーム解析などの次世代シーケン サーを用いた解析およびマイクロアレイを用いたコピー数異常や DNA メチル化の解析を組み合 わせて、さまざまな遺伝子の異常を包括的に明らかにしました。この大規模なデータ解析は、東 京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターと共同でスーパーコンピュータ「京」を利用する ことにより可能となりました。
今回の研究の主な成果は以下の点です。
1 最先端の遺伝子解析手法とスーパーコンピューティングを用いた統合的な解析によって、これ
まで同定されていなかった多数の新規の異常を含むATLの遺伝子異常の全体像の解明に成
功しました。
2 今回同定された異常は、PLCG1、PRKCB、CARD11、VAV1、IRF4、FYN、CCR4、CCR7な
どの機能獲得型変異、CTLA4-CD28、ICOS-CD28などの融合遺伝子、CARD11、IKZF2、 TP73などの遺伝子内欠失などからなります。これらの異常は、T細胞受容体シグナルの伝達 をはじめとする、T細胞の分化・増殖などのT細胞の機能に深く関わる経路や、がん免疫から の回避に関わる経路に生じており、こうした異常によって正常なT細胞の機能が障害される結 果、T細胞のがん化が生じてATLの発症に至ると考えられました。
3 特に、ホスホリパーゼCやプロテインキナーゼC、FYNキナーゼ、ケモカイン受容体など、同定 された変異分子の多くが新規治療薬剤の開発に向けた有望な標的と考えられました。
本研究は、ATL について行われた過去最大規模の遺伝子解析研究です。さまざまな手法を組 み合わせることにより包括的に ATL の遺伝子異常を明らかにすることに成功しました。本研究の 結果は、ATL の病気の仕組みの解明に大きな進展をもたらすのみならず、今後、本疾患を克服す るための診断や治療への応用が期待されます。
本研究は、厚生労働省ならびに 2015 年度からは日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的 がん医療実用化研究事業」、科学研究費助成事業 新学術領域研究(22134006)、HPCI 戦略プ ログラム利用研究(hp140230)、国立がん研究センター研究開発費(26-A-6)の支援を受けて行わ れたもので、その成果は、2015 年 10 月 6 日付で国際科学誌「Nature Genetics」電子版にて公開 されます。
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/files/151005.pdf

光で細胞内の酵素のはたらきを自在に操作する(2015/10/1)
ポイント
ヒトのインスリン代謝などに関係するタンパク質リン酸化酵素Akt注1)(図1)の酵素活性を、光照射により分単位で操る手法を開発し、Akt活性の時間的な変動パターンが細胞応答を制御する新規メカニズムが存在することを証明しました。
人工の光感受性Aktと数理モデルを組み合わせ、世界で初めて細胞内のAkt活性の時間的な変動パターンを自在に操作することを可能としました。
Aktは糖尿病やガンをはじめとしたさまざまな疾患に密接に関連する分子であるため、Aktによる疾患発症のメカニズム解明や薬剤の最適な投与量や時間の提案などに寄与することが期待できます。
生命がその機能を正常に発揮し恒常性を維持するためには、細胞内のさまざまな分子の活性が、体内時計や睡眠、栄養摂取などに応じて適切な時間パターンで上昇・下降することが必須です。これまで生体内における分子の活性を化学物質や人工タンパク質で人為的に操作するさまざまな手法が開発されてきましたが、操作の強度を指定した「定量的な操作」や一度活性化した後に再び不活性化させる「可逆的な操作」が困難であるというボトルネックが、さらなる応用研究を妨げてきました。
東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻の桂 嘉宏 大学院生と小澤 岳昌 教授らは、東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻の黒田 真也 教授の研究グループとの共同研究により、新規に作製した人工の光感受性分子とシミュレーション解析を用いて、細胞内における酵素活性の時間的な変動パターンを定量的かつ可逆的に光操作する手法の開発に成功しました。また、開発した手法を用いて、酵素活性の時間的な変動パターンによって、細胞内で誘導される遺伝子発現の誘導強度が異なることを明らかにしました。
本研究で光操作の対象としたタンパク質リン酸化酵素Aktは、糖尿病やガンといったヒトにおけるさまざまな疾患において、その活性が異常な時間的変動パターンで上昇・下降することが知られています。そのため、Akt活性の時間的な変動パターンと細胞応答との関係性を詳細に解析しうる本手法は、今後、インスリンなどの薬剤の最適な投与量および時間の提案やAktが関与する疾患発症のメカニズム解明などに寄与することが期待されます。また、本研究で確立した一連の方法論は、Akt以外の分子にも応用可能である汎用性があり、近年注目が集まっている「生命機能を光によって意のままに操る」研究全般の発展に貢献することが期待できます。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)(「生命動態の理解と制御のための基盤技術の創出」研究領域、研究代表者:黒田 真也)、日本学術振興会 基盤研究(S)(研究課題番号:26220805)挑戦的萌芽研究(研究課題番号:26620128)の一環として行われ、内藤記念科学振興財団、アステラス病態代謝研究会、にご支援をいただきました。
<発表内容>
① 研究の背景・先行研究における問題点
生体内における酵素などの分子の活性は、あらゆる生命機能の維持や発揮に不可欠であり、分子活性を人為的に操作する手法は古くから研究されています。近年、光感受性タンパク質を分子に組み込み、光照射で分子機能を操作する「オプトジェネティクス」と呼ばれる技術が注目されています。化学物質を用いる古典的な操作法と異なり、オプトジェネティクスは、光によって時空間的な操作が可能な点に大きな特徴があります。化学物質は生体内で拡散するため不可逆的な操作になる一方、光による操作は、レーザーなどの指向性の高い光源を用いることで、時空間的に自在な操作が可能です。しかし、このオプトジェネティクスにおいても、どのように光を照射すれば、どの程度、光感受性分子が活性化するかという定量的な見積もりが困難であるという大きな問題があります。すなわち、光照射という生体に与える「入力」と光感受性分子による「出力」を結ぶための何らかの一般的な技術・方法論の開発が急務とされています。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20151001-3/index.html

「ビタミンB1による生体防御メカニズムを発見」に係る論文掲載について(2015/9/25)
 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の國澤純プロジェクトリーダー(東京大学医科学研究所 客員教授兼務)は、東京大学医科学研究所 清野宏教授、慶應義塾大学医学研究科 末松誠教授(現、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 理事長)、杉浦悠毅講師、浜松医科大学 瀬藤光利教授らの研究グループと共に、ビタミンB1を介した生体防御メカニズムを発見しました。本研究結果は、腸管免疫と生体防御・ワクチンという観点からビタミンB1の新たな機能と重要性を世界で初めて提示したもので、新たなワクチンや機能性食品、免疫創薬の開発へとつながるものと期待されます。この研究成果が米国科学誌Cell Reports電子版に掲載されましたので、お知らせいたします。(論文タイトル:Mode of bioenergetic metabolism during B cell differentiation in the intestine determines the distinct requirement for vitamin B1)

 本研究は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、科学技術振興機構(JST)・ERATO/CREST/さきがけ、文部科学研究費補助金、厚生労働科学研究費補助金、岸本基金研究助成、内藤記念科学振興財団の支援を受けて行われました。
http://www.nibio.go.jp/news/2015/09/001419.html
http://www.nibio.go.jp/news/20150925.pdf

電気で生きる微生物を初めて特定 -微生物が持つ微小電力の利用戦略-(2015/9/25)
要旨
理化学研究所環境資源科学研究センター生体機能触媒研究チームの中村龍平チームリーダー、石居拓己研修生(研究当時)、東京大学大学院工学系研究科の橋本和仁教授らの共同研究チームは、電気エネルギーを直接利用して生きる微生物を初めて特定し、その代謝反応の検出に成功しました。
一部の生物は、生命の維持に必要な栄養分を自ら合成します。栄養分を作るにはエネルギーが必要です。例えば植物は、太陽光をエネルギーとして二酸化炭素からデンプンを合成します。一方、太陽光が届かない環境においては、化学合成生物と呼ばれる水素や硫黄などの化学物質のエネルギーを利用する生物が存在します。二酸化炭素から栄養分を作り出す生物は、これまで光合成か化学合成のどちらか用いていると考えられてきました。
共同研究チームは、2010年に太陽光が届かない深海熱水環境に電気を非常によく通す岩石が豊富に存在することを見出しました。そして、電気を流す岩石が触媒となり、海底下から噴き出る熱水が岩石と接触することで電流が生じることを発見しました注1),注2)。これらを踏まえ、海底に生息する生物の一部は光と化学物質に代わる第3のエネルギーとして電気を利用して生きているのではないかという仮説を立て、本研究を実施しました。
共同研究チームは、鉄イオンをエネルギーとして利用する鉄酸化細菌の一種であるAcidithiobacillus ferrooxidans(A.ferrooxidans)[1]に着目し、鉄イオンは含まれず、電気のみがエネルギー源となる環境で細胞の培養を行いました。その結果、細胞の増殖を確認し、細胞が体外の電極から電子を引き抜くことでNADH[2]を作り出し、ルビスコタンパク質[3]を介して二酸化炭素から有機物を合成する能力を持つことを突き止めました。さらにA.ferrooxidansは、わずか0.3V程度の小さな電位差を1V以上にまで高める能力を持ち、非常に微弱な電気エネルギーの利用を可能にしていることが分かりました。
本研究は、電気が光と化学物質に続く、地球上の食物連鎖を支える第3のエネルギーであることを示しました。今後、深海底に広がる電気に依存した生命圏である電気生態系を調査する上で重要な知見になると期待できます。成果は、スイスのオンライン科学雑誌『Frontiers in Microbiology』(9月25日付け:日本時間9月25日)に掲載されます。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150925_1/

アミノ酸代謝促進で長寿に ~Sアデノシルメチオニン代謝が寿命延長の鍵~(2015/9/24)
ポイント
ショウジョウバエでは、加齢にともなって体内のSアデノシルメチオニン(SAM:注1))量が増加していくこと、人為的にSAM代謝・消費を促進してSAMの増加を抑えることで寿命が延長することを発見した。
ショウジョウバエでは、食餌制限やインスリンシグナル抑制による寿命の延長にもSAMの代謝が必須であることを発見した。
SAM代謝調整機構はヒトにも保存されており、本研究成果を応用した健康・長寿の新たな戦略の開発が期待される。
摂取カロリーの制限による寿命の延長は、酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスからヒトまで種を超えて広く見られる現象です。近年の研究から、実際には総カロリーではなく、摂取する食餌の質が寿命の延長に重要であることがわかってきました。中でも、必須アミノ酸の一種であるメチオニンだけを制限することでも寿命が延長することが示唆されています。しかし、その詳しいメカニズムは明らかになっていませんでした。
東京大学 大学院薬学系研究科の小幡 史明 特任助教(研究当時、現:英国The Francis Crick Institute研究員)、三浦 正幸 教授らの研究グループは、メチオニンそのものではなく、メチオニンから合成されるSアデノシルメチオニン(SAM)の代謝が寿命延長の決定要因であることを、ショウジョウバエを用いて明らかにしました。本研究グループは、ショウジョウバエの脂肪組織にSAMの量を一定にしようとする仕組みがあることを発見し、この機能を担う酵素とその遺伝子を特定しました。SAMの量を詳しく分析してみると、老化したショウジョウバエの体内ではSAM量が増加していました。そこでSAM量を調節する酵素の働きを遺伝学的に強めると、代謝が促進され加齢に伴うSAM量の増加が抑えられ、個体の寿命が延長することが分かりました。さらに、SAM量を調節する酵素の機能を欠損させたショウジョウバエでは、食餌制限による寿命延長効果が見られないことから、SAM量の調節が寿命延長の鍵となる要因であることを見出しました。SAM代謝経路はヒトにも保存されていることから、本研究成果によって明らかになった新たな寿命延長機構がヒトにもあてはまるかを検討し、効率的かつ安全に健康・医療へ応用されることが期待されます。
本研究は、文部科学省 科学研究費補助金基盤研究(S) 「発生頑強性を規定する細胞死シグナルの解明」(研究代表者:三浦 正幸)、挑戦的萌芽研究 「メチオニンによる腸幹細胞の増殖制御機構の解明」(研究代表者:小幡 史明)と、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業の研究領域「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」(研究総括:永井 良三)※における研究課題「個体における組織細胞定足数制御による恒常性維持機構の解明」(研究代表者:三浦 正幸)の一環で行われました。
※平成27年4月1日に日本医療研究開発機構(AMED)が設立されたことにともない、本研究課題はAMEDに承継され、引き続き研究開発の支援が実施されます。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150924-3/index.html

「貯蔵された記憶を可視化・消去する新技術を開発」 記憶のメカニズム解明に前進(2015/9/10)
ポイント
神経細胞上の樹状突起スパインが学習・記憶に伴い増大することに着目し、新生・増大スパインを特異的に標識し、青色光でそのスパインを収縮させる事が可能な蛋白質プローブ(記憶プローブ)をマウスで開発し、学習・記憶が貯蔵されている場所を可視化・操作する新技術を世界に先駆けて確立しました。
運動野を記憶プローブで標識後に青色光を照射すると、運動学習で獲得された記憶が特異的に消去され、記憶は脳内の少数の神経細胞に密に書き込まれていることが明らかになりました。
こうして記憶に関わるスパインの脳内の大域的な分布を標識する可能性が拓かれ、脳機能やその疾患の解明に新しい糸口が開かれました。
大脳皮質の数百億もの神経細胞はシナプス注1)を介して情報をやり取りしており、特にグルタミン酸作動性シナプスの多くは樹状突起スパイン注1)という小突起構造上に形成されます。スパインは記憶・学習に応じて新生・増大し、それに伴いシナプスの伝達効率が変化するので、脳の記憶素子と考えられてきました。しかし、記憶の獲得時に、実際に使われている多数の記憶素子の分布を同定し、実際の記憶への関与を検証する方法はありませんでした。今回、東京大学 大学院医学系研究科 附属疾患生命工学センター 構造生理学部門の林(高木) 朗子 特任講師、河西 春郎 教授らの研究グループは、学習・記憶獲得に伴いスパインが新生・増大することに注目し、これらのスパインを特異的に標識し、尚且つ、青色光を照射することで標識されたスパインを小さくするプローブ(記憶プローブ、図A)を開発しました。この記憶プローブを導入したマウスでは、運動学習によって獲得された記憶が、大脳皮質への青色レーザーの照射で特異的に消去されました。また、各々の神経細胞における記憶に関わるスパインの数を数えたところ、大脳皮質の比較的少数の細胞に密に形成されていることがわかり、記憶を担う大規模回路の存在が示唆されました。こうして、スパインが真に記憶素子として使われている様子を可視化し、また操作する新技術を世界に先駆けて確立しました。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」(平成27年度より文科省より移管)、戦略的国際科学技術協力推進事業 日英研究交流「次世代光学顕微法を利用した神経科学・病因解明につながる分子メカニズムへの挑戦」(平成27年度以降JSTからAMEDへ移管)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業および文部科学省・科学研究費の支援を受けて行ったもので、国際科学誌「Nature(電子版)」に2015年9月9日(英国時間)付オンライン版で発表されます。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150910/index.html

神経回路構築を制御する脂質を発見 -異なる種類の感覚を伝える神経突起を脂質で誘導-(2015/8/28)
要旨
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター神経成長機構研究チームの上口裕之チームリーダーと神経膜機能研究チームの平林義雄チームリーダー、東北大学 大学院薬学研究科の青木淳賢教授、東京大学 大学院総合文化研究科の太田邦史教授らの共同研究グループ※は、異なる種類の感覚を伝える神経突起[1]を分別してその行き先を制御する新たな脂質を発見しました。
身体からの感覚を伝える神経突起は脊髄を経由して脳へとつながっています。痛覚(皮膚で痛みを感じること)と固有感覚(自身の関節の位置や動きを感じること)などのように、異なる種類の感覚を伝える神経突起が、それぞれ脳脊髄の異なる部位へ投射するため、私たちは感覚の種類を識別することができます。脳脊髄の神経回路が作られる段階で、痛覚と固有感覚を担う神経突起は同じ経路を通って脊髄へ到達しますが、脊髄に入った直後にこれらの神経突起は分別され、混線することなくそれぞれの目的地へ誘導されます。しかし、この神経突起を分別するタンパク質はこれまで見つかっておらず、分別の仕組みは明らかにされていませんでした。
共同研究グループは、この神経突起の分別の仕組みは脂質によって制御されていると考えました。その仮説を立証するためには脂質を解析する必要がありますが、現代の医学生物学では脂質を詳細に解析することは非常に困難でした。そこで共同研究グループは、有機合成化学・分析化学・免疫学など異分野の研究者と連携し、脂質分子の合成・精製・定量・抗体作製の技術を神経科学と融合しました。その結果、神経突起の分別を担う新たな脂質「リゾホスファチジルグルコシド」を発見しました。リゾホスファチジルグルコシドは脊髄内の固有感覚の神経突起が通る特定の部位にのみ存在し、痛覚の神経突起を反発[2]することで、両方の神経突起は混ざり合うことなく別の目的地へ投射することが分かりました。また神経突起の表面に存在してリゾホスファチジルグルコシドを感知するGタンパク質共役受容体[3]も特定しました。
本研究は、「脂質が神経回路の構築を制御する」という新原理を明らかにしました。これに伴い、損傷した神経回路の修復技術の開発が進むことが期待できます。また、タンパク質の働きのみでは説明不可能な生命現象に対する研究の成功例であり、脳科学における新たな研究分野の開拓が期待できます。
本研究は、米国の科学雑誌『Science』(8月28日号)に掲載されます。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150828_2/

味を受容する細胞が生まれる仕組みを解き明かす  ―甘・旨・苦味を感知できないマウスの作出から(2011/5/16)
甘・旨・苦・酸・塩味を呈する化合物は、それぞれ別々の味細胞によって受容されます。転写調節因子であるSkn-1a/Pou2f3を欠失させたマウスでは、甘・旨・苦味細胞が完全に消失し、これらの味を識別できなくなりました。一方、消失した味細胞に代わり酸味細胞数が増えました。このことから、甘・旨・苦味細胞と酸味細胞は、1つの共通の前駆細胞から分化することが示唆されました。味の細胞系譜の新発見といえます。
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics110516.html

ヒト神経細胞のDNA メチル化状態に個人差があることを解明(2011/5/1)
―精神疾患におけるエピジェネティクスの役割解明へ第一歩―

神経細胞におけるDNA メチル化状態は、脳機能に関わる遺伝子の働きと密接に関連しています。また、ストレスなどの環境要因の作用を受けることから、統合失調症や気分障害といった、遺伝子と環境要因の相互作用により発症する精神疾患の病態に深く関係していると考えられています。しかし、脳は、神経細胞の他に多種多様な細胞が混在しており、神経細胞のDNA メチル化状態のみを解析するのは非常に困難でした。

東京大学大学院医学系研究科分子精神医学講座(特任准教授 岩本和也、特任助教 文東美紀)と理化学研究所脳科学総合研究センター(チームリーダー 加藤忠史)の研究グループは、札幌医科大学、カリフォルニア大学との共同研究により、微量のヒト脳試料から神経細胞だけを分離し、DNA メチル化状態の詳細な解析を行うことに成功しました。

その結果、神経細胞では非神経系細胞と比べてDNA メチル化状態が大きく異なり、また、より大きな個人差が認められることを明らかにしました。神経細胞におけるDNA メチル化の個人差の意義は明らかではありませんが、環境要因が作用した結果である可能性が考えられます。本研究により、DNA メチル化が精神疾患の原因に関与するかどうかについて、精神疾患患者脳試料を用いた研究の道が初めて開かれたこ
とから、今後精神疾患解明につながると期待されます。

なお、本成果は米科学GenomeResearch 誌5月号に掲載されます。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/release_20110501.pdf
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/release_archives/20110501.html

「記憶・学習を制御するKIF 分子モーター」(2011/4/28)
分子モーターKIF17 欠損マウスの解析により、KIF17 が、グルタミン酸受容体NR2B を神経細胞樹状突起内で輸送するだけでなく、NR2B 及び自身(KIF17)のmRNA の合成を、転写因子CREB を介して制御し、かつグルタミン酸受容体NR2A のユビキンプロテアーゼを介した分解も制御することにより、記憶・学習の重要な基盤となっていることを解明した。

発表内容:
細胞はその機能に必要なさまざまな物質を、微小管のレールの上を走る分子モーターを使った物質輸送メカニズムによって、細胞の隅々にまで運んでいます。NMDA受容体は、グルタミン酸に結合してはたらく受容体であり、動物の記憶や学習に深くかかわりを持つことが知られていますが、NMDA受容体の輸送が脳や神経の機能にどのような意味を持つのか、ほとんど不明のままでした。今回、大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻の廣川信隆特任教授、尹喜玲特任研究員らのチームは、キネシンスーパーファミリータンパク質KIF17 分子モーターがNMDA受容体の輸送を行うだけではなく、その量を調節していることを見出しました。NMDA 受容体にはいくつかの種類(サブユニット)があります。
KIF17 を欠いたマウスの神経細胞を調べると、サブユニット2A とサブユニット2B の量が減り、その結果、マウスの学習能力は著しく低下します(図1)。更に詳しく調べると、サブユニット2A が壊れやすくなっていること、サブユニット2B の生成量が減っていることがわかりました。面白いことに、神経の働きが盛んになるとKIF17 とNMDA受容体の量がともに増え、運ばれるNMDA受容体の量も増大します。この発見で重要なことは、KIF17 が単にNR2B を輸送しているだけでなく、NR2B および、自身(KIF17)の遺伝子mRNA の転写を制御していることが解明されたことです。このことで、勉強すればするほど頭が良くなるという説の根拠が解明されました。このようなKIF 分子モーターによる脳・神経機能の調整機構は、将来、神経疾患の治療法への新しいアプローチとなることが期待されます。なお、本研究はNeuron 誌2011 年4 月号に掲載される予定です。

発表雑誌:
雑誌名:「Neuron 誌」 4 月28 日号 (70 巻 第2 号)
論文タイトル:
Molecular Motor KIF17 Is Fundamental for Memory and Learning via 
Differential Support of Synaptic NR2A/2B Levels.
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/pdf/20110428.pdf

塩分摂取による高血圧発症にエピジェネティクスが関与することを解明 ―日本人に適した新規降圧薬の開発に期待―(2011/4/11)
塩分の過剰摂取が高血圧をきたすことは良く知られていますが、その機序については多くの不明な点がありました。このたび、東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 教授 藤田敏郎らの研究チームは、塩分感受性高血圧では塩分摂取過剰による交感神経活性異常が塩分排泄に関わる遺伝子(WNK4 遺伝子)の転写活性を抑制していることを世界に先駆けて明らかにしました。
本研究は血圧に関係するホルモンであるカテコールアミンのナトリウム貯留作用の新たな分子メカニズムを明らかにするとともに、塩分摂取による高血圧発症の機序解明にもつながる画期的な発見です。肥満やメタボリックシンドロームでは血圧の塩分感受性が高いことが知られていますが、今回の研究の成果は食塩や肥満などの環境因子が塩分排泄性遺伝子の転写活性を抑制して、疾病(高血圧)が生じる“エピジェネティクス”の関与を解明したものであり、新たな視点による高血圧治療薬の開発が期待されます。
本研究成果は、米国の科学雑誌「Nature Medicine」に掲載されるに先立ち、米国東部標準時間4 月17 日午後1 時(日本時間4 月18 日午前2 時)に、オンライン版に掲載されます。

詳細は下記
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20110418.pdf

東北地方太平洋沖地震に関する当面の対応について(第5報)(2011/3/30)
標記震災への対応については、既に種々御協力をいただいているところですが、強い余震や計画停電の継続、原子力発電所の事故に伴う問題の発生などの可能性をも踏まえ、当面、以下の諸点に留意の上、適切に対応くださるようお願いします。
なお、今後、本通知の内容は適時に更新し、ウェブサイト(日本語・英語)及び学内ポータルサイトへの掲載をいたしますので、御留意下さい。
1.安全管理全般
○ 部局内の防災及び危機管理の体制について、それぞれの実情に応じて充実を図ること。
学生・教職員の安否について、情報の収集・確認を行い、引き続き適切な把握に努めること。学生への情報伝達手段として、UT-mateの一層有効な活用などを検討すること。
○ 地震や停電の発生に際して不測の事態が生じないよう、薬品等の危険物の管理の在り方について、次の点検・管理を徹底すること。
・ 薬品等の破損、漏えいの状況を確認し、危険物は保管庫に移動するなど適切な対応
をとること(環境汚染及び有害物の漏えいがあった場合は、当該部局の環境安全管理
室に報告すること)。
・ 今般の地震により、耐震用ボルトの抜けやねじの緩みなどが生じている恐れがある
ため、棚や実験装置等の転倒防止策の確認を行い、必要な手当てをすること。
・ 停電に備え、再起動等による事故又は障害のある機器への対策を講じること(詳細
は「余震及び停電に備えた研究室等の安全確認について(参考)」(3月16日付け)
参照)。
○ 電力については、引き続き暖房の停止、消灯、大規模な電力を用いる実験・研究の自粛など徹底的な使用抑制に努めること(使用抑制の一部解除及びこれに伴う実験再開の注意については、それぞれ3月24日付けの災害対策本部長代理通知、同25日付けの環境安全本部長通知を参照)。
○ 環境安全研究センターにおいては、使用電力削減のため、廃液の回収・処理を制限しているので、廃液を発生させる実験の実施に当たって留意すること(最新の回収・処理状況は当該センターのウェブサイトを参照)。
○ 停電に伴う警備体制の混乱に乗じた盗難、不法侵入等の発生も想定されることから、防犯に留意し、物品を適切に管理すること。
○ 停電時にエレベーター内に利用者が閉じ込められないよう、計画停電の時間帯のエレベーターの利用中止の注意喚起や運行停止を行うこと。
○ 放射線をめぐる問題については、以下の点に留意すること。
・ 災害対策本部の下、放射線に関する全学的な対応を一元的に行い、必要な指示を発
するので、それを待って適切に対応すること。
・ 災害対策本部では、本学構成員に対する情報提供を逐次発信するので、参照するこ
と(ウェブサイト及び学内ポータルサイトに掲載)。
・ 必要に応じ、諸機関のウェブサイト等を参考にしつつ、正しい知識・情報に基づき、
冷静な行動をとること。
○ 各種の行事・式典・会議等については、安全管理の観点から、各部局の判断により、適切に対応すること。全学の入学式は規模を縮小して挙行するが、各部局の式典についても実情に応じて検討を行うこと。
○ 各部局において、教職員・学生に対して震災対応に関する重要な情報発信を行おうとする場合は、災害対策本部との連絡・相談を適時に行うこと。
2.教職員への対応
○ 計画停電への当面の対応については、「計画停電の実施に伴う交通機関等の影響について」、「短時間勤務有期雇用教職員及び特定短時間勤務有期雇用教職員の非常災害時における出退勤困難の場合の休暇等の取扱いについて」(それぞれ3月14日付け及び16日付けの災害対策本部長通知)に基づき、出勤等への適切な配慮を行うこと(通勤困難者については本学の規則に基づく特別休暇措置(有給)を適用するなど)。その際、各部署における必要な要員の確保について留意すること。
○ 交通事情により、帰宅困難者が発生した場合、当該部局において、必要に応じ、関係施設内での宿泊等の便宜を図ること。ただし、学外の帰宅困難者(関係者を除く)の受入れについては、災害対策本部の指示に従うこと。
○ 被害を受けた教職員等については、職務専念義務の免除に関する特例措置を適切に講ずること(3月25日付け災害対策本部長代理通知を参照)。
○ 不正確な情報を発信し、学内外の不安をいたずらに助長することのないよう、指導を徹底すること。
3.学生への対応
○ 学事日程については、「学事日程に関する対応方針について」(3月25日付け総長通知)に基づき、各部局における教育目標の達成に支障の生じないよう、それぞれの実情に応じて適切に計画し、学生への周知を図ること。その際、学修時間の確保を前提に、授業期間(15週)を弾力的に扱って差し支えないこと。
○ 当面、課外活動は、注意事項を厳守の上、節度をもって行うよう周知を図ること(「課外活動の自粛について【第2報】」(3月25日付け)参照)。
○ 心理的なケアの必要な学生については、実情に応じて専門的な学内相談機関(学生相談所、なんでも相談コーナー、精神保健支援室等)の利用を促すなど、配慮を行うこと(「学生相談ネットワークからのお知らせ」(3月20日付け)参照)。
○ 大学院入学及び学部編入学・学士入学者の入学手続きについては、被災地等の事情に配慮し、手続期間・手続き方法などについて、柔軟かつ適切に対応すること。4月入学予定者からの希望に応じ、適当と判断する場合、10月入学を認めること。
○ 震災に伴い、今後の修学が経済的理由により困難となる学生からの相談は本部奨学厚生課(総合文化研究科、数理科学研究科及び教養学部の学生については教養学部等学生支援課)において対応するので、当該学生に適切な情報提供を行うこと。
○ 留学生については、実情に応じて当該留学生からの報告を求めるなど、動向を適切に把握し、帰国中の留学生に対しては、授業日程等の通知と併せ、今後の見通しについて相談し、学習の継続に向けた配慮を行うこと。
○ 以上の他、3月14日付け文部科学副大臣通知「東北地方太平洋沖地震により被災した学生等への配慮等について」の内容に留意の上、適切に対応すること。
4.その他(救援活動など)
○ 本学独自の義援金(「東北地方太平洋沖地震の被災者救援義援金」、「東京大学被災学生支援等義援金」)について周知を図り、学内外における主体的な協力を促すこと。
○ 被災地の国立大学については、国立大学協会を通じて災害救援物資の供給を行っており、求めがあった場合、積極的な協力に努めること(とりまとめは本部財務課)。
○ 学生・教職員のボランティア活動については、「被災地におけるボランティア活動について」(3月21日付け災害対策本部長通知)に基づき、関係団体の発信する情報を参照し、現地の状況を踏まえた慎重な対応を促すこと(活動に際しては、所定の窓口への届出を求めること)。
○ 他大学学生への対応に関しては、「被災地からの他大学学生の受け入れ要請について」(3月25日付け災害対策本部長通知)に基づき、要請があった場合、速やかに災害対策本部へ連絡・相談を行うこと。
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/pdf/AntiDisaster/Taiou_20110330.pdf

筋肉における新しい糖取り込み調節機構の解明(2011/3/2)
― 肥満に伴う2型糖尿病の病態解明と治療への応用 ―

我が国では、食事の欧米化や運動不足によりメタボリックシンドロームや2 型糖尿病が急増しています。筋肉は人において最大の糖取り込み臓器であり、糖取り込みに障害があると血液中のブドウ糖濃度(血糖値)の調節に影響を及ぼします。そのため、メタボリックシンドロームや2 型糖尿病で認められる筋肉の糖取り込み障害の克服は、大きな課題の1つとなっています。今回、東京大学大学院医学系研究科/医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の門脇 孝教授、窪田直人特任准教授と窪田哲也研究員(独立行政法人国立健康・栄養研究所)のグループは、肥満では血管内皮細胞のインスリン作用(用語解説1)が減弱するために、糖取り込みを促進するインスリンの筋肉への移行が低下し、糖取り込みが障害されていることを発見しました。さらに、この血管内皮細胞のインスリン作用を正常化することにより、筋肉へのインスリン移行や糖取り込みが改善することを明らかにしました(Cell Metabolism誌 3月2日号に掲載予定)。この発見により、肥満に伴う筋肉の糖取り込み障害のメカニズムが明らかとなり、新しいコンセプトに基づく2 型糖尿病治療法の開発につながるものと考えられます。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/release_20110302.pdf
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archives/20110302.html

オゾンとエアロゾル粒子の反応における活性酸素中間体の発見(2011/2/21)
- 大気汚染におけるアレルギー物質の生成に重要な関与 -

発表概要
大気中に浮遊するエアロゾル粒子とオゾンの表面反応において、1分以上存在できる寿命の長い活性酸素中間体が生成していることを発見しました。 この中間体は、がんやアレルギーを引き起こす有害な大気汚染物質を生成し、重大な健康影響を引き起こします。 この長寿命中間体の発見により、10年以上も謎とされてきた、オゾンの表面での吸着時間に関する実験と理論値の間の10億倍ものズレの矛盾を解明しました。

本成果は、東京大学-文部科学省長期海外留学支援制度を利用して、ドイツ-マックスプランク化学研究所(注1)の博士課程に留学中の白岩学とその指導教官であるウルリッヒ ペッシェル研究室長(マックスプランク研究所)らにより得られたものです。 なお、実験はスイスのポール・シェラー研究所のマーカス アンマン博士との共同研究で、放射実験施設を利用して行いました。

発表内容

オゾンがエアロゾル表面に吸着して、活性酸素中間体を生成し、これが多環芳香族炭化水素と反応して発がん性の高い物質が生成されます。

オゾンとタンパク質が反応することで活性酸素中間体が生成し、これがさらに二酸化窒素と反応することでアミノ酸基がニトロ化(NO2の付加)されます。写真の右は、元来の白いたんぱく質ですが、ニトロ化されると左のように黄色くなります。これが人体に取り込まれると、アレルギーを引き起こすことが報告されています。

活性酸素中間体は、大気中での反応や代謝で生成され、大気汚染の健康影響や生理現象への悪影響に大きく関与していると考えられます。

大気中には、車や工場からの排出物や植物などから放出される微粒子からなるエアロゾル粒子が数多く浮遊しています。 これらが人体に取り込まれ、重大な健康被害を引き起こします。大気汚染物質の中で特に有害なのが、不完全燃焼過程やディーゼル車などから大気中に放出される多環芳香族炭化水素(注2)です。 これが肺に取り込まれると、アレルギーや発がんの原因となります。 また、この物質が大気中でオゾンと反応すると、さらに有害性の高い物質へと変質します。 その他、花粉や胞子などの生物起源粒子中のタンパク質も、大気中でオゾンと二酸化窒素と反応し、アレルギー性を大きく向上させる可能性も指摘されています。

このような大気中でのオゾンとエアロゾル粒子の表面反応は、これまで活発に研究されてきました。 この反応過程はオゾンがエアロゾル表面への吸着、そして吸着したオゾンがエアロゾル粒子と反応するプロセスで、ラングミュア-ヒンシェルウッド機構として知られています。 粒子表面でのオゾンの吸着時間は、実験的には約1秒と報告されていますが、量子化学の理論計算ではわずかに約1ナノ秒(10億分の1秒)とされ、この大きな矛盾はこれまで謎とされてきました。

本研究では、オゾンの表面反応において寿命の長い活性酸素中間体(注3)が生成していることを発見し、この大きな矛盾を解明しました。 まず、独自に開発したエアロゾル化学反応モデルを用いて、オゾンが多環芳香族炭化水素の表面において酸素原子と酸素分子に分解し、この酸素原子が粒子の表面に化学吸着して1分以上存在できることを証明しました。 酸素原子の反応性の高さを考えると、これは驚くべき長寿命です。 図1に示すように、この酸素原子は多環芳香族炭化水素を酸化し、キノンという発がん性の高い物質を生成します。

さらに多環芳香族炭化水素とは化学構造が大きく異なるタンパク質粒子の表面においても、オゾンとの反応により長寿命な活性酸素中間体が存在するとの実験的証拠を得ました。 この活性酸素中間体は引き続き二酸化窒素と反応し、タンパク質中のアミノ酸基をニトロ化することも判明しました(図2)。 今回の実験結果は、大気中に浮遊する花粉や胞子などのタンパク質を含む粒子が、スモッグなどの汚染空気塊において、効率よくオゾンと二酸化窒素によってニトロ化(NO2が付加すること)されていることを明らかにしました。

今回我々が見出した長寿命の活性酸素中間体は活性酸素種の部分集合と考えられます。 図3に示すように、大気中では光化学反応や表面反応において活性酸素中間体が生成され、大気汚染物質と反応して人体に有害な物質を生成します。 また、エアロゾル粒子のガスからの二次生成に関与して気候に影響を与えるなどの多様な働きを有します。 一方、生体では代謝などにより生成され、細胞死や老化を引き起こすことが知られています。 活性酸素種は、植物の葉の表面やヒトの肺胞での反応を通して、大気化学反応と生理現象のプロセスを連結しています。

本研究は、2つの点で大きな意義があります。 第一に、今まで実験結果と理論計算の矛盾があった基礎的な化学反応過程を解明した学術的な意義です。 第二に、大気汚染物質の健康影響という観点から、活性酸素中間体がアレルギーやがんの原因物質の生成に大きく寄与するしくみが説明された点です。 今後、この活性酸素中間体が大気中や生体内でどのように生成され、それがどのような化学反応を引き起こすかを明らかにすることで、大気汚染物質による健康影響の解明がさらに進むものと期待されます。
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/press/press-2011-03.html

幼児における複数の脳発達過程(2011/2/14)
1.発表者:
開 一夫(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
森口佑介(上越教育大学大学院学校教育研究科 講師,
独立行政法人科学技術振興機構 研究者)
2.発表概要:
我々は、近赤外分光法(*1)を用いて、幼児の脳機能発達過程には複数のプロ
セスが存在することを世界で初めて突き止めた。具体的には、ある認知課題を
解く際に、発達早期からその課題を解ける子どもは右の下前頭領域(*2)を活動
させるのに対し、発達後期になってからその課題を解けるようになる子どもは
左の下前頭領域を活動させることを、縦断的研究(*3)から示した。
3.発表内容:
これまでの研究から、子どものある認知課題の成績とある特定の脳領域の活
動の強さの間に関連があることが示されている。これらの結果から、研究者ら
は、その特定の脳領域の活動が強くなることで認知課題の成績が向上すると推
測していた。つまり、脳発達において一本道の経路を想定してきた。
我々は、幼児に認知課題を与え、3 歳時点と4 歳時点における下前頭領域の活
動を、近赤外分光法を用いて計測した。その結果、3 歳時点で認知課題を解ける
幼児(グループA)は右の下前頭領域を活動させたのに対して、解けなかった幼
児(グループB)はその領域を活動させなかった(下図3 歳時点)。グループA
の幼児は、4 歳時点では左右両側の下前頭領域を活動させた。一方、グループB
の幼児は、認知課題が解けるようになったが、右側ではなく左の下前頭領域を
活動させた(下図4 歳時点)。つまり、同じ課題においても、早くから解ける子
どもとそうでない子どもの脳の発達プロセスには違いがあるのである。
これらの結果は、幼児の脳の発達には複数の経路が存在することを示してお
り、子どもに対する画一的な教育的関わりでは不十分で、子どもに応じて関わ
りを変える必要性があることを示唆している。
4.発表雑誌:
Developmental Cognitive Neuroscience 電子版
“ Longitudinal development of prefrontal function during early
childhood”
5.注意事項:
特になし
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/pdf/230210_01.pdf
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_230210_01_j.html

ビフィズス菌の作る酢酸がO157感染を抑止することを発見(2011/1/27)
-善玉菌(プロバイオティクス)の作用機構の一端を解明-

ヒトの腸内には、病気の原因となる悪玉菌や健康維持に活躍する善玉菌(プロバイオティクス)など、宿主の生態に影響を与える腸内常在細菌が、宿主の細胞数よりはるかに多い100兆個ほど存在しています。この常在菌叢を積極的に制御して健康を改善させる取り組みが盛んとなり、善玉菌の増殖が悪玉菌の脅威を防ぐ効果を持つことが分かってきています。しかし、その予防効果の作用メカニズムは、謎のままでした。

理研免疫・アレルギー科学総合研究センターの免疫系構築研究チームと東京大学の研究グループは、腸管出血性大腸菌O157の感染を抑止する効果が知られているビフィズス菌が、酢酸を生産し、腸管上皮細胞を保護するため、抵抗性を強めることを、マウスを使った実験で世界で初めて明らかにしました。通常では死に至る、1万個のO157菌を経口投与したマウス実験で、ある種のビフィズス菌(予防株)をあらかじめ経口投与しておくと感染死を防ぐことができます。しかし、予防できないビフィズス菌(非予防株)も存在し、ゲノミクス、トランスクリプトミクス、メタボロミクスを駆使した最新のマルチオーミクス手法で、予防株と非予防株の違いを詳しく調べた結果、予防株だけが腸管上皮に作用し間接的に感染死を防いでいました。具体的には、予防株だけに存在する果糖トランスポーター遺伝子を同定し、予防株が果糖から効率よく酢酸を産生することで腸粘膜上皮を保護することを突き止めました。

今回の成果は、マルチオーミクス手法が複雑な腸内細菌の相互作用の解析に効果のあることを証明しました。これにより、プロバイオティクスの作用メカニズムの全体像を明らかにすることが可能になり、健康増進や予防医学への貢献が期待できます。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110127/detail.html
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110127/index.html

がん転移の原因タンパク質の構造解明(2011/1/17)
発表概要

脂質メディエーターリゾホスファチジン酸(LPA)の産生酵素であるオートタキシン(ATX)がLPAを産生するメカニズムを分子レベルで解明しました。 LPAはGタンパク質共役型受容体に作用し、多岐にわたる細胞応答を引き起こすことで、正常な発生過程における血管形成に必須な酵素タンパク質です。 一方で、がん、動脈硬化、肺線維症、神経因性疼痛など様々なヒト疾患に関与していることが知られており、創薬ターゲットとしても注目されています。 したがって、本研究成果は新規創薬開発の基盤となることが期待されます。 本成果は、「ターゲットタンパク研究プログラム」の一環として濡木理(東京大学大学院理学系研究科 教授)、青木淳賢(東北大学大学院薬学研究科 教授)、高木淳一(大阪大学蛋白質研究所 教授)、西増弘志(東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻 特任助教)により行われたものです。

発表内容
オートタキシン(ATX)は、血中に存在するリゾホスファチジルコリン(LPC)を加水分解し、リゾホスファチジン酸(LPA)を産生する酵素タンパク質です(図1)。 LPAは脂質メディエーターとして注目されているシグナル伝達分子であり、Gタンパク質共役型受容体(注1)であるLPA受容体に作用し、細胞増殖や遊走、創傷治癒、脳神経系の発達・分化、血管形成など様々な生命現象に関わっています。 一方で、元々ATXは悪性腫瘍から分泌され、自身の細胞運動性を促進する因子として発見されたタンパク質であり、実際に乳がん、肺がん、脳腫瘍など様々ながん細胞においてATXの発現が上昇していること報告されています。 また、がん以外にも、動脈硬化、肺線維症、神経因性疼痛など様々なヒト疾患に関与していることも報告されています。 しかし、ATXがLPAを産生する分子メカニズムの詳細はわかっていませんでした。

本研究では、マウス由来のATXと脂肪酸種の異なる5種類のLPAの複合体の立体構造をX線結晶構造解析(注2)によって決定しました(図2)。 その結果、これまで機能がよくわかっていなかったソマトメジンB様ドメイン(注3)とヌクレアーゼ様ドメイン(注4)が触媒ドメインの両側から相互作用し、触媒ドメイン中の疎水性ポケットの構造を安定化していることが明らかになりました。 5種類のLPA複合体構造中で、LPA分子の脂肪酸はそれぞれ異なる形に折れ曲がって疎水性ポケットに結合していることが明らかになりました(図3)。 これらの構造から、ATXが複数種のLPCを基質として切断する分子メカニズムが解明されました。 予想外なことに、活性部位に通じる疎水性チャンネルが存在し、そこに脂質分子が結合していることを発見しました(図4)。 疎水性チャネルを塞ぐような変異体酵素を作製し、解析したところ、LPA産生活性は保持されている一方で、細胞運動性促進活性が著しく低下していることを見出しました。 この結果から、ATXによって産生されたLPAは溶液中に遊離した後にLPA受容体に作用するのではなく、ATXのもつ疎水性チャンネルを通って効率的にLPA受容体へと受け渡されることが示唆されました。 すなわち、ATXはLPA産生酵素としてだけなく、LPA輸送タンパク質としても機能しているというモデルが提唱されました。

ATXはがん、肝硬変、肺線維症などの病態と深く関係することから、世界中の研究グループがATXの阻害剤の開発に取り組んできましたが、ATXの立体構造が不明だったこともあり、治療薬として使用可能な阻害剤は得られていませんでした。 本研究で得られた立体構造情報は、抗がん剤として有望な選択性と親和性に優れた阻害剤開発の基盤となることが期待されます。
発表雑誌
タイトル:Crystal structure of autotaxin and insight into GPCR activation by lipid mediators
(オートタキシンの結晶構造と脂質メディエーターによるGPCR活性化への知見)
著者:西増弘志,奥平真一,濱弘太郎,三原恵美子,堂前直,井上飛鳥,石谷隆一郎,高木淳一,青木淳賢,濡木理
米国科学誌「Nature Structural & Molecular Biology」2011年1月17日(日本時間)付でオンライン版に公開。
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/press/press-2011-02.html

「制がん剤の薬剤耐性を克服するドラッグデリバリーシステム」耐性がん細胞の核に薬剤を効率的にデリバリーするナノスケールのトロイの木馬を開発(2011/1/6)
東京大学は、がん細胞の細胞内環境に応答して内包した抗がん剤を放出するインテリジェント型高分子ミセル*1の開発に成功した。
これは、昨年度より始まった最先端研究開発支援プログラム*2「ナノバイオテクノロジーが先導する診断・治療イノベーション(中心研究者:片岡一則教授、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門)」の一環である。抗がん剤を内包した高分子ミセルは、現在、4種類の製剤が国内外で臨床治験に進んでおり、本邦発のDDS*3製剤として実用化が期待されている。これまでに高分子ミセルは、腫瘍血管の透過性の亢進と未発達なリンパ系の構築によって固形がんに選択的に集積することによって、治療効果の向上と副作用の低減がもたらされることが明らかになっている。本成果は、高分子ミセル型DDSの新たな可能性を示すと同時にその実用化を加速するものと期待される。

用語解説:
*1 高分子ミセル
親水性ポリマー(ポリエチレングリコールなど)と疎水性ポリマー(ポリアミノ酸誘導体など)の2つのブロックから成るブロック共重合体。水中では内側に疎水性ポリマー、外側に親水性ポリマーが拡がった2層構造を持つ球状に自己組織化したもの。
*2 最先端研究開発支援プログラム
平成21年度補正予算によって創設された「研究者最優先」の研究支援制度で、3~5年間、世界のトップを目指した先端的研究を推進し、我が国の中長期的な国際的競争力、底力の強化を図るとともに、研究開発成果の国民及び社会への確かな還元を図ることを目的としている。565人の研究者からの応募がありその中から30人が選ばれた。
*3 DDS 
Drug Delivery Systemの略で、薬物送達システムと訳される。薬の効果を上げ副作用を減らすために、ターゲットとなる細胞や組織だけに薬を到達させ、必要量をタイミングよく放出させるシステム。
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/public/2011/release_20110106.html

薬効かないがんにトロイの木馬 極小カプセル投与法を開発(2011/1/6)
http://www.toonippo.co.jp/news_kyo/news/20110105010008902.asp

新しい不妊のメカニズム発見:細胞内タンパク質DEDDによる子宮微細環境の調節が、着床直後の早期妊娠維持に必要である(2010/12/7)
発表概要:以前から当研究室で機能解析を続けていたDEDD(注1)という細胞内タンパク質が、 子宮脱落膜(注2)の成熟に必須であり、その欠損や機能不全は、胎盤形成前の妊娠早期に胎児を致死に至らしめる。 DEDDは不妊症の診断・治療の新しいターゲットである可能性がある。

発表内容:今日、10-15%の妊娠適齢期の夫婦が不妊に悩んでおり、実にそのうち30-40%の ケースではっきりとした原因が分からないでいる。私たちは今回、DEDDという細胞内たんぱく質を欠損したメスマウス子宮内において、 着床後胎盤が形成されるまでの間に、胎児の成育に重要な脱落膜の成熟が不全となり、その結果、妊娠早期に100%胎児が死亡してしまうことを見出した。 一方DEDD欠損マウスのオスは正常な生殖能力を持ち、またメスも排卵や妊娠に必要なホルモン分泌などに異常は無く、 受精卵の着床そのものは正常であった。この着床後胎盤形成前の期間は、特にヒトにおいてはブラックボックスであり、 その期間における子宮環境の異常が不妊の原因になるのかすら、よく分かっていなかった。 今回、DEDDという単一タンパク質の欠損によって、この期間特異的に子宮環境が異常となり、完全な不妊を導くことから、 いままで原因不明であった不妊症のケースにDEDDが関与している可能性がある。 したがって、今後DEDDは、不妊症の新しい診断や治療のターゲットとして期待できる。 我々は今後、ヒト不妊症患者の子宮組織やゲノムの解析を行い、DEDDに不全がないか調べる予定である。

発表雑誌:The Journal of Clinical Investigation 1月発行号
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/press.html

糖尿病におけるインスリン分泌低下のメカニズムを解明   ― 2型糖尿病治療の新規治療法に直結する発見 ―(2010/12/2)
現在、我が国で890万人の患者がいるといわれている2型糖尿病は、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの量が減少して、 全身でインスリン作用が低下し、血糖値が上昇する病気です。 今回、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の植木浩二郎准教授らは、インスリンの作用はβ細胞自身においても重要であり、 インスリンによって活性化されるPI3Kがインスリンの分泌を調節する鍵分子であることを解明しました。
β細胞だけでPI3Kを働かなくしたマウスでは、インスリンの分泌を調節する様々な蛋白の量が低下し、 ブドウ糖に反応して分泌されるインスリンの量が低下しました。一方、PI3Kの働きを回復させると、インスリンの分泌も回復しました。 また、肥満糖尿病(メタボ型)のマウスでもPI3Kの量や働きが低下しており、インスリンの分泌が減少していました。 これらのことから、PI3Kの働きを強める作用があるインスリンの分泌が低下するとβ細胞でのインスリンの作用が弱くなり、 PI3Kの働きが悪くなって、ますますインスリンの分泌が低下するという悪循環に陥っていることが分かりました。 β細胞でのPI3Kの働きを高める薬物が、この悪循環を断ち切る糖尿病治療薬として期待されます。
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/pr_20101202.pdf

糖尿病におけるインスリン分泌低下のメカニズムを解明(2010/12/2)
―2型糖尿病治療の新規治療法に直結する発見―

現在、我が国で890万人の患者がいるといわれている2型糖尿病は、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの量が減少して、全身でインスリン作用が低下し、血糖値が上昇する病気です。今回、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の植木浩二郎准教授らは、インスリンの作用はβ細胞自身においても重要であり、インスリンによって活性化されるPI3Kがインスリンの分泌を調節する鍵分子であることを解明しました。

β細胞だけでPI3Kを働かなくしたマウスでは、インスリンの分泌を調節する様々な蛋白の量が低下し、ブドウ糖に反応して分泌されるインスリンの量が低下しました。一方、PI3Kの働きを回復させると、インスリンの分泌も回復しました。また、肥満糖尿病(メタボ型)のマウスでもPI3Kの量や働きが低下しており、インスリンの分泌が減少していました。これらのことから、PI3Kの働きを強める作用があるインスリンの分泌が低下するとβ細胞でのインスリンの作用が弱くなり、PI3Kの働きが悪くなって、ますますインスリンの分泌が低下するという悪循環に陥っていることが分かりました。β細胞でのPI3Kの働きを高める薬物が、この悪循環を断ち切る糖尿病治療薬として期待されます。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/release_20101130.pdf
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archives/20101202.html

粘液中での酵素反応が匂いの感覚に影響を与えることを発見(2010/12/2)
匂い物質が嗅粘液(注1)中で酵素変換される現象を見出し、この反応が匂い知覚にも影響を与えることを明らかにした。

鼻腔内に入った匂い物質は、嗅粘液に溶け込み、嗅覚受容体(注2)に結合し、嗅神経細胞を活性化することで匂いとして知覚されます。つまり、嗅粘液への溶け込みは匂い受容の最初のステップであると言えます。近年、我々の研究グループは、いくつかの嗅覚受容体に関して、生体レベルでの匂い応答と培養細胞系での匂い応答を比較すると、応答特性に違いがあることを見出しました(Oka et al. Neuron 52 : 857-869)。また、マウス生体において嗅粘液を除去すると、ある匂い物質に対する嗅神経細胞の応答強度が増大することから、嗅粘液が個体レベルでの匂い知覚に影響を与えることが示唆されていました。今回我々は、嗅粘液中の酵素が匂い物質を変換する現象を発見し、匂い応答への影響を嗅神経レベル、行動レベルで明らかにしました。

まず、マウス嗅粘液には、アルデヒドやアセチル基を持つ匂い物質を代謝する酵素活性があることを見出しました。また、マウスに匂いをかがせた後に嗅粘液を採取すると、酵素反応によって生成したと考えられる匂い物質が検出されました。したがって、吸気とともに鼻腔内に取り込まれた匂い物質が、嗅粘液中で酵素変換されることが生理的条件下で示されました。次に、嗅覚系の一次中枢である嗅球において、酵素反応の阻害剤処理前後で、匂いに応答した糸球体(注3)の分布パターンを比較しました。その結果、嗅粘液中で変換を受ける匂い物質に対する応答パターンは、阻害剤処理前後で異なりました。したがって、嗅粘液中の酵素反応は、匂い物質が嗅覚受容体に到達するよりも前に起きていることが示唆されました。最後に、変換を受ける匂い物質に対する知覚が、酵素反応の阻害剤処理前後で変化するか検証しました。マウスに匂いと報酬を対応づけて学習させた後、阻害剤処理を行った結果、マウスは嗅粘液中で酵素変換反応を受ける匂いを識別しにくくなることが明らかになりました。

本研究で、嗅粘液に溶け込んだ匂い物質の一部はすばやく酵素変換されており、この反応は活性化される嗅覚受容体の組み合わせと匂い知覚に影響を与えることがわかりました。匂いの種類によっては、その匂いを純粋に感じているのではなく、その匂いと酵素代謝物の混合物を感じているという驚くべき発見です。本来、嗅粘液内の酵素は、外界からやってきた匂いや有害物などを分解したり除去したりするために存在すると思われますが、その反応が早い故に、匂いの知覚にも影響をあたえていたのです。酵素の量は、年齢、性、人種、体調によって異なることもあるでしょうから、その違いによって匂いの感じ方にも違いがでる可能性もあります。つまり、今回の結果は、我々がとらえている匂いの世界の少なくとも一部が、嗅粘液というフィルターを通してつくられているという新しい知見を提唱しています。
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics101202.html

pH感受性GPCR受容体を高発現するガン細胞の成長が早いことを発見(2010/9/22)
広報・プレスリリース最新情報(2010年(平成22年))
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新しい不妊のメカニズム発見:細胞内タンパク質DEDDによる子宮微細環境の調節が、着床直後の早期妊娠維持に必要である
発表概要:以前から当研究室で機能解析を続けていたDEDD(注1)という細胞内タンパク質が、 子宮脱落膜(注2)の成熟に必須であり、その欠損や機能不全は、胎盤形成前の妊娠早期に胎児を致死に至らしめる。 DEDDは不妊症の診断・治療の新しいターゲットである可能性がある。

発表内容:今日、10-15%の妊娠適齢期の夫婦が不妊に悩んでおり、実にそのうち30-40%の ケースではっきりとした原因が分からないでいる。私たちは今回、DEDDという細胞内たんぱく質を欠損したメスマウス子宮内において、 着床後胎盤が形成されるまでの間に、胎児の成育に重要な脱落膜の成熟が不全となり、その結果、妊娠早期に100%胎児が死亡してしまうことを見出した。 一方DEDD欠損マウスのオスは正常な生殖能力を持ち、またメスも排卵や妊娠に必要なホルモン分泌などに異常は無く、 受精卵の着床そのものは正常であった。この着床後胎盤形成前の期間は、特にヒトにおいてはブラックボックスであり、 その期間における子宮環境の異常が不妊の原因になるのかすら、よく分かっていなかった。 今回、DEDDという単一タンパク質の欠損によって、この期間特異的に子宮環境が異常となり、完全な不妊を導くことから、 いままで原因不明であった不妊症のケースにDEDDが関与している可能性がある。 したがって、今後DEDDは、不妊症の新しい診断や治療のターゲットとして期待できる。 我々は今後、ヒト不妊症患者の子宮組織やゲノムの解析を行い、DEDDに不全がないか調べる予定である。

発表雑誌:The Journal of Clinical Investigation 1月発行号

問い合わせ先:東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター
           分子病態医科学部門 教授 宮崎徹
           研究室HPはこちら

(2010/12/7掲載)

関節疾患総合研究講座 開発の膝関節診断支援ソフトKOACADが
  Microsoft Innovation Award 最優秀賞を受賞
  ― 変形性関節症の統合研究プロジェクトROADスタディの成果 ―
東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター 関節疾患総合研究講座の岡敬之(助教)が株式会社イノテックと合同で開発した膝関節診断支援ソフトKOACADが、 Microsoft Innovation Award 2010 最優秀賞を受賞しました。 同センターで行っている変形性関節症の統合研究プロジェクトROAD(Research on Osteoarthritis Against Disability)スタディの成果です。 このソフトウェアは、健康に大きな影響を与えて社会問題にもなっている変形性膝関節症のレントゲン上での全自動診断に、世界に先駆けて成功したものです。 医療ソフトでは初めての受賞で、12月2日のMicrosoft Innovation Day(東京、九段)で発表されました。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  リリース文書[PDF: 130KB]

(2010/12/3掲載)

糖尿病におけるインスリン分泌低下のメカニズムを解明
  ― 2型糖尿病治療の新規治療法に直結する発見 ―
現在、我が国で890万人の患者がいるといわれている2型糖尿病は、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの量が減少して、 全身でインスリン作用が低下し、血糖値が上昇する病気です。 今回、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の植木浩二郎准教授らは、インスリンの作用はβ細胞自身においても重要であり、 インスリンによって活性化されるPI3Kがインスリンの分泌を調節する鍵分子であることを解明しました。
β細胞だけでPI3Kを働かなくしたマウスでは、インスリンの分泌を調節する様々な蛋白の量が低下し、 ブドウ糖に反応して分泌されるインスリンの量が低下しました。一方、PI3Kの働きを回復させると、インスリンの分泌も回復しました。 また、肥満糖尿病(メタボ型)のマウスでもPI3Kの量や働きが低下しており、インスリンの分泌が減少していました。 これらのことから、PI3Kの働きを強める作用があるインスリンの分泌が低下するとβ細胞でのインスリンの作用が弱くなり、 PI3Kの働きが悪くなって、ますますインスリンの分泌が低下するという悪循環に陥っていることが分かりました。 β細胞でのPI3Kの働きを高める薬物が、この悪循環を断ち切る糖尿病治療薬として期待されます。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  リリース文書[PDF: 150KB]

(2010/12/2掲載)

医学系研究科 三品昌美 教授が紫綬褒章を受章
この度、医学系研究科機能生物学専攻 分子神経生物学分野の三品昌美教授が、秋の褒章で紫綬褒章を受章しました。 これは医学研究の発展への貢献が評価されたことによるものです。

三品教授は脳科学の分野において、代表的な神経伝達物質受容体であるアセチルコリン受容体とグルタミン酸受容体の多様性と 構造および機能を明らかにし、脳神経系の情報伝達と可塑性を分子レベルで解明しました。 さらに、グルタミン酸受容体が脳の発達や記憶・学習などの脳高次機能の基盤となっていることを明らかにし、 分子レベルから神経細胞の機能と脳の高次機能を理解しようとする統合的な脳研究の推進に先駆的な貢献をしました。
また、本研究科機能生物学専攻長及び医科学専攻長、平成21年度からは附属疾患生命工学センター長を兼務するなど、 本研究科の管理・運営にも力を注いできました。
研究の詳細については、三品研究室の下記ホームページをごらんください。
http://www.pharmacol2.m.u-tokyo.ac.jp/index.html

なお、東京大学大学院医学系研究科・医学部に現在在籍中の以下の教授が、過去に紫綬褒章を受章しています。

   宮下 保司 (機能生物学専攻 統合生理学 平成16年 秋)
   永井 良三 (内科学専攻 循環器内科学 平成21年 春)
   宮園 浩平 (病因・病理学専攻 分子病理学 平成21年 秋)
   門脇  孝 (内科学専攻 代謝・栄養病態学 平成22年 春)

                                 東京大学大学院医学系研究科・医学部
(2010/11/2掲載)

東大病院、小児入院患者の付き添い家族の滞在施設を招致
  ― 世界300 ヶ所の「ドナルド・マクドナルド・ハウス」が東大本郷キャンパス内に来年完成 ―
東京大学医学部附属病院と公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンは、 東大本郷キャンパス内に、遠方から入院する子どもに付き添う家族が利用できる滞在施設 「ドナルド・マクドナルド・ハウス 東大」を建設し、2011 年秋に開設を予定しています。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  リリース文書[PDF: 130KB]

(2010/10/7掲載)

pH感受性GPCR受容体を高発現するガン細胞の成長が早いことを発見
この度、東京大学医学系研究科長 清水孝雄教授のグループはTDAG-8(T-cell death associated protein)という7回膜貫通得型Gタンパク共役型受容体が肺ガンなどの組織に発現し、 細胞外の環境が酸性になると増殖を促進することを発見しました。一般に腫瘍組織では細胞の増殖が速く、このため、酸素補給が間に合わなかったり、 間に合っても「ワールブルグ効果」により周囲組織はpH5程度の酸性になると考えられています。この様な条件では多くの細胞は死んでしまうのが普通ですが、 この遺伝子を発現していると酸性pHを認識し、それを細胞内シグナル伝達に変え、むしろ細胞増殖を促進します。人でもいくつかのガン細胞がこの遺伝子を発現しており、 TDAG8拮抗薬が副作用を持たず新しい概念の癌治療薬になることが期待されます。本研究は現在米国留学中の井原裕一朗大学院生と現秋田大学教授の石井聡教授との共同研究で、 米国科学アカデミー紀要の9月20日のオンライン版に発表されました。
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/20100922.pdf

自閉症の新たな治療につながる成果   ― 世界初 自閉症に関わる脳の体積変化および自閉症の候補遺伝子との関連を解明 ―(2010/9/14)
自閉症は、相手や場の状況に合わせた振る舞いができないといった対人コミュニケーションの障害を主徴とする代表的な発達障害です。 この障害の原因や治療法は未確立で、高い知能を有する人でも社会生活に困難をきたすことが多い現状にあります。
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野の准教授 山末英典、教授 笠井清登らのグループは、ヒトの脳部位のうち 他者への協調や共感に関わる下前頭回弁蓋部と他者の感情の理解に関わる扁桃体について調べ、下前頭回弁蓋部の 体積減少が自閉症の対人コミュニケーションの障害に関与すること、さらに扁桃体の体積の個人差が自閉症に関わる オキシトシン受容体遺伝子のタイプに関連していることを、いずれも世界で初めて明らかにしました。 今回の研究成果は、自閉症の原因や仕組みの解明に遺伝子や脳体積のレベルから貢献し、 近年注目されるオキシトシンによる治療の可能性を支持するものです。 (科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業 CREST」および文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム - 社会的行動を支える脳基盤の計測・支援技術の開発-」による成果)
これらの成果は2編の論文として、日本時間 9月2日および9月11日に米国Biological Psychiatry誌オンライン版にて発表しました。
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/pr_20100914.pdf

孤発性筋萎縮性側索硬化症のモデルマウスの開発   ― グルタミン酸受容体のポストゲノム修飾(RNA編集)の缺陥 ―(2010/9/9)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンを選択的に侵す、原因不明かつ治療法のない致死性の神経変性疾患で、 病因解明・治療法開発が強く望まれています。私たちは、ALS患者全体の90%以上を占める孤発性ALSの変性運動ニューロンの解析から、 グルタミン酸受容体に本来生ずべきRNA編集が不十分であることを見出したことに基づき(Nature 427:801,2004)、 この分子変化を再現するRNA編集酵素ADAR2遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスを開発しました。 その結果、ADAR2の活性低下に伴うグルタミン酸受容体の分子変化が運動ニューロン死の直接原因であることを証明しました (米国神経科学会機関雑誌Journal of Neuroscienceに発表)。 この研究は、孤発性ALS患者に見出された疾患特異的分子異常が運動ニューロン死の直接原因であることを証明したものであり、 孤発性ALSの分子病態を反映した疾患モデル動物として世界でも初めてのものです。 ALSの治療法開発にとり治療標的が特定できたと共に、治療効果の判定のために有用性が高い疾患モデル動物であると期待されます。
なお、本研究成果は、Journal of Neuroscience(9月8日号、30巻 頁11917-11925)にて発表されました。
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/pr_20100909.pdf

片頭痛の新たな原因遺伝子を発見   ―神経興奮制御因子として働くナトリウム・重炭酸共輸送体NBCe1―(2010/8/24)
片頭痛はありふれた疾患で全人口の約10%程度に発症します。発作の間は日常生活に著しい支障が生じる場合がある上に、 発作の予防が難しい病気です。片頭痛の原因として環境的な要素に加え遺伝的な要素が強いことが知られていますが、 今まで家族性片麻痺性片頭痛という稀な疾患で3種類の原因遺伝子が同定されていただけでした。 この度、当院腎臓内分泌内科講師 関常司とベルギーのガストフイスベルグ大学 教授ヴィム・ファンペッシェンらのグループは、 腎臓・眼・脳などで発現しナトリウムイオンと重炭酸イオンを一緒に運ぶ輸送体であるNBCe1 の遺伝子変異による機能低下が 片頭痛を起こすことを発見しました (米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences USA」オンライン版Early Edition にて 米国東部時間8月23日の週に発表)。 この発見は脳内のpH調節機構の異常により片頭痛が発症することを初めて明らかにしたもので、 片頭痛発症機序の解明や新たな治療法の開発につながることが期待されます。
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/20100824-1.pdf

インスリン分泌を起こす蛋白の構造変化の解明(2010/7/7)
1.記者発表タイトル:「インスリン分泌を起こす蛋白の構造変化の解明」

2.発表日時: 2010年7月1日(木) 14:00 ~15:00

3.発表場所: 東京大学医学部教育研究棟13階 第8セミナー室

4.発表者:
東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 構造生理学
特任講師 高橋倫子 (たかはし のりこ)
教授 河西春郎 (かさい はるお)

5.発表概要:
インスリン分泌は糖尿病の成因に深くかかわる。われわれは、分泌に重要なSNARE蛋白の構造変化を、生きた膵ランゲルハンス島の内部で実時間観察することに初めて成功した。2010年7月7日号のセルメタボリズム誌に発表する

6.発表内容:
我々は、インスリン分泌(※注1)にかかわる蛋白の動きを、生きた膵ランゲルハンス島の内部で実時間観察することに初めて成功し、分泌の直前に構造が変化することを見出した。
インスリンは脊椎動物の身体で糖代謝や成長にかかわる、重要なホルモンである。このホルモンが適切に分泌されないと、糖尿病が誘発される。糖尿病は遺伝的素因と環境因子が重なり合わさって発症する疾患で、我国においては現在予備群を含め2000万人以上の人々が罹患している。放置すると、人生の質に関わる視力低下や神経障害・腎機能不全などを起こすので、その根本的な治療法の確立は急務である。
インスリンは膵ランゲルハンス島の大部分を占めるβ細胞から分泌される。一般に、「SNARE蛋白」(※注2)は、ペプチドホルモンの分泌や神経伝達物質の放出において作用する中核分子と考えられている。SNARE蛋白はβ細胞にも発現し、その生化学的な性質が旧来調べられてきた。しかし、実際の分泌に、この蛋白がどのように関与するかは、いかなる分泌組織標本でも明らかになっていなかった。
我々は、2光子励起画像法(※注3)の特殊な光化学的特性(同時多重染色性)
と、新規に開発した蛍光プローブを応用し、分泌にかかわるSNARE蛋白(SNAP25)の構造変化をしらべた(図1)。そして、分泌現象に関連付けて、生細胞で解明する事にはじめて成功した。その結果、β細胞の中には、SNARE蛋白のあらかじめ複合化した領域と、非複合領域の有ることが判明した(図2)。複合化した領域からは、速い分泌が誘発された。また、複合化していない領域からは、分泌の直前に複合化を起こし、分泌を誘発することが明らかになった。
このように我々は、細胞の極性を保った組織内部で、インスリンの分泌を起こす蛋白の構造変化を解析する実験系を確立した。本手法は他の組織標本においても応用可能である。今後病態生理を考察する上で、従来ない威力を発揮するものと考えられる。当研究は2010年7月7日付の米国科学誌セルメタボリズム誌に掲載される。

7.発表雑誌:
Cell Metabolism 誌(7月7日発刊予定)
"SNARE Conformational Changes that Prepare Vesicles for Exocytosis.
Takahashi N. et al.

8.注意事項:
日本時間 7月7日午前1時以降に報道可能となります

9.問い合わせ先:
東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 構造生理学
特任講師 高橋倫子

10.用語解説:
注1 インスリン:血糖の調節や生体の成長・代謝に重要なホルモン。
注2 SNARE蛋白:インスリンは分泌顆粒内部に蓄えられており、顆粒の膜と細胞膜が融合する事により、内容物は放出される。膵島では、これらの膜同士の融合にSNARE蛋白(SNAP25,Syntaxin1,VAMP2の3種蛋白)が関与する。
注3 2光子励起画像法:赤外超短パルスレーザーを光源に用いる画像法。生体深部の微細構造の可視化に適し、多種の蛍光シグナルを同時に取得できる。
注4 蛍光エネルギー移動(FRET)(添付資料内の注4):適切な組合せの二種類の蛍光色素分子が接近すると(-5 nm)、色素間でエネルギーが移動して、発せられる蛍光波長が変わる現象。分子間の結合や構造変化の実時間解析に用いられる。
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/pdf/220707.pdf

メスマウスの交尾受け入れ性行動を促進するオスフェロモンの発見(2010/7/1)
発表概要

メスマウスの交尾受け入れ行動を促進するオスフェロモン(注1)を発見し、その作用機構に関して、分子、細胞および神経回路レベルで明らかにした

発表内容

動物の交尾行動には、同種の異性から分泌される「性フェロモン」が重要な役割を果たします。例えば、ある種の性フェロモンは異性を誘引して自分の元へと引き寄せたり、脳内分泌系に作用して発情を促したりします。しかしながら、哺乳類において交尾行動を促進するフェロモンの分子実体は、未だ明らかにされていませんでした。

マウスにおいて性フェロモンは、主に鋤鼻器官(注2)で受容されることが示唆されています。近年、我々の研究グループは、性成熟したオスマウスの眼窩外涙腺に特異的に発現するペプチドESP1(注3)を発見しました(Kimoto et al. Nature 437 : 898-901)。また、自由行動下のメスマウスをESP1に曝すと、鋤鼻器官の感覚神経の活性化が引き起こされたことから、ESP1は鋤鼻器官を介してはたらく性フェロモンであることが強く示唆されていました。今回我々は、ESP1の作用機構を受容体(注4)、神経回路、行動レベルで明らかにし、 ESP1が性フェロモンであることを実証しました。

まず、ESP1の受容体を探索したところ、七回膜貫通型Gタンパク質共役受容体ファミリーの中のV2Rp5という1種類のタンパク質が特異的にESP1を受容することが明らかとなりました。次に、ESP1で活性化される神経回路を解析すると、V2Rp5発現鋤鼻神経で受容されたESP1の情報は脳へと伝達され、メスの視床下部(注5)を活性化しました。視床下部は、交尾行動の調節によって動物の生殖行動を直接的に、あるいは脳内分泌系を介した発情の調節によって間接的に制御することが知られています。そこで、ESP1の刺激がメスの交尾行動に与える影響を解析しました。その結果、ESP1を提示していないメスに比べて、ESP1を提示したメスでは「ロードシス」という性行動を示す頻度が約5倍高くなりました。ロードシスは、交尾の際にオスをより受け入れやすくするため、反射的に背中を反らすようメスに本能的にそなわっている体勢です。実際に、オスがペニスを挿入する確率もESP1を提示したメスで上昇するのが観察されました。また、ESP1受容体のV2Rp5遺伝子を欠損させたメスにESP1を提示したところ、ロードシスの促進は見られなくなりました。興味深いことに、オスにおけるESP1の分泌量はマウスの系統によって異なっていました。そこで、ESP1を分泌するオスと分泌しないオスに対するメスの交尾行動を観察してみたところ、メスはESP1を分泌するオスに対して、よりロードシス体勢を示しました。また、実験用に人間が飼育してきたマウス系統では ESP1を分泌する系統は少数でしたが、野生マウス由来系統ではほとんどの系統でESP1を分泌していることがわかりました。これは、実験用マウスに比べて、野生マウスにおいてESP1の発現が子孫の存続に有利であることを示唆しています。すなわち、小さなケージで飼育されてきた実験用マウスに比べて、野生環境においては交尾の機会は著しく限られるため、ESP1を介した生殖効率の上昇が重要であると解釈できます。

このように、本研究では、哺乳類の性フェロモンの分子実体とその作用機構を、世界ではじめて明らかにしました。この研究で得られた成果は、動物の行動制御という応用的側面での利用が期待されますが、その一方で、「脳に対するある特定の刺激と応答(行動や内分泌変化)は、どのような神経回路を介しているのか」という神経科学における基礎的課題に対しても、理想的なモデル系を我々に提供してくれると考えられます。

発表雑誌

雑誌:Nature
著者:Sachiko Haga, Tatsuya Hattori, Toru Sato, Koji Sato, Soichiro Matsuda, Reiko Kobayakawa, Hitoshi Sakano, Yoshihiro Yoshihara, Takefumi Kikusui and Kazushige Touhara
題名:The male mouse pheromone ESP1 enhances female sexual receptive behavior through a specific vomeronasal receptor
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics100701.html

2009年度 大学・研究機関 特許資産規模ランキング、広島大学が7位に急浮上(2010/5/31)
株式会社パテント・リザルトはこのほど、「2009年度 大学・研究機関 特許資産の規模ランキング」を集計いたしました(※1)。このランキングの特徴は、特許の注目度を指数化する「パテントスコア」を用いることで、単純な件数比較では見られない、質的な観点を取り入れた評価を行っている点にあります。各大学・研究機関が保有する特許資産の強さを、質と量の両面から総合的に評価しました。

 これによると、上位3機関は1位 産業技術総合研究所(産総研)、2位 科学技術振興機構(JST)、3位物質・材料研究機構(物材機構)と前年と同じでした。これらの機関は保有特許件数が多く、「量」の面で4位以下との差を付けています。ただし、1件当たりで見るとこれら3機関の得点は高くなく、注目度の低い特許も多いことが伺えます。
 最も順位を上げたのは、7位の広島大学です。同大学の保有特許件数は、137件と必ずしも多くはありませんが、質の面で得点を上げ、上位にランクインしました。同大学の注目度の高い特許には、「データの保持特性が高い半導体メモリ」に関する技術や「高効率のデータ圧縮処理」に関する技術、「癌細胞の増殖を抑制する方法」に関する技術などがあります。 
 このほか、10位の九州大学、17位の東京大学などが、昨年度から大きく順位を上げました。
 上位20機関中で1件当たりの特許資産の規模が最も高いのは九州大学、次いで、岡山大学、東北テクノアーチとなっています。

【大学・研究機関 特許資産規模ランキング】
下記URL参照
【大学・TLO 特許資産規模ランキング】
下記URL参照

(※1)【ランキングの集計について】
 特許資産の規模とは、各大学・研究機関などが保有する有効特許を資産としてとらえ、その総合力を判断するための指標です。有効特許1件ごとに特許の注目度を評価する「パテントスコア」を算出した上で、スコアの高低が明確になるように重み付けを行い、それに特許失効までの残存期間を掛け合わせて、各機関ごとに合計得点を集計しています。パテントスコアの算出には、特許の出願後の審査プロセスなどを記録化した経過情報を用いています。経過情報には、出願人による権利化に向けた取り組みや、特許庁審査官による審査結果、競合出願人によるけん制行為などのアクションが記録されており、これらのデータを指数化することで、出願人、審査官、競合出願人の3者が、それぞれの特許について、どれくらい注目しているかを客観的に測ることができます。2010年3月末時点において有効特許を1 件以上保有している大学・研究機関を対象に集計しました。
http://www.patentresult.co.jp/news/2010/05/20097.html

遺伝子キャリア(運搬体/担体)として好適なポリマーミセルに関する物質特許が 米国と日本国において登録査定を受けました。(2010/5/24)
国立大学法人東京大学から当社が独占的ライセンス契約を受ける出願特許について、米国特許庁と日本国特許庁から登録査定を受けました。これにより、遺伝子キャリアに好適なポリマーミセルに関する物質特許が、米国と日本国にて成立する運びとなりました。

【発明の名称】 ポリエチレングリコール-ポリカチオンブロック共重合体
【出願番号】 US10/556058、JP2003-315858
【特許権者】 国立大学法人東京大学

本特許発明は、東京大学の片岡一則教授のグループが開発したカチオン性(プラスに荷電)のポリアミノ酸誘導体からなるポリマーミセル型キャリアに関するもので、マイナスに荷電した遺伝子と高分子イオン複合体を形成し、ナノサイズのミセル粒子とする技術です。
当社は、本特許発明の国内外における再実施許諾権を有しており、2009年12月21日発表の通り、日油株式会社へ「機能性タンパク質を発現する遺伝子を使用した遺伝子治療分野*」を対象とした再実施許諾権付き独占的権利を許諾しております。

本特許は、日油株式会社との関係をより強固にすると共に、当社が推進する高分子ミセルの開発を優位にするものです。今後も特許戦略の強化を基に研究開発を進めてまいります。

日油株式会社 URL: http://www.nof.co.jp
ドラックデリバリー用素材および処方の開発、販売を行う企業であり、遺伝子治療分野に適用可能な新規技術の探索を行っています。
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?template=announcement&sid=4828&code=4571

特定の糖転移酵素を選出し、小胞体からゴルジ体に運ぶ、新たなアダプターの発見(2010/5/12)
発表概要

ゴルジ体で働く幾つかのマンノース転移酵素は、小胞体から特異的に選択され運び出されるが、それにはSvp26という私たちの発見した膜タンパク質が働いていることを明らかにした。

発表内容

タンパク質は、リボソームで合成されて構造を整えたのち、正しい場所に移行することにより、初めて正常な機能を果たします。なかでも分泌型と呼ばれる一群のタンパク質は、まず膜を越えて小胞体と呼ばれる袋の中に入り、ゴルジ体を経由して、細胞外に分泌されたり、特定の細胞内常駐部位に運ばれたりします。ゴルジ体は、これらのタンパク質を糖鎖で修飾したり、正しい大きさに切断したり、行先を仕分けたりする機能を担います。ゴルジ体で働く糖転移酵素が数多い分泌型タンパク質の中からどのように選び出されるか、これまで明らかでありませんでした。私たちが精製したゴルジ体から発見していた新しい膜タンパク質Svp26が、Ktr3, Mnn2, Mnn5という特定のマンノース転移酵素と小胞体で結合して、輸送のためのCOPII小胞(注1)に選択的に積込むアダプターであることを、最近の研究で明らかにしました。

Svp26をもたない酵母変異株では、ゴルジ体で行われるタンパク質糖鎖の修飾が異常になることが分かっていました。まず、この変異株で、上記のマンノース転移酵素の多くがゴルジ体に運ばれず、小胞体に蓄積してしまうことを、免疫染色した酵素タンパク質の顕微鏡観察や細胞内容物の分画により、明らかにしました。細胞膜を溶かしてタンパク質を特異的に免疫沈降する実験で、これらのマンノース転移酵素とSvp26が結合する性質があることが分かりました。小胞体からタンパク質を運び出すCOPIIという小胞の形成を、無細胞実験系で再現して調べると、Svp26そのものが効率よくCOPII小胞に取り込まれる膜タンパク質で、これと結合するマンノース転移酵素も、Svp26が共存するときのみ効率的に同じ小胞に取り込まれました。すなわち、Svp26 は小胞体にある多数のタンパク質の中から、一群のマンノース転移酵素を結合性によって選別し、自らと一緒にゴルジ体に送り出すアダプターの役目をしていたのです。

マンノース転移酵素は、細胞質にある部分・膜に埋まった部分・膜で囲まれた内側にある部分がつながった、Ⅱ型と分類される一回膜貫通型の膜タンパク質です。小胞体からの搬出がSvp26により促進されるマンノース転移酵素と、そうでないマンノース転移酵素のあいだで、これらの部分領域を交換したタンパク質の性質を調べることにより、Svp26が結合する認識領域は、膜で囲まれた内側にあたる領域であることも分かりました。この領域はマンノース転移酵素の活性を担う領域でもあることから、Svp26との結合は、タンパク質の選別の他に、酵素活性を制御する働きもある可能性が高くあります。Svp26をもたない酵母変異株の示す糖鎖修飾異常は、この制御が失われた結果と予想されます。

発表雑誌
<表題>
Svp26 Facilitates Endoplasmic Reticulum to Golgi Transport of a Set of Mannosyltransferases in Saccharomyces cerevisiae.
<著者名>
Yoichi Noda and Koji Yoda
<公表雑誌>
Journal of Biological Chemistry, 285巻 (20号), 15420ページ-15429ページ (2010年3月17日電子版掲載、2010年5月14日刊行。)
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/yoda100512.html

ラブレ菌特有の消化液耐性機構の考察 ~ゲノム情報と菌体成分の両面から~(2010/3/25)
-カゴメ、麻布大学、東京大学、畜産草地研究所の共同研究-

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須塩原市)、麻布大学(神奈川県相模原市)、東京大学(千葉県柏市)および畜産草地研究所(茨城県つくば市)は、Lactobacillus brevis KB290(以下、ラブレ菌)が示す高い消化液耐性について、共同で研究を進めてきました。その結果、この耐性に関わる可能性を持つ特徴的な遺伝子と菌体成分を発見いたしました。
 なお、本研究内容は日本農芸化学会2010年度大会(3月27~30日、東京大学)において発表いたします。

■研究者のコメント
 ヒトの健康維持、増進に寄与する乳酸菌がその効果を発揮するためには、生きて腸まで届くことが重要です。そのためには、胃液や腸液といった消化液中でも生きぬく力を持つことが不可欠です。ラブレ菌は人工消化液に対する耐性が高く、実際にヒトの腸内で生きぬくことが確認されています。本研究では、ラブレ菌の遺伝子および菌体成分を解析することで、人工消化液耐性に関わる可能性を持つ、特徴的な遺伝子と菌体成分を見出しました。

■研究の背景
 ラブレ菌は試験管内でヒトの消化管を模したモデルによる試験で、人工消化液に対する耐性が高く、腸で生きぬく力に優れている可能性をもった乳酸菌であることが示されており、さらに、ヒトに対して整腸作用や免疫賦活作用を持つことが明らかになっています。一方、ラブレ菌の自然突然変異株が取得されており、この株はラブレ菌に比べて人工消化液に対する耐性が低いことが確認されています。そこで、ラブレ菌と変異株の2菌株をゲノム情報、および菌体成分の両面で比較することで、人工消化液耐性に関わる因子が推定できると考え、研究を行いました。
http://www.kagome.co.jp/research/summary/100325_02/index.html

ダハプラチン誘導体ミセル(NC-4016)に関する製法特許が 米国において登録査定を受けました(2010/3/3)
この度、当社は米国特許庁よりダハプラチン誘導体ミセル(NC-4016)に関する製法特許の登録査定を受けました。これにより、米国にて特許が成立する運びとなりました。本特許は、2009年10月に発表しました欧州で登録査定を受けた物質特許とは異なる、製造方法に関する特許です。これにより、登録査定国は、ロシアと米国の2カ国となり、審査・移行中が日本を含む7カ国となっております。NC-4016は当社から Debiopharm S.A.(スイス)に日本を除く全世界における再実施権* 付きの独占実施権を許諾しており、現在、臨床第Ⅰ相試験を欧州にて実施中です。

【発明の名称】 白金錯体のポリマー化配位化合物の製造方法
【出願国】 米国(US)
【出願番号】 11/921784
【特許権者】 ナノキャリア株式会社/国立大学法人東京大学

進行・再発大腸がんの治療薬として優れた効果を発揮する抗がん剤であるダハプラチンは、ブロックコポリマーと結合させてミセル化ナノ粒子化することで、ダハプラチンの副作用軽減と抗腫瘍効果の増強が期待できます。本特許発明を用いることで、ダハプラチン誘導体ミセルを高品質な状態で効率的に製造することが可能になります。

本特許は、提携先であるDebiopharm S.A.との関係をより強固にするものです。今後も特許網強化を進めてまいります。
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?template=announcement&sid=4494&code=4571

マウスの脳内にヒゲの分布パターンを示す新しい神経回路を発見 ―感覚情報処理の理解へ手がかり―(2010/2/24)
JST目的基礎研究事業の一環として、東京大学 大学院医学系研究科の河崎 洋志 特任准教授らのグループは、大脳皮質注1)に存在する神経回路を新たに見いだしました。今回の成果は脳神経系での感覚情報処理の理解につながることが期待されます。

大脳皮質は知覚や思考などといった高次脳機能の中枢と考えられています。視覚や触覚などの外部刺激は、それぞれ特定の神経回路をたどって処理されると考えられていますが、どのような神経回路が存在し、情報がどのように流れて処理されているのかといったメカニズムの全貌は、脳の構造の複雑さや技術的な制約から未解明の部分が多いのが現状です。

本研究グループは今回、比較的単純な系であるマウスのヒゲ感覚情報の神経回路を探索することを目的とし、子宮内電気穿孔法注2)によってマウスの胎児に緑色蛍光たんぱく質GFP注3)の遺伝子を導入することで特定の細胞の形態を観察するという手法を用いました。この手法によって、大脳皮質の、ヒトでいうと2層と3層にあたる「2/3層」部位の神経細胞群のみを可視化し、神経回路を解析しました。その結果、脳内の特定領域に、マウスの顔のヒゲ分布パターンと同様のパターンを示す新しい神経回路があること、さらに、そうした分布パターンは、発達過程において、産まれた後数日以内に与えた外部刺激に反応して変化しますが、それ以後に与えた刺激には反応しないことが分かりました。

本研究によって分かったマウスのヒゲ感覚に関与する新しい神経回路がモデルとなり、生物種を超えてさまざまな感覚の情報処理メカニズムの解明に向けた研究が加速することが期待されます。また、大脳皮質における情報処理メカニズムが解明できれば、将来的に精神活動や脳神経疾患の理解にもつながる可能性があります。

本研究成果は、2010年2月24日(米国東部時間)発行の米国科学雑誌「The Journal of Neuroscience」に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20100224-2/index.html

世界初、フラーレンによる動物への遺伝子導入に成功 ~低毒性で高機能な遺伝子導入法の開発の端緒に~(2010/2/23)
フラーレン注1)の医療応用を射程圏内に捉えた研究成果を、東京大学医学部附属病院 血液浄化療法部 准教授 野入 英世と東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 教授 中村 栄一らの共同研究チームが発表します。フラーレンを用いた生体への遺伝子導入注2)の報告は世界初です。

このチームは、通常のフラーレン(C60)に4つのアミノ基を持たせた水溶性フラーレン注3)(TPFE)を合成し、糖尿病治療効果のあるインスリン遺伝子を持つDNAと結合させて動物の体内に導入した後に、その遺伝子が発現することで血中インスリン濃度が上がり、血糖が下がることを世界で初めて示しました。これまでの遺伝子導入法では、ウィルスや脂質類似物質が用いられてきましたが、安定性や安全性を初めとした種々の問題点が克服できず、実用段階には到達していません。TPFEは低毒性で、尚かつ安価に大量合成できることから、本研究の発展による新たな遺伝子導入法の展開が期待されます。

なお本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「中村活性炭素クラスタープロジェクト」(研究総括:中村 栄一)の一環として行われました。

本研究成果は、重要な総合科学学術雑誌である米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」のオンライン版 Early Editionで2010年2月22日の週(米国東部標準時間)に発表されます。また後日発行される印刷版では、ハイライト記事として“In This Issue”セクションにも紹介されます。

<研究内容>
フラーレンは炭素原子60個がサッカーボール状に結合した分子で、国内で工業生産が開始されて以来、これまでさまざまな工業製品への応用が検討されてきました。この度、フラーレンの医療応用を実現し得る研究成果を、東京大学医学部附属病院 血液浄化療法部 准教授 野入 英世と東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 教授 中村 栄一らの共同研究チームが発表します。研究チームは、まず緑色蛍光蛋白質(GFP)注4)をつくる遺伝子を持つDNAと水溶性フラーレン(TPFE)を結合させ、マウスに静脈投与すると、肺、肝臓、脾臓でGFP遺伝子が発現し、GFPがつくられることを見出しました。市販の脂質型遺伝子導入試薬ではDNAとの結合が安定性に欠けるため、静脈注射によって遺伝子を運搬できる臓器が肺のみに限られることとは対照的な結果です。さらに市販の脂質型遺伝子導入試薬では遺伝子導入後、肝臓や腎臓に機能障害が認められますが、フラーレン遺伝子導入試薬では機能障害は全くなく、安全性にも優れています。さらに研究チームは、糖尿病治療効果のあるインスリンをつくる遺伝子を持ったDNAをフラーレンにより運搬することで、血中インスリン濃度を上げ、血糖を低下させられることを見出しました。血糖の低下効果は、これまでに疾患モデル生物の遺伝子導入法において良好な成績を示しているHVJリポソームの効果と同等でした。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20100223/index.html

タンパク質の機能を光で制御する汎用的な技術の開発に成功 ―医薬品候補物質の探索法としての応用を可能に―(2010/2/18)
NEDOの産業技術研究助成事業の一環として、東京大学大学院薬学系研究科特任准教授 加藤 大らは、ゲルを用いて安定に保存したタンパク質が機能を発現する“場所”、“時間”、“強さ”を光によって制御する技術を開発しました。この技術により、タンパク質をはじめとする、様々な物質の機能を光で制御することが可能になります。
この技術を用いて、メタボリックシンドロームに関連する動脈硬化症の疾患タンパク質を固定化し、光照射前後で疾患タンパク質の濃度を変化させて健常状態/疾患状態のモデルを創り出すことに成功し、それに対応した医薬品の候補物質の探索が可能であることを示しました。この技術開発により、今後の医薬品開発の迅速化が期待されます。
この成果は、2月15日付のアメリカ化学会の科学雑誌アナリティカルケミストリー(注1)(電子版)にAccelerated Article(注2)として掲載されました。
https://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/press/CA/nedopressplace.2008-11-26.1174332432/nedopress.2010-02-17.7911166826/

貧血症を回復させる鉄分豊富なコメの開発に成功(2010/1/13)
発表概要
東京大学と石川県立大学は、韓国の浦項工科大学、デンマークのコペンハーゲン大学との共同研究により、イネ体内の鉄輸送に働くニコチアナミンの合成を強化することによって種子中の鉄含量が高いイネを作出し、この鉄分豊富なコメが貧血症からの回復に効果を示すことをマウスで実証しました。世界人口の半分にのぼる鉄欠乏性貧血症の克服に貢献することが期待されます。

発表内容鉄はすべての生物にとって必須な栄養素であり、ヒトでは鉄が不足すると貧血症になります。WHO(世界保健機関)の報告では、世界人口の約半分が鉄欠乏による貧血症といわれ、特に途上国で深刻ですが、先進国においても頻度が高く、我が国もその例外ではありません。日本人女性の18.7%が鉄欠乏性貧血とされ、40代女性では26.3%に達しています。また成長による鉄需要が高まる小児期は鉄欠乏性貧血の高発時期であり、乳幼児の鉄欠乏は知能、運動能、行動に異常をきたすため、鉄欠乏の予防はヒトの健康にとって大変重要です。世界人口の半分はコメを主食としていますが、コメの鉄含有量は低く、また精米によってその多くが失われるため鉄欠乏症になります。したがって、コメの鉄分、特に白米の鉄分を高めることができれば貧血症の予防に大きく貢献することが期待されます。

植物の可食部の鉄含有量を高めるためには、まず土壌中からの鉄の吸収を高めることが重要であると同時に、鉄の体内移行も促進しなければなりません。土壌中の鉄を吸収して利用するために、イネ、ムギ、トウモロコシなど主要な穀物が属するイネ科の植物は、キレート物質の「ムギネ酸類(注1)」を根から分泌して、土壌中の鉄を可溶化して吸収するキレート戦略をとっています。ニコチアナミンはムギネ酸類の生合成中間体ですが、ムギネ酸類と同様に鉄をキレートすることができ、植物体内の鉄輸送において重要な働きをします。

ニコチアナミン合成酵素(注2)遺伝子を高発現させることによって、ニコチアナミンの合成能力を高めて鉄輸送能力を強化し、白米の鉄含有量が3倍に増加したイネを作出しました。これらのイネでは、ニコチアナミンだけではなくムギネ酸類の合成量も増加していましたので、鉄輸送の強化に加えて、土壌からの鉄の吸収も強化されていると考えられます。また、通常コメ中の鉄の多くは利用されにくい「フィチン酸鉄」として存在しますが、作出したイネでは増加した鉄が生体に利用されやすい「ニコチアナミン鉄」として存在することも明らかになり、食品として鉄の供給にさらに効果的であると考えられます。この鉄分豊富なコメが実際に貧血症からの回復に効果があることを、マウスへの投与実験により証明しました。

これらの成果は、イネだけでなくコムギやトウモロコシなど他の主要な穀物にも応用でき、世界中の貧血症の克服と予防に大きく貢献することが期待できます。また、ニコチアナミンはイネ科以外の植物も含めてすべての植物に存在しますから、鉄分が豊富な高い栄養価の食品(ダイズや野菜など)を作ることにも貢献できます。

なお、本研究の一部は科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)「植物の鉄栄養制御」、文部科学省特定領域研究「植物の養分吸収と循環系」の支援により行われたものです。
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/nisizawa100113.html

好熱菌のリジン生合成におけるタンパク質によるアミノ基修飾の発見(2009/7/21)
発表概要
好熱菌[注1]のアミノ酸のリジン生合成において、タンパク質によるアミノ基修飾という新規な機構を発見した。同タンパク質は生合成の各ステップの反応を触媒する各酵素が効率よく認識するためのキャリア(足場)となって機能しており、これはアミノ酸生合成における新たな概念を提示することとなった。本発見は新たなリジン醗酵生産系の構築につながるものと期待される。

発表内容リジン生合成には、アスパラギン酸を初発物質としてジアミノピメリン酸を経由する経路と2−オキソグルタル酸を初発物質としてαアミノアジピン酸(AAA)を経由する経路の2つが存在する。前者の経路は広く細菌や植物に分布しており、近年需要が非常に増えているリジンの醗酵生産ではCorynebacterium glutamicumという細菌が用いられている。高度好熱菌Thermus thermophilusは、細菌でありながらAAAを経由してリジンを生合成する。T. thermophilusのリジン生合成において、AAAからリジンへの変換は、AAAのアミノ基の修飾保護から始まると考えられるものの、どのような保護機構がはたらいているのか分かっていなかった。東京大学生物生産工学研究センターの西山教授のグループは、順天堂大学医学部、(独)日本原子力研究開発機構との共同研究により、54アミノ酸からなる低分子タンパク質がAAAのアミノ基を修飾保護すること、さらには同タンパク質が各生合成酵素が効率よく認識するためのキャリア(足場)となって機能することを発見した。本成果は、タンパク質が付加するという新たなアミノ基の保護機構だけなく、キャリアタンパク質[注2]を介したアミノ酸生合成の存在を初めて提示したもので、基礎的に重要な意義を持つといえる。また、本発見によって明らかになった好熱菌のリジン生合成系を最適化することにより、新たなリジン醗酵生産系を構築することが可能になるものと期待される。
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/nishiyama090721.html

神経地図がつくられるメカニズムの解明 - 神経地図は軸索同士の相互作用によってつくられる -(2009/7/10)
概要
われわれ哺乳類の脳において、五感を介して入力された外界の情報は2次元の「神経地図(注1)」として表現されています。東京大学の今井猛特任助教、坂野仁教授らは、脳内に匂い情報の「神経地図」が作られるメカニズムを解明し、米科学誌Scienceに発表しました(オンライン版(Science Express)7月9日付先行掲載)。脳内に「神経地図」が作られる分子機構については、1963年に提唱された「化学親和性仮説」が長く信じられてきましたが、今回の発見はその定説を大幅に修正するものです。

発表内容
我々哺乳類は、五感を介して外界の情報を受け取っており、その情報が脳へと伝えられることによって認識されます。脳ではそれら外界の情報は、「神経地図」として2次元的に表現されています。例えば、網膜に映し出された視覚情報は、脳の視覚を司る領域に2次元的に表示されます(図1)。一方、匂いの情報は鼻腔内の嗅上皮において約1000種類の匂いセンサー(嗅覚受容体と呼ばれる)によって検出されており、その情報は脳の嗅球と呼ばれる領域において、それぞれのセンサーに対応した1000番地の神経地図によって表現されます(図2)。従って、脳は、「匂い」というものを「1000画素の神経地図に表現されるパターン」として認識しています。このように、神経地図は、脳が様々な外界の情報を認識し、情報処理する上で極めて重要な役割を担っています。

この神経地図はどのようにして作られるのでしょうか?我々の脳は無数の神経細胞が「軸索(注2)」や「樹状突起」と呼ばれるケーブルを配線して神経回路を作ることで成り立っていますが、正しい神経地図が作られるためには、個々の神経細胞が秩序だった配線をすることが必要です。網膜の視神経細胞(網膜神経節細胞)の場合、網膜上の「位置」に応じて、軸索の配線先が決まっています(図1)。嗅上皮で匂い分子を検出している嗅神経細胞(注3)の場合は、センサーの種類に応じて、軸索を脳の特定の位置へと配線しています(図2)。こうした神経地図形成の際に軸索の配線位置がどのように決まるのか、という問題は、古くから多くの神経科学者たちを虜にしてきました。

20世紀を代表する偉大な神経科学者の一人、ロジャー・スペリー(1981年にノーベル賞を受賞)は、1963年に化学親和性仮説という説を提唱しました。彼は、配線先である脳には何らかの目印がついていて、軸索はその目印を識別することで正しく配線しているのであろう、と考えました(図3左)。例えて言えば、軸索と配線先には「鍵と鍵穴」のような対応関係があり、そのマッチングによって軸索の配線位置が決まる、というモデルです。1990年代、「鍵」や「鍵穴」に相当する分子が数多く同定され、スペリーのモデルは神経配線のいくつかの局面においては正しいことが既に証明されていますが、脳内に外界情報を映し出す「神経地図」も同様の機構で作られているのかについては分かっていませんでした。

そこで、今井特任助教・坂野教授らは、嗅神経細胞の軸索配線のメカニズムを詳細に解析することで「神経地図」形成のメカニズムに迫ろうと考えました。まず、配線先となる嗅球がまったく形成されない変異マウスを解析したところ、軸索は配線できずに本来嗅球があるはずの場所に留まったのですが、その際、軸索は本来の「神経地図」の位置関係の通りに正しく整列していることが分かりました。また、神経地図の位置関係は、軸索が配線先にたどり着くよりもはるかに手前の軸索束の中ですでにプロトタイプとしてできあがっていることも判明しました。これらの結果は、スペリーの説に反し、配線先の目印に頼らなくても神経地図の正しい配置が形成され得るということを意味しています。さらに、軸索自身に異なる軸索を区別するための目印となる分子(ニューロピリン1およびセマフォリン3A)が提示されており、これらの分子の量に応じて軸索が整列されていること、遺伝子操作によって軸索でのみこれらの分子を無くしてしまうと正しい神経地図が出来なくなることが判明しました。つまり、軸索は、配線先の目印を使って神経地図を作っているのではなく、軸索表面に提示されている目印分子を使って互いに認識し、いわば軸索同士で「背比べ」をして整列することで神経地図を作り上げているのです(図3右、この模式図では、ニューロピリン1が多い軸索ほど右側に、セマフォリン3Aが多い軸索ほど左側に整列。この整列は配線先である嗅球が無くても生じる)。

本研究は、神経回路形成の中でも「神経地図」形成という古くからの重要な問題に対して明快な解答を与えました。これまで神経地図は、あらかじめ準備された地図に軸索を配線するものだと思われてきましたが、むしろ、軸索同士の相互作用によって軸索を整列し、配線した結果として地図が作られる、と発想を転換するべきでしょう。今回の知見は、今後、ヒトのような高等動物の知性を生み出す複雑な神経回路形成の分子基盤を理解していく上で、重要な足がかりになると期待されます。

なお、本研究は熊本大学、理化学研究所発生再生科学総合研究センターとの共同研究により行われました。また、本研究は文部科学省の科学研究費補助金、三菱財団、グローバルCOEプログラムなどの支援を受けて行われました。
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/press/press-2009-17.html

「ストレス応答の調節にかかわる  新しいタイプのタンパク質脱リン酸化酵素の発見」(2009/7/7)
1.発表者:
 武田弘資准教授、一條秀憲教授(東京大学大学院薬学系研究科)

2.発表概要:
 細胞レベルでの様々なストレスに対する応答は、多くの分子から構成される細胞内の情報伝達機構によって精緻に調節されています。今回、その調節にかかわるタンパク質として新たにPGAM5という分子を発見し、この分子が新しいタイプのタンパク質脱リン酸化酵素として機能することを発見しました。

3.発表内容:
 東京大学大学院薬学系研究科の武田弘資准教授、一條秀憲教授らの研究グループは、細胞のストレス応答において重要な役割を担っているASK1というタンパク質リン酸化酵素についての研究過程で、新たにPGAM5という分子がASK1に結合し、ストレス応答の際にASK1が調節する二つの主要な細胞内情報伝達経路を活性化する働きを持つことを見いだしました。さらに、どのようなメカニズムでそのような活性化を引き起こすかを検討したところ、PGAM5にはタンパク質中のセリンとスレオニンという二つのアミノ酸に対する脱リン酸化酵素活性があり、その活性を用いてASK1の酵素活性を上昇させることが分かりました。
 タンパク質の機能は、それぞれの分子を構成するアミノ酸が様々な修飾を受けることによって調節されますが、リン酸化修飾はその代表的なものです。リン酸化されたセリンとスレオニンに対して特異的に働く脱リン酸化酵素としては、大きく三つのファミリーに分類される酵素群がすでに知られており、それらでセリンとスレオニンに対する脱リン酸化反応はすべて賄われていると長らく考えられてきました。しかし、PGAM5はそのような既知の酵素とはまったく異なる構造を持つことから、今回の発見によりタンパク質脱リン酸化酵素というカテゴリーそのものを見直す必要が出てきました。
 細胞のストレス応答に異常が生じると、生活習慣病をはじめとする様々な疾患につながります。今回発見したPGAM5の機能をさらに詳しく調べていくことで、ストレス応答の調節機構と疾患との関連も明らかになるものと期待されます。

4.発表雑誌:
 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
 (米国科学アカデミー紀要)
 "Mitochondrial Phosphoglycerate mutase 5 uses alternate catalytic activity as a protein serine/threonine phosphatase to activate ASK1"
 Kohsuke Takeda1,Yoshiko Komuro1,Teruyuki Hayakawa1,Haruka Oguchi1,Yosuke Ishida1,Shiori Murakami1,Takuya Noguchi1,Hideyuki Kinoshita1,Yusuke Sekine1,Shun-ichiro Iemura2,Tohru Natsume2,and Hidenori Ichijo1

 1:東京大学 大学院薬学系研究科 生命薬学専攻 細胞情報学教室
 2:産業技術総合研究所 バイオメディシナル情報研究センター

脳の配線ミスを生後の発達期に修正する新たなメカニズムの発見(2009/6/29)
概要
脳の精密な神経回路が形成される過程において、神経細胞同士の不要な接続を削除し、必要な接続だけを残す新たなメカニズムを、線虫(注1)という動物を用いた研究から発見しました。本成果は、成長に伴う脳の成熟や、神経変性疾患の理解につながると期待されます。

発表内容
(1)これまでの研究でわかっていた点
ヒトの脳では、一千億個以上もの神経細胞が互いに神経突起(注2)を伸ばし、複雑かつ精密なネットワークを形成しています。このようなネットワークがどのようにして作られるかは、生物学における大きな謎の一つです。近年、脳の発達期に観察される神経突起の“刈り込み”と呼ばれる現象が、大きな注目を浴びるようになりました。ヒトなどの高等動物では、生まれた直後の脳は未成熟で、個々の神経細胞は正しい相手以外とも多くの神経接続を形成しています。ところが成長が進むと、不要な神経突起は排除されていきます。この “刈り込み”は、機能的な神経回路を構築するための重要な過程であると考えられます。しかしながら、“刈り込み”に関わる遺伝子やタンパク質はあまり知られておらず、この現象が分子レベルでどのように制御されているかはほとんど不明でした。

“刈り込み”のメカニズムの解明は、臨床応用の観点からも重要です。“刈り込み”が適切に制御されないことが、病気の発症につながり得るからです。その最たる例を、アルツハイマー病やパーキンソン病などに代表される神経変性疾患に見ることができます。これらの病気では、本来起こるべきでない時期や部位で神経突起の削除が起きており、これが脳機能低下の一因となると考えられています。また、アルコールの過剰な摂取や肥満も神経突起の異常な削除を引き起こすことが知られています。正常な脳の発達過程における“刈り込み”の際に、不要な神経突起だけが削除され、必要な神経突起は維持されるメカニズムを解明することで、これらの疾患の治療法の開発にもつながると期待されます。

詳細は下記
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/press/press-2009-14.html

CTCLS、東京大学およびGVK Biosciencesが共同研究を開始(2009/6/26)
化合物のフラグメント解析による活性定量、選択性の検証
CTCラボラトリーシステムズ株式会社(略称:CTCLS、本社:東京都世田谷区、代表取締役社長:根岸 秀樹)、国立大学法人東京大学(以下:東京大学、所在地:東京都文京区本郷7-3-1、総長:濱田 純一)、およびGVK Biosciences Private Limited(以下:GVK、本社:インド、ハイデラバード、President:Manni Kantipudi)は、この度、化合物のフラグメント解析*1に関する共同研究を開始いたしました。

近年、種々の化合物と標的タンパク*2間における活性や選択性の発生要因を解明する目的で、フラグメントを解析する試みが盛んになりつつあります。化合物が持つフラグメントを統計的に解析することにより、特定のタンパクに対し、どのようなフラグメントが活性や選択性に起因しているかを明らかにすることが、より選択性の高い化合物の創出に寄与すると言われています。

今回の研究を実施する東京大学大学院工学系研究科、船津公人教授のグループは、GPCR Type A*3に属するタンパク群に着目し、種々のGPCR Type Aタンパクと活性化合物群とを網羅的に解析し、活性や選択に係わるルールの導出およびフラグメントキーの探索を試みます。
解析に当たって、GVKは、独自に構築した網羅的化合物データベースを東京大学に提供します。また、CTCLSはGVKの国内代理店であり、東京大学に対してGVKデータベースの導入支援や各種サポートを行います。
今回の研究により、船津教授は、種々のGPCRに関して、選択性や活性に関係したルールの探索およびフラグメントキーを同定することにより、副作用の少ない薬剤の創出や、テーラーメイド医療*4に貢献できると考えています。

シーティーシー・ラボラトリーシステムズ株式会社

DNAの3次元構造が生物進化に影響する (超高速シークエンサーとバイオインフォマティクスによる科学的発見)(2009/1/10)
2008年12月12日

 JST バイオインフォマティクス推進事業の一環として、東京大学 大学院新領域創成科学研究科の森下 真一 教授は、スタンフォード大学のアンドリュー・ファイヤー教授らとの共同研究で、DNAの3次元構造(ヌクレオソーム構造)注1)がDNAの変異に相関するという性質を、メダカのDNA全体の情報を分析することによって明らかにしました。これはDNA進化の新たな原理を示す基本的な成果です。
 本研究の対象となったメダカは、日本の研究者により2007年にDNA塩基配列が解読され、南日本由来系統と北日本由来系統の2系統のDNA塩基配列の間には1塩基多型(SNP)注2)と呼ばれるDNA変異がDNA配列全体の3.4%を占める約1600万個も存在することが分かりました。
 今回の研究では、超高速DNA解読装置注3)を活用し、メダカのヌクレオソーム構造をDNA全体にわたって網羅的に分析しました。その結果、遺伝子の転写注4)開始点の下流におけるヌクレオソーム構造がDNA変異の周期性を引き起こす要因となっていることを突き止めました。DNAの高次構造や遺伝子の転写メカニズムは多くの生物種にわたって共通する基本的なものであることから、本研究は生命の遺伝的多様性が生まれる過程の一端を明らかにしたものと言えます。
 超高速DNA解読装置が急速に普及する中で、本研究で開発した大量のデータを解析するためのクラスター型並列計算機上で動作する新たなソフトウエア群は、今後も利用され、新たな生物学的発見へ寄与するものと期待されます。
 本研究成果は、JST バイオインフォマティクス推進事業、文部科学省 特定領域研究 ゲノム4領域、米国国立衛生研究所(NIH)の研究助成によって得られたもので、2008年12月11日(米国東部時間)に米国科学誌「Science」のオンライン速報版で公開されます。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20081212/index.html

「メラニン色素」の輸送に必須のタンパク質複合体を構造決定 -肌の美白維持や白髪抑制などの薬剤開発に期待-(2008/10/8)
本研究成果のポイント
 ○メラニン色素輸送の鍵タンパク質「Rab27」の2つの複合体の構造を決定
 ○肌を白色化する遺伝病の発症メカニズムがRab27複合体の結合阻害と解明
 ○Rab27複合体の形成阻害や安定化の薬剤設計が可能に




 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と高エネルギー加速器研究機構(鈴木厚人機構長:KEK)は、肌や髪を黒くするメラニン色素の輸送に必須のタンパク質「Rab27」の2つの複合体の構造を世界で初めて解明しました。これは、理研生命分子システム基盤研究領域の横山茂之領域長(東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻教授兼務)、システム研究チームの白水美香子上級研究員、新野睦子上級研究員らと国立大学法人東北大学(井上明久総長)生命科学研究科の福田光則教授の研究グループ、KEK物質構造科学研究所構造生物学研究センターの若槻壮市教授(センター長)、マンチェスター大学のレオナルド・シャバス研究員(元総合研究大学院大学高エネルギー加速器科学研究科物質構造科学専攻)らと、国立大学法人群馬大学(鈴木守学長)生体調節研究所の泉哲郎教授の研究グループによる共同研究の成果です。

 メラニン色素は、「メラノサイト(※1)」と呼ばれる皮膚の基底層にある細胞の中で合成され、メラノサイト内の色素顆粒「メラノソーム(※1)」に貯蔵されます。このメラノソームが、メラノサイト内を移動し、肌や髪の毛を作る細胞に受け渡されることで、肌や髪の毛が黒くなります。メラノサイトにおけるメラノソームの輸送は、Rab27Aと呼ばれる低分子量Gタンパク質(※2)が、Gタンパク質に特異的に結合するエフェクターと呼ばれるタンパク質と結合することで、はじめて正常に行われます。Rab27Aは、Slac2-a(別名メラノフィリン:Melanophilin)、Slp2-a(別名エキソフィリン4:Exophilin4)、という2つのエフェクターを連続的に用いて、メラノソームをメラノサイトの核周辺から細胞膜まで輸送します。研究グループは、メラニン色素輸送に中心的な役割を果たしている2つのタンパク質複合体「Rab27A-Slp2-a」および「Rab27B-Slac2-a」の構造を明らかにしました。解明した構造情報から、Rab27とSlac2-aおよびSlp2-aとの結合に重要なアミノ酸残基を同定し、Rab27が特定のエフェクターを認識する基盤を解明するとともに、Rab27AとSlac2-aのアミノ酸残基の変異が、肌の白色化の症状を示すグリセリ(Griscelli)症候群(※3)という遺伝病を発症する分子メカニズムを明らかにしました。

 本研究成果は、これらのタンパク質間の結合を阻害あるいは安定化するような薬剤の設計に応用することが可能であり、今後、メラノソーム輸送を人為的に制御することによって、肌の美白の維持や白髪発生の抑制につながる可能性が期待できます。

 本研究成果は、文部科学省で推進した「タンパク3000プロジェクト」の一環として行ったもので、米国の科学雑誌『Structure』に掲載されるに先立ち、オンライン版(10月7日付け:日本時間10月8日)に掲載されます。

『ガラクタ』RNAの遺伝子活性化における新しい役割(2008/9/29)
1.タイトル:「ガラクタ」RNAの遺伝子活性化における新しい役割

2.発表概要:
 ゲノム情報の「暗黒物質(ダークマター)」といわれる非翻訳型RNA(ノンコーディングRNA)の出現とともに、段階的にクロマチン構造が緩み、遺伝子の発現が活性化される機構が、国立大学法人東京大学(小宮山宏総長)と独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)の共同研究により、世界で初めて明らかにされた。

3.発表内容:
◇発見の背景
 ヒトゲノム解析結果から、下等な生物と比較して、ヒトの遺伝子数がそれほど多くないことが示された。これは、生物の複雑化や多様化において、遺伝子数の増大よりも、遺伝子発現制御の複雑化が重要であることを示している。また、昨今の網羅的な遺伝子発現の解析から、タンパク質をコードしていない転写物(非翻訳型RNAまたはノンコーディングRNA)が、予想以上に多く存在することが示された。非翻訳型RNAは、当初何をしているか不明であったため「ガラクタ」のような存在ではないかと考えられていた。しかし、最近になって、発生・分化に応じて転写制御を受けるほか、遺伝子発現の抑制などの機能が示されつつあり、さまざまな遺伝子制御過程に重要な役割を持つと考えられるようになった。このような無数の非翻訳型RNAの発見は、生命科学に大きな転換点をもたらしつつあり、「RNA新大陸発見」と称されるに至っている。しかしながら、非翻訳型RNAの遺伝子発現制御における役割は不明な点が多く、特にmRNA型の非翻訳型RNAの機能については、ほとんど明らかになっていない。
 太田邦史(東京大学大学院総合文化研究科教授/理化学研究所客員主幹研究員)の研究室では、酵母を用いてDNA組換えとクロマチン構造(※1)の関係を調べてきた。その過程で、DNA組換えが頻発する場所で、減数分裂時にクロマチン再編成が起こることを示した。また、このクロマチン再編成には、ある種の配列特異的DNA結合タンパク質(CREB/ATF型転写因子(※2))が関わることを見出した。さらに、太田邦史教授と廣田耕志氏(元 理化学研究所 基礎科学特別研究員)は、同様なクロマチン再編成の仕組みが、グルコースが枯渇した環境下(グルコース飢餓)にある分裂酵母のfbp1遺伝子(フルクトース-1,6-ビス脱リン酸酵素(※3))の転写プロモーター領域にも認められ、fbp1遺伝子の活性化に関わることを明らかにしていた。

◇発見の詳細
 fbp1遺伝子は、グルコースが培地に存在する間はほとんど転写されない。ところが、グルコースが培地から失われると(グルコース飢餓)、1時間ほどで顕著に活性化される。今回廣田耕志氏と太田邦史教授らは、グルコース飢餓状態に移行する際、微量の非翻訳型RNAがあらかじめ転写されていることを発見した(図1)。この非翻訳型RNAは、正規のfbp1遺伝子プロモーターのさらに上流域から転写される長鎖のmRNA型非翻訳型RNAであり、タンパク質には全く翻訳されない。興味深いことに、グルコース飢餓に対応してfbp1遺伝子の活性化がはじまると、転写開始部位がfbp1コード領域に近接したいくつかの転写開始点に順次移行し、RNA量の増大に相反して、長さがだんだんと短くなっていった。これに呼応するように、fbp1プロモーター領域のクロマチン構造が徐々に開いた状態に移行していくことも示された(図2)。グルコース飢餓から1時間ほどすると、正規のfbp1転写開始点から大量のmRNAが合成され、タンパク質への翻訳が始まった。この時期におけるfbp1領域のクロマチン構造は、広い範囲でヌクレアーゼの消化を受けやすい開いた状態をとっていた。
 上記の結果は、長鎖非翻訳型RNAがRNAポリメラーゼII(※4)によって合成される過程で、順次fbp1プロモーター領域のクロマチン構造が弛緩していき、これがカスケード的に生じることで、転写が段階的に活性化される可能性を示唆している。そこで、この考えを検証するため、fbp1プロモーター領域の複数の箇所に転写終結配列(※5)を挿入した酵母株を作製し、fbp1の発現やクロマチン構造を解析した。その結果、長鎖非翻訳型RNAの合成を途中で終結させると、大規模なfbp1の転写活性化が起こらなくなること、また長鎖非翻訳型RNAの終結点以降でのクロマチン再編成が起こらなくなることを確認した(図3)。分子レベルの解析で、長鎖非翻訳型RNAの転写には、RNAポリメラーゼII、fbp1プロモーター領域に結合するCREB/ATF型転写因子、C2H2Znフィンガータンパク質(※6)、Groucho型の転写共抑制因子(※7)が協調的に関わることが示された(図4)。さらに、分裂酵母の全ゲノムをカバーするゲノムタイリングDNAチップ(※8)を用いて、グルコース飢餓で転写が誘導されるほかのいくつかの遺伝子でも、同様な長鎖非翻訳型RNAが誘導初期に転写されることを明らかにした。
 以上の結果から、非翻訳型RNAの転写を伴う段階的なクロマチン再編成が、遺伝子の活性化にも重要な役割を果たすことが示された。

◇意義と波及効果
 CREB/ATF型の転写因子や、Groucho型転写共抑制因子は、糖代謝のほか、高等真核生物では発生や分化にも関わることが知られている。また、記憶に必要な神経細胞の長期増強の際にも、CREB/ATF型の転写因子が関わるクロマチン再編成が起こることが報告されている。これらのことから、今回発見したタイプの非翻訳型RNAは、おそらく発生や分化、長期記憶などの過程に関わる遺伝子群においても活躍しているものと考えられる。近年のクロマチンをベースにした研究で、真核生物の転写制御機構の概念は、大腸菌をモデルとしたジャコブとモノーのオペロン説(※9)から大きな発展を見せつつある。今回発見された機構も、真核生物の遺伝子制御に関する研究に、新しい展開をもたらすものと期待される。また、ヒトなどで同様な機構を調べることで、糖尿病などの代謝異常疾患や、人間の記憶の仕組みが解き明かされる可能性がある。

4.発表雑誌:
 9月28日付けのNature誌オンライン版で発表。
 Hirota K., Miyoshi T., Kugou K., Hoffman C.S., Shibata T., and Ohta K.
 Stepwise chromatin remodeling by a cascade of transcription initiation of non-coding RNAs Nature, in press (2008)

5.注意事項:
 報道の解禁 日本時間9月29日 午前2時(新聞は9月29日朝刊)

6.問い合わせ先:
 東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻
  教授 太田邦史
   URL: http://bio.c.u-tokyo.ac.jp/labs/ohta/

7.用語解説:
※1クロマチン構造:真核生物のゲノムDNAは、ヒストンやそれ以外のタンパク質と結合し、高度に凝縮した状態で存在する。このような構造をクロマチン構造と呼ぶ。局所的なクロマチン構造の変化を介して、転写因子などのタンパク質の染色体DNAへの接近のしやすさが制御される。クロマチン構造は、転写や組換え・複製などの遺伝情報制御において、中心的役割を果たすことが示されつつある。

※2CREB/ATF型転写因子(CREB: CRE-binding protein、ATF:activating transcription factor):cAMP 応答配列(CRE: cAMP responsive element)に結合する、塩基性ロイシンジッパーを持った配列特異的DNA結合タンパク質である。同類の転写因子が酵母からヒトまで広く存在しており、糖代謝調節、ストレス応答や発生、神経の長期増強などに重要な役割を果たす。

※3フルクトース-1,6-ビス脱リン酸酵素:酵母をはじめ、多くの真核生物では、エネルギー源としてのグルコース(ブドウ糖)が枯渇すると、ほかの栄養素から糖新生というはたらきによってグルコースの供給を維持する。この際、グルコースを代謝する解糖系の逆反応を用い、その逆反応の1つに不可欠な酵素の1つが、フルクトース-1,6-ビス脱リン酸化酵素である。この酵素は、生育環境にグルコースが存在すると転写が低く抑えられ,ほとんど細胞内に存在しないが、グルコース飢餓に際して大量に合成されるようになっている。したがって、この過程には、厳密な遺伝子活性の制御が必要であり、遺伝子発現研究のための良いモデル系を提供する。

※4RNAポリメラーゼII(RNA Pol II):真核生物のRNA合成を担当する酵素は3種類ある。そのうちの1つがRNA Pol IIであり、基本的にはタンパク質をコードする遺伝子領域(クラスII遺伝子)の転写を行う。それ自身では、転写開始点に特異的に結合できず、転写活性化因子を介して転写開始点のクロマチンに結合する。

※5転写終結配列:遺伝子の3´側に配置する配列で、転写されたRNAでは末端部分に位置し、RNAポリメラーゼの反応を終結させる機能がある。

※6C2H2Znフィンガータンパク質:亜鉛を配位することでDNA結合活性を示すドメインを持つタンパク質のうち、亜鉛の配位が2つのシステインと2つのヒスチジンによるもの。遺伝子発現に重要な役割を果たす。
※7Groucho型の転写共抑制因子:Groucho(グルーチョ)という転写共抑制因子は、高等真核生物のWntシグナルの下流に位置する転写制御因子である。高等生物の体軸・体節形成に関与する。当初、ショウジョウバエの体節剛毛が太くなる変異の原因遺伝子(名は眉毛の濃い喜劇俳優から取られた)として同定された。酵母などでは、Tupといわれる転写共抑制因子が同類であり、ストレス応答遺伝子などの転写制御に関わる。

※8ゲノムタイリングDNAチップ:染色体の配列を、端から端までもれなく網羅して、20塩基対や100塩基対単位に区切り、その区画に対して25塩基程度のオリゴDNAを設計し、個々にチップ上に合成したもの。染色体のどの部分が転写されているかが、高解像度で網羅的に把握できる。

※9オペロン説:オペロン説は、大腸菌のラクトース・オペロンの研究から、ジャコブとモノーによって1961年に提唱された遺伝子制御理論。遺伝子の発現は、構造遺伝子の上流に位置する調節領域に転写調節タンパク質が結合・脱離することにより、転写レベルで制御される、という概念。
http://bio.c.u-tokyo.ac.jp/labs/ohta/

癌抗体医薬開発に向けた共同研究契約締結に関するお知らせ(2008/9/25)
 当社は、平成20年9月25日開催の当社取締役会において、下記のとおり、国立大学法人東京大学大学院医学系研究科松島教授、及び薬学系研究科入村教授、並びに他2社と、癌抗体医薬の開発を目指した共同研究実施を決議し、契約の締結に合意致しましたので、お知らせします。

                    記

1.共同研究契約締結の経緯
 国立大学法人東京大学大学院医学系研究科松島教授、及び薬学系研究科入村教授は、かねてより、癌抗体医薬の開発を目的とした癌細胞の標的分子の探索に取り組んでまいりました。一方、当社は細胞解析技術に強みを持っております。この度、東京大学、及び抗体医薬を開発中である国内製薬会社を含む2社と、当社の技術を融合させることにより、癌に対する標的分子探索と、抗体医薬の作製を目的とした共同研究を行うこととなりました。

2.共同研究契約の内容
(1)契約期間:平成20年9月15日~平成23年 9月14日
(2)研究内容:癌細胞の標的分子の探索とそれに基づくヒト抗体医薬開発に関する共同研究

3.共同研究に臨む背景
 従来の化学合成による低分子化合物の創薬開発では、副作用、薬効等の問題で開発中止に至る例も多いのが現状です。癌抗体医薬は、癌細胞の標的分子に直接作用するため副作用が少なく、かつ、癌細胞に特異的な効果が期待できます。これまで限界と考えられた難治性癌、進行癌、転移性癌の治療に対する新たな突破口となる可能性があり、世界的に注目されている分野です。
 抗体医薬の市場は年々拡大しており、世界での売上高は、2001年には約4,400億円でしたが、2007年には6倍強である約2兆8,900億円に達し、2013年には約5兆3,900億円が見込まれております(データモニター社)。
 既に公表しています通り、当社は現在独自に、放射線療法との併用により効果を発揮する癌治療薬ECI301の臨床プロトコールを確立する段階に至っておりますが、癌によっては放射線治療が適応できない場合もあります。本共同研究において、新たな標的分子の探索とこれらに対する新規抗体医薬開発を行い、より広範囲な癌に対して有効な治療薬開発を目指します。当社は、新たなパイプラインとして抗体医薬を追加し、多角的側面からの癌治療薬開発に注力して参ります。

4.今後の見通し
 本共同契約締結により、共同研究費の支払いが発生しますが、当該契約が今期の業績見通しに与える影響は軽微であります。

電流駆動で初めて1.55マイクロメートル帯単一光子発生に成功(2007/9/19)
 国立大学法人東京大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の荒川泰彦教授らと富士通研究所は、共同で世界で初めて電流注入による波長1.55マイクロメートル(以下μm)の単一光子発生に成功した。電流注入による単一光子発生は、電気信号による直接変調によって単一光子パルスを生成できるため、通常の単一光子発生で用いられる光励起方法と比較して、励起光源の複雑な生成・制御回路などが不要となり、単一光子発生システムのデバイス集積化、コンパクト化、低消費電力化につながる。また波長1.55μm帯は、光ファイバーの伝送損失がもっとも小さく、既存の長距離通信で広く用いられている波長帯であるため、単一光子の応用分野となる量子暗号通信の長距離化や、より高い伝送速度の実現につながる。
http://www.nanoquine.iis.u-tokyo.ac.jp/index.html
http://jp.fujitsu.com/labs/

世界で初めて卵巣由来の幹細胞分離に成功(2007/7/17)
 理化学研究所は、京都大学、東京農業大学、および東京大学と協力して、マウスの卵巣内で性ホルモンをつくっている「きょう膜細胞」の幹細胞を世界で初めて分離し、体外でふやすことに成功した。
 生き物にとって“生殖”は、子孫を残し、種を維持させるためにとても大切な営みのひとつである。しかし、生殖を担う精子と卵子がどのようにして形作られていくかに関しては、不明な点が多く残されている。精子を作り出す精巣では、精子幹細胞をはじめ、いくつかの幹細胞が分離・培養されている。しかしながら卵子を作り出す卵巣からは、幹細胞が分離できなかったために、卵子の発生に関する研究が難しいと考えられてきた。
 研究グループは、卵巣由来の幹細胞の分離を進めている過程で、世界で初めて、きょう膜幹細胞の分離・培養に成功した。卵子は、卵巣中の卵胞につつまれて少しずつ発育、成熟するが、きょう膜細胞は、この卵胞内で性ホルモンを作って卵子の発育に重要な役割を果たしている。このきょう膜幹細胞の分離技術を確立するとともに、体外で性ホルモンを作ることに成功し、卵巣にきょう膜幹細胞を移植して卵胞構造を形成させることにも成功した。きょう膜幹細胞を自在に取り扱うことが可能になれば、長年ナゾであったきょう膜細胞の成り立ちや卵胞に包まれた卵子の発育を詳細に調べることが出来る。卵巣由来の幹細胞の分離・培養の成功は、実験動物を使わずに卵子を作ったり、女性の卵巣疾患の治療などに役立てたりすることも可能になることが期待できる。

細胞外から細胞内へ分子を取り込む細胞膜陥入機構を解明(2007/5/19)
 理化学研究所、東京大学、科学技術振興機構(以下JST)の三者は共同で、細胞が外部から分子を細胞内へ取り込む過程(エンドサイトーシス)において細胞膜を陥入させる機能を持つ「EFCドメイン」の立体構造を世界で初めて解明し、その細胞膜陥入機構を明らかにした。
 動植物の体をつくっている真核細胞が外部から物質を取り込む仕組みのうち、最も基本的な現象の一つとしてエンドサイトーシス過程が知られている。例えば、エンドサイトーシスは、細胞外受容体の内在化、シナプスにおける神経伝達物質のリサイクリング、体細胞における栄養の摂取など、真核生物が活動するために欠かせない様々な基本生命現象において、重要な働きをしている。
 エンドサイトーシスの過程では、まず細胞膜が分子を認識した情報をもとに細胞表面からくぼみ、分子を包み込むように細胞内に陥入する。これまでこの陥入ステップの詳細な分子機構は不明だったが、今回研究グループは、ヒトFBP17とヒトCIP4タンパク質のEFCドメインの立体構造を決定し、EFCドメインが脂質膜に巻き付くようにらせん状の繊維を形成することで、生体膜を陥入させることを明らかにした。またFBP17がこの機構に基づいてクラスリン依存性のエンドサイトーシスの膜陥入ステップに関与していることを、細胞生物学的な手法を用いて突き止めた。
 今回の成果は、未解明の問題の多いエンドサイトーシスの機構の理解に大きく貢献し、医学的応用の観点からも重要であると考えられる。
本研究の成果の詳細は米国の学術雑誌『Cell』5月18日号に掲載される。 

「生きた化石」タンパク質の立体構造を解明(2007/3/12)
 研究グループは、SepRSがリン酸化セリンおよびtRNACysと結合した状態での複合体立体構造を、大型放射光施設SPring-8の共用ビームラインBL41XUを利用し、0.26ナノメートル分解能で観測することに成功した。その結果、SepRSはN端ドメイン、触媒ドメイン、挿入ドメイン、C端ドメインの4つのドメインからなることが分かった。触媒ドメインにおいて、リン酸化セリンを厳密に認識している様子が観測された。またSepRSのC端ドメインがtRNACysを厳密に認識している様子も明らかになった。
 今後はこの改変SepRSを用いて、遺伝暗号表を人工的に拡張し、リン酸化セリンをタンパク質に部位特異的に導入する技術の開発研究に力を入れていく予定である。このような技術が実現されると、タンパク質内のセリンのリン酸化というヒトの病気などに深く関わる重要な現象についての研究が飛躍的に進むことが期待される。この研究は、我が国で推進している「タンパク3000プロジェクト」の成果の1つ。

DNAに作用するヒストンシャペロンTAF-Iβの構造・機能の関連性を発表(2007/2/27)
 DNAは核の中で単独に存在している訳ではなく、通常ヒストンと呼ばれる蛋白質に巻きついており、必要な時以外はむやみにその遺伝情報が読まれないようになっている。この構造をヌクレオソーム構造という。逆にDNA上にある遺伝情報が必要になると、ヒストンからDNAをはがすようにいろいろな蛋白質がヌクレオソームに働きかける。このような蛋白質をヒストンシャペロンと呼んでいる。
 今回の論文では、ヒストンシャペロンの一種であるTAF-Iβの構造を明らかにし、どのようにこの蛋白質がDNAとヒストンに働きかけるのか、それを知る大きな手がかりを報告している。
 また、このヒストンシャペロンTAF-Iβは、細胞の癌化に関与すると考えられている。つまり、この蛋白質が変異などの原因で正常に働かない場合、DNA上の必要な遺伝情報が得られず、細胞の機能に支障をきたし、癌化の要因になることが知られている。したがって、蛋白質TAF-Iβの構造やその振る舞いが明らかになれば、新しい癌治療薬の開発に結びつく可能性も大きい。

分子の構造変化の動画撮影に成功(2007/2/23)
 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)中村活性炭素クラスタープロジェクトのもと、研究総括である中村栄一 教授(東京大学)、末永和知 博士(産業技術総合研究所)と東京大学の磯部寛之 助教授の共同研究チームは、小さな有機分子の化学構造を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することに世界で初めて成功した。これまで誰も見たことのなかった分子の動きが約一分にわたる動画として記録された。この研究は、目にも留まらぬ速さで飛び回るハチ(分子)をガラスのチューブ(カーボンナノチューブ)に閉じこめて、ハチが羽根を震わせながら歩き回る様子を観察したようなものといえる。
http://www.sciencemag.jp/contribinfo/geneinfo.html

肝臓がん原因タンパク質の構造と機能を解明(2007/2/15)
 理化学研究所と東京大学は共同で、肝臓がん遺伝子産物のガンキリンと、タンパク質分解を行う26Sプロテアソームのサブユニットとの複合体の立体構造を解明した。これは、理研ゲノム科学総合研究センター タンパク質構造・機能研究グループのプロジェクトディレクターで国立大学法人東京大学大学院理学系研究科教授の横山茂之、バラスンダラム・パドマナバン上級研究員、中村祥浩および中野和民リサーチアソシエイトらの研究グループによる成果。
 このガンキリンとプロテアソームの構造情報に基づいた複合体構造に基づいた阻害剤の開発は、ガンキリンに依存したがん細胞の異常増殖を抑える、新規抗がん治療薬の開発につながると期待される。
 これらの研究は、文部科学省が推進している「タンパク3000プロジェクト」の一環として実施されたもので、研究成果の詳細は、米国の科学誌『Structure』2月14日号に掲載される。 
http://www.riken.go.jp/
http://www.u-tokyo.ac.jp/

イネの収量活性化遺伝子を発見(2007/2/8)
 理化学研究所と東京大学は、イネ突然変異体「log(ログ)」を解析し、収量をコントロールする植物ホルモンである「サイトカイニン」の活性化遺伝子を世界で初めて発見した。
 LOG遺伝子を利用すれば植物体内のサイトカイニン活性を直接コントロールすることが可能になる。今後、さまざまな作物でLOG遺伝子の機能を人為的に変えることで、生産性向上に大きく貢献するものと期待される。
http://www.riken.go.jp/

320アト秒のパルス光の構造解明に成功(2006/10/17)
 理化学研究所と東京大学は、極端紫外レーザー光によって引き起こされる非線形光学現象を用いて、「アト秒(100京分の1秒、10-18秒)」というとてつもなく短い時間構造(パルス幅)を作り出し、1000兆分の0.32秒(320アト秒)という世界最短の物理現象の測定に成功した。さらにそのレーザーパルスの中に、規則正しい波の構造がある事を世界で初めて直接観測する事にも成功した。
 この研究成果によって、アト秒パルス光の性質がさらにはっきりしたと同時に、この光を使って分子の超高速の反応制御をする道が開けてきた。
http://www.toyorikagaku.com/
http://www.u-tokyo.ac.jp/

大きさ1~数100マイクロメートルの中空マイクロカプセル製造に成功(2006/10/4)
 産業技術総合研究所(以下「産総研」)エネルギー技術研究部門竹村 文男 主任研究員と東京大学 新領域創成科学研究科 大宮司 啓文 助教授は共同で、1~数100μmの大きさを持つ中空マイクロカプセルの製造に成功した。
 これまで中空マイクロカプセルは液体を内包したマイクロカプセル内の液体を排除するかあるいは熱を加えて膨張させることで内部を空洞化していたが、産総研と東大は、液体中に発生させたマイクロバブルの周囲に、表面での重合反応等によって、厚さ数百nm(ナノメートル)~数μmの殻を生成させる方法を開発した。この方法により、1~数100μmの大きさを持つマイクロバブルとほぼ同一サイズの中空カプセルを、簡便に製造することができる。
 マイクロカプセルの殻の材料としては、一般の高分子やポリ乳酸などの生分解性高分子を使用できる。殻物質が生分解性の場合、体内へ導入することもできることから血管の造影剤としての応用も可能である。また、殻の密封性が高いことから、局所的に酸素が必要な場合での酸素デリバリー用カプセルとしての応用も可能である。