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神経回路構築を制御する脂質を発見 -異なる種類の感覚を伝える神経突起を脂質で誘導-(2015/8/28)
要旨
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター神経成長機構研究チームの上口裕之チームリーダーと神経膜機能研究チームの平林義雄チームリーダー、東北大学 大学院薬学研究科の青木淳賢教授、東京大学 大学院総合文化研究科の太田邦史教授らの共同研究グループ※は、異なる種類の感覚を伝える神経突起[1]を分別してその行き先を制御する新たな脂質を発見しました。
身体からの感覚を伝える神経突起は脊髄を経由して脳へとつながっています。痛覚(皮膚で痛みを感じること)と固有感覚(自身の関節の位置や動きを感じること)などのように、異なる種類の感覚を伝える神経突起が、それぞれ脳脊髄の異なる部位へ投射するため、私たちは感覚の種類を識別することができます。脳脊髄の神経回路が作られる段階で、痛覚と固有感覚を担う神経突起は同じ経路を通って脊髄へ到達しますが、脊髄に入った直後にこれらの神経突起は分別され、混線することなくそれぞれの目的地へ誘導されます。しかし、この神経突起を分別するタンパク質はこれまで見つかっておらず、分別の仕組みは明らかにされていませんでした。
共同研究グループは、この神経突起の分別の仕組みは脂質によって制御されていると考えました。その仮説を立証するためには脂質を解析する必要がありますが、現代の医学生物学では脂質を詳細に解析することは非常に困難でした。そこで共同研究グループは、有機合成化学・分析化学・免疫学など異分野の研究者と連携し、脂質分子の合成・精製・定量・抗体作製の技術を神経科学と融合しました。その結果、神経突起の分別を担う新たな脂質「リゾホスファチジルグルコシド」を発見しました。リゾホスファチジルグルコシドは脊髄内の固有感覚の神経突起が通る特定の部位にのみ存在し、痛覚の神経突起を反発[2]することで、両方の神経突起は混ざり合うことなく別の目的地へ投射することが分かりました。また神経突起の表面に存在してリゾホスファチジルグルコシドを感知するGタンパク質共役受容体[3]も特定しました。
本研究は、「脂質が神経回路の構築を制御する」という新原理を明らかにしました。これに伴い、損傷した神経回路の修復技術の開発が進むことが期待できます。また、タンパク質の働きのみでは説明不可能な生命現象に対する研究の成功例であり、脳科学における新たな研究分野の開拓が期待できます。
本研究は、米国の科学雑誌『Science』(8月28日号)に掲載されます。
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150828_2/

サノフィ・アベンティス東北大学と包括協定契約締結(2011/6/29)
サノフィ・アベンティス株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:ジェズ・モールディング、以下「サノフィ・アベンティス」)は、東北大学(宮城県仙台市、総長:井上 明久)と3年間の包括協定契約を締結したことを発表しました。

詳細は下記ホームページを閲覧してください。
http://www.sanofi-aventis.co.jp/l/jp/ja/layout.jsp?scat=9FDA6D6E-65C4-4A02-818E-09679184F637

生細胞内のアクチン単量体の濃度変化を高解像度で測定する新技術を開発(2011/4/28)
東北大学大学院生命科学研究科の木内泰助教と水野健作教授らの研究グループは、生細胞内でのアクチン単量体の濃度変化を高解像度で測定する新技術(s- FDAP法)の開発に成功しました。また、この技術を用いて、細胞外からの刺激に応じて細胞内のアクチン単量体の濃度が大きく変動すること、アクチン単量体濃度は刺激によって生じる細胞内アクチンの重合度や仮足の大きさを決定する重要な因子であることを証明しました。今回開発されたs-FDAP法は細胞の運動・形態形成や癌細胞の浸潤・転移の分子機構を解明するための有効な手段となることが期待されます。今回の研究成果は、米国の細胞生物学雑誌 Journal of CellBiologyの4月18日号に掲載されました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/disclosure/pressrelease/01/pressrelease0101/tohokuuniv-press_20110428_1.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/04/press20110427-01.html

網膜剥離が生じるメカニズムの解明への一歩(腫瘍壊死因子が眼の光受容体の細胞死を促進する)(2011/4/5)
 東北大学大学院医学系研究科視覚先端医療学寄附講座の中澤徹准教授らのグループは、網膜剥離のマウスモデルにおいて、腫瘍壊死因子(TNF:Tumor Necrosis Factor)が眼の光受容体を持つ視細胞の細胞死を促進することを解明しました。網膜はカメラに例えるとフィルムに相当し、視細胞は光を感じる物質(感光体)を持ち、物を見るためには不可欠な細胞です。この視細胞が障害を受けると視力低下の原因となります。目の病気では、網膜剥離や、新生血管を伴う加齢黄斑変性症などにより視細胞が障害されます。しかし、これまでこれらの失明につながる疾患において発症のメカニズムははっきりわかっておりませんでした。特に網膜剥離による視細胞死についてほとんど知見がありませんでした。今回の研究で、腫瘍壊死因子(TNF:Tumor Necrosis Factor)αが、網膜剥離によって誘導される光受容体の変性において重要な役割を果たしていることがわかりました。今後、網膜剥離の予防において TNFαが重要なターゲットになることも考えられます。TNFαは抗体医療やリウマチなどの全身疾患でも重要なターゲットであり、それらの薬剤が網膜剥離による視細胞死に有効な治療になる可能性があります。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/%28HP%29tohokuuniv-press_20110405_2.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/04/press20110405-02.html

HIV-1タンパク質の細胞膜透過の仕組みをナノメートルレベルで可視化し解明(2011/3/30)
東北大学大学院医学系研究科の鈴木康弘 講師の研究グループは、同研究科ナノ医科学寄附講座の権田幸祐講師ら、東京大学大学院理学系研究科の樋口秀男 教授らと共同で、エイズウイルスが発現するTAT(Trans-activator of transcription)タンパク質の細胞膜上での動態を7ナノメートル(ナノメートル:ミリメートルの百万分の一)で直接可視化・解析する方法を世界で初めて開発しました。この方法により、TATタンパク質が細胞表面の膜貫通タンパクに結合し、その後、細胞に侵入する様子をTATタンパク質1分子ごとに観察し、その細胞侵入機序の解明に成功しました。TATタンパク質の動態を1分子レベルで直接観察できるようになったことで、今後、その侵入機序の解析をもとにしたエイズの進行抑制法開発が期待されると同時に、TATタンパク質の持つ侵入特性を利用して開発中の細胞へのタンパク質導入法の開発・改良が飛躍的に改善され、再生医学やがん治療法の開発等への応用が期待されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110330_2.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/03/press20110330-02.html

ヒートショックタンパク質(HSP)誘導による網膜剥離の治療に向けて ゲラニルゲラニルアセトン(GGA)の持つ神経保護作用(2011/3/15)
 東北大学大学院医学系研究科視覚先端医療学寄附講座の中澤徹准教授らのグループは、米国ハーバード大学眼耳病院ジョン・ミラー博士らと共同で、薬剤ゲラニルゲラニルアセトン(GGA)の経口投与によって、網膜にヒートショックタンパク質(HSP)を誘導することで、網膜剥離によって起こる視細胞死を強力に抑制することを示しました。

 眼の網膜はカメラにおけるフイルムに相当し、光を感知する視細胞は、光を受容し視覚情報を脳に伝える重要な細胞です。失明するような重症の目の病気では、この視細胞が細胞死を起こすことが直接的な視力低下の原因となっていることが知られています。研究グループはこれまでに、網膜剥離のマウスモデルでは、視細胞死がTNFαを介して起こることなどを示し、細胞死を抑制するような神経保護薬剤の探索を続けておりました。HSPは変性したタンパク質を修復する機能があることから、網膜剥離による視細胞死を抑制するという仮説を立て検証しました。結果、GGAをマウスに経口投与することにより、HSPが誘導され、網膜剥離によって起こる細胞死が抑制されることを示すことができました。

 本研究成果は、米国の科学誌American Journal of Physiologyに掲載されます。

※長文のリリースです。全文は下記URLを閲覧してください。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110311_1.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/03/press20110315-01.html

糖尿病性腎症の発症抑制(2011/3/10)
ヨーロッパで糖尿病性患者を対象としたROADMAP試験が行われ、降圧薬のオルメサルタンが糖尿病性腎症の発症を抑制することが明らかになり、米国医学専門誌New England Journal of Medicineの3月10日号に発表されます。この試験は国際共同研究で、Haller教授(ドイツ、ハノーバー)をChairmanとする12人の委員により遂行されました。日本からは、東北大学大学院医学系研究科伊藤貞嘉教授(腎・高血圧・内分泌学、附属創生応用医学研究センター先進統合腎臓科学コアセンター)と埼玉医科大学の片山茂裕教授(病院長)が委員を務めました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110308.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/03/press20110310-01.html

赤血球産生の新しい仕組みを発見 ~脳貧血や骨髄異形成症候群の治療法開発につながる発見~(2011/2/9)
(財)東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所の小松雅明副参事研究員、東北大学大学院医学系研究科医化学分野山本雅之教授らのグループは、遺伝子改変マウスを用いた実験により、たんぱく質修飾活性化酵素Uba5が血液産生に直接関与するという赤血球産生の新しい仕組みを発見しました。造血の異常は、生命を脅かす脳貧血や骨髄異形成症候群といった病気を引き起こしますが、これらの病態発症にこの酵素が関与している可能性を見出しました。

 この研究成果は、2月8日16時(英国時間)に英国科学専門誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」(※3)オンライン版に掲載されます。

 なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会の科学研究費(21679002)の助成を得て実施しました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110207_4.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/02/press20110209-01.html

ピロリ菌の増殖を抑制するオリゴ糖の大量合成に道(2011/2/8)
東北大学工学研究科バイオ工学専攻の正田教授の研究グループと野口研究所(公益財団法人)は、胃癌や胃潰瘍などの原因となるピロリ菌を殺菌あるいは増殖抑制するオリゴ糖の大量合成法を開発しました。合成ターゲットとなったオリゴ糖は、N-アセチルグルコサミンとガラクトースという二種類の単糖が、α結合を介して結合したものです。水中で脱水縮合剤と酵素を使ってわずか2工程で合成することができます。

本成果は、3月26日から神奈川大学で開催される日本化学会において発表されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110208_2.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/02/press20110208-2.html

顕著な抗がん作用を示す海洋天然物の完全化学合成(2011/1/25)
 がんは日本人の死亡原因第一位の疾患であり、その効果的な化学療法の開発は、社会的要請が極めて高い重要な課題です。海洋生物が生産する二次代謝産物注1(海洋天然物)の中には、ユニークな作用機序で、顕著な抗がん作用を示す化合物が多く見いだされていることから、画期的な抗がん剤のシードが海洋資源に求められています。しかし、海洋天然物の多くは微量成分であり、海洋資源の乱獲は生態系への悪影響が懸念されるため、詳細な薬効評価や薬剤開発には化学合成による実用的な化合物供給法の開発が必要です。

 このたび、東北大学大学院生命科学研究科生命構造化学分野の不破春彦准教授、佐々木誠教授のグループは、奄美大島で採取された海綿より抽出されたマクロリド化合物イグジグオリドの効率的な完全化学合成(全合成)を世界に先駆けて達成しました。さらに、東北大学大学院医学系研究科および財団法人癌研究会癌化学療法センターとの共同研究により、イグジグオリドがヒト肺がん細胞の増殖を顕著に抑制することを初めて明らかにしました。今後、化合物の構造最適化や作用機序の解明により、日本発の画期的な抗がん剤の開発や、新たな創薬ターゲットの発見に結びつく可能性があります。本研究成果は、欧州総合化学誌Chemistry—A European Journalに2011年1月25日付(日本時間)で発表されました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110125.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/01/press20110125-01.html

がん転移の原因タンパク質の構造解明(2011/1/17)
発表概要

脂質メディエーターリゾホスファチジン酸(LPA)の産生酵素であるオートタキシン(ATX)がLPAを産生するメカニズムを分子レベルで解明しました。 LPAはGタンパク質共役型受容体に作用し、多岐にわたる細胞応答を引き起こすことで、正常な発生過程における血管形成に必須な酵素タンパク質です。 一方で、がん、動脈硬化、肺線維症、神経因性疼痛など様々なヒト疾患に関与していることが知られており、創薬ターゲットとしても注目されています。 したがって、本研究成果は新規創薬開発の基盤となることが期待されます。 本成果は、「ターゲットタンパク研究プログラム」の一環として濡木理(東京大学大学院理学系研究科 教授)、青木淳賢(東北大学大学院薬学研究科 教授)、高木淳一(大阪大学蛋白質研究所 教授)、西増弘志(東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻 特任助教)により行われたものです。

発表内容
オートタキシン(ATX)は、血中に存在するリゾホスファチジルコリン(LPC)を加水分解し、リゾホスファチジン酸(LPA)を産生する酵素タンパク質です(図1)。 LPAは脂質メディエーターとして注目されているシグナル伝達分子であり、Gタンパク質共役型受容体(注1)であるLPA受容体に作用し、細胞増殖や遊走、創傷治癒、脳神経系の発達・分化、血管形成など様々な生命現象に関わっています。 一方で、元々ATXは悪性腫瘍から分泌され、自身の細胞運動性を促進する因子として発見されたタンパク質であり、実際に乳がん、肺がん、脳腫瘍など様々ながん細胞においてATXの発現が上昇していること報告されています。 また、がん以外にも、動脈硬化、肺線維症、神経因性疼痛など様々なヒト疾患に関与していることも報告されています。 しかし、ATXがLPAを産生する分子メカニズムの詳細はわかっていませんでした。

本研究では、マウス由来のATXと脂肪酸種の異なる5種類のLPAの複合体の立体構造をX線結晶構造解析(注2)によって決定しました(図2)。 その結果、これまで機能がよくわかっていなかったソマトメジンB様ドメイン(注3)とヌクレアーゼ様ドメイン(注4)が触媒ドメインの両側から相互作用し、触媒ドメイン中の疎水性ポケットの構造を安定化していることが明らかになりました。 5種類のLPA複合体構造中で、LPA分子の脂肪酸はそれぞれ異なる形に折れ曲がって疎水性ポケットに結合していることが明らかになりました(図3)。 これらの構造から、ATXが複数種のLPCを基質として切断する分子メカニズムが解明されました。 予想外なことに、活性部位に通じる疎水性チャンネルが存在し、そこに脂質分子が結合していることを発見しました(図4)。 疎水性チャネルを塞ぐような変異体酵素を作製し、解析したところ、LPA産生活性は保持されている一方で、細胞運動性促進活性が著しく低下していることを見出しました。 この結果から、ATXによって産生されたLPAは溶液中に遊離した後にLPA受容体に作用するのではなく、ATXのもつ疎水性チャンネルを通って効率的にLPA受容体へと受け渡されることが示唆されました。 すなわち、ATXはLPA産生酵素としてだけなく、LPA輸送タンパク質としても機能しているというモデルが提唱されました。

ATXはがん、肝硬変、肺線維症などの病態と深く関係することから、世界中の研究グループがATXの阻害剤の開発に取り組んできましたが、ATXの立体構造が不明だったこともあり、治療薬として使用可能な阻害剤は得られていませんでした。 本研究で得られた立体構造情報は、抗がん剤として有望な選択性と親和性に優れた阻害剤開発の基盤となることが期待されます。
発表雑誌
タイトル:Crystal structure of autotaxin and insight into GPCR activation by lipid mediators
(オートタキシンの結晶構造と脂質メディエーターによるGPCR活性化への知見)
著者:西増弘志,奥平真一,濱弘太郎,三原恵美子,堂前直,井上飛鳥,石谷隆一郎,高木淳一,青木淳賢,濡木理
米国科学誌「Nature Structural & Molecular Biology」2011年1月17日(日本時間)付でオンライン版に公開。
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/press/press-2011-02.html

ステロイド含有ナノ粒子を使って貪食細胞を選択的に抑制(2011/1/11)
―網膜疾患に新しい薬剤投与法の可能性―
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110111_2.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/01/press20110111-02.html

ヒト細胞でのDNA切断の修復に必要な新しいタンパク質群を発見(2011/1/4)
―新しい癌の原因とその治療法の発見―

 DNAの傷は発癌の原因であり、同時に癌細胞に細胞死を起こして癌治療に導く方法でもあります。DNAの傷の中でもDNAの二本鎖が同時に切れて生じる二重鎖切断は細胞に最も深刻な傷で、この傷が修復されないと最も高頻度に癌や細胞死をもたらします。これまでヒト細胞ではKu(クー)と呼ばれるタンパク質が二重鎖切断部位に直接くっつき、切れた二重鎖DNAを再結合する修復を始めると考えられていました。私達は、世界で初めて、二重鎖切断のみをヒト細胞のDNAの一カ所に多数作り、そこに集るタンパク質を可視化して解析する新しい技術を開発しました。この方法と以前に開発したレーザーマイクロ照射法と呼ばれるリアルタイム可視化解析技術や生化学的方法を使って、ヒト生細胞で作った二重鎖切断に集るタンパク質を調べると、Kuタンパク質が切断部位にくっつくには、DNAの周りのタンパク質(クロマチン)を動かすクロマチンリモデリング因子と呼ばれる多数のタンパク質が、まず二重鎖切断を見つけて集まり、そこにKuタンパク質を呼び寄せて修復を開始する必要があることを発見しました。さらにこれらの因子は二重鎖切断を修復するもう一つの機構である相同組換えにも必要である事が分りました。従ってこれらの因子のどれかに異常があると二重鎖切断が不完全に処理され、癌細胞になる可能性があり、実際に、そのような癌細胞が見つかってきています。今回の発見で、これらの癌細胞の治療には二重鎖切断を作り出す化学療法や放射線療法が効果的な癌治療法となることが期待されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110104.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/01/press20110104-01.html

飲み水で腎臓病の障害を防ぐ(2011/1/4)
 東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センター先進統合腎臓科学コアセンター(センター長:伊 藤貞嘉教授(腎臓・高血圧・内分泌学分野))は株式会社日本トリムとの産学共同研究で、水の電気分解注によ って得られる高濃度の溶存水素を含む電解水素水を日常的に慢性腎臓病モデルラットに飲用させると、通常 の浄水を飲んだものと比べて、腎臓及び心臓の炎症や酸化ストレスなどの進行が抑えられることを明らかに しました。慢性腎臓病に対する新たな予防対策につながることが期待されます。本成果は、欧州腎臓・透析 移植学会の学会誌(Nephrology Dialysis Transplantation)の電子版に掲載されました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20110104_2.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/01/press20110104-02.html

薬による二日酔いのメカニズムの解明 ―分子イメージングによる画像化に世界で初めて成功―(2010/12/16)
処方箋なしで購入できるOTC薬によく含まれている鎮静性抗ヒスタミン薬を前夜に服用すると翌日まで影響するのでアルコールと同じ二日酔いと同じ状況になりますが、東北大学大学院医学系研究科の谷内一彦教授(機能薬理学)とサイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの田代学准教授(核医学)はPET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)を用いて前夜に服用した鎮静性抗ヒスタミン薬による「二日酔い」の分子イメージングに成功し、そのメカニズムをヒトで初めて明らかにしました。特に車の運転や重要な試験を受けるなどの高い能力を発揮する必要がある時は前日の夜に鎮静性抗ヒスタミン薬などは服用しないように十分に注意が必要であることを科学的に証明しました。本研究は12月に米国の専門誌Journal of Clinical Psychopharmacology に掲載されました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/12/press20101216-01.html

新しい美白アプローチ ~メラノソームの輸送を阻害し、ケラチノサイトへ のメラニンの移行・蓄積を抑える~(2010/12/15)
東北大学大学院生命科学研究科・膜輸送機構解析分野(福田光則教授)では、新たな美白へのアプローチを目指し、株式会社コーセーとメラニン色素の輸送メカニズムに関する共同研究を行ってきました。この度その成果として、健康茶として知られるサンペンズ(学名Cassia mimosoides L. 別名 リュウキュウカワラケツメイ)のエキスに、メラノソームの輸送を阻害する効果を発見しました。「サンペンズエキス」はメラノソームの輸送制御因子のタンパク質量を減少させることで、ケラチノサイトへのメラニンの移行・蓄積を抑制することを突き止めました。今後、このエキスを配合した美白化粧品への応用が期待されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/press20101215_01.pdf
http://www.kose.co.jp/jp/ja/ir/common_ir/pdf/news/20101215.pdf

若年性パーキンソン病の神経変性に関わる新規遺伝子の発見 --新規治療ターゲットとしての可能性--(2010/12/3)
 パーキンソン病は中脳ドーパミン神経の変性を特徴とする難治性の神経変性疾患です。50歳未満で発症する若年性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子としてPINK1とParkinが知られています。私たちは、動物モデルを用いてこれらの遺伝子が協調してドーパミン神経の生存性を維持することをすでに報告しておりましたが、その分子機構の詳細は未解明のままでした。今回、PGAM5という新しい遺伝子が、PINK1とParkinの働きを調節し、本疾患に関与する可能性を見出しました。

 本研究成果は、米国のオンライン科学誌「PLoS Genetics」に近く掲載されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/press20101203_01.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/12/press20101203-01.html

モヤモヤ病の発症に関わる遺伝子を発見(2010/11/4)
モヤモヤ病は脳動脈の特定部位の狭窄と網目状の細い血管の新生のため、成人だけでなく幼児でも脳卒中を発症する疾患で、日本に多い疾患です。これまで原因不明とされ特定疾患に指定されている難病です。今回、東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野の呉繁夫准教授らのグループは、発症に関わる遺伝子 RNF213 を見出し、日本人患者の約70%は同じ遺伝子変異を持つことを明らかにしました。この遺伝子変異によりモヤモヤ病の発症リスクが約190倍に上昇するため、遺伝子検査による発症リスクの予測が可能となります。今後、この遺伝子機能を調べることで脳卒中の新しい治療に結び付く可能性があります。

 本研究成果は、11 月4 日付でJournal of Human Genetics 誌にオンライン掲載されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20101104_02.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/11/press20101104-02.html

抗体産生を調節する遺伝子回路を発見 -自己免疫疾患やアレルギーに対する治療戦略開発へ向けて-(2010/10/15)
抗体は形質細胞から分泌され、細菌やウイルスなどから体を守る重要な役割を担って いますが、その産生に異常があると膠原病など自己免疫疾患注1やアレルギーの原因と なることもあります。形質細胞はB リンパ球から分化し、この分化はマスター調節因 子Blimp-1 により促進されますが、その制御の機構はこれまで十分に解明されていませ んでした。このたび、東北大学大学院医学系研究科細胞生物学講座生物化学分野の武藤 哲彦講師、五十嵐和彦教授のグループは、東北大学国際高等研究教育機構、広島大学原 爆放射線医科学研究所などのグループと共同で、転写因子注2Bach2(バック2)がBlimp-1 (ブリンプ-1)遺伝子に結合し、その発現を抑えることにより、形質細胞分化と抗体産 生を抑えることを発見しました。Bach2 を持たないB 細胞は形質細胞への分化が亢進す ることから、Bach2 とその遺伝子回路は、自己免疫疾患やアレルギーの治療標的となる 可能性が考えられます。この発見は欧州の学術誌The EMBO Journal(欧州分子生物学機 構誌)の電子版に10 月15 日に発表されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/press20101014_01.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/10/press20101014-01.html

緑色光で脳神経細胞を目覚めさせる技術の開発(2010/9/24)
東北大学大学院生命科学研究科の八尾寛教授らの研究グループは、緑藻類の光感受性イオンチャネル(チャネルロドプシン:ChR) の構造-機能連関を解明し、緑色光に対して高い感受性を持ち光電効率の高い改変型チャネルロドプシン、チャネルロドプシン・グリーンレシーバー(ChRGR)を世界に先駆けて作り出しました。遺伝子工学的に、ChRGR をマウス大脳皮質運動野の神経細胞に組み込み、正弦波状に振動する緑色LED光を周波数が連続的に変調するように照射したところ、神経細胞が3-10Hzの光振動に同調して活動しました。さらに麻酔下の動物の大脳皮質運動野に同様の光振動を与えたところ、大脳皮質の ネットワークが高い活動レベルに状態遷移することを見出しました。ChRGR と緑色LEDの時空間パターン光入力の組み合わせにより、従来の電気刺激に代わる脳を直接駆動する新しい技術になると期待されます(オプト・カレントクランプ法)。この研究成果は、9月23日(米国東部時間)付で、医学を含む科学分野全般に高く評価されている米国のオンライン学術誌Public Library of Science (PLoS) ONE に掲載されました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20100917_1.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/09/press20100924-01.html

「メンデルの遺伝の法則」に新しい分子メカニズム発見 (生命科学研究科 渡辺正夫教授)(2010/8/19)
1865年にメンデルが発表した「遺伝の法則」に「優性の法則」というのがあり、優性対立遺伝子と劣性対立遺伝子をそれぞれの両親から1対ずつもらうと、優性の形質(性質)が表現型として表れます。これが先の「優性の法則」であり、1865年にメンデルが発表した遺伝の法則の1つです。この法則については、劣性対立遺伝子がその機能を消失していることが原因であるという理解がされていました。

われわれは、対立遺伝子が3つ以上ある「複対立遺伝子」間での優劣性に着目し、その代表例であるアブラナ科植物の自家不和合性制御遺伝子、SP11の発現を調査することで新規な優劣性発現メカニズムを明らかにしました。実際には、SP11について、優性、劣性対立遺伝子の遺伝子構造を比較したところ、劣性SP11対立遺伝子発現制御領域と高い相同性のある逆反復配列が優性SP11対立遺伝子の周辺に存在していることを発見しました。この配列からは、低分子RNA(small RNA, sRNA)が、SP11と同様に、葯・タペート細胞特異的に発現していました。この低分子RNAが劣性対立SP11遺伝子の相同領域のDNAメチル化を誘導し、後天的に遺伝子発現を抑制していました。

この成果は、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科・高山誠司教授、東北大学大学院生命科学研究科・渡辺正夫教授らで行った共同研究によるものです。

メンデルが遺伝の法則を発表してから100年以上ですが、新たなコンセプトを提唱でき、また、この分子メカニズムを利用することで、遺伝子発現を自由にオン・オフでき、品種改良にも新しい概念を導入できる可能性があります。

本研究は、科学研究費補助金、特定領域研究・植物ゲノム障壁「受粉反応時に「ゲノム障壁」を誘起する花粉・柱頭因子の分子遺伝学的解析」(研究代表者:渡辺正夫)、日本学術振興会科学研究費若手研究(S)「アブラナ科植物の自家不和合性における自己・非自己識別機構の分子基盤」(研究代表者:渡辺正夫)の一環として得られたものです。

本研究成果は、英国の科学雑誌「Nature」(http://www.nature.com/nature/index.html)に、日本時間の8月19日午前2時 (ロンドン時間の8月18日午後6時)に掲載されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/08/awards20100819-01.html

「糖尿病合併症の進展予測物質を同定」(2010/8/2)
―血中メチルグリオキサールは5年後の糖尿病性血管障害進展を予測する―

近年、急速に増大する糖尿病患者数と、その血管障害(心筋梗塞や脳梗塞など)は大きな問題となっています。重点的な介入治療を行えるように、糖尿病患者の中から血管障害を起こす可能の高い患者を選別する方法の確立が望まれてきました。今回、東北大学保健管理センターの小川晋准教授らのグループは、血中メチルグリオキサール値が高い糖尿病例では5年間の血管障害がより強く進行することを明らかにしました。この値を検査することで、重点的な介入治療を行う対象を選別することが可能となり、糖尿病患者の心血管障害の効率良い予防が可能となることが期待されます。本成果は、専門誌Hypertensionの電子版に掲載されました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/08/press20100802-01.html

「重症虚血性心疾患に対する低出力対外衝撃波治療」 高度医療承認について(2010/7/9)
東北大学病院 循環器内科の下川宏明教授らのグループは、狭心症の患者さんを対象にした新しい血管新生療法を開発しました。7月1日付けで厚生労働省の高度医療(第3項先進医療)に承認されましたので、お知らせいたします。
下記の日程で記者会見・PCプレゼンテーションを行いますので、ご案内いたします。

日 時:平成22年 7月 9日(金)午後2時より
場 所:東北大学病院東4階病棟 第5会議室
内 容:PCプレゼンテーション、及び質疑応答(計1時間程度)

【概要説明】
(本治療法開発の背景)
我が国では、人口の高齢化や生活の欧米化により、狭心症や急性心筋梗塞などの虚血性心疾患の患者数が増加してきています。これらの疾患に対して、薬物療法・カテーテル治療・バイパス手術が行われていますが、これらの標準的治療のみでは治すことが難しい患者さんが増えてきています。そのため、新しい治療法の開発が望まれています。
体外衝撃波治療は、20 年以上前から尿路結石破砕治療として臨床応用されている治療法です。
下川教授らは、結石破砕治療に用いられている出力の約10分の1という弱い出力の衝撃波が血管新生をおこすことを発見し、低侵襲でかつ有効性の高い治療法を開発して世界をリードしてきました。

(本治療法の特徴)
この画期的な治療法は、他の先進的な医療(遺伝子治療、細胞移植治療)とは異なり、全身麻酔や手術操作が一切不要であるという点で、極めて非侵襲的な治療法です。また、非常に弱い出力の衝撃波を照射するため、治療に伴う副作用や合併症も認めていません。更に非侵襲性の治療であることから、必要があれば繰り返し行うことも可能です(図1)。

(本治療法の開発の経緯)
まず、下川教授らは、培養細胞や大型動物(ブタ)を用いた基礎研究で、低出力の衝撃波を用いた血管新生療法の有効性・安全性を確認し、世界で初めて論文発表しています(Nishida etal. Circulation 2004)(図2)。また、2006 年と2010 年には、第一次(オープン試験)・第二次(二重盲検試験)の臨床試験で有効性と安全性を確認した結果を、世界で初めて論文発表しています(Fukumoto et al. Coron Artery Dis. 2006; Kikuchi et al. Circ J. 2010)(図3-4)。

(本高度医療の概要)
今回の高度医療の実施では、弱い出力の衝撃波(結石破砕治療の約10分の1)を用いて体外衝撃波治療を1~2日おきに3回行います(図5)。
具体的には、仰向けに寝た患者さんの前胸壁に衝撃波発生装置を当て、治療装置に内蔵された超音波検査装置で心臓を観察しながら、虚血部位に照準を合わせて低出力衝撃波を照射します。1回の治療で200 発の弱い衝撃波を約50 ヵ所に当てます。1回の治療時間は約3時間です。麻酔や鎮静剤の投与も不要で、覚醒下で治療を行いますが、痛みはありません。衝撃波治療にかかる費用は、3回の治療(1クール)で26 万5500 円(全額自費)となりますが、衝撃波治療以外の検査・入院費用については、保険適応(通常3割負担)となります。今回は、東北大学病院において、50例の実施が承認されました。

本治療法の確立により、狭心症患者さんの生命予後・生活の質(QOL)の改善が期待され、医学的意義は極めて大きいと考えられます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20100708_3.pdf

細胞運動の“ブレーキ”の特性が明らかに(2010/7/7)
 この度、名古屋大学大学院理学研究科の武田修一研究員、前田雄一郎教授を中心とする研究グループは、独立行政法人理化学研究所播磨研究所の似内靖先任研究員、名古屋大学大学院情報科学研究科の太田元規教授の研究グループ、及び東北大学大学院薬学研究科の山國徹准教授の研究グループと共同で、細胞運動を調節する重要なタンパク質である「アクチンキャッピングタンパク質」(CP)の活性制御の仕組みを明らかとすることに世界で初めて成功しました。
 高等生物の細胞運動は、タンパク質アクチンの離合集散によって行われており、その細胞運動において、アクチンは駆動力を与えるエンジンであり、CPはそれを制御するブレーキに相当します。今回の研究では、これまでほとんどわかっていなかったブレーキの特性が解明されました。本研究の成果は、細胞中にもっとも大量に存在するタンパク質であるアクチンの分子運動を理解する上で非常に重要であり、今後、がんや筋疾患などの治療研究への寄与も期待されます。
 なお、本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「前田アクチンフィラメント動態プロジェクト」(研究総括:前田雄一郎教授)の一環として行われたもので、平成22年7月6日付(米国東部夏時間)米国科学雑誌PLoS Biology電子版に掲載されます。

(論文) 
"Two Distinct Mechanisms for Actin Capping Protein Regulation - Steric and Allosteric Inhibition"
Shuichi Takeda, Shiho Minakata, Ryotaro Koike, Ichiro Kawahata, Akihiro Narita, Masashi Kitazawa, Motonori Ota, Tohru Yamakuni, Yuichiro Maéda, Yasushi Nitanai
PLoS Biology (2010)


《背景》
 私たちの身体を作っている細胞は、ある時期に活発に動きます。神経回路を形成するときには、神経細胞は“手”を伸ばし相手の神経細胞と“手”をつなごうとします。母胎内で身体が形成されるときには、個々の細胞は正しい配置を取るために、適切な場所へと移動します。免疫細胞は、細菌など異物が侵入した場所に駆けつけ、外敵を“飲み込み”ます。また制御不能な移動能を獲得したがん細胞は、別な組織に転移します。

 これらすべての細胞運動は、たった一種類のタンパク質アクチンの離合集散によって引き起こされます(アクチンの分子運動)。細胞内ではアクチン分子は二つの状態をとります。すなわち、個々バラバラに存在する状態と、多くの分子が数珠のように互いに連なって(重合)アクチンフィラメントを作っている状態です(図1)。アクチンが重合し、細胞膜を内側から押すことによって、細胞は移動します。

 細胞内には、アクチンの分子運動の速度を調節する多くの補助タンパク質が存在します。このような補助タンパク質の一つに、アクチンキャッピングタンパク質(CP)があります(図1)。CPはアクチンフィラメントの端に結合して、そこを塞ぐことによって重合を抑えます。CPが多すぎると、アクチンの重合が進まず、アクチンフィラメントができません。反対にCPが少なすぎると、細胞はアクチンフィラメントだらけになってしまいます。実際、細胞は時と場所に応じてCPの量を調節し、それによってアクチンフィラメントの量が調整され、それゆえ細胞運動の速度や強さを変動させることができます。つまりアクチンを細胞運動のエンジンに例えると、CPはブレーキに相当します。

 さらに細胞は、このCPのブレーキ能力を調節する仕組みを備えています。本研究では、二種類のタンパク質、V-1(ブレーキの数を減らす)とCARMIL(ブレーキをアクチンフィラメントから外す)がどのようにCPを調節しているのかを、世界で初めて明らかにしました。

《研究成果のポイント》
1. アクチンキャッピングタンパク質(CP)とその作用を抑制するタンパク質V-1、及びCARMILそれぞれとの複合体の詳細な立体構造を解明した。
2. V-1はCP上のアクチンフィラメント結合部位を直接覆い隠すことによって、CPとアクチンフィラメントとの結合を不可能にする。その一方CARMILはV-1とは全く別の位置に結合する。
3. これまで“硬い”タンパク質であると考えられていたCPが、実は常にねじり運動を繰り返す“柔らかい”分子であることが判明した。
4. CARMILはCPを束縛し、ねじり運動を抑えることによって、CPをアクチンフィラメント端から解離させると結論された。

《研究の内容》
 研究グループは今回の研究で大型放射光施設SPring-8※1の理研 構造ゲノム I ビームライン BL26B1を利用し、X線結晶構造解析法※2によりCPとV-1、及びCPとCARMILのそれぞれのタンパク質複合体の構造を解明することに成功しました。これによって、それぞれの分子同士がどこにどのように結合しているかを、詳しく知ることができました。

 V-1はCP表面上の、アクチンフィラメント端と結合する部位を覆い隠すように結合していました(図2)。そのためV-1が結合したCPは、もはやアクチンフィラメント端には全く結合することができなくなる、つまりブレーキとしては働けなくなります。

 一方CARMILはCP上のV-1とは反対側の位置、すなわちアクチンフィラメント端結合部位とは全く異なる場所に結合していました(図2)。これはCARMILがアクチンフィラメント端に結合しているCPにも結合できることを意味しています。

 CARMILはCPをアクチンフィラメント端から解離させる(ブレーキを外す)ことが知られていますが、それでは、なぜ離れた場所に結合するにもかかわらず、CARMILはCPをアクチンフィラメントから外すことができるのでしょうか?この遠隔操作を実現するためには、CARMILが結合することによってCP全体の形に何らかの変化を起こす必要があります。今回の研究では、その変化の実態を解明することができました。

 今回得られたいくつかのCPの構造を比較することによって、CPは大小二つの領域(ドメイン)から成り立っていることが示されました(図3)。二つの領域は互いにねじれるように揺れ動くことができるようになっており、それによってCPは分子の形を変えることができます。つまり、これまで“硬い”分子であると考えられていたCPが、実は“柔らかい”分子であることが判明しました。CPはアクチンフィラメント端にいったん接触すると、このねじり運動によって自身の形をアクチンフィラメント端にピッタリと合うように変化させるようです。CARMILはCPの二つの領域にまたがって結合しています。これらのことから、CARMILは二つの領域間のねじれ具合を変え、CPをアクチンフィラメント端とは合わない形に束縛するため、アクチンフィラメント端との結合を著しく弱めると考えられます(図4)。本研究では、この考え方を支持する証拠も得ることができました。


《成果の意義》
 冒頭に述べたように、アクチンの分子運動はすべての細胞運動の駆動力であり、アクチンと共に働く補助タンパク質も、CPを含めてすべての細胞に共通であります。よって今回明らかとなったCPの作用を調節する仕組みは、細胞運動全般の仕組みを理解する上で非常に重要な知見となります。すなわち免疫、がん、神経発生といった重要な生命現象のメカニズムを理解する上での基礎となります。またV-1は心臓肥大の原因タンパク質の一つとして知られており、今回の結果が心臓病の治療薬の開発につながると期待されます。さらにCARMILがアクチンフィラメント端に結合したCPを外す仕組みは、CP自身の形の揺らぎを巧みに利用したもので、タンパク質相互作用の制御の方式一般を考える上で非常に興味深い例です。
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2010/100707

がん研究・人材育成の連携に関する協定を締結(2010/6/29)
我が国において、がん関連疾患は過去20 年以上にわたり死亡原因の第一位を占めてきました。
本邦の死因統計を見ると、現在約3 人に1 人はがんで死亡する状況であり、今後の高齢化社会の進行とともに、がん罹患者数はさらに増加するものと予想されます。
近年の医学研究・生命科学研究の成果によってがん発症の分子基盤が明らかになり、発がんの分子機構に基づいた治療法が開発へと展開し、多くのがん患者の福音となっています。しかしながら、未だに有効な治療法を見いだせない難治性がんや進行がんも多く、さらなる研究者の努力が求められていることも事実です。
これまでのがん研究は個々のがんの特徴を調べ、それに対する治療戦略を立ててきましたが、近年の生命科学研究技術の発展により、分子・細胞・臓器・環境など多段階の知見を統合し、がんを多面的に理解し、治療戦略を確立する研究へと移行しています。そのような環境のもと、新しい視点をもって活躍できる人材の育成は、がん研究の発展にとって急務と考えられます。
このような背景から、基本協定を締結している東北大学大学院医学系研究科と財団法人癌研究会癌研究所は、がん研究に関わる研究技術を理解し発展させ得る人材の育成について協議を重ねてまいりましたが、今回合意に至り、下記のとおり協定を締結することとなりましたので、お知らせします。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohoku_univ_press_2010062801.pdf

がん研究・人材育成の連携に関する協定を締結(2010/6/29)
我が国において、がん関連疾患は過去20 年以上にわたり死亡原因の第一位を占めてきました。
本邦の死因統計を見ると、現在約3 人に1 人はがんで死亡する状況であり、今後の高齢化社会の進行とともに、がん罹患者数はさらに増加するものと予想されます。
近年の医学研究・生命科学研究の成果によってがん発症の分子基盤が明らかになり、発がんの分子機構に基づいた治療法が開発へと展開し、多くのがん患者の福音となっています。しかしながら、未だに有効な治療法を見いだせない難治性がんや進行がんも多く、さらなる研究者の努力が求められていることも事実です。
これまでのがん研究は個々のがんの特徴を調べ、それに対する治療戦略を立ててきましたが、近年の生命科学研究技術の発展により、分子・細胞・臓器・環境など多段階の知見を統合し、がんを多面的に理解し、治療戦略を確立する研究へと移行しています。そのような環境のもと、新しい視点をもって活躍できる人材の育成は、がん研究の発展にとって急務と考えられます。
このような背景から、基本協定を締結している東北大学大学院医学系研究科と財団法人癌研究会癌研究所は、がん研究に関わる研究技術を理解し発展させ得る人材の育成について協議を重ねてまいりましたが、今回合意に至り、下記のとおり協定を締結することとなりましたので、お知らせします。

1. 協定の名称
「東北大学大学院医学系研究科の連携講座に関する協定」
2. 協定締結者
東北大学大学院医学系研究科(仙台市青葉区星陵町2 番1 号)
財団法人癌研究会癌研究所(東京都江東区有明3 丁目8 番31 号)
3. 協定の内容
① がん生命科学講座(がん細胞イメージング分野、がん分子標的探索分野)の設置
② 連携講座教員(客員教授)の委嘱
③ 連携講座教員による癌研究所における大学院生の研究指導
④ ③に伴う施設・設備の便宜供与
⑤ その他両者間で合意した事項
4. 協定締結式
① 日 時 平成22 年6 月28 日(月) 午後4 時30 分から
② 場 所 東北大学大学院医学系研究科 1 号館2 階 大会議室
③ 調印者 東北大学大学院医学系研究科長 山 本 雅 之
財団法人癌研究会癌研究所所長 野 田 哲 生
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohoku_univ_press_2010062801.pdf

「遺伝子診断を基にした肺癌の個別化分子標的治療を確立」(医学系研究科:貴和教授)(2010/6/24)
東北大学大学院医学系研究科呼吸器病態学分野の貫和敏博教授らの研究グループは、進行した非小細胞肺癌の一部で認められるEGFR 遺伝子活性型変異を治療前に同定することで、分子標的薬 gefitinib(イレッサ、アストラゼネカ社)を用いた新たな治療法が、従来の抗癌剤を用いた化学療法を大きく上回る治療効果をもたらすことを証明しました。この成果は学術誌「The New England Journal of Medicine」(6月24日号;日本時間6月25日発行)に掲載されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/100624prn.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/06/press20100624-01.html

「遺伝子診断を基にした肺癌の個別化分子標的治療を確立」(医学系研究科:貴和教授)(2010/6/24)
東北大学大学院医学系研究科呼吸器病態学分野の貫和敏博教授らの研究グループは、進行した非小細胞肺癌の一部で認められるEGFR 遺伝子活性型変異を治療前に同定することで、分子標的薬 gefitinib(イレッサ、アストラゼネカ社)を用いた新たな治療法が、従来の抗癌剤を用いた化学療法を大きく上回る治療効果をもたらすことを証明しました。この成果は学術誌「The New England Journal of Medicine」(6月24日号;日本時間6月25日発行)に掲載されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/100624prn.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/06/press20100624-01.html

適度な肉類摂取は高齢者の骨折を予防する(医学系研究科)(2010/6/8)
高齢者は転ぶと骨折しやすく、それはしばしば寝たきりへと繋がります。これまでの欧米の研究では、果物や野菜が高齢者の骨密度を維持するという報告が多くされてきました。しかし、東北大学病院卒後研修センター門馬靖武助教、東北大学大学院医学系研究科運動学分野牛凱軍准教授、先進漢方治療医学講座岩崎鋼准教授らが日本の高齢者を対象として食事パターンと転倒骨折の頻度を検討したところ、意外にも適度な肉類摂取が骨折リスクを減らし、逆に極端に野菜中心の食習慣は骨折リスクを高めていることが分かりました。この結果は元々日本人高齢者の肉類摂取が欧米よりはるかに少ない(四分の一)ことを背景にしていると考えられます。今回の結果が漢方の食養生に関するもっとも有名な事典「本草綱目(1590 年、李時珍著)の記載とよく一致していたことは、大変興味深いことです。本研究は、オンラインジャーナルBMC Geriatricsに発表されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohoku_univ_press20100608-02.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/06/press20100608-02.html

2009年度 大学・研究機関 特許資産規模ランキング、広島大学が7位に急浮上(2010/5/31)
株式会社パテント・リザルトはこのほど、「2009年度 大学・研究機関 特許資産の規模ランキング」を集計いたしました(※1)。このランキングの特徴は、特許の注目度を指数化する「パテントスコア」を用いることで、単純な件数比較では見られない、質的な観点を取り入れた評価を行っている点にあります。各大学・研究機関が保有する特許資産の強さを、質と量の両面から総合的に評価しました。

 これによると、上位3機関は1位 産業技術総合研究所(産総研)、2位 科学技術振興機構(JST)、3位物質・材料研究機構(物材機構)と前年と同じでした。これらの機関は保有特許件数が多く、「量」の面で4位以下との差を付けています。ただし、1件当たりで見るとこれら3機関の得点は高くなく、注目度の低い特許も多いことが伺えます。
 最も順位を上げたのは、7位の広島大学です。同大学の保有特許件数は、137件と必ずしも多くはありませんが、質の面で得点を上げ、上位にランクインしました。同大学の注目度の高い特許には、「データの保持特性が高い半導体メモリ」に関する技術や「高効率のデータ圧縮処理」に関する技術、「癌細胞の増殖を抑制する方法」に関する技術などがあります。 
 このほか、10位の九州大学、17位の東京大学などが、昨年度から大きく順位を上げました。
 上位20機関中で1件当たりの特許資産の規模が最も高いのは九州大学、次いで、岡山大学、東北テクノアーチとなっています。

【大学・研究機関 特許資産規模ランキング】
下記URL参照
【大学・TLO 特許資産規模ランキング】
下記URL参照

(※1)【ランキングの集計について】
 特許資産の規模とは、各大学・研究機関などが保有する有効特許を資産としてとらえ、その総合力を判断するための指標です。有効特許1件ごとに特許の注目度を評価する「パテントスコア」を算出した上で、スコアの高低が明確になるように重み付けを行い、それに特許失効までの残存期間を掛け合わせて、各機関ごとに合計得点を集計しています。パテントスコアの算出には、特許の出願後の審査プロセスなどを記録化した経過情報を用いています。経過情報には、出願人による権利化に向けた取り組みや、特許庁審査官による審査結果、競合出願人によるけん制行為などのアクションが記録されており、これらのデータを指数化することで、出願人、審査官、競合出願人の3者が、それぞれの特許について、どれくらい注目しているかを客観的に測ることができます。2010年3月末時点において有効特許を1 件以上保有している大学・研究機関を対象に集計しました。
http://www.patentresult.co.jp/news/2010/05/20097.html

受動喫煙は地域住民の血圧を上げる(薬学研究科 今井潤教授)(2010/5/19)
受動喫煙は地域住民の血圧を上げる
-岩手県大迫研究から世界初の成績報告-
「受動喫煙対策の強化が急がれる」

東北大学大学院薬学研究科の今井潤教授・大久保孝義准教授と、医学系研究科環境保健医学分野 及び 東北大学病院メディカルITセンターのグループは、岩手県花巻市大迫町における血圧・循環器疾患調査により、受動喫煙を受けている女性は、受動喫煙を受けていない女性より家庭血圧が高いことを明らかにしました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohoku_univ_pressrelease_20100519_021.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/05/press20100519-02.html

附属創生応用医学研究センターの改組・再編について(2010/5/11)
東北大学大学院医学系研究科は、附属創生応用医学研究センターを改組・再編し、新しい組織としてスタートさせました。多くの異分野学問を融合し、新分野を開拓すると共に、トランスレーショナルリサーチの推進を迅速に進めていくことを目的としています。新規のセンターは、ミッションや研究のベクトルを共有する横断的研究者(プロジェクト)を「コアセンター」としてユニット化した、コアセンター群の統合体となります。縦割りの講座単位ではなく、「プロジェクト志向型」の挑戦的で柔軟な組織となり、新時代を開拓するために既存の枠を超えたチームの編成や人材・資源の利用をはかっていきます。各コアセンターが世界トップレベルの研究・人材を輩出するプロジェクトユニットとして機能し、将来の東北大学ライフサイエンスを担う学際的、横断的研究を熟成する研究拠点でありたいと考えています。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/05/press20100511-01.html

生体内でのニューロン新生の制御機構の一端を解明(2010/5/7)
-Eph/ephrin シグナルが海馬ニューロン新生と微小血管形成に関わる-

東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授の研究グループは、軸索の伸長などに関わるEphrin-A5 (エフリンA5)*1という分子の遺伝子を欠損した成体マウスにおいて、海馬歯状回におけるニューロン新生が有意に低下していることを発見、生体内でのニューロン新生の制御の一端の解明に成功しました。

かつて大人になってからは増えないと信じられてきた脳の神経細胞(ニューロン)は、ほ乳類の成体脳でも、脳室下帯や海馬歯状回など一部の場所で活発に新生されていることが明らかになっています。特に海馬歯状回でのニューロン新生は記憶や学習行動に関係していること、またニューロン新生の異常と行動異常に相関があることが明らかとなっており、その制御機構の解明が待たれています。

今回、研究グループは、細胞外膜分子の一つであるEphrin-A5 に着目し、Ephrin-A5 遺伝子を欠損した成体マウス(Ephrin-A5-/- マウス)の海馬歯状回におけるニューロン新生を解析し、ニューロン新生が減少していることを明らかにしました。Ephrin-A5 は血管のサイズを調節することによってニューロン新生を制御していることが示唆されています。

本研究成果は、米国科学誌STEM CELLS のウェブ版に先行公開され、間もなく5 月号の表紙を飾ります。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohoku_univ_pressrelease_20100506.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/05/press20100507-01.html

生体内でのニューロン新生の制御機構の一端を解明(2010/5/7)
-Eph/ephrin シグナルが海馬ニューロン新生と微小血管形成に関わる-

東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授の研究グループは、軸索の伸長などに関わるEphrin-A5 (エフリンA5)*1という分子の遺伝子を欠損した成体マウスにおいて、海馬歯状回におけるニューロン新生が有意に低下していることを発見、生体内でのニューロン新生の制御の一端の解明に成功しました。

かつて大人になってからは増えないと信じられてきた脳の神経細胞(ニューロン)は、ほ乳類の成体脳でも、脳室下帯や海馬歯状回など一部の場所で活発に新生されていることが明らかになっています。特に海馬歯状回でのニューロン新生は記憶や学習行動に関係していること、またニューロン新生の異常と行動異常に相関があることが明らかとなっており、その制御機構の解明が待たれています。

今回、研究グループは、細胞外膜分子の一つであるEphrin-A5 に着目し、Ephrin-A5 遺伝子を欠損した成体マウス(Ephrin-A5-/- マウス)の海馬歯状回におけるニューロン新生を解析し、ニューロン新生が減少していることを明らかにしました。Ephrin-A5 は血管のサイズを調節することによってニューロン新生を制御していることが示唆されています。

本研究成果は、米国科学誌STEM CELLS のウェブ版に先行公開され、間もなく5 月号の表紙を飾ります。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/05/press20100507-01.html
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohoku_univ_pressrelease_20100506.pdf

生体内でのニューロン新生の制御機構の一端を解明 ―Eph/ephrin シグナルが海馬ニューロン新生と微小血管形成に関わるー(2010/5/6)
東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授の研究グループは、軸索の伸長などに関わるEphrin-A5 (エフリンA5)*1という分子の遺伝子を欠損した成体マウスにおいて、海馬歯状回におけるニューロン新生が有意に低下していることを発見、生体内でのニューロン新生の制御の一端の解明に成功しました。
かつて大人になってからは増えないと信じられてきた脳の神経細胞(ニューロン)は、ほ乳類の成体脳でも、脳室下帯や海馬歯状回など一部の場所で活発に新生されていることが明らかになっています。特に海馬歯状回でのニューロン新生は記憶や学習行動に関係していること、またニューロン新生の異常と行動異常に相関があることが明らかとなっており、その制御機構の解明が待たれています。
今回、研究グループは、細胞外膜分子の一つであるEphrin-A5 に着目し、Ephrin-A5 遺伝子を欠損した成体マウス(Ephrin-A5-/- マウス)の海馬歯状回におけるニューロン新生を解析し、ニューロン新生が減少していることを明らかにしました。Ephrin-A5 は血管のサイズを調節することによってニューロン新生を制御していることが示唆されています。
本研究成果は、米国科学誌STEM CELLS のウェブ版に先行公開され、間もなく5 月号の表紙を飾ります。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohoku_univ_pressrelease_20100506.pdf

遺伝子進化パターンを調べることによりダウン症候群に関わる遺伝子を多数推定(2010/5/4)
東北大学大学院生命科学研究科生物多様性進化分野の牧野能士助教(生態適応GCOE*)は、アイルランド・トリニティカレッジのイーファ・マックライザット博士と共同で、遺伝子の進化パターンを調べることにより、数が変化しにくい遺伝子群の存在を突き止めた。これらの遺伝子群には、病気に関わる遺伝子が多いという興味深い特徴が見つかった。さらに、染色体異常によって発症するダウン症候群に関わる遺伝子の75%もがこの遺伝子群に存在することから、この遺伝子群にはダウン症候群との関係が未だ知られていない遺伝子を多く含むと考えられる。今後、これら新しい候補遺伝子を調べることで、ダウン症候群の早期発見や治療手法の向上を目的とした研究への応用が期待できる。本研究成果は、5月4日の米国科学アカデミー紀要(PNAS)の電子版に掲載される予定。

進化の過程における遺伝子数の増減は、よく起きる現象であり特別なことではない。実際、生物のゲノム上では頻繁に遺伝子のコピーが作られていることが分かっている(遺伝子重複)。一般に遺伝子重複は有害でも無害でもないと考えられているが、最適な遺伝子数が厳密に決められている遺伝子“量的均衡遺伝子”では、遺伝子が消失したりコピーが作られたりす
ると生物にとって有害な影響を及ぼすと考えられる。このような理由から量的均衡遺伝子の多くが病気に関わることが予想されるが、どの遺伝子が量的均衡遺伝子であるかを見つけるのは非常に困難で、その発見には地道な研究の積み重ねが必要となる。

一方、全ゲノムが重複する特殊なイベント“全ゲノム重複”が起こると全ての遺伝子が倍加し、全遺伝子が遺伝子コピーを持つ。このとき相対的な遺伝子量に変化がないため、有害な影響を受けることなく量的均衡遺伝子も遺伝子コピーを作ることができる。全ゲノム重複後には全ての遺伝子が冗長であるため大規模な遺伝子消失が起きると考えられるが、一旦、重複した量的均衡遺伝子は相対的な遺伝子量を保持するため、倍加した遺伝子量を減らすことなくゲノム上に留まるはずである。そこで牧野助教らは、全ゲノム重複によって生じた重複遺伝子”全ゲノム重複遺伝子”には量的均衡遺伝子が多いのではないかと考えた。
本研究では、魚類やホヤといった複数の動物ゲノムを用いて遺伝子の重複パターンを調べると共に、ヒト集団内で数に増減がある遺伝子も調査し、全ゲノム重複遺伝子が遺伝子数を変化させにくいことを発見した。このことは、ヒトゲノム上に保持されている全ゲノム重複遺伝子が量的均衡遺伝子であることを強く支持している。また、全ゲノム重複遺伝子には、これまでに報告されている多くの病気に関わる遺伝子が含まれることも示した。

21番染色体が1本増えることで発症するダウン症候群患者の出生率は、およそ1000人に1人と言われており、非常に身近な病気である。21番染色体上の遺伝子が発症の原因であることは間違いないが、これまでにダウン症候群との関連が示唆された遺伝子は決して多くはない。先に述べたように全ゲノム重複遺伝子は遺伝子数の増加に非常に敏感であることから、牧野助教らはダウン症候群に関わる遺伝子には全ゲノム重複遺伝子が多いのではないかと考え、さらなる調査を行った。その結果、ダウン症候群関連遺伝子は75%という非常に高い頻度で全ゲノム重複遺伝子を含むことが明らかとなった。このことは、21番染色体上の他の全ゲノム重複遺伝子もダウン症候群に関与している可能性を示唆している。牧野助教によると、「これらの新規候補遺伝子を標的として、さらなる研究を行うことは非常に価値があり、ダウン症候群発症の分子メカニズムの解明や、予防・早期発見・治療などを目的とした発展的な研究にも大きく貢献するだろう」という。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20100504.pdf

遺伝子進化パターンを調べることによりダウン症候群に関わる遺伝子を多数推定(生命科学研究科 牧野能士助教)(2010/5/4)
東北大学大学院生命科学研究科生物多様性進化分野の牧野能士助教(生態適応GCOE*)は、アイルランド・トリニティカレッジのイーファ・マックライザット博士と共同で、遺伝子の進化パターンを調べることにより、数が変化しにくい遺伝子群の存在を突き止めた。これらの遺伝子群には、病気に関わる遺伝子が多いという興味深い特徴が見つかった。さらに、染色体異常によって発症するダウン症候群に関わる遺伝子の75%もがこの遺伝子群に存在することから、この遺伝子群にはダウン症候群との関係が未だ知られていない遺伝子を多く含むと考えられる。今後、 これら新しい候補遺伝子を調べることで、ダウン症候群の早期発見や治療手法の向上を目的とした研究への応用が期待できる。本研究成果は、5月4日の米国科学アカデミー紀要(PNAS)の電子版に掲載される予定。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20100504.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/05/press20100504-01.html

慢性腎臓病・透析患者に対する新規治療法(2010/4/16)
東北大学大学院医学系研究科の中山昌明・創生応用医学研究センター先進統合腎臓科学コアセンター・副コアセンター長、伊藤貞嘉教授(腎臓・高血圧・内分泌学分野、創生応用医学研究センター先進統合腎臓科学コアセンター長)、株式会社日本トリムらの共同研究チームは、水素含有水を安定的かつ大量に作成するために水の電気分解システムを組み込んだ血液透析システムの開発に成功し、その臨床試験を行い、高血圧の改善、炎症や酸化ストレスの改善するなどの成果を得ました。

本研究成果は、最近、欧州腎臓・透析移植学会の学会誌 (Nephroloy Dialysis Transplantation) の電子版で発表されました。

なお、本研究は東北大学と株式会社日本トリムとの産学共同研究です。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20100416_02.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/04/press20100416-04.html

雄にしかない筋肉をつくりだす脳の中の仕組みを発見(2010/4/16)
ショウジョウバエの雄にしかない筋肉、ローレンス筋があります。今回、東北大学大学院の野島鉄哉(博士研究員:研究当時、大学院生)と山元大輔教授らのグループは北海道教育大学の木村賢一教授との共同研究により、この筋肉を動かすことができ、また、つくるのに必須な単一の運動ニューロンをみつけ、その形成過程を明らかにしました。

ローレンス筋は、ショウジョウバエの成虫の雄の腹部第5節(A5)にしかありません。ローレンス筋ができるかどうかは、その筋肉を動かすことのできる脳のニューロンが雄であること、そしてそのためには、 フルートレス(Fruitless)たんぱく質の存在が必須であることが、これまでにわかっていました。しかし、肝心のニューロンそのものがどれかはわかっていませんでした。今回、fruitless が働かなくなった変異体の雄でローレンス筋がなくなっているところに、MARCM 法を使って少数のニューロンにだけfruitless+を発現させ、ローレンス筋形成が回復した時にどのニューロンにfruitless+が発現していたかを特定する方法で、ローレンス筋を作り出す単一運動ニューロンを同定しました。さらに、なぜ雄にしかないのか、なぜA5 にしかできないのかについて、その機構の一端を解明しました。

本研究成果は、英国の科学雑誌『カレント・バイオロジー』 (Current Biology)に近く掲載されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/press2010041601.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/04/press20100416-01.html

慢性腎臓病・透析患者に対する新規治療法 水電気分解技術を用いた水素含有透析水の作成とその臨床試験(2010/4/16)
東北大学大学院医学系研究科の中山昌明・創生応用医学研究センター先進統合腎臓科学コアセンター・副コアセンター長、伊藤貞嘉教授(腎臓・高血圧・内分泌学分野、創生応用医学研究センター先進統合腎臓科学コアセンター長)、株式会社日本トリムらの共同研究チームは、水素含有水を安定的かつ大量に作成するために水の電気分解システムを組み込んだ血液透析システムの開発に成功し、その臨床試験を行い、高血圧の改善、炎症や酸化ストレスの改善するなどの成果を得ました。
本研究成果は、最近、欧州腎臓・透析移植学会の学会誌 (Nephroloy Dialysis Transplantation) の電子版で発表されました。
なお、本研究は東北大学と株式会社日本トリムとの産学共同研究です。
【研究内容】
慢性腎臓病の末期状態に対しては、人工透析療法が広く行われています。現在、わが国の慢性透析患者は年々増加し28 万人を超えており、その多くの患者は血液透析療法を受けていますが、動脈硬化の進展や易感染性などの問題は未だ解決されていません。この原因には高血圧、微小炎症状態、活性酸素の産生亢進といった慢性腎臓病に特異的な病態が関わっていることが指摘されてきましたが、これに対する有効な治療法は限られており、新たな治療法の開発が切望されてきました。
同研究チームは、水素ガスがヒドロキシラジカルなどの活性酸素を消去する現象に着目し、ナノバブル状水素ガスを含有する血液透析液を用いた治療法の開発を行ってきました。血液透析では1 回の治療に一人当たり平均120L もの水を用いるため、水素含有水を安定的かつ大量に作成するために水の電気分解注システムを組み込んだ血液透析システムを構築しました。国内の3 医療施設の協力で6 ヶ月間にわたる治療を行い(日鋼記念病院:北海道室蘭市、かしま病院:福島県いわき市、東葛クリニック病院:千葉県松戸市)、高血圧の改善、炎症や酸化ストレスの改善を認められました。副作用等の問題となる症状はなかったことから、従来の治療法では治療が困難な病態に対する新たな治療法となることが期待されます。
【用語説明】
注; 水の電気分解水に電気エネルギーを与えると、分子状水素と分子状酸素に分解されます。この化学的特性を基に、二つの電極をイオン交換膜で隔絶すると、陽極側には酸素(ガス)を多量に含む水が、陰極側には水素(ガス)を含む水(水素水)が生成されます。
【論文題目】
A novel bioactive haemodialysis system using dissolved dihydrogen (H2) produced by water electrolysis:
a clinical trial. (電気分解技術によって作成した溶存水素を用いた生物活性を有する新しい血液透析システム) Nephrol Dial Transplant. 2010 電子版
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20100416_02.pdf

雄にしかない筋肉をつくりだす脳の中の仕組みを発見(2010/4/16)
ショウジョウバエの雄にしかない筋肉、ローレンス筋があります。今回、東北大学大学院の野島鉄哉(博士研究員:研究当時、大学院生)と山元大輔教授らのグループは北海道教育大学の木村賢一教授との共同研究により、この筋肉を動かすことができ、また、つくるのに必須な単一の運動ニューロンをみつけ、その形成過程を明らかにしました。

ローレンス筋は、ショウジョウバエの成虫の雄の腹部第5節(A5)にしかありません。ローレンス筋ができるかどうかは、その筋肉を動かすことのできる脳のニューロンが雄であること、そしてそのためには、 フルートレス(Fruitless)たんぱく質の存在が必須であることが、これまでにわかっていました。しかし、肝心のニューロンそのものがどれかはわかっていませんでした。今回、fruitless が働かなくなった変異体の雄でローレンス筋がなくなっているところに、MARCM 法を使って少数のニューロンにだけfruitless+を発現させ、ローレンス筋形成が回復した時にどのニューロンにfruitless+が発現していたかを特定する方法で、ローレンス筋を作り出す単一運動ニューロンを同定しました。さらに、なぜ雄にしかないのか、なぜA5 にしかできないのかについて、その機構の一端を解明しました。

本研究成果は、英国の科学雑誌『カレント・バイオロジー』 (Current Biology)に近く掲載されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/04/press20100416-01.html
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/press2010041601.pdf

独立行政法人理化学研究所との包括協定の締結について(医学系研究科)(2010/3/29)
東北大学大学院医学系研究科は、相互に関連する研究基盤の有効利用、人材の交流、及び今後の学術及び創薬・医療橋渡し研究の振興に資するため、独立行政法人理化学研究所との間で、下記の通り包括協定を締結することになりました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20100329_02.pdf

流れに曝された内皮細胞内部の変形の様子を世界で初めて可視化 --細胞の"力"への応答メカニズムの解明へ--(2010/3/24)
東北大学大学院医工学研究科の佐藤 正明 教授,工学研究科 坂元 尚哉 助教,工学研究科大学院生で日本学術振興会 植木 洋輔 特別研究員らの研究グループは,血流を模擬した流れの中に曝された内皮細胞の断面像をリアルタイムに可視化し,変形挙動を観察することに世界で初めて成功しました。この成果により,細胞の"力"に対する応答メカニズムを明らかにし,血管病理の解明や再生医学の発展に貢献することが期待されます。この成果は米国速報誌Biochemical and Biophysical Research Communications 誌オンライン版で公開されました.
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20100324_01.pdf

流れに曝された内皮細胞内部の変形の様子を世界で初めて可視化 --細胞の"力"への応答メカニズムの解明へ--(2010/3/24)
東北大学大学院医工学研究科の佐藤 正明 教授,工学研究科 坂元 尚哉 助教,工学研究科大学院生で日本学術振興会 植木 洋輔 特別研究員らの研究グループは,血流を模擬した流れの中に曝された内皮細胞の断面像をリアルタイムに可視化し,変形挙動を観察することに世界で初めて成功しました。この成果により,細胞の"力"に対する応答メカニズムを明らかにし,血管病理の解明や再生医学の発展に貢献することが期待されます。この成果は米国速報誌Biochemical and Biophysical Research Communications 誌オンライン版で公開されました.
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20100324_01.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/03/achieve20100324-01.html

糖尿病の一亜型の完治に成功 ~ピロリ菌の除菌が奏功~(2009/7/15)
東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センター・片桐秀樹教授、分子代謝病態学分野・岡芳知教授らの診療チームは、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)*1を除菌することで、糖尿病の一亜型であるB 型インスリン抵抗症の症例を完治させることに成功した。この成果は、英国医学誌ランセット(7 月18 日号)に掲載予定である。
B型インスリン抵抗症はB型インスリン受容体異常症ともいわれ、日本糖尿病学会の糖尿病成因分類でIIIB(6)に属する糖尿病の一亜型である。インスリンはインスリン受容体に結合し血糖値を下げる効果を発揮するが、この疾患では、そのインスリン受容体に抗体が作られてしまうことにより、インスリンが受容体に結合できず、インスリンの働きが悪くなる。このため、インスリンの効かない糖尿病となり、糖尿病治療薬の効果も極めて乏しい。一方で、一時的に抗体がインスリン受容体から外れた場合などに、急激な低血糖を生じる。他の自己免疫疾患との合併例も多い。これまで確立された治療法はなく、高血糖と低血糖を繰り返す難治疾患として知られている。
本診療チームは、このB 型インスリン抵抗症と特発性(自己免疫性)血小板減少症とを合併した症例にピロリ菌の除菌を行ったところ、糖尿病は正常化し、非常に悩まされていた低血糖発作もなくなり、インスリン受容体に対する抗体も陰性化したことを見出した。
本症例は、治療後1 年以上を経ても、糖尿病や低血糖症の再発の兆候はなく、完治したものと考えられる。このことは、ある一部の糖尿病の原因として、ピロリ菌の感染が関与していること、さらに、それを除菌することが、根治治療になりうることを示したものであり、同じ疾患に悩む世界中の患者にとって、大きな福音となることが期待される。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20090722_02.pdf

「メラニン合成酵素」を輸送する新分子発見 ― 新たな美白ターゲットとして期待 ―(2009/4/28)
【ポイント】
・メラニン色素の合成には「メラニン合成酵素」のメラノソームへの輸送が重要
・「Varp」というタンパク質がメラニン合成酵素を輸送
・ Varp を欠損するとメラニン合成酵素が細胞内から消失し、メラニン色素量が減少

【概要】
国立大学法人東北大学は、肌や髪を黒くするメラニン色素の合成に関わる酵素、「メラニン合成酵素」*1 の輸送を行う新しい分子を同定することに成功しました。これは、東北大学大学院生命科学研究科の田村可南子大学院生(修士課程)、大林典彦助教、福田光則教授らによる研究成果です。
わたしたちの肌や髪の色の源であるメラニン色素は、「メラノサイト」と呼ばれる特殊な細胞でメラニン合成酵素によって合成され、「メラノソーム」と呼ばれる細胞内の袋(小胞)に貯蔵されています。メラニン色素を貯蔵したメラノソームは細胞内を移動し、肌や髪の毛を作る細胞に受け渡されて、肌や髪が黒くなります。メラニン色素をメラノソームの中で合成し、貯蔵するためには、メラニン合成酵素をメラノソームに正しく輸送することが不可欠と考えられています。しかし、細胞内骨格(アクチン線維)によるメラノソーム自身の輸送機構*2 に比べ、メラニン合成酵素がどのような機構で合成場所からメラノソームまで輸送されるかは、これまで十分に解明されていませんでした。
今回、研究グループはマウスの培養メラノサイトを用いて、メラニン合成酵素の一種チ
ロシナーゼ関連タンパク質1(Trp1)のメラノソームへの輸送過程に、「Varp(バープ)」*3と呼ばれるRab(ラブ)38 結合タンパク質*4 が関与することを突き止めました。Varp はメラノサイトの細胞内でRab38 と共にメラニン合成酵素を含む小胞上に存在しており、その機能を特異的に阻害すると、メラニン合成酵素がメラノソーム上から消失するため、細胞内のメラニン色素量が顕著に減少することを見いだしました。すなわち、Varp はRab38 と結合することにより、メラニン合成酵素を含む小胞をメラノソームへ輸送する過程に関与することがはじめて明らかになりました。
本研究成果は、Varp の機能を阻害あるいは安定化するような薬剤のスクリーニングに応用することが可能であり、今後、メラニン合成酵素の輸送を人為的に制御することによって、肌の美白の維持や白髪予防につながる可能性が期待できます。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Molecular Biology of the Cell』に近く掲載されます。

全文は下記URL
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20090428.pdf

東北大学薬学部・薬学研究科における寄附講座開設のお知らせ(2009/4/16)
東北大学薬学部・薬学研究科は平成21 年4 月に地域薬局学寄附講座を設置しましたのでお知らせいたします。
本寄附講座は、仙台市内を中心に調剤薬局チェーン「ひかり薬局」等を展開している株式会社オオノからの寄附により開設されたものでして、東北地方の調剤薬局およびドラッグストアーなどに勤務する薬剤師の服薬指導や在宅医療における貢献度を向上させて、適正かつ充実した地域医療の実現に寄与することを目的としています。平成19 年4 月に施行された改正医療法において、調剤薬局やドラッグストアーなどのいわゆる“薬局”は「医療提供施設」と位置づけられ、在宅医療や医療連携などを介した地域医療への貢献が強く求められています。そのため、調剤薬局およびドラッグストアーなどはそれぞれ独自に薬剤師業務の充実に向けた取組を行っていますが、本寄附講座は、学術的な面からこれらの取組をバックアップして、薬剤師によるより良い地域医療への貢献の仕方を提案していきます。
具体的には、インターネットを利用した薬歴管理とそれを活用した服薬指導
のための知識・技術の体系化や、在宅医療における薬剤師業務の評価システムの構築、さらには患者毎の状況を考慮した「飲み忘れ」防止指導プログラムの作成などを行います。これらによって、東北地方に特有の問題点等も明らかになるものと予想されます。また、東北地方の調剤薬局やドラッグストアーなどに勤務する薬剤師を対象とした学術講習会(生涯研修会)を定期的に開催して、地域薬剤師への最新知識提供や問題提起等にも取り組んでいく予定です。
地域企業からの寄附によって地域医療の充実に学術的な側面から貢献する寄附講座を開設した例はきわめて希であり、地域に密着した調査研究等に基づいて本寄附講座から今後発信される研究成果が地域医療の充実に大きく貢献することが期待されます。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20090417.pdf

独立行政法人理化学研究所と国立大学法人東北大学が協定締結 - 計算科学・計算機科学など関連分野の研究領域において連携・協力(2009/4/13)
◇ポイント◇
東北大学と理研との間で研究開発、人材交流を推進し、研究開発を加速
計算科学によるイノベーションの創出、国際的な人材の育成などを目指す
共同利用型のスーパーコンピュータを運用する機関と協業体制の整備を推進

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長、以下「理研」)と国立大学法人東北大学(井上明久総長、以下「東北大学」)は、それぞれの研究開発能力および人材などを活用し、両機関が連携・協力することにより相乗効果を高め、わが国の学術および科学技術の振興に資することを目的として、「独立行政法人理化学研究所と国立大学法人東北大学との連携・協力に関する協定」を締結します。

この協定では、広範な計算科学、計算機科学およびこれらに関連する研究領域において連携・協力し、国産の高性能計算技術の研究開発だけではなく、理論と実験、計算科学と計算機科学の融合など、広範な学際領域の開拓を図り、計算科学によるイノベーションの創出、国際的に活躍できる人材の育成、人材交流を目指します。
詳細は下記URL
http://www.riken.go.jp/r-world/info/info/2009/090413/index.html

アラキドン酸が神経新生促進と精神疾患予防に役立つ可能性を発見(2009/4/8)
 JST基礎研究事業の一環として、東北大学大学院医学系研究科の大隅 典子 教授らは、多価不飽和脂肪酸注1)の一種であるアラキドン酸注2)が神経新生注3)を促進し、ラットにおいて精神疾患様行動を改善する効果があることを発見しました。
 統合失調症注4)などの精神疾患の患者では、周囲の不必要な雑音などが意識に上らないようにシャットアウトする感覚フィルター機能注5)が弱まる症状が見られます。この感覚フィルター機能は、驚愕音への反応を弱めるプレパルス抑制(prepulse inhibition:PPI)注6)という生理学的な検査で評価することができます。
 本研究グループは今回、脳の発生・発達に重要な遺伝子であるPax6注7)に変異のある動物や、薬剤の投与によって神経新生を低下させた動物モデルにおいて、神経新生の低下がPPIの低下と相関することを見いだしました。これに加えて、これまでに見いだした多価不飽和脂肪酸に結合するたんぱく質が神経新生に関わるという研究結果から、多価不飽和脂肪酸の一種であるアラキドン酸に神経新生向上効果があるのではないかと考えました。
 そこでさらに今回、野生型のラットを生後4週までアラキドン酸を含む餌を与えて飼育し、神経新生の様態を解析したところ、対象群よりも約30%神経新生が向上することが分かりました。また、Pax6変異ラットにもアラキドン酸含有餌を投与したところ、やはり神経新生は向上し、PPIの低下に改善傾向が認められました。これらのことから、アラキドン酸が神経新生を向上させ、精神疾患様行動を改善する可能性が示されました。アラキドン酸を摂取することが、PPIの低下を伴う精神疾患の発症予防や治療に役立つものと期待されます。
 本研究成果は、理化学研究所 脳科学総合研究センターの分子精神科学研究チームの前川 素子 研究員・吉川 武男 チームリーダー、三菱化学生命科学研究所の井ノ口 馨 主任研究員ら、サントリー健康科学研究所の木曽 良信 所長らとの共同研究によるもので、2009年4月7日(米国東部時間)に米国のオンライン科学誌「PLoS ONE」で公開されます。

本成果は、以下の事業の支援によって得られました。
(1)JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 : 「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」
(研究総括:津本 忠治(独)理化学研究所脳科学総合研究センター グループデイレクター)
研究課題名 : ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明
研究代表者 : 大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 教授)
研究期間 : 平成16年10月~平成22年3月

 JSTはこの領域で、脳機能発達と学習メカニズムに関する独創的、先進的研究が進展し、その結果、教育や生涯学習における諸課題解決に対する示唆を提供することによって、成果を社会に還元することを目指しています。上記研究課題では、脳の細胞を産み出す遺伝子プログラムや、神経機能についての基礎研究を通じて、健やかな脳や心を育むことに貢献します。
(2)文部科学省グローバルCOEプログラム(脳神経科学を社会へ還流する教育研究拠点)
<研究の背景と経緯>
 現在、主たる精神疾患は統合失調症と気分障害(うつ病、躁うつ病)注8)の2つに大別されていますが、前者の統合失調症は思春期以降に好発し、発症率は人口の約1%と決して少ない疾患ではありません。その原因はさまざまであると考えられていますが、中でも脳発達期(特に胎児期)の微細な神経回路の形成障害が、将来の疾患発症の脆弱性基盤に関係するという「神経発達障害仮説」が注目されています。この説を支持する事象として、以下のような状況で統合失調症の発症率が上昇するという疫学的データがあります。

(1)妊婦の栄養不良
(2)妊婦のウイルス感染
(3)産科合併症、周産期障害
(4)母子間のRh血液型不適合
 特に(1)に関しては、第二次世界大戦末期にオランダのアムステルダムで起こったDutch Hunger Winterが有名です。アムステルダムでは戦争中にナチスドイツによって陸路が封鎖された影響で一時的に極端な食糧不足に陥り、食糧配給は最悪の時期1人あたり1日約1,000kcal以下であったと言われています。この飢饉の時期に母親の胎内にいた子どもが思春期に達した時、子どもの統合失調症の発症率は約2倍になったと言われています。また、1959~1961年にかけて中国でも大飢饉が起こりましたが、この時期に母親の胎内にいた子どもが成人に達した時も、統合失調症の発症率は約2倍になったとの報告があります。このように、疫学データからは「胎児期の栄養不良から統合失調症の発症基盤形成」という図式が考えられます。しかし、栄養素といっても非常に多数あり、どの栄養素が直接的な原因かはこれまで特定できませんでした。
 そこで本研究グループは、多価不飽和脂肪酸(PUFA: polyunsaturated fatty acid)の摂取量が精神疾患の発症に関係している可能性を、生物学的マーカーであるPPIを指標として調べました。ちなみに、PPIは統合失調症、双極性障害注9)をはじめとする気分障害、注意欠陥・多動性障害注10)などを含む小児発達性精神障害、強迫性障害注11)(いわゆる強迫神経症)など複数の精神疾患で低下していることが報告されており、これら精神疾患に共通する病理を反映する生理学的指標の可能性があります。同時に、最近はうつ病や統合失調症では神経新生が低下しているとの報告があるため、多価不飽和脂肪酸の神経新生(図1)に及ぼす効果や神経新生の程度とPPIの関連を検討しました。

<研究の内容>
(1)脳発達期の神経新生低下がPPIの低下を引き起こす
 動物では精神疾患そのものを調べることはできませんが、いくつかの生理学的指標はヒトと共通な神経機能に基づいていると考えられます。統合失調症、双極性障害、注意欠陥多動性障害などの精神疾患患者では、ヒト特有の精神症状の他に、周囲の不必要な雑音などが意識に上がらないようにシャットアウトする感覚フィルター機能が弱まる症状が見られます。この感覚フィルター機能は、驚愕音への反応を弱めるPPIを測定することで評価できます(図2)。本研究グループは、疫学的なデータから、発達期の神経新生の低下がPPIの低下につながる可能性があると考え、遺伝的に発達期の神経新生が低下したラット(Pax6変異へテロラット)と、薬剤(methylazoxymethanol acetate: 細胞増殖阻害剤)により発達期の神経新生を低下させたラットとを用いて、それぞれの動物のPPI測定を行いました(図3、4)。その結果、いずれのラットにおいてもPPIが低下していることが分かりました。このことから、生後発達期の神経新生の障害が、将来のPPIの低下を来す神経回路基盤の形成に影響を与えることが示唆されました。

(2)アラキドン酸が発達期の神経新生を促進する
 Fabp7(fatty acid binding protein 7型:脂肪酸結合たんぱく質7型)注12)は、分子量14-15 kDa の低分子たんぱく質で、主に細胞質に存在し多価不飽和脂肪酸の取り込みや輸送、核内受容体(転写因子)と複合体を形成して他の遺伝子の発現調節に関わると言われています。本研究グループはこれまでに、Fabp7が胎生期から生後の脳に発現し神経幹細胞の増殖の制御に関わることを見いだしています。そこで今回、Fabp7と結合する多価不飽和脂肪酸が生後の神経新生に与える影響を調べました。
 多価不飽和脂肪酸(特にアラキドン酸あるいはドコサヘキサエン酸=DHA)を多く含む餌を野生型ラットの母親に経口投与し、母乳を介して仔ラットに生後2日目から4週間にわたって多価不飽和脂肪酸を与えました。すると、特にアラキドン酸を摂取した仔ラットの海馬において増殖細胞数が約30%増加するとともに(図5)、神経前駆細胞のマーカーであるグリア細胞線維性酸性たんぱく質(glial fibrillary acidic protein:GFAP)やポリシアル化神経細胞接着分子(polysialic acid-neural cell adhesion molecule:PSA-NCAM)の発現が増加することが分かりました。以上の結果を考え合わせると、胎生期から生後にかけて神経幹/前駆細胞に発現するFabp7が、多価不飽和脂肪酸(特にアラキドン酸)の取り込みと輸送、また、種々の遺伝子発現調節を行うことにより脳発達(神経新生)の制御を行う可能性が考えられました。

(3)アラキドン酸摂取によりプレパルス抑制の低下が改善する可能性がある
 次に、発達期に神経新生の低下を示し、かつ成体期にPPIの低下を示す動物(Pax6変異へテロラット)に対して、発達期の神経新生を改善させた場合に成体期のプレパルス抑制の低下が改善するかを調べました。Pax6変異へテロラットに対して、生後2日目から成体になるまでアラキドン酸を与えたところ、生後15週齢時点においてPPIの低下が改善傾向を示すことが明らかになりました(図6)。この結果、アラキドン酸が生後神経新生の改善を通じて成体期のPPIの低下を改善する可能性があることが考えられました。

<今後の展開>
 今回の結果から、脳の発生・発達期における微細な障害が、精神疾患の発症しやすさ(脆弱性)の基盤になるという仮説を栄養学的観点から補強したと考えます。また、精神疾患はいくつもの遺伝子と環境要因が複雑に関与して発症すると考えられますが、今回の結果は遺伝要因(今回の場合Pax6やFabp7)と環境要因(今回の場合多価不飽和脂肪酸、特にアラキドン酸の摂取)の相互作用の観点からも、発症脆弱性基盤の形成メカニズムの一端を明らかにしたものと考えます。
 脳発達期の栄養不良による精神疾患の発症の分子機構には未知の部分が多いと考えられますが、妊娠中から生後発達期にかけての多価不飽和脂肪酸の適正な摂取が精神疾患発症の予防につながるか、今後の研究が期待されます。

<用語解説>
注1)多価不飽和脂肪酸
 脂肪酸は、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸であり、一般式 CnHmCOOH で表わすことができる。細胞膜脂質の構成成分や神経細胞を取り巻くミエリン脂質の構成成分として生体内(特に脳)に著量存在する。炭素鎖に二重結合を有しない脂肪酸は飽和脂肪酸、炭素鎖に二重結合を有する脂肪酸は不飽和脂肪酸と呼ばれ、特に二重結合が2つ以上ある不飽和脂肪酸のことを多価不飽和脂肪酸という。大豆油、ひまわり油などの植物油や魚油に多く含まれており、融点が低いために流動性が高く、室温では柔らかい状態か液体状である。
 具体的には、例えば炭素数が16個の飽和脂肪酸はパルミチン酸、炭素数が18個で二重結合が1つの不飽和脂肪酸はオレイン酸、炭素数が18個で二重結合が2つの不飽和脂肪酸にはリノール酸などがある。ドコサヘキサエン酸(DHA)は炭素数が22個、二重結合が6個の不飽和脂肪酸で、生体内でα―リノレン酸から変換される。アラキドン酸(ARA)は炭素数が20個、二重結合が4個の不飽和脂肪酸であり、リノール酸から変換される。DHAやARAは母乳中に含まれるが、乳児ではα―リノレン酸やリノール酸からの変換能が弱いと言われている。
 飽和脂肪酸はエネルギー源として代謝されるが、多価不飽和脂肪酸の一部は必須脂肪酸であり、不足すると皮膚障害、不妊などが引き起こされることから、いろいろな生体機能を担っていると考えられる。

注2)アラキドン酸
 DHA(ドコサヘキサエン酸)と同様に、脳・肝臓・皮膚などの身体のあらゆる組織を構成する主要な多価不飽和脂肪酸のひとつ。食品中には肉、卵、魚などに多く含まれており、体内で合成できないために外界(通常は食事)から摂取する必要がある。食事由来のリノール酸から体内で変換されて作られるが、ヒトにおける変換能はあまり高くないとされている。必須脂肪酸は、多くの代謝過程で働いているため、不足したり種類のバランスが悪かったりすると、体調を崩す原因になることが示唆されている。

注3)神経新生
 脳の中には、1,000億個のニューロン(神経細胞)と、その10倍の数のグリア細胞(神経膠細胞)が存在し、精密なネットワークを形成している。ネットワーク構築のためには、脳の細胞の元になる細胞(神経幹細胞)が多数分裂して数を増やし、ニューロンやグリアの細胞に変化する(分化する)ことが必要である。この過程を「神経新生」(もしくはニューロン新生)と呼ぶ。すなわち、神経幹細胞は分裂して自己を複製し、その存在を維持しつつ、神経細胞やその他の脳を構成する多様な細胞へ分化している。海馬では神経幹細胞は海馬歯状回顆粒層下層と呼ばれる特定の領域で脳が完成した生後も見られるが、その程度は加齢とともに減少することが知られている。

注4)統合失調症
 統合失調症は人口の約1%が罹患する精神疾患で、思春期・青年期に発症することが多い。幻覚や妄想、思考の障害、自発性の低下、感情の平板化などを主要な症状とし、社会的機能低下も問題となる。統合失調症の発症には、他の多くの精神疾患と同様に複数の遺伝的要因と環境要因が複雑に相互に作用していると考えられているが、詳細なメカニズムは不明である。症状を緩和する薬は1950年代に偶然発見されたが、根本的治療薬の開発や予防法の開発が待たれる。

注5)感覚フィルター機能
 生体には、五感を通して絶えず感覚入力があるが、必要な感覚しか意識に上らないようになっている。これは、感覚情報が集まる視床という脳部位に感覚入力のフィルター機能があって、無秩序で過剰な信号が大脳皮質に行かないように感覚入力を制限しているためと考えられている。たくさんの人が雑談しているカクテルパーティーのような雑踏の中でも、自分が興味のある人の会話、自分の名前などは、自然と聞き取ることができる「カクテルパーティー効果」も、この感覚フィルター機能に基づいている。統合失調症では、この感覚フィルター機能に障害があるために、不必要で無関係な信号が大脳皮質に過剰に伝達され、思考障害や困惑などの症状が起こる一因になっていると考えられている。感覚フィルター機能は音驚愕プレパルス抑制テスト(図2)によって測定することができる。

注6)プレパルス抑制(prepulse inhibition:PPI)
 突然の刺激(例えば驚愕音)への反応を、その直前に、同種かつ驚愕を引き起こさない程度の弱い刺激を与えることによって抑制する現象のこと。上記の感覚フィルター機能もしくは感覚運動情報制御機能(sensorimotor gating)を反映する指標の1つ。

注7)Pax6
 転写調節因子は遺伝子のスイッチをオン・オフしたり、発現量を増減させたりすることで、遺伝的プログラムで中心的な役割を果たす因子である。Pax6遺伝子が作るたんぱく質は細胞の核の中で転写制御因子として標的の遺伝子のスイッチを押す働きがある。Pax6は特に中枢神経系(脳)の発生の最も初期から成体まで神経幹細胞で働き、神経幹細胞の増殖と分化を制御することが知られている重要な因子である。本研究グループの大隅らは既に、脳で最も多い細胞であり、ニューロン(神経細胞)の働きを助けるなど多様な機能を担うアストロサイトの発生を同因子が制御することを報告している。

注8)気分障害(うつ病、躁うつ病)
 気分障害は、統合失調症と並ぶ2大機能性精神疾患の1つとされている。文字通り気分の変調をきたす疾患で、病的という場合、変調の程度(重症度)、持続期間などが考慮される。経過を通して抑うつだけが見られる場合は、うつ病という。うつ病性障害では、気分が落ち込む「抑うつ気分」や、何をしても興味が持てない「興味や楽しみの喪失」のために非常な苦痛を感じて、日常生活に支障が生じる。生涯発症率は、男性よりも女性で高い傾向がある。先進国では10~20%、あるいはそれ以上であると報告されている。経過中にうつ状態だけでなく、躁状態が現れる気分障害は、躁うつ病(双極性障害)と言われている。躁状態では、非常に元気が良くなって何でもできると思い込むようなったり、気分爽快で自分ひとりで何でもきるような万能感を持ったりする。躁うつ病の生涯発症率は、性別や地域にあまり影響されず、1%弱であると言われている。

注9)双極性障害
 気分障害の1つ。気分障害については注7を参照。

注10)注意欠陥・多動性障害
 注意欠陥・多動性障害は多動性、不注意、衝動性を症状の特徴とする発達障害の1つと言われており、ADHD(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder)と呼ばれることも多い。規律を守らなければならない社会的ルールが増加する、小学校入学前後に発見される場合が多い。一般に遺伝的原因があるとされるが、原因は不明である。注意力を維持しにくい、時間感覚がずれている、さまざまな情報をまとめることが苦手などの特徴がある。日常生活に大きな支障をもたらすが、適切な治療と環境を整えることによって症状を緩和することも可能である。脳障害の側面が強いとされ、しつけや本人の努力だけで症状などに対処するのは困難であることが多い。

注11)強迫性障害
 してはならないことをしてしまった、あるいは、してしまうのではないかという不安・疑念(強迫観念という)を感じて質問や確認を繰り返したり、自分や自分の生活圏が汚れや細菌で汚染されているのではないかという強迫観念にかられ、手を何度も洗う行為(強迫行為という)がみられる。疾患のメカニズムは不明である。統合失調症や気分障害(特にうつ病)に伴うこともある。

注12)Fabp7(fatty acid binding protein 7型:脂肪酸結合たんぱく質7型)
 Fabp7遺伝子は「脂肪酸結合たんぱく質」を作る。類似の遺伝子が複数あり、ファミリーを形成している。現在のところ、Fabp1からFabp12の少なくとも12種類が知られている。Fabp7たんぱく質は、別名「脳型脂肪酸結合たんぱく質」と呼ばれ、体内の組織では脳内で多く発現している。脳の発達期では未分化な神経幹細胞に多量に発現するが、大人になると発現量は減少し、アストロサイトというグリア細胞の一種に局在するようになる。結合する脂肪酸として、(必須)不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やアラキドン酸(ARA)に親和性が高い。このように、Fabp7たんぱくは脳発生初期の未分化な神経幹細胞の中にたくさんあり、分化したニューロンにはほとんど見当たらないことから、機能の一部として、未分化な神経幹細胞の増殖あるいは分化(すなわち神経新生の過程)に関わっていると考えられている。なお、Fabp7はヒト以外の生物種でのたんぱく質に対する表記であり、ヒトではFABP7と表記する。

<論文名>
"Arachidonic acid drives postnatal neurogenesis and elicits a beneficial effect on prepulse inhibition, a biological trait of psychiatric illnesses"
(アラキドン酸は生後神経新生を促進し、精神疾患の生物学的指標となるプレパルス抑制に良い効果をもたらす)
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20090408/index.html

細胞分裂時の染色体の均等な分配を調節する新規因子を解明 〜遺伝情報の安定な維持や細胞の癌化に関与〜(2009/3/30)
細胞が遺伝情報を娘細胞に均等に伝えていくためには、複製されたゲノムDNA の運び手
である姉妹染色体が細胞分裂時に均等に分配されることが必要です。染色体の不均等な分
配は、細胞の癌化とも深く関わっていることが知られています。紡錘体は複製された姉妹
染色体を均等に分配するための細胞装置であり、細胞分裂時には、姉妹染色体が紡錘体の
両極から伸びた微小管によって捕捉され、紡錘体の赤道面上に整列し、その後両極に引っ
張られていくことによって、染色体の娘細胞への均等な分配が保障されています。
今回、生命科学研究科の千葉秀平(博士後期課程大学院生)と水野健作教授らのグルー
プは、ヒト細胞の体細胞分裂において染色体の紡錘体赤道面上への整列と均等な分配を調
節するタンパク質としてNDR1、Furry、MST2 を新たに見出しました。これらのタンパク質
の発現を抑制した細胞では染色体が紡錘体の赤道面上に整列できないことや、Furry と
MST2がNDR1の活性化因子として細胞分裂期におけるNDR1の活性化と染色体の赤道面上
への整列に重要な役割を担っていることを明らかにしました。これらの成果は、細胞が世
代を超えて染色体を安定に維持するための基本メカニズムを解明する上で重要であるだけ
でなく、癌などの疾患にみられる染色体の分配異常の仕組みを解明するためにも重要な発
見であると考えられます。
本研究成果は、3 月26 日付けで米国の科学雑誌『Current Biology』電子版に掲載されまし
た。
<論文題目>
Chiba, S., Ikeda, M., Katsunuma, K., Ohashi, K., and Mizuno, K. (2009) MST2- and Furry-mediated
activation of NDR1 kinase is critical for precise alignment of mitotic chromosomes. Current Biology,
doi: 10.1016/j.cub.2009.02.054
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/disclosure/pressrelease/20090330.pdf

末期肺がん患者にも有効な分子標的治療 (特定の体細胞変異に基づく個別化治療が広がる)(2009/2/25)
肺がん末期で体力が低下した患者には、これまで積極的治療は困難とされ緩和ケアのみが推奨されてきました。このたび東北大学大学院医学系研究科呼吸器病態学分野の貫和敏博教授を中心とした研究グループは、日本人や東洋人に多く肺がん全体の約20%と想定される、EGFR 遺伝子変異*1 という特徴を有した非小細胞肺がん*2 患者に対して、分子標的薬*3 ゲフィチニブ(商品名イレッサ)が高い確率で有効であり、全身状態の改善および生存期間の延長に寄与することを明らかにしました。本成果は、米国臨床腫瘍学会の機関誌であるJournal of Clinical Oncology 電子版に2 月17 日付けで掲載されました。

【研究内容】
肺がんは我が国のがん死因の第一位を占め、手術や放射線治療が困難となった進行期では抗がん剤による化学療法が選択される。しかし、従来の抗がん剤では副作用の危険性が高く、病状が進行して体力が落ちた患者や80 歳を超える高齢の患者には用いられない。その場合、ホスピスや在宅における緩和ケアがなされていたが、平均余命は3~4 か月と極めて悪かった。
近年EGFR 遺伝子変異によって活性化した一部の非小細胞肺がんに、EGFR の働きを抑制する分子標的治療薬ゲフィチニブ(商品名イレッサ)が著明な効果を示すことが明らかになり、東北大学の貫和教授・井上彰助教らは同遺伝子変異を治療前に調べたうえでゲフィチニブを用いる個別化治療の有用性を世界に先駆けて報告していた(J Clin Oncol 2006)。同教授らは、それらの治療対象を上記の治療困難例にも広げ、特定非営利法人東京がん化学療法研究会(東京都港区、理事長:栗原稔)における北東日本グループ(埼玉医科大学、北海道大学などを含む)の臨床研究として、2006 年から29 例の末期肺がん患者に対して治療を行った。
その結果、66%の患者で腫瘍が半分以下に縮小し、79%の全身状態が改善し、治療1 年後の生存率が63%と、従来は考えられなかった高い有効性が示された。EGFR 遺伝子変異は、患者の痰や胸水から採取されたわずかながん細胞からも検出可能であり、現在は全国の医療機関で検査可能な状態となっている。
本治療法は、一部の肺がん患者をまさに死の淵から「救済」しうることから、日本人で多いにもかかわらずまだ十分に浸透していないEGFR 遺伝子変異の検査をより積極的に進めることが重要と考えられる。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/press_release/pdf2009/20090225.pdf

生命の起源'有機分子は隕石の海洋爆撃によって生成した! ―固体炭素・鉄・水・窒素ガスからの生物有機分子の生成を衝撃実験で証明―(2008/12/8)
 独立行政法人物質・材料研究機構の中沢弘基名誉フェローらは東北大学大学院理学研究科と共同で、炭素(固体)・鉄・ニッケル・水・窒素ガスをステンレスカプセルに詰め、高速の飛翔体を衝突させた後カプセルを回収し、生成物を分析して、グリシン(*1)(アミノ酸(*2))、各種アミン(*3)、同カルボン酸(*4)(脂肪酸(*5))など生物有機分子(*6)およびその前駆体の生成を確認した。
 この実験は、初期地球に海が出現した後、40~38億年前頃に頻繁にあった隕石の海洋爆撃の際の化学反応を模擬したもので、生命の起源の端緒となる生物有機分子の起源を強く示唆している。

【研究の背景】
 1953年、S.L.ミラーが当時の原始大気モデルに基づいて、CH4(メタン)、NH3(アンモニア)、H2O(水)を含む気体中に放電することで、いくつかのアミノ酸および生物有機分子の生成を証明し、科学的な生命の起源の研究の端緒となった。
 その後、放電の替わりに、電子線、紫外線、X線あるいは衝撃波など多様なエネルギー源を用いた実験が追随され、メタンかアンモニアのどちらかを含む還元的大気組成であれば、ほぼ同様の結果が得られることが判り、有機分子は原始地球上で容易に生成されるものと考えられてきた。しかし同時に、N2(窒素)やCO2(炭酸ガス)を主成分とする非還元的および酸化的な大気組成では有機分子が生成しないことも証明されていた。
 S.L.ミラーの簡単な実験と天然にあり得そうな雷のモデルは、有機分子の起源として広く一般に信じられて、中学・高校の教科書や副読本に紹介されているほどである。

 しかし、1970年代から21世紀初頭にかけて急速に進歩した地球科学は、原始地球が低温ではなく、全地球が一旦溶融するほど高温になったことを明らかにした。原始地球におけるマグマの海(マグマオーシャン)の出現である。大気中に仮に、有機分子やメタンやアンモニアなど還元的な分子があったとしても、高温のマグマ(>1200℃)に接して分解し、軽い水素は宇宙空間に逃散するので、結局、原始大気は主として窒素と酸化炭素の酸化的大気になったと推定されている。従って、これまで広く信じられてきたミラーの実験のような有機分子の生成仮説はその前提が崩れ、有機分子の起源は再び謎となっていた。

 生命の発生に必要な多種多量の有機分子が地球上で如何に準備されたか、地球史的に合理的な起源の解明は、生命の起源に迫る最初の問題である。2006年、20世紀末の地球観に基づく考察と予備的な実験結果を基に、「有機分子は初期地球に激しかった微惑星・隕石の海洋爆撃により多種多量に生成した」とする「有機分子ビッグバン説」を、本研究グループの1人(中沢)が著書により提案した(1)。日本発の、新しい有機分子起源のシナリオである。その前年、2005年に、原始大気、海洋、隕石の成分を代表する窒素、水、Feに衝撃波を与えて、アミノ酸の前駆体であるアンモニアが多量に生成することを実証したことが、その根拠の一つとなっている(2)。

(1)「生命の起源・地球が書いたシナリオ」中沢弘基著、新日本出版社(2006).
(2) High yield shock synthesis of ammonia from iron, water and nitrogen available on the early Earth. Nakazawa, H., Sekine, T., Kakegawa, T. And Nakazawa,S. Earth Planet. Sci. Let. 235, 356-360 (2005).

【今回の研究成果】
 本研究は、40億~38億年前頃に頻繁であった隕石の海洋衝突を模擬し、窒素大気と海水に隕石が衝突する衝撃で生物有機分子が生成するか否かを確かめたものである。
 当時の隕石衝突の痕跡は月にクレーターとして残り、その年代や規模などは米国のアポロ計画で得られた月の石の試料やその後の画像解析によって詳細が明らかにされている。一方、地球上で回収された隕石のほとんどは普通コンドライト(*7)で、20%程度の遷移金属(鉄属金属およびその硫化物)と1~0.1%の炭素(固体)を有している。初期地球の大陸は未発達で、海洋が広く覆っていたと推定されているので、多くの隕石は海洋に衝突し、衝突エネルギーで水と隕石の化学反応が生ずる。鉄は水を還元して水素を放出し、炭素は水素と反応して有機分子を生ずるであろう。地球の水は生命にとって、その最初の化学反応から不可欠であったと推定される。

 本実験は、その化学反応を実験によって確かめたものである。実際の隕石衝突を実験室で再現することはもとより不可能であるが、実験室規模の衝撃実験で有機分子の生成が証明されれば、実際にはより多量で多種類の有機分子が生成したはずである。
 隕石成分の鉄(200mg)および固体炭素(30mg)、地球側の水(130mg)および窒素ガス(15μmol)をステンレスカプセル(3cm × 3cmの円筒)の空隙中に封入し、2mm厚のステンレス板飛翔体を約1km/秒の高速で衝突させ、カプセルを回収した。空隙内部は圧力6GPa,温度5,000~3,000Kに達したと推定される。
 カプセルに孔を開け、水溶性有機物を抽出して三分割し、アミノ酸、アミン、カルボン酸の分析を行った。試料が微少であるので、他の有機分子の分析は行っていない。その結果、グリシン(最も簡単なアミノ酸)、アルキル鎖の異なるカルボン酸(酢酸~ペンタン酸)および同アミン(メチルアミン~ブチルアミン)の生成を確認した。

 衝撃実験で回収される試料は微量であるので、実験の炭素源に普通の固体炭素を用いたのでは、衝撃によって生成された有機分子と、分析の過程で汚染された有機分子との区別は極めて難しい。そのため本研究では、固体炭素の原料に炭素同位体13Cの固体を用いた。13Cであれば、自然界の13Cは12Cの1/100程度しかないので、質量分析により汚染有機物との区別が明瞭にできるからである。回収試料をガス(GC-MS)および液体クロマトグラフ・質量分析計(LC-MS)(*8)で分析して、13C有機分子を検出することで、衝撃実験による生成物であることを確認した。

【波及効果と今後の展開】
 この研究の成果は、40億~38億年前頃、原始地球に海が形成された後も続いた隕石の海洋爆撃によって、生物有機分子が出現し、生命発生の準備をした可能性を強く示唆している。さらに詳細な衝撃実験とその生成物の分析によって、生物有機分子の起源が明らかされるとともに、それら有機分子のサバイバルと高分子化への示唆がえられるであろう。生命の起源の研究が地球史に根拠を置いて、大きく進展する契機となったと言える。
掲載論文:Biomolecule formation by oceanic impacts on early Earth,
著  者:Furukawa, Y.1), Sekine, T.2), Oba, M.1), Kakegawa, T1). And Nakazawa, H.2), 
      1)東北大学大学院理学研究科地球物質科学専攻
      2)独立行政法人物質・材料研究機構
投稿誌:Nature Geoscience,1月号、ページ未定、電子版2008年12月8日AM3:00(日本時間)掲載予定、報道解禁12月8日AM3:00以降。

<用語解説>
1)グリシン:
 蛋白質を構成するアミノ酸(20種)のうち最も簡単な分子。NH2CH2COOH。
2)アミノ酸:
 分子内にアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)の両者をもつ化合物の総称。
3)アミン:
 分子内にアミノ基(-NH2)をもつ有機分子。本実験で検出されたアミンはメチルアミンCH3NH2,エチルアミンC2H5NH2,ブチルアミンC3H7NH2)。
4)カルボン酸:
 分子内にカルボキシル基(-COOH)をもつ分子。
5)脂肪酸:
 カルボン酸のうち、特にカルボキシル基を一個もつ鎖式モノカルボン酸の総称。本実験ではエタン酸(酢酸)CH3COOH,プロパン酸(プロピオン酸)C2H5COOH,ブタン酸(酪酸)C3H7COOH,ペンタン酸C4H9COOH、および2-メチル-プロパン酸CH3C2H4COOH。
6)生物有機分子:
 アミノ酸、脂肪酸、核酸塩基など生体を構成する有機分子。
7)普通コンドライト:
 地上で回収された隕石の85%以上を占める隕石。主として珪酸塩鉱物からなる石質隕石の一種。20%程度の鉄属金属、硫化鉱物および1~0.1%程度の固体炭素を含む。
8)ガスおよび液体クロマトグラフ・質量分析計:
 流体(ガスまたは液体)に溶解した複数の分子を分離する機能を有するクロマトグラフと分子量を測定する質量分析器が連結された装置。クロマトグラフで分子を分離し、質量分析計で炭素同位体の異なる12C-および13C-有機分子を区別することができる。

エックス線照射による有機絶縁体の金属化に成功 -遠赤外光学反射スペクトル測定により検証-(2008/11/25)
<概要>
 東北大学(総長 井上明久)金属材料研究所(所長 中嶋一雄)の佐々木孝彦准教授らと、財団法人高輝度光科学研究センター(理事長 吉良爽)の池本夕佳副主幹研究員らの共同研究グループは、エックス線を有機物絶縁体にあてるという簡単な手法によって、電気が流れない絶縁体を、電気を流すことが出来る金属に変化させることに成功し、SPring-8(*1)を用いてその機構を初めて明らかにしました。この結果は、有機物でできた絶縁体にエックス線を照射することによって金属的な良く電気を運ぶキャリア(*2)を発見したものです。
 強相関電子系(*3)と呼ばれる物質群のひとつである今回使用した有機物絶縁体は、やわらかくて軽いという特徴を活かし、シリコン半導体に代わる次世代の半導体材料として発展が期待されています。今回発見したエックス線照射効果は、このような有機物絶縁体を利用した有機トランジスター(*4)の性質をコントロールしたり、製造や加工用の道具として、応用することができます。
 今回の発見は、有機物の中をどのように電気が流れるかを解明する基礎的な研究を進展させただけではなく、有機半導体エレクトロニクスの発展にも寄与するものです。

 本研究は、文部科学省(No.16076201)および日本学術振興会(No.17340099,No.18654056,No.20340085)による科学研究費補助金の助成を受け、SPring-8の利用研究課題2007B1150、2008A1121で行われました。

 今回の研究成果は、米国物理学会発行の英文学術雑誌「Physical Review Letters」のオンライン版で11月24日に公開されます。

《掲載論文》
 題名:Optical probe of carrier doping by X-ray irradiation in organic dimer Mott insulator-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl(有機ダイマーモット絶縁体-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clへのエックス線照射によるキャリアドープの光学的検証)
 著者:T.Sasaki、N.Yoneyama、Y.Nakamura、N.Kobayashi、Y.Ikemoto、.Moriwakiand H.Kimura.
 ジャーナル名:Physical Review Letters(米国物理学会発行学術雑誌)、Vol.101
 発行日:11月28日

《研究の背景》
 現在、次世代エレクトロニクス材料を開拓することを目的として、強相関電子系と呼ばれる物質群、たとえば遷移金属酸化物や有機物質の研究が進められています。強相関電子系物質では、相互に強く影響を及ぼしあった電子の集団が、電気、磁気、光学的に大きな応答性、たとえば超伝導や金属-絶縁体転移などを示します。これらの現象の解明、開拓は、これまでの概念にはない新しい電子デバイス材料の創製に結びつくものとして、基礎、応用研究が推進されています。このような次世代材料の候補として有機モット絶縁体(*5)があります。モット絶縁体は、個々の電子が動こうとする力に比べて電子同士が強く反発しあうことによって格子状に整列し全体として動けなくなることで電気的に絶縁体である物質です。このモット絶縁体に動けるキャリアを少数だけ注入する(ドーピング)ことで、整列して動けなくなっていた電子が動けるようになり金属的な電気伝導を生じさせることができます(モット絶縁体-金属転移)。遷移金属酸化物などの無機材料では、異なる原子によって部分的に置換することでキャリアを注入することができますが、有機材料、特に有機モット絶縁体である電荷移動錯体では分子の部分的な置換によるキャリアのドーピングはこれまで難しく、人為的な制御を行うことができませんでした。最近、BEDT-TTF分子(*6)で構成された有機モット絶縁体である-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl(図1:結晶構造)という物質にエックス線を照射することで、電気抵抗が大きく減少することが発見されました。この現象は、エックス線照射によって結晶中に分子欠陥が生じることで分子置換と同様なキャリアドーピングが生じた結果、モット絶縁体状態が金属化し電気抵抗の大きな減少が生じたものと考えられていました。しかし、エックス線照射による抵抗減少のメカニズムやドープされたキャリアの性質などの詳細は不明のままでした。

-骨再生治療のイノベーション- 高い骨再生促進作用を持つ人工合成骨補填材の開発に成功(2008/11/25)
[概要]
 東北大学大学院歯学研究科の鈴木治教授(顎口腔機能創建学分野)は、同大学大学院医学系研究科井樋栄二教授(整形外科学分野)、同大学院医学系研究科博士課程4年宮武尚央らと共同で、高い骨再生促進作用を有する人工合成の骨補填材、「低結晶性リン酸オクタカルシウム(OCP)」の開発に成功しました。骨の腫瘍摘出後における骨欠損等、骨の移植が必要とされる患者への適用が期待されます。本研究成果は、11月22日(英国時間)に英国科学雑誌「Biomaterials(バイオマテリアルズ)」のオンライン速報版で公開されました。

[背景と研究内容]
 OCP(注1)は、生体の骨(注2)の無機成分、ヒドロキシアパタイト(Hap)結晶と同様にカルシウム、リン酸、水等から成る結晶であり、Hapの前駆体に位置づけられる物質です。従来から人工骨(注3)として用いられる素材である合成のHapと比べ、OCPは顆粒状において、高い骨形成能、新生骨との置換能を示し、また骨を作る細胞(骨芽細胞)を活性化する作用を持つことが、これまでの研究から明らかになっています。今回、新規に合成に成功した「低結晶性OCP」は、動物実験レベルながら、従来のOCPと比べ、注目する領域において、平均1。69倍の骨形成能を示します。OCPを物質科学的に改質してカルシウムおよびリンの組成割合をわずかに調節して、一部アモルファス化(非結晶質化)させました。骨形成が促進されるメカニズムは完全には解明できていませんが、今後の基礎研究および慎重な実用化検討を経て、骨の腫瘍摘出後における骨欠損等、骨の移植が必要とされる患者への適用が期待されます。
 従来から、純粋なOCPの合成は難しいとされていました。鈴木教授らは先に、安定的にOCPを得る合成方法を確立して、桜井実東北大学名誉教授(整形外科学分野)らと共同で、OCPに優れた骨伝導能があることを世界で初めて報告し特許化しています。これまで、このOCPは、同大大学院歯学研究科越後成志教授、同大大学院医工学研究科の鎌倉慎治教授らにより、中型動物で優れた骨再生能が確認されたコラーゲンとの複合体に用いられている他、同大大学院歯学研究科佐々木啓一教授らと金属材料へのコーティングについての共同研究がなされています。また、OCPを用いた骨補填材は、鈴木教授らと共同でニプロ(株)が実用化検討を進めており、「低結晶性OCP」の成果は既に特許出願がなされています。

 本成果は、文部科学省特定領域研究「マルチスケール操作によるシステム細胞工学」(領域代表者:福田敏男 名古屋大学大学院工学研究科教授)の計画研究「メカニカルストレスおよび局所環境制御による硬組織の形態再建機序モデルの創出」(研究代表者:鈴木治)の一環として得られました。

<用語解説>
注1)OCP
 リン酸オクタカルシウム(octacalcium phosphate: OCP)は古くから骨のヒドロキシアパタイト(Hap)の前駆体として提案されて来ましたが、長い間、生体内で検出できませんでした。その理由として、OCPは生体内ではすぐにHapに転換してしまうためと考えられました。しかしながら、ごく最近に、最新の分析機器の適用によって、OCPが骨の初期形成部位でHapの前駆物質として存在することが海外の研究者により見出されました。OCPは生命物質として位置づけられるようになり、最近、合成OCPの生体材料としての応用に注目が集まっています。OCPを生体に応用するためには、現状の顆粒でも使えますが、骨欠損の形態に合わせた形態付与が必要とされる場合があり、その際には、安全かつ生体によく馴染む素材(生体用高分子材料など)との複合化が必要となります。

注2)骨
 骨はコラーゲンを主体とした有機物と、リン酸カルシウムであるHapを主体とした無機物からなる有機・無機の複合組織です。

注3)人工骨
 骨のHapの無機成分を模倣した人工合成のHap焼結セラミックスや生体内吸収性を示すβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)セラミックス等の骨親和性に優れる生体材料はすでに実用化されています。しかしながら、自分の骨(自家骨)は最も優れた骨再生能を示すことが知られており、Hapやβ-TCPなどの優れた人工骨が開発された現在でも、骨の腫瘍等で失われた欠損に対して、自家骨移植が頻繁に用いられています。自家骨は腸骨等の健常な部位から採取されるため、2次的な侵襲の負担や量的制限から人工の生体材料が用いられている背景があります。

インスリン分泌細胞を増殖させる神経ネットワークを発見 糖尿病の再生治療に応用性(2008/11/21)
 東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センター・片桐秀樹教授、分子代謝病態学分野・岡芳知教授らのグループは、肝臓からの神経ネットワークにより膵臓のインスリン分泌細胞(β細胞)が増殖することを発見し、さらにこの仕組みを刺激することで糖尿病を治療できることを見出した。この研究成果は、米国科学誌サイエンス(米国時間11月21日号)に掲載予定である。

 肥満になるとインスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)が、この時、膵臓にあるβ細胞が増殖し、多くのインスリンを分泌して血糖値の上昇を防ごうとする。本研究グループは、この体に備わった糖尿病予防機構を解明し、「肝臓が、肥満状況を感知し神経シグナルを発して脳にインスリンを増やす必要性を伝え、それを受けて脳は、膵臓に向かう神経を使って、膵臓のβ細胞を増殖させる」という臓器間の神経ネットワークを発見した。これは、神経系、特に脳が、血糖値などの全身の代謝調節を行っていることを見出したもので、メタボリックシンドロームの解明にも意義深い。

 一方で、この反応が不十分だったり膵臓のβ細胞が減少したりして、インスリンの分泌が悪くなると、糖尿病となる。そこで、本研究グループは、インスリン分泌の低下した糖尿病のモデル動物でこの神経ネットワークを刺激してみた。すると、β細胞が増殖しインスリン分泌が改善、糖尿病を治療することができた。インスリン注射を行っている糖尿病患者は国内だけでも60万人を超えるといわれ、このような患者にとって、β細胞の再生につながる本研究は、大きな福音となるものと期待される。

 現在、ES細胞やiPS細胞といった多分化能をもつ細胞を試験管内で分化させて移植することが再生治療研究の主流と捉える向きもある。しかし、本研究は、神経ネットワークという体に元来備わっている仕組みを発見し、それを刺激することで、障害を受けた臓器を体内で再生させるという全く新しい概念での「再生」医療を切り開く可能性が考えられる。

細胞老化を抑えるタンパク質を発見 ―がんや老化に対する治療標的分子候補同定へ向けて―(2008/11/17)
 がん抑制因子p53(注1)は細胞老化(非可逆的な増殖停止)やアポトーシスを誘導することにより、細胞のがん化を抑えます。このたび、東北大学大学院医学系研究科細胞生物学講座生物化学分野の土肥由裕研究員(現・広島大学医歯薬学総合研究科)、井倉毅講師、五十嵐和彦教授のグループは、財団法人癌研究会癌研究所などのグループと共同で、転写因子(注2)Bach1(バック1)がp53と結合し、その働きを阻害することにより、細胞老化を抑えることを発見しました。細胞老化は個体の老化とも密接に関係することから、Bach1は、がんや老化をコントロールする上で新しい治療標的となる可能性が考えられます。この発見は米国の学術誌Nature Structural & Molecular Biology誌(ネイチャー構造分子生物学誌)の電子版に11月16日18時(英国グリニッジ標準時間)に発表されます。

【 研究内容 】
 我々の体を構成している細胞は、分裂を繰り返しながら増殖しますが、その分裂回数を一定の範囲に制限する仕組みがあります。この仕組みの一つは「細胞老化」と言われ、これが幹細胞(注3)などで生じると組織・臓器の再生能力が低下することから、細胞老化は個体の老化の一因ともなっていると考えられます。一方、細胞老化は、遺伝子に変異が蓄積した細胞が増殖することを防ぎ、がん化を抑制する重要な仕組みともなっています。細胞老化は、p53という転写因子が働くことにより生じます。P53は、細胞老化に関わる遺伝子を発現させることにより細胞の増殖停止を促し、細胞老化を誘導することが知られています(図1 左)。またこの作用により、p53は異常細胞の増殖を防ぐがん抑制因子としても働いています。しかし、細胞老化の前後でp53の働きが調節される分子機構は長年不明でした。

 今回、東北大学大学院医学系研究科・生物化学分野(五十嵐和彦教授)のグループは、財団法人癌研究会癌研究所(野田哲生所長)、独立行政法人理化学研究所基幹研究所(吉田稔室長)のグループとの共同研究により、転写因子Bach1がp53と結合してその働きを抑え、細胞老化を抑制することをマウスでの遺伝子破壊実験(注4)やタンパク質ネットワーク解析などにより明らかにしました。Bach1遺伝子を欠損する細胞は、野生型の通常細胞と異なりp53が容易に活性化し、速やかに細胞老化に至りました。すなわち、Bach1はp53の働きを阻害することにより、細胞老化のブレーキとして働くことが証明されました(図右)。細胞老化が「がん抑制」としての機能を併せ持つことを考えると、Bach1は、老化を抑制するのみならずがん化を促進する役割を持っている可能性があります。また、個体の老化に対してもBach1がブレーキ役として働いている可能性があります。今回の発見は細胞老化やがん化を理解する上で重要なものであり、この研究をさらに進めることにより、がんや老化に対する治療標的分子が同定され、新しい診断や治療法につながることも期待されます。

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金(特定領域研究「遺伝情報デコード」、「遺伝情報システム異常と発がん」および基盤研究B)、東北大学医学系グローバルCOEプログラム「Network Medicine 創生拠点」、上原記念生命科学財団研究助成金、武田科学振興財団研究助成金、財団法人病態代謝研究会研究助成金により支援されました。

「黒鉛超伝導体」40年来の難問解決 鉛筆の芯が超伝導になる(2008/11/10)
<概要>
 東北大学 大学院理学研究科の佐藤 宇史 助教と同大学 原子分子材料科学高等研究機構の高橋 隆 教授らの研究グループは、40年来未解決であった「黒鉛超伝導体」のメカニズムを解明することに成功しました。
 本研究成果は、平成20年11月9日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Physics(ネイチャーフィジックス)」のオンライン速報版で公開されます。

<背景>
 鉛筆の芯に使われている黒鉛(グラファイト)は、炭素原子が蜂の巣状のネットワークを形成した層状の結晶構造(図1(a))を持っており、鉛筆でなめらかに字が書けるのは、このグラファイト層の間がすべりやすく、はがれやすいためです。黒鉛自体は電気をわずかに流す半金属として知られていますが、グラファイト層の間にカリウム(K)原子を入れると、低温で電気抵抗がゼロとなる超伝導を示すことが40年前に発見されました。私たちの身の回りどこにでもある黒鉛が超伝導になるということで大きな注目を集め、その超伝導メカニズムを解明して、さらに高い超伝導温度を達成しようという研究が世界中で精力的に行われました。とりわけ、日米仏の研究者の間では相反する超伝導モデルが提案され、激しい議論が展開されましたが、そのメカニズムは依然不明のままでした。ところが2005年に、これまで絶対温度で高々2K程度であった超伝導転移温度(Tc)が、牛乳や骨に含まれているカルシウム(Ca)をグラファイト層間に入れると、一気に11.5Kまで急上昇することが報告されました(図1(b))。この発見により、「黒鉛超伝導体では高いTcは実現できない」というそれまでの常識が覆され、現在、基礎科学の立場からも、今後より高いTcを持つ物質を開発する産業応用の立場からも、この黒鉛超伝導体の超伝導メカニズムの解明が急がれています。

<研究の内容>
 本研究グループは今回、光電子分光(図2)と呼ばれる実験手法を用いて、カルシウムを入れた黒鉛超伝導体(C6Ca)中の超伝導電子の観測を試みました。光電子分光とは、物質に紫外線を照射して、外部光電効果注1)により物質外に放出される電子のエネルギーを精密に測定することで、物質内にある電子の状態を観測できる実験法です。本研究グループは、世界最高のエネルギー分解能を持つ装置を用いて、黒鉛超伝導体の超伝導電子の直接観測に今回初めて成功しました。その結果、超伝導を担う電子は、グラファイト単独層に存在するパイ電子( 電子)注2)やシグマ電子( 電子)注3)ではなく、グラファイト層が重なり合うことで層の間に新たに形成される「層間電子状態」に存在する電子であることが明らかになりました(図1(c))。また、層間に挿入されたカルシウム原子は、この層間電子状態に電子を与えると同時に、層間電子が超伝導になることを助ける働きもしていることも判明しました。この層間電子は、30年以上も前に日本の研究者により予言されながら実験的に観測できず、長い間その存在と超伝導への関与について謎のままであったものです。今回の成果は、この層間電子の存在を確認すると同時に、その超伝導への寄与を明らかにしたもので、黒鉛超伝導の長年の難問を解決したものと言えます。

<今後の展望>
 今回の研究結果に基づいて、カルシウムなどの挿入原子と炭素原子がどのように協力して高いTcを実現しているのかの研究が急速に進むものと期待されます。その結果、カルシウム以外の原子や分子を入れたり、グラファイトの炭素を他の元素で置換したりすることで、さらに高いTcを持つ超伝導体が見いだされることが期待されます。また、今回の成果をもたらした光電子分光装置の高分解能化をさらに進めることで、超伝導を引き起こしている層間電子の性質がより明らかになり、高温超伝導体などの黒鉛以外の層状超伝導体の超伝導機構の解明と、そのTc上昇に貢献するものと期待されます。

 本成果は、文部科学省・日本学術振興会科学研究費およびJST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域(研究総括:田中 通義 東北大学 名誉教授)の研究課題「バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発」(研究代表者:高橋 隆)によって得られました。

<用語解説>
注1)外部光電効果
 物質に紫外線やX線を入射すると電子が物質の表面から放出される現象です。物質外に放出された電子は光電子とも呼ばれます。この現象は、1905年に、アインシュタインの光量子仮説によって理論的に説明されました。アインシュタインは、この業績でノーベル賞を受賞しています。

注2)パイ電子(電子)
 グラファイト単独層の電子状態を構成している2種類の電子状態の1つ(もう1つはシグマ電子)で、グラファイト層平面に対して垂直に伸びた電子分布を持っています(図1(c)参照)。半金属であるグラファイトの電気伝導は、このパイ電子によって担われます。

注3)シグマ電子( 電子)
 グラファイト層内の炭素と炭素の結合方向に伸びた電子分布を持ちます(図1(c)参照)。

タンパク質や細胞を“その場”で“簡単に”固定して計測できる新規バイオチップシステムを開発【産技助成Vol.45】(2008/10/20)
新規の表面改質技術「電気化学バイオリソグラフィー(注1)」技術を確立。
使い捨て型のマイクロ流路型チップに本技術を搭載し
タンパク質や細胞を“その場”で”簡単に”固定して計測できるバイオチップシステムを創出した。

図1. バイオリソグラフィー試作機の外観(左)と流路内のマルチ抗体固定を実現(右)
バイオリソグラフィー試作機(左)の差込口に流路チップ(右)を挿入し、パソコン画面上で使用する抗体を設定すると、マイクロ流路の内壁に自動的に抗体が固定される。右の例では、3種の異なる抗体が配列固定されている。

【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東北大学大学院工学研究科の教授、西澤松彦氏は、電気化学的な新規リソグラフィー技術を搭載したバイオチップシステムの開発をしました。
 これまで抗体やタンパク質等(生体試料)の接着を行うにあたり、脆弱な細胞や抗体をその場でアレイ化する簡便な固定化法とチップ技術が望まれていましたが、本技術はマイクロ流路(注2)内部で、乾電池程度(1.7V、10秒)の直流電圧をかけることでタンパク質や細胞の固定が可能になり、抗体を固定すればイムノアッセイ(免疫測定)チップ、あるいは細胞を捕集固定すれば細胞診断チップが必要なときに必要な場所で簡単に作製でき、“即答性”や“連続性”という要求に応えることができる技術です。
 また健康・医療分野への応用では、感染のテストや救急医療、環境分野では生物災害や大気汚染等において、原因物質をオンサイト(現場)で特定することができます。食品分野におけるアレルゲン検出や、港・空港での検疫検査などに活用できる技術としても期待されています。
(注1): バイオ固定化技術の一種。ヘパリンやアルブミンを吸着させた基板に近づけた微小電極で次亜臭素酸(HOBr)を生成すると、電極の近傍にだけタンパク質や細胞が接着する現象を利用する。
(注2): ガラス、金属、プラスチックなどの基板上に約10μm~約1mmの幅で設けられている流路。

1. 研究成果概要
AFM(原子間力顕微鏡)(注3)、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)による原子・分子レベルの表面解析や、共焦点蛍光顕微鏡(注4)観察などによって「電気化学バイオリソグラフィー」の原理解明に取り組みました。その結果、物理吸着したアルブミン(注5)分子(または静電吸着したヘパリン(注6))が電極で生成した次亜臭素酸の酸化力によって基板から速やかに脱離し、タンパク質の吸着や細胞接着が局所的に誘導されるメカニズムを解明しました。また、マイクロ流路の上壁に電極アレイをつくり込むと、流路内でも電気化学バイオリソグラフィーが行えることを確認。さらに電気化学リソグラフィー操作を繰り返し行うことによって、流路内に複数種類の抗体を固定できることもわかりました。
 マイクロ流路チップへの送液(溶液の入れ換え)と電圧印加(電気化学処理および細胞の捕集)をプログラムに沿って自動制御する装置の試作は、プレシジョン・システム・サイエンス株式会社と共同で行いました。
(注3): 試料と探針の原子間に働く力(原子間力)を検出して画像を得る顕微鏡。
(注4): 蛍光標本を詳細に観察、解析する顕微鏡で、焦点の合った画像成分のみを抽出できる。
(注5): 血清に含まれるタンパク質の一種。これを物理吸着させると、他のタンパク質の吸着を防ぐ効果を示す。
(注6): 血液の抗凝固薬のひとつで、これもタンパク質の吸着を防ぐ効果を有する.。
2.
3. 競合技術への強み
1. 簡便性・汎用性:電気化学バイオリソグラフィーは簡便なウェットプロセスで、電極と電源(乾電池程度)だけで行えるシンプルな機構です。
2. その場性:シンプルな機構なので使い捨て型のマイクロ流路などへ集積でき、タンパク質や細胞を“その場”で固定して計測を行えます。
3. 流路への搭載:流路の上壁に電極アレイ(配列)をつくり込むことで、流路内でも電気化学バイオリソグラフィーが行えることを実証しました。
4. 計測時間:抗体固定から計測結果を得るまでの操作に必要な時間は現在約70分ですが、装置の自動化により、目標である1 時間が達成できる見通しが立ちました。

本研究で実証
表1.タンパク質や細胞の固体化技術に係る従来技術と本研究との比較表
4. 今後の展望
 タンパク質や細胞を流路内局所に固定することを可能とし、一連の操作を半自動的にPC制御下で行えるバイオリソグラフィー試作機の作製に到達しました。将来的には血球細胞の形態診断や、培養細胞を用いる薬剤アッセイ(分析・評価)や化合物の安全性試験などの基盤装置として実用化を検討します。現時点では作製したバイオチップを顕微鏡下で評価していますが、今後は計測システムの一体化にも取り組みます。具体的にはQCM(水晶振動子を利用した計測装置)を流路チップに組み込める見通しが立っているので、抗体の固定から計測までを1台で行えるオールインワンの小型装置を開発し、オンサイト計測を実現するのが最終目標です。
5. 問い合わせ先
(1) 技術内容について
<代表研究者名・所属機関・部署名・役職名>
西澤 松彦(東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻 教授)
TEL:022-795-7003   FAX:022-795-7003
E-mail:
研究室HP: 西澤・安部研究室 バイオマイクロマシン工学講座
(2) 制度内容について
NEDO技術開発機構 研究開発推進部 若手研究グラントグループ
岸本 和久、松崎 肇、千田 和也
TEL:044-520-5174 FAX:044-520-5178
個別事業HP:産業技術研究助成事業(若手研究グラント)
http://www.nedo.go.jp/informations/press/201020_1/201020_1.html

透明な絶縁体を電界効果で超伝導に 新しい超伝導材料開発へ道(2008/10/13)
 JST基礎研究事業の一環として、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の川崎雅司教授と同大学金属材料研究所の岩佐義宏教授は、材料の電気の流れやすさを電圧によって制御することで、電気が全く流れない物質を超伝導物質に変換することに世界で初めて成功しました。

 高温超伝導体など多くの超伝導材料は、絶縁体にさまざまな元素を化学的に混ぜ合わせて電気を流れやすくする手法で作られています。本研究では、従来とは全く異なる電気的な手法(電界効果)で、絶縁体を超伝導体に変えることに成功しました。

 電気の流れやすさは、自由に動ける電子が材料にどれだけ含まれているかによって決まります。絶縁体中の自由電子の濃度を化学的な手法でゼロから次第に増やして行くと、電気をよく流す金属状態へ、さらには極低温では超伝導状態へと変化していく材料がいくつか知られています。1986年に発見された銅酸化物系での高温超伝導物質以来、新超伝導体の探索には、添加物を化学的に加えて自由電子を作り出す手法が主に用いられてきました。

 一方、トランジスタでは、電気的な手法によって半導体の電気の流れやすさを制御しています(電界効果)。本研究では、プラスチックを用いた新しいタイプのトランジスタを形成し、全く電気の流れない物質を金属状態から超伝導へと転移するのに必要な大量の自由電子を誘起しました。超伝導化したのは、チタン酸ストロンチウムという無色透明の酸化物単結晶であり、人工宝石の一種です。本研究成果は、電界効果という手法が電気の流れやすさを制御するのみならず超伝導状態を実現するためにも有効であることを明示しており、将来はこの手法を用いて高い温度で超伝導を示す新材料を発見できると期待されます。

 本研究成果は、英国学術誌「Nature Materials」のオンライン版で2008年10月12日午後6時(英国時間)に公開されます。

「メラニン色素」の輸送に必須のタンパク質複合体を構造決定 -肌の美白維持や白髪抑制などの薬剤開発に期待-(2008/10/8)
本研究成果のポイント
 ○メラニン色素輸送の鍵タンパク質「Rab27」の2つの複合体の構造を決定
 ○肌を白色化する遺伝病の発症メカニズムがRab27複合体の結合阻害と解明
 ○Rab27複合体の形成阻害や安定化の薬剤設計が可能に




 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と高エネルギー加速器研究機構(鈴木厚人機構長:KEK)は、肌や髪を黒くするメラニン色素の輸送に必須のタンパク質「Rab27」の2つの複合体の構造を世界で初めて解明しました。これは、理研生命分子システム基盤研究領域の横山茂之領域長(東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻教授兼務)、システム研究チームの白水美香子上級研究員、新野睦子上級研究員らと国立大学法人東北大学(井上明久総長)生命科学研究科の福田光則教授の研究グループ、KEK物質構造科学研究所構造生物学研究センターの若槻壮市教授(センター長)、マンチェスター大学のレオナルド・シャバス研究員(元総合研究大学院大学高エネルギー加速器科学研究科物質構造科学専攻)らと、国立大学法人群馬大学(鈴木守学長)生体調節研究所の泉哲郎教授の研究グループによる共同研究の成果です。

 メラニン色素は、「メラノサイト(※1)」と呼ばれる皮膚の基底層にある細胞の中で合成され、メラノサイト内の色素顆粒「メラノソーム(※1)」に貯蔵されます。このメラノソームが、メラノサイト内を移動し、肌や髪の毛を作る細胞に受け渡されることで、肌や髪の毛が黒くなります。メラノサイトにおけるメラノソームの輸送は、Rab27Aと呼ばれる低分子量Gタンパク質(※2)が、Gタンパク質に特異的に結合するエフェクターと呼ばれるタンパク質と結合することで、はじめて正常に行われます。Rab27Aは、Slac2-a(別名メラノフィリン:Melanophilin)、Slp2-a(別名エキソフィリン4:Exophilin4)、という2つのエフェクターを連続的に用いて、メラノソームをメラノサイトの核周辺から細胞膜まで輸送します。研究グループは、メラニン色素輸送に中心的な役割を果たしている2つのタンパク質複合体「Rab27A-Slp2-a」および「Rab27B-Slac2-a」の構造を明らかにしました。解明した構造情報から、Rab27とSlac2-aおよびSlp2-aとの結合に重要なアミノ酸残基を同定し、Rab27が特定のエフェクターを認識する基盤を解明するとともに、Rab27AとSlac2-aのアミノ酸残基の変異が、肌の白色化の症状を示すグリセリ(Griscelli)症候群(※3)という遺伝病を発症する分子メカニズムを明らかにしました。

 本研究成果は、これらのタンパク質間の結合を阻害あるいは安定化するような薬剤の設計に応用することが可能であり、今後、メラノソーム輸送を人為的に制御することによって、肌の美白の維持や白髪発生の抑制につながる可能性が期待できます。

 本研究成果は、文部科学省で推進した「タンパク3000プロジェクト」の一環として行ったもので、米国の科学雑誌『Structure』に掲載されるに先立ち、オンライン版(10月7日付け:日本時間10月8日)に掲載されます。

沈み込むスラブ内部の地震波速度の異方性の原因を解明(2008/10/2)
トンガ海溝下部のマントルに高圧鉱物が配列して存在
(英国の科学雑誌「Nature」(2008年10月2日号)に掲載)

 東北大学と千葉大学の研究者は共同して、沈み込むスラブを構成する高温高圧で安定な鉱物であるアキモトアイト(イルメナイト型MgSiO3相)の変形実験を行いました。そして、その結果を用いて、これまで未解明であったマントル深部の地震波の異方性の原因が、この鉱物の配列によるものであることを世界に先駆けて明らかにしました。この結果を、英国の科学雑誌「Nature」(2008年10月2日号で発表することになりましたのでお知らせします。

<研究の概要>

1、研究の背景
 この研究は、東北大学の研究者(白石令・博士2年、大谷栄治・東北大教授(鉱物物理学)、下宿明(博士3年当事、現在九大PD)、趙大鵬・東北大教授(地震学))と千葉大学の研究者(金川久一:千葉大教授(構造地質学))による共同研究によって行われたものです。また、この研究は、文科省によって選定されている東北大学のグローバルCOE(センターオブエクセレンス)プログラム「変動地球惑星学の統合教育研究拠点」の研究成果です。

2、行った実験:
 マントルの深部に沈み込むスラブをつくる主要な鉱物であるアキモトアイトを高温高圧下で変形させる実験を行いました。この試料を詳細に解析することによって、アキモトアイトが高温高圧下で応力のもとで変形すると、結晶の向きが特別な方向に並ぶことを世界に先駆けて発見しました。この高温高圧下での変形実験は東北大学で行われました。また、結晶の配列の測定は千葉大学において行われました。

3、実験の結果と意義:この結果から新たにわかったこと
 このアキモトアイト結晶の配列は温度によって異なる二つのタイプをとることを世界で始めて発見しました。すなわち1000℃以上で起こる高温タイプの配列と1000℃以下で起こる低温タイプの配列の二種類があることが明らかになりました。
地震学の解析によるとスラブ(海洋プレート)がマントル遷移層に沈み込んでいるトンガ海溝下のマントル遷移層に地震波速度が方向によって異なる(地震波の異方性をもつ)領域があり、しかもこの領域の南部と北部では異なるタイプの異方性を持つことは大きな謎でした。
今回の研究の成果は、実験の結果を地震波観測の結果に適用することによって、この地域の南・北領域で地震波速度の異方性が異なるこの謎の領域は、地震を引き起こす応力のもとでアキモトアイトの結晶が配列したことが原因であることを突き止めたものです。観測で求められた応力の方向と地震波速度の異方性の特徴が、実験で再現された応力のもとでのアキモトアイトの選択配向とみごとに一致しました。また、南と北の領域での地震波速度の異方性の違いは、その領域の温度の違いによることも明らかにしました。

4、今後の展開
 マントル内部の結晶の配列は、マントル対流や地震を引き起こす地下の応力によって生じます。今後、地震波の観測と応力場での結晶の変形実験を結びつけることによって、トンガ海溝の地下のみならず、さらに多くの地域の深部マントルで地震波の異方性の観測が試みられ、その結果を実験結果に当てはめることによって、地震波速度の原因やその領域での応力の大きさや方向が解明されるでしょう。それによって、これまで上部マントルの上部(~200km)に限られていたマントルの流動特性が、さらに深さ400kmを越えるマントル深部の条件においても明らかなることが期待されます。そして、これによってマントル対流の様子やそれを引き起こす応力の大きさと方向が、地球全体にわたって明らかになり、全マントルでの物質の大規模な動きや物質循環が解明されるでしょう。

<補足説明>
*1 マントル遷移層
 地球内部は、地殻、マントル、核にわけることができます。マントルには、地震波速度の急激な増加が、深さ約410kmと660kmの2箇所で見出されています。この二つの地震波速度の不連続面の間の領域をマントル遷移層と呼んでいます。この地震波速度の不連続的な増加の原因は、マントルを構成する鉱物の高圧鉱物への相転移によるものと考えられています。

*2 スラブ
 スラブは、別名「ワダチ・ベニオフゾーン」とも呼ばれています。海洋プレートは冷えて冷たくなり、海溝で地球内部に沈み込んでゆきます。この沈み込む海洋プレートをスラブと呼んでいます。このスラブ内部では、地震が多く発生します。

*3 アキモトアイト
 MgSiO3組成でイルメナイト型の構造を持つ鉱物をアキモトアイトと呼んでいます。この鉱物は、我が国の高圧地球物理学の権威であった東大物性研究所の故・秋本俊一名誉教授にちなんで命名された高圧鉱物です。アキモトアイトは、低圧で安定な輝石の高圧相であり、沈み込むプレートの深部(深さ約500km)の温度圧力条件で安定に存在すると考えられています。

*4 地震波の異方性
 地震波の伝わる速度が、方向によって異なる現象を異方性と呼んでいます。世界の多くの地域において上部マントルの深さ200km付近では、地震波速度の異方性が報告されています。一方、さらに深いマントル遷移層での地震波速度の異方性の観測については、トンガ海溝地下400kmなど非常に限られた場所での報告があるのみです。

*5 選択配向
 結晶には、結晶軸があり方向によって性質が異なります。結晶ができる際に、様々な原因で、多くの結晶がある決まった方向にそろって配列することがあります。このような現象を選択配向と呼んでいます。特に、地球内部では応力がかかった状態でマントル鉱物が再結晶するとマントルの多くの結晶が同じ向きに揃うことが明らかになっています

神経伝達物質の放出を制御する新分子を発見 ― 神経伝達物質放出とメラニン色素輸送に共通の分子機構が関与! ―(2008/9/29)
【 本研究成果のポイント 】
 ・ヤリイカ巨大軸索を用いて神経伝達物質を制御するラブ27の機能を解明
 ・ラブ27はシナプス小胞を細胞膜まで輸送する過程を制御
 ・神経伝達物質の放出とメラニン色素輸送に共通の分子メカニズムを発見

 私達の脳は一千億を超える神経細胞により成り立っており、シナプス(*1)と呼ばれる連絡場所を介して巨大なネットワークを形成しています。神経細胞間の情報交換は、シナプス小胞と呼ばれる袋に貯蔵された神経伝達物質が一つの細胞から放出され、別の細胞に受け渡されることにより行われています。一度使用されたシナプス小胞はリサイクル(再回収)され、神経伝達物質を再充填された後、細胞膜まで輸送されます。つまり、情報交換を継続的に行うためには、シナプス小胞のリサイクリングは重要なプロセスと考えられます。しかし、シナプス小胞からの神経伝達物質の放出機構に比べ、リサイクルされたシナプス小胞が細胞膜までどのような機構で輸送されるかは、これまでほとんど解明されていませんでした。

 今回、私達はヤリイカの巨大軸索(*2)を用いて、このリサイクルされた小胞が細胞膜に輸送される過程に、低分子量Gタンパク質ラブ27(Rab27)(*3)が関与することを突き止めました。すなわち、ラブ27はシナプス小胞上に存在しており、その機能を特異的に阻害すると、シナプス小胞が細胞膜から離れた部分に蓄積することを明らかにしました。

 今回同定されたラブ27は、ヤリイカをはじめとする無脊椎動物から高等哺乳動物まで進化的に保存されており、ヒトの神経細胞でも同様な機能を持つものと考えられます。ヒトにおいては二種類のラブ27(AとB)が存在し、ラブ27Aを欠損すると毛髪や肌の白色化を特徴とするGriscelli(グリセリ)症候群(*4)が発症します。私達はラブ27Aがメラノサイトにおいてメラニン色素を細胞膜まで輸送することを以前突き止めており(*5)、今回の成果により神経伝達物質の放出とメラニン色素輸送に共通の分子機構が存在することが初めて明らかになりました。

 本研究は、東北大学大学院生命科学研究科の福田光則教授のグループとニューヨーク大学のRodolfo R. Llinas教授のグループの共同研究により行われたものです。

 本研究成果は、2008年9月29日(米国東部時間)の週に米国の科学雑誌『米国科学アカデミー紀要』のオンライン版に掲載されます。

「高性能磁性コロイドの合成に成功」 ―検査用コロイドの診断精度向上などに期待―(2008/9/19)
 東北大学大学院工学研究科化学工学専攻の今野幹男教授・長尾大輔助教らの研究グループは、磁場を使って検査対象物質を高精度かつ迅速に分離・回収できる、高性能磁性コロイドの合成に成功した。この磁性コロイドには蛍光色素が含まれており、磁気分離した検査対象物質を蛍光強度により定量化することもできる。本研究成果の一部は、9月24日に東北大学で開催される化学工学会第40回秋季大会で発表する予定。

〔背景〕
 コロイドとは、通常1-100ナノメートルの大きさの粒子が液体に均一に分散したもので、このように微小なコロイド粒子は重力による沈澱が生じにくく、ナノテク物質の応用として開発が求められている。
 近年、少子高齢化にともなう医療費の拡大が懸念される中、疾患を早期発見できる検査技術が強く求められている。従来の検査用コロイドの多くは、抗原抗体反応を利用した粒子同士の凝集や、検知対象と特異的に結合する蛍光標識剤の別途添加により、疾患に関わる物質を検知していた。しかし、これらの手法では微量成分の検知、検知対象に応じた蛍光標識剤の調製にそれぞれ問題を抱えていた。

〔本技術の開発により解決しようとする課題〕
 疾患を早期発見するには微量な化学種でも簡単に検知できる手法が必要であり、簡便かつ高精度な検査用コロイドの開発が重要な課題となっていた。

〔課題を解決するための手段〕
 この課題に対して今野教授・長尾助教らの研究グループは、検査用コロイドとして、磁性と蛍光特性を併せ持ち、かつ粒径均一性の高い複合粒子を合成した。本検査用コロイドは、磁性を有する酸化物粒子を、蛍光を発するポリマー層が覆った構造となっている。

 合成した磁性コロイドを検査用コロイドとして利用するにはまず、例えば抗原抗体反応を利用して検査対象を粒子に捕捉させる。次に、磁力を使って捕捉した検査対象を粒子ごと分離して回収する。従来の回収プロセスでは遠心分離が多用されてきたが、本検査用コロイドでは、磁石を近づけるだけで容易に検査対象を分離・回収できるという特徴がある。従来も検査を目的とした磁性コロイドは開発されていたが、粒径や磁場応答に関する均一性が必ずしも十分ではなく、検知対象を定量化するには蛍光標識剤を別途添加する必要があった。一方、今回合成に成功した磁性コロイドの大きさはよく揃っており、磁場応答に関する均一性が高い。そのため、磁場応答が異なる複数の磁性コロイドを組み合わせて使えば、特殊な標識剤を使わず、多重分析することも可能となる。
 さらに、磁性コロイドの内部は多層コア-シェル構造になっており、磁性ナノ粒子の層を増やすことで磁性ナノ粒子の含有率を高めることができ、磁気分離の迅速化も可能である。

〔ナノテク分野での多様な応用〕
 磁性コロイドを利用した定量分析では、分析精度を向上させるため、各粒子の磁気応答性の均一化を図ることが重要となるが、今回開発した合成法では、その磁気応答均一性に加えて、磁性成分含有率の高い磁性コロイドを合成できるという特徴がある。さらに、他の機能(今回の蛍光特性以外)と組み合わせることも可能であり、感度・分析精度の向上が期待できる。また、従来の磁性コロイド合成法は環境負荷が高いプロセスが多く、有機溶媒を使ったり、多量な界面活性剤を加えたりしていたが、本手法は、有機溶剤や界面活性剤を使わないクリーンプロセスで構成されている。
 このようなクリーンプロセスにより磁気応答性、大きさともに均一な磁性コロイドを合成すれば、医薬・バイオから光通信分野まで幅広い応用が期待できる。例えば、医薬・バイオ分野ではMRI(核磁気共鳴)での造影粒子、ドラックデリバリーシステムの担体、温熱療法に適用可能なガン治療用粒子などが挙げられ、光通信分野ではフォトニッククリスタル、光導波路などへの応用が期待される。

〔成果発表〕
 本研究成果の一部は、2008年9月24日に東北大学で開催される化学工学会第40回秋季大会で発表する予定である。

細胞内寄生細菌を認識し排除する機構を解明 (細胞内寄生細菌感染症の克服へ新たな手がかり)(2008/7/7)
 東北大学 大学院 薬学研究科 生命機能解析学分野の 倉田祥一朗 教授と、矢野環 助教らは、病原体認識蛋白質が、細胞内寄生細菌を認識し排除する機構を明らかにしました。この研究成果は、米国科学誌Nature Immunology の電子版(7月6日)に掲載されます。本研究は、主に(独)生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一環として行われたものです。


【研究内容】
 我々は細胞外での免疫反応によって病原体を排除しますが、赤痢菌、結核菌、リステリア菌など、病原体の中にはこれを逃れて細胞内に寄生し、感染症を引き起こす病原体がいます。今回、人獣共通感染症であるリステリア症を引き起こすリステリア菌(Listeria monocytogenes)を用いて、ショウジョウバエの病原体認識蛋白質PGRP-LEが、細胞内でリステリア菌を認識し、オートファジーを誘導する事で、リステリア菌の排除を行うことを明らかにしました。これまで、ほ乳動物細胞でも、細胞内非特異的分解系であるオートファジーが、細胞内寄生細菌の排除に関わる事が示されていましたが、病原体認識蛋白質が細胞内寄生細菌を認識することによって菌の周囲にオートファジーを特異的に誘導するということを初めて明らかにしました(図1 下のURLから参照)。また、このオートファジーが誘導できないと、宿主がリステリア菌に対する抵抗性を失い感染死することもわかりました。さらに、薬剤処理により人為的にオートファジーを誘導すると、リステリア菌が細胞内から排除される事も明らかとなりました(図2 下のURLから参照)。

 これらの成果は、細胞内寄生細菌による感染症の克服に手がかりを与えるとともに、昆虫が媒介する伝染病の予防や、適切な食品管理への応用が期待できます。


【図表】(※詳細は 下のURLから参照)

図1 PGRP-LE による細胞内寄生細菌の認識と、オートファジー誘導による寄生細菌の排除
 PGRP-LE は、細胞質中で、侵入した寄生細菌を認識し、細胞内分解系であるオートファジーを誘導する。オートファジーの誘導により、二重膜で取り囲まれた細胞内寄生細菌は、分解され、排除される。

図2 細胞内でのリステリア菌の増殖
 (左上)野生型のショウジョウバエから回収した体液細胞(WT)では、リステリア菌の増殖は抑制されているが、(右上)PGRP-LE が機能しない変異体からの体液細胞(LE112)では、リステリア菌が爆発的に増殖する。水色でDNA を示しており、大きな円形として体液細胞の核が、小さな点状のリステリア菌が示されている。紫色でアクチンを示しており、一つの細胞の形状がわかる。(左下)オートファジーが誘導できない体液細胞(Atg5IR)でも、PGRP-LE の変異体と同様に、リステリア菌が爆発的に増殖する。(右下)一方、PGRP-LE の変異体で、リステリア菌を認識できずにオートファジーを誘導しない体液細胞でも、ラパマイシンという薬剤で人為的にオートファジーを誘導すると(LE112+rap)、リステリア菌が排除される。

【論文題目】
 Autophagic control of Listeria through intracellular innate immune recognition indrosophila (Nature Immunology 電子版 7月6日)

 「ショウジョウバエにおける細胞内認識を介したリステリア菌のオートファジーによる排除」


【用語説明】

PGRP(ペプチドグリカン認識蛋白質)ファミリー分子:
 昆虫が有する感染防御系において、ほとんどすべての細菌が有する細胞壁構成成分であるペプチドグリカンを認識する病原体認識蛋白質ファミリー。ヒトを含め、ほ乳動物も有している。
 ショウジョウバエでは、このファミリーに属するPGRP-SA, -LC, -LE, -SD などが、侵入する細菌を細胞外で認識して抗菌ペプチドなどの産生を誘導し、感染防御を行う。本研究グループは、PGRP-LE が細胞外だけでなく、細胞内でもDAP 型ペプチドグリカンを認識し、抗菌ペプチド産生を誘導する多機能性を有している事を明らかにしていた(Nature Immunology 2006)。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/press_release/pdf2008/20080707.pdf

二輪乗車と脳の活性化の関係に関する研究開始について(2008/5/16)
 国立大学法人東北大学(総長・井上明久/所在・宮城県仙台市青葉区片平2-1-1)の加齢医学研究所・川島隆太研究室では、ヤマハ発動機株式会社(代表取締役社長・梶川 隆/所在・静岡県磐田市新貝2500)の協力を得て、オートバイ乗車が脳の活性化に及ぼす効果について研究を開始することになりました。
 川島研究室では、企業が開発した製品やシステムが、それらを利用した者の脳にどのような影響を与えるかについて科学計測によって評価し、その情報をもとに企業での製品開発を推進する産学連携研究を行っています。
 また、脳科学の知識と技術をいかし、何らかの外的刺激もしくは精神作業によって、人間の脳機能や認知機能を維持・向上させ、その結果、全ての人が、いつまでも健やかで豊かな生活を送ることが可能となる"スマートエイジング社会"を目指した研究にも取り組んでいます。

 オートバイは、二輪で走行する車両特性上、両手両足が異なる動作を行いバランス感覚が要求される乗り物であり、車の運転よりも体力や運動神経、反射神経などが必要とされています。同時に、気候や温度の変化、風のにおいなどに対しても、敏感になりがちです。それ故かオートバイユーザーは、実年齢よりも若く見られる人が多いとも言われています。
 また、昨今40~50代を中心に「リターンライダー」が静かなブームを呼んでいます。リターンライダーとは、かつてオートバイに乗っていたものの、その後、仕事や結婚など様々な理由で乗らなくなった人が、再びオートバイに乗るようになることですが、再びオートバイに復帰したリターンライダーからは「気持ちにはりが出た」「若返った気がする」などの声も聞かれています。
 そこで、川島研究室では、オートバイ乗車が脳の活性化に影響を及ぼしているのか、オートバイ操作に必要な様々な神経の動き、および外界から与えられる刺激に対する脳の反応について、研究を進めることになりました。
 具体的には携帯型光トポグラフィーを用いてオートバイ運転時の脳機能の変化を読み取るほか、オートバイに乗っている人と乗らない人との運動神経、反射神経、空間認知力などを数値化、オートバイに乗っていなかった人が乗るようになった場合の数値の変化などを通じ、オートバイの乗車と脳の活性化との関連性について本年度中に結果を出す予定です。

細胞内のタンパク質の働きを探る軟X線顕微鏡の開発に成功 ~タンパク質の動きを可視化する~ ※ニュースリリースを原文のまま紹介しています。(2008/4/17)
(説明)

 生物学は細胞の発見から始まっていますが、生物が細胞から成り立っていることは顕微鏡を使うことにより初めて明らかになりました。細胞内のより小さい構造が見えれば細胞の活動をより詳しく知ることが出来るので、空間分解能の高い顕微鏡の開発が望まれています。しかし、私たちが普段眼にする光(可視光)を用いた顕微鏡では,使う光の波長(約0.5m)以下の構造は見えません。そこで、より波長の短い紫外線や軟X線などの光(波長0.2 m~2nm)を使うことが考えられてきました。この「軟X線顕微鏡」は、水を含んだ状態の試料で0.1m以下の構造が見えます。最近では、回折効果を利用した微細なフレネル輪帯光学素子製作技術の発展と、放射光光源を用いることで、凍結した試料を軟X線で観測することが出来るようになりました。しかし、放射光光源は世界数箇所に限られる特殊な施設であるために、一般の生物学者・医療関係者が気軽に使える設備や環境ではありませんでした。同じように、より小さい構造を見る手段として電子顕微鏡がありますが、観察試料を乾燥させて切片化したり金属で被覆したりする必要があり、生きた細胞を見ることは出来ません。このような観察手段の制限から、DNAの指令により作られるタンパク質が細胞内でどのような形状を持ち働いているのかは、詳細は不明なままで、確認する手段がありませんでした。

 我々のグループでは、実験室に設置できる、だれでもいつでも使える、世界初の高性能軟X線顕微鏡の開発に成功しました。顕微鏡の心臓部の結像光学系は、世界的に見ても他の追随を許さない様々な考案・工夫で高性能化を達成した多層膜集光鏡(照明鏡系(レンズ))と多層膜結像鏡(対物鏡系(レンズ))で,フレネル輪帯光学系の240倍(開口数比)以上の明るさを達成しました。さらに,専用の実験室プラズマ光源開発に加えて、調整方法、撮像方法などの開発も必要でした。結果として、光源を励起するパルスレーザーの1ショット(~10nsec)という極限の短時間露光で撮像に成功しました。このブレークスルーにより、光学系に必要な大掛かりな除振対策が不要になるばかりか、毎秒10コマ以上の連続撮像による細胞のタンパク質の動きの可視化などの、従来は不可能であった研究を可能にすることが期待されます。加えて、これらの開発した軟X線線利用技術は、半導体露光装置に用いられる光源技術・光学素子技術などにも応用可能で、次世代の半導体開発にも役立ちます。

(概要説明)

1.反射多層膜を用いた軟X線光用の拡大光学系およびそれを利用するための技術を開発して、場所や時間の制限のない一般の生物学者・医療関係者が使用可能な、軟X線顕微鏡の開発に成功した。装置は、本体機械部を含めて、多元研技術室の支援により所内開発した。

2.上記の顕微鏡で用いられる光源技術、光学素子技術は、軟X線を利用する次世代の半導体露光装置などに応用可能である。

3.露光時間10nsec、空間分解能が0.4μmでの世界初の1ショット撮像に成功。分解能0.05μmを目指す。

4.本研究は東北大学多元物質科学研究所 江島助教、柳原教授、山本教授らのグループによって、文部科学省科学研究費補助金特別推進研究の補助を得てなされた研究である。

<図1: 開発した軟X線光顕微鏡と通常の可視光顕微鏡との比較>
<図2: 1shotのレーザーで発生したプラズマからの軟X線を用いて、軟X線顕微鏡で撮影したZrメンブレン小片とCu#1500メッシュの軟X線像>
 ※ 関連資料参照

【用語解説】

◇軟X線:
 波長0.6nmから30nmの電磁波で、真空紫外線(波長30~200nm)、紫外線(波長200~400nm)より短く、レントゲンで使用されるX線(波長0.6nm以下)より長い"光"。空気により吸収されるので被爆しない。極紫外線(或いは極端紫外線)もほぼ軟X線と同義に用いられるが、軟X線のうち反射多層膜が使用可能な波長域(2~30nm)を指す。ちなみに、眼で見える光(可視光)の波長はおおよそ400~800nm。

◇フレネル輪帯(フレネルゾーンプレート、或いはゾーンプレート):
 光の通過する透明な輪と透過しない不透明な輪を交互に配置し、透明部分を透過してくる光が互いに干渉を起こすことでレンズ同様の結像性能を持たせることができる。波長に対して透明な物質と不透明な物質を交互に配置できれば、どの波長域でも使用が可能で、波長λと最内円の半径Rを用いると輪帯からR2/λの位置に像ができる。。軟X線領域では、半導体リソグラフ技術を用いることで、軟X線に対して透明な物質(窒化シリコンなど)と不透明な物質(タンタルなど)を交互に輪にして描くことが可能になったため、軟X線領域のフレネル輪帯が実現された。

◇放射光(放射光光源):
 ほぼ光速で直進する電子が、磁石などによってその進行方向を変えられた際に発生する電磁波を放射光と呼ぶ。放射光は、電子のエネルギーが高いほど指向性の良い明るい光となり、また、電子のエネルギーが高く進む方向の変化が大きいほど、X線などの短い波長の光を含むようになる。放射光には、
  * 極めて明るい。
  * 細く絞られ拡がりにくい。
  *  X線から赤外線までの広い波長領域を含む。
  * 偏光している。
  * 短いパルス光の繰り返しである。
 などの特徴があり、特に真空紫外からX線領域にかけてのよい光源となるため、物質の基礎研究から物質開発、医療生物応用、半導体産業応用などに欠かせない光源である。国内ではSPring-8 (JASRI兵庫県佐用郡)やPhoton Factory (KEK 茨城県つくば市)などがあり、先進各国に施設がある。
 放射光を利用するには、通常、使用許可申請を出して審査による許可を受けた後、マシンタイムの割り当てに従って使用するため、実験計画から実際の実験を行うまで、最低半年から1年ほどの時間がかかり、利用できる施設も国内数箇所に限られる。

◇レーザープラズマ光源:
 軟X線を実験室で利用するときの軟X線光源のひとつ。大強度のレーザーを金属ターゲットに照射すると、レーザー照射された金属が蒸発・イオン化し、プラズマが生成される。生成したプラズマから、軟X線が輝線あるいは黒体輻射の形で取り出される。次世代の半導体露光装置用の光源として研究されている方式のひとつ。通常の可視光源に比べ、投入エネルギーに対する欲しい光のエネルギーの変換効率が低い点や、軟X線と同時に発生するイオン・電子・金属微粒子が光学系を汚染する点などが課題とされている。

◇開口数(NA):
 光学系の明るさや分解能を表わす量のひとつ。屈折率nの媒質中にある光軸上の物点が、レンズなどの入射瞳の半径に対して張る角度をαとして、nsinαと表わされる。略号はNA。軟X線の場合は真空の屈折率が1なので、NA はsinαとなる。
 顕微鏡などの互いに分離して識別できる2点間の最短距離ε(空間分解能、或いは分解能)は、開口数に逆比例し、用いる光の波長λに比例する。ε=K・λ/NA (Kは定数で0.61)このため、開口数が大きく使用波長が短い顕微鏡が、明るく識別できる大きさが小さい顕微鏡となる。

◇多層膜集光鏡(多層膜結像鏡):
 軟X線は通常の物質により反射されないため、異なる物質を交互に積層した多層膜を反射材として利用する。多層膜内部で光の強め合いの干渉効果を利用することにより、軟X線を反射する。多層膜のうち、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の物質対を利用した多層膜は、特に反射率が高く、波長13nm付近での反射率は約7割に達する。

 このMo/Si多層膜を蒸着した鏡を組み合わせることで、軟X線を集めたり結像したりするレンズ作用を持たせることが出来る。一般に多層膜を蒸着したレンズなどの光学機器を多層膜光学素子、それぞれの機能を持つ光学素子を多層膜集光鏡、多層膜結像鏡などと呼ぶ。次世代の半導体露光装置に用いられる投影露光「レンズ」も、このMo/Si多層膜を蒸着した鏡が複数枚使用される。

多層膜の超精密絶対膜厚制御技術の開発に成功 ~ナノテクの先 ピコメートル制御技術~ ※ニュースリリースを原文のまま紹介しています。(2008/4/17)
(説 明)
 多元物質科学研究所は軟X線(*1)反射型顕微鏡用多層膜の周期膜厚(*2)を,直径10cmの円形曲面基板全面で所定の動径関数分布(*3)に従って,ピコメートル(ピコメートルは1兆分の1メートル:10-12m *正式表記は関連資料参照)精度で制御して作製することに成功した。
 軟X線を反射するには,物質に対してすれすれで光を入射させる斜入射反射と,表面に物質を交互に積層する多層膜からの反射を用いる直入射反射と2つの方法がある.我々の利用している多層膜による直入射反射を用いることで,一度に広い領域を観察できる軟X線反射型顕微鏡を実現できる.現在開発している波長13.5nm(ナノメートルは10億分の1メートル:10-9m *正式表記は関連資料参照)用の多層膜はモリブデンとシリコンを交互に40周期積層したMo/Si 多層膜であり,1周期の厚さは7nm程度である.多層膜は光の強め合いの干渉を利用しているため,使用する光線の入射角度と周期膜厚よって反射する軟X線の波長が決まる.顕微鏡で使用する4枚の多層膜鏡で反射する軟X線の波長をそろえるためには,結像に付随する入射角度の変化を打ち消すように,基板面内で所定の動径関数に従って,周期膜厚を精密に制御する必要がある.
 従来,顕微鏡用多層膜の周期膜厚誤差は2%程度であった.今回,新たに成膜装置を安定化し分布測定技術とコンピュータで速度制御したシャッターによる動径関数制御技術を開発することで,4枚の顕微鏡基板への多層膜成膜の誤差を基板全面で0.4%に抑えることに成功した.絶対値では,多層膜鏡の周期膜厚を30ピコメートル以内に制御できた.この技術は,地球サイズ(直径1万3千km)の基板に周期膜厚の誤差5mm以下に絶対値制御して積層したことに相当する.しかも,基板表面は曲面で,周期膜厚も周辺部で最大2%厚い設計関数で積層する必要がある.
 このピコメートル絶対精度成膜の実現により,複数枚の多層膜鏡を使った軟X線光学系で高いスループットが得られる.精密な結像を行うには入射角度の変化する複数枚の反射鏡が必須であり,まさにこの技術は軟X線多層膜光学の基盤技術となる.例えば,実用的な生体試料測定用の軟X線反射型顕微鏡が構築可能となり,従来難しかったサブミクロンサイズの生体試料を実験室規模で観察できる.これによって,タンパク質やDNAなどの生きた試料のナノメータースケール像を得ることができる.

(概要説明)
1.軟X線反射鏡用の多層膜の周期膜厚を,曲面基板全面でピコメートル精度で動径関数制御して成膜し,理想的な反射スペクトル特性を得る技術を開発した.
2.具体的には,成膜装置の安定化技術,周期膜厚分布の測定・制御技術を開発した.
3.モリブデンとシリコンを交互に積層したMo/Si多層膜を顕微鏡用超研磨凹面と凸面基板へ成膜した.
4.4枚の入射角の異なる多層膜鏡の周期膜厚誤差を0.4%で制御することに成功した.
5.本研究は東北大学多元物質研究所 先端計測開発センター 原田特任助教,羽多野助教と山本教授に
 よって、文部科学省科学研究費補助金特別推進研究の補助を得てなされた研究である.

<用語解説>
*1.軟X線
 軟X線とは紫外線とX線の間の領域であり,次次世代の半導体リソグラフィーに用いられるなど現在精力的に研究開発が進んでいる領域である.特徴として,可視光顕微鏡は0.2ミクロンの構造を判別することが限界であったが,軟X線顕微鏡では0.01ミクロンオーダーの構造を見分けることができる.
 また,観察試料の元素組成に敏感で元素が多く含まれている部位を判別するなどの機能性も期待できる.さらに電子顕微鏡とは違い,生体試料を前処理することなく観察可能である.
*2.周期膜厚
 2つの物質を交互に積層する多層膜における,周期構造の1周期分の厚さ.直入射では軟X線波長のおよそ半分の周期膜厚が必要となる.
*3.動径関数分布
 光学系は回転対称のため中心部から周辺部に向かう動径方向へ周期膜厚を変化させる必要がある.中心からの距離による周期膜厚の変化を表す関数を動径関数分布という.軟X線顕微鏡では周辺部で最大2%ほど厚い周期膜厚が必要となる.制御なしでは周辺部で最大10%ほど薄い分布になるため,動径関数分布を制御し周辺で最大2%厚い分布とする

原子以下の厚さの計測に成功 ~軟X線多層膜ミラー成膜をピコメーターで見る~ ※ニュースリリースを原文のまま紹介しています。(2008/4/17)
(説明)
 多元物質科学研究所は、軟X線多層膜ミラーの製作過程を直接観察し、オングストロームより小さいピコメーターの厚さの計測に成功した。
 軟X線多層膜ミラーは、2種類の物質を厚さ数nm(=■(1)[正式表記は関連資料を参照])で交互に数十から数百層積み上げたもので、通常の"ミラー"では反射しない軟X線を反射させることができる。軟X線は、次世代半導体リソグラフィ用の光源に使われることが世界的に策定されており、将来の半導体微細加工技術には欠かせない光である。また、宇宙に浮かぶ星からは軟X線が発せられ、これを観測することで宇宙の起源を探ることができる。これらナノテクノロジーや宇宙探索のキーコンポーネントが多層膜ミラーであるが、このミラーは1/100nmの誤差で精密に作製しなければ光を反射せず、その作製には困難を伴う。厚さが極限に薄いため、これまで実用的に計測できる手段がなかった。開発した装置では、我々に見える光の"偏り"を高精度に計測し、多層膜ミラーの作製過程におけるピコメーター(pm=■(2)[正式表記は関連資料を参照])の厚さ変化の測定に成功した。水素原子の直径がおよそ50pmであるから、原子以下の厚さを計測できる計測装置であり、日本のナノテクノロジー技術の様々な場面で利用、応用できるものと期待される。

(概要説明)
1. 光の偏りを利用して、ピコメーターの厚さの計測ができる装置の開発に成功した。
2. 光の偏りを精密に計測してピコメーターの厚さ変化の計測に成功した。
3. Si(シリコン)基板上にMo(モリブデン)とSi(シリコン)を交互に積層する。この過程を波長633nmの赤いレーザー光で照らし、反射する光の偏りの変化を高精度に計測した。
4. 実験および解析の結果、数~数十pmの膜厚を測定することができた。
5. 本研究は東北大学多元物質科学研究所 先端計測開発センター津留助教、山本教授によって、文部科学省科学研究費補助金特別推進研究(15002001)を得てなされた研究である。
6. 本詳細についてはスロバキアの学術誌Acta Physica Slovaca の2008年の次号に掲載予定である

(用語解説)
1. 軟X線:波長数nmから数十nmの電磁波で、紫外線より短くレントゲンで使用されるX線より長い"光"。被爆せず空気にも吸収される安全な光。
2. 多層膜:異なる物質を交互に積層したもので、光の強め合いの干渉効果を利用すれば反射効果を強める働きをし、弱め合い干渉効果を利用すれば反射を防止することが出来る。多層膜構造は眼鏡やカメラ用レンズの反射防止膜として利用されており、眼鏡の表面が緑色などに着色しているように見えるのはこのためである。
3. 光の偏り:光の振動方向がある特定の方向に偏ること。自然光は偏りが無いが、反射した光は一般的に偏った光となる。偏りの方向と90度を成す偏光フィルターを通して見ると、反射光が見えなくなることから、偏光サングラスやカメラの偏光フィルターとして利用される。

画期的水質保持材によって花が長持ち! ※ニュースリリースを原文のまま紹介しています。(2008/4/15)
説明)

 「白い棒」を差しておくだけで,何もしなくても切り花の水が腐らず,花も長持ちする画期的な水質保持材を開発し,複数のユーザーの実験によりその効果を確認しました。これまでは,水の中に防腐剤を入れたり,あるいは,切り花の切り口を消毒したりなど面倒な作業が必要で,それでも水が濁り,放っておくと花の寿命も短かったのに対し,今回,開発した「白い棒」を切り花の水に差しておくだけで花の寿命が延びます。

概要説明)

●東北大学大学院環境科学研究科 久保拓也 助教,および細矢 憲 教授は,3年前から図1に示したような貫通孔が多くあるモノリスと呼ばれる「高分子多孔体」を京都工芸繊維大学 大学院博士課程学生 辻岡則夫 氏らと開発し,世界で初めて極めて構造の制御されたモノリスの開発に成功しました。

●このモノリスはいろんな形に成形することが可能で,例えば図2のように棒状に成形した場合,その先端を空気中に出すように切り花の水に差しておくと,何も入れない場合と比較して切り花の水が濁らず,また,切り花の寿命も延びることを見つけました。

●この白い棒,細かく折って水に漬けておいても効果は無く,モノリスに空いているたくさんの貫通孔が水を吸い上げ,水を腐らせる原因物質や,切り花の寿命を短くする「何か」を高分子で除去しているものと考えています。もちろん,普通の「スポンジ」では効果がありません。(別添図参照)

●あまりに安直な方法なので,色々な方に試して貰いましたが,やはり効果が確認出来ました。これを用いれば,例えば式典などに供せられる大花瓶の水の交換も必要無く,水換えの無い花屋も可能になります。この不思議な白い棒,値段も安く実用的に使えるものと考えています。

東北大学サイクロトロン・RIセンターと東北大学大学院医学系研究科の共同による 交通安全医学に関する医学的研究について ※ニュースリリースを原文のまま紹介しています。(2008/4/8)
【 研究成果のポイント 】
・鎮静作用をもつ花粉症治療薬(鎮静性抗ヒスタミン薬)を飲んでいるとドライバーの脳活動が抑制される。
・鎮静性抗ヒスタミン薬を服用した際、プラセボ(偽薬)を服用したときよりも強い眠気を感じたドライバーはほとんどいなかったが、自動車運転シミュレーション中の蛇行運転の頻度が、プラセボ(偽薬)を服用したときに比べて倍増した。
・鎮静性抗ヒスタミン薬を服用した際に脳の反応性が低下した場所は、視覚野(ものを見る情報を処理する場所)と頭頂葉(とくに動きをともなった視覚情報等を処理する場所)などであり、ドライバーの運転中の調整能力を極端に低下させる原因となっている可能性が高い。

【 研究の背景 】
 今年も大量の花粉飛散が報告され、花粉症患者にとって受難の時となっている。花粉症の治療にもっとも頻繁に使われる薬剤、「抗ヒスタミン薬」は、アレルギー疾患の治療目的でひろく用いられている。アレルギー反応は、「ヒスタミン」という物質がヒスタミンの受け手(ヒスタミン受容体)に結合することで連鎖反応がおこる。抗ヒスタミン薬が効くメカニズムは、ヒスタミン受容体にヒスタミンが結合できなくすることで、アレルギーの連鎖反応をブロックするものである。ところが、ヒスタミンは脳の中で「覚醒状態」を保つための神経伝達物質としても使われている。花粉症を治療するために服用した抗ヒスタミン薬が脳に届くと、花粉症はラクになったけれど、ひどい眠気やだるさのような副作用を経験することがある。この副作用を「鎮静作用」といい、自動車運転や大型機械の操縦の際に大事故が誘発される潜在的危険性がある。一方、鎮静性抗ヒスタミン薬は、花粉症やアレルギー性皮膚炎などの治療に使われるだけではなくて、市販の総合感冒薬にも多量に含まれている。自動車運転能力にどれくらい影響が及ぼされるかが認識されないまま、ちょっとした風邪症状(とくに鼻水など)を抑えるために総合感冒薬が使用され、運転中の居眠りや交通事故につながっている可能性があるともいえる。実際に、今年の1月に山形県内で発生した高速バス運転手の意識消失事故の発生の背景には、総合感冒薬の服用がなされていたことが報告されている。

 最近では、鎮静作用によって認知・判断能力が低下して作業のパフォーマンスが低下することを「インペアード・パフォーマンス」という。日本語で、「気づきにくい能力ダウン」という日本語も使用されるようになってきた。これまで、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの田代 学准教授、同大大学院医学系研究科機能薬理学分野の谷内一彦教授、櫻田幽美子博士らは、このインペアード・パフォーマンスを客観的に評価するための研究をおこなってきた。このたび、同大大学院医学系研究科老年病態学講座(現:加齢老年医学研究分野)の荒井啓行教授、佐賀大学医学部地域医療教育センターの堀川悦夫教授らの協力のもとに、自動車運転シミュレーションとポジトロン放出断層法(PET)を組み合わせた測定を実施し、(1)どれくらい運転能力に影響が出るか、(2)脳の反応性(脳血流変化)にどれくらい変化が出ているかが明らかになったので報告する。

【 研究の方法 】
 測定対象は14名の健常若年成人男子。実験プロトコールは東北大学倫理委員会の承認を得ており、十分な説明ののち、インフォームド・コンセントを得てから実施された。参加者に、鎮静性抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン6mg複効錠:長い時間をかけてゆっくり吸収されるタイプ)とプラセボ(偽薬:乳酸菌製剤を使用)を内服してもらい、約2時間後に自動車運転シミュレーションシステム上で運転をしてもらった。そのときの主観的眠気、運転パフォーマンスを記録し、さらにPETを使って運転中の脳血流の変化を調べた。

【 研究の結果 】
 主観的眠気の強さは、プラセボと鎮静性抗ヒスタミン薬の条件の間にほとんど差が認められなかった。鎮静性抗ヒスタミン薬内服時に、プラセボ内服時にくらべて、蛇行運転回数が大幅に増加した(表1)。
 くわえて、PET画像解析の結果、安静閉眼状態と比較して運転操作中には、一次運動-感覚野、運動前野、視覚野、頭頂葉、帯状回、側頭葉、小脳、中脳、視床など、非常に多くの部位が有意に局所脳血流量増加が認められた(図1)。

【 考 察 】
 自動車運転は、先行車や対向車、歩行者などの障害物の存在を視覚的に認知し、刻一刻と変化していく障害物との距離や動きを常に把握しながら、状況を判断して適当なタイミングでハンドルやアクセルペダル、ブレーキペダルの操作を行い、それを持続する作業である。また、鎮静性抗ヒスタミン薬を服用すると、睡眠潜時(刺激がない環境に置かれたときに眠ってしまうまでの時間)が極端に短かくなり「寝入りやすくなる」ことがわかっており、しかも、本人が感じる眠気には個人差と変動があるため、運転しても問題ないかどうかを眠気で判定するのは危険であることが以前から指摘されていた。
 今回の研究では、抗ヒスタミン薬を服用した本人がはっきりした眠気を感じてはいなかったのに、運転中の蛇行運転の頻度が大きく増えていた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の運転操作中に脳の反応がとくに抑制された視覚野、頭頂葉、側頭葉、小脳などは、動きをともなう視覚情報を処理して次の瞬間の最適な動作を決めていくための情報伝達経路とだいたい一致していた。以上のことから、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の視覚系の情報処理機能の抑制が、運転に必要な神経回路の活動を不十分なものにしてしまったために運転パフォーマンスの低下をひきおこした可能性が高いと考えられた。この研究成果は薬理学の専門誌(Human Psychopharmacology:ヒューマン サイコファーマコロジー:タイトル和訳は「ヒト精神薬理学雑誌」)の2008年3月号に掲載された。
 この研究グループは、PETを駆使して、抗ヒスタミン薬が脳の情報伝達をブロックする強さ(脳内ヒスタミンH1 受容体占拠率)の測定も実施してきた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬の服用後の自動車運転中にブレーキペダルを踏むのが遅れること、携帯電話通話による遅れと相乗効果があることを実車運転試験によって初めて報告していた(プレスリリース2005年6月23日)。こうした研究の蓄積の結果、将来、さらに総合的な研究成果が報告されることが期待される。

木材チップなどバイオマスの粉砕と加熱による高純度水素の発生(2007/7/20)
 本学多元物質科学研究所の張其武助教と齋藤文良教授の研究グループは、天然に大量に産出する木材チップなどのセルロースを乾式粉砕(メカノケミカル(MC)処理)し、それを加熱すると、高純度な水素ガスが高効率で発生する現象を見出したので、お知らせする。
 水素は、燃料電池などで利用が拡大することが期待されており、それを再生可能なエネルギー源であるバイオマスから、簡単にかつ高純度・高収率で製造できる手法の開発が望まれていた。張らが開発した手法は以下のとおりである。

1.セルロースと添加物(無機物)との混合試料を、遊星ミルを用いて乾式粉砕(メカノケミカル(MC)処理)し、その産物を電気炉によりAr中で加熱し,ガスを発生・定量分析・評価した。

2.発生ガスの定量分析結果より,4種類のガスが検出され,そのモル比(%)は、H2:93.5%,CH4:6.4%で,COとCO2は極めて少なく,リン酸塩型燃料電池に直接供給できる程度の高純度水素(CO許容濃度が1%以下)である。

3.添加物は金属水酸化物であり,この物質はある種の反応速度促進剤的役割を演じる。

4.ガス発生後の固体粉末の写真を図2に示すが,その組成は,CaO,CaCO3などである。特に、CaCO3の割合からセルロースからのCO2の転化・固定化率は80%程度であり,メタンなど炭化水素ガスの発生は少ないことからセルロースからの水素生成割合は相当高い。

 現在,木材チップなどを用いた確認実験を行っているが,本手法はきわめて簡単である上,間伐材などをも含めた廃棄木材なども処理対象になり,大量に水素製造が可能であるなど、実用化が一気に進むものと期待される。特許出願済み。

米ぬかからの高純度トコトリエノール製造技術を開発(2007/7/12)
 東北農業研究センターを始めとする研究グループ(東北大学大学院農学研究科、三和油脂、オルガノ)は、米ぬかからの米油の製造過程で排出される廃棄残渣から、95%以上の高純度トコトリエノールを工業的に連続生産する技術開発に世界で初めて成功した。 
 トコトリエノールはビタミンEの一種であり、ビタミンE一般にみられる抗酸化作用のほか、ヒトでのコレステロール低下作用や動脈硬化、リウマチ性関節炎などの予防効果についての報告もあることから「スーパービタミンE」と呼ばれることもある。今後、食品や医薬品、化粧品への展開が検討されている。
 本技術は、米油残渣の有効利用に資するほか、我が国で大量に排出されるイネ由来の廃棄物系バイオマスの利用を可能にする技術として期待される。本研究は、農林水産省の委託プロジェクト研究「農林水産バイオリサイクル研究」により実施した。 

「粉砕で廃ITOからインジウム金属を回収」(2007/7/2)
 東北大学多元物質科学研究所、加納純也講師と齋藤文良教授らの研究グループは、廃インジウムスズ酸化物(ITO)から非加熱で還元して金属インジウムを直接回収する方法を開発した。インジウムは液晶テレビや携帯電話のフラットパネルディスプレイなどの透明導電膜として使用されており、近年、その需要がますます高くなり、その価格も高騰している。また、インジウムは希少金属であり、その枯渇が深刻化している。そこで、加納・齋藤らのグループは、粉砕操作を利用するメカノケミカル反応により、金属インジウムを非加熱で簡便に回収する方法を開発したのでお知らせする。

ミリ波イメージセンサー用の超低雑音・高利得増幅器を開発(2007/6/7)
 富士通と東北大学は、インジウムリンHEMTを用いたミリ波(94ギガヘルツ帯)イメージセンサー用超低雑音・高利得増幅器の開発に成功した。本技術の適用により、イメージセンサー受信器の画像取得時間を、従来の技術に比べ約10分の1に短縮することができる。今後はITSやセキュリティ、医療用途などへの適用が考えられる。
 本研究は、総務省の戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の助成を受けている。
 ミリ波には物体を透過できるという光や赤外線にはない特徴があるため、近年、ミリ波をつかったイメージセンサーが注目されている。特に、自動車の走行支援用途・セキュリティ分野・医療用途への適用が見込まれている。
 ミリ波パッシブイメージセンサーは、物体が放射する熱雑音に含まれる微弱なミリ波信号を受信するため、受信用の増幅器MMICは低雑音性と高い増幅率をもつことが求められる。しかし、従来の技術では増幅率を高めると回路の動作が不安定になるという問題があり、低雑音・高利得増幅器を安定動作させることが困難であった。

実用型動物用半導体PETの開発に成功(2007/3/14)
 東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻石井慶造教授のグループは、世界で初めて1mm以下の高空間分解能を持つ実用型動物用半導体PETの開発に成功した。これにより、マウスのような小動物を用いた動物実験が可能となり、生命科学の発展および新薬の開発が促進されることが期待される。また、本成果により1mmの大きさの癌の検出を可能とするPET開発が大きく前進した。この研究成果は、大阪で開かれる医学会総会の4日目(4月8日)に特別講演として発表される予定である。尚、本研究成果の詳細は、Elsevier社のNuclear Instruments and Methods in Physics Research, A に発表される予定である。
 尚、本装置の改良型が住友重機械工業株式会社により、製品として販売される予定である。

透明導電膜用キュービックITOナノ粒子合成(2007/3/12)
 本学多元物質科学研究所 村松淳司教授の研究グループとDOWAエレクトロニクスは、次世代液晶ディスプレイ用透明導電膜材料として注目される、インジウムスズ酸化物(ITO)ナノ粒子について、従来困難とされていた、サイズと形態の精密制御技術を実現する、新しい大量液相合成法を開発したことをお知らせする。
 ITOは薄膜化した際の高い導電性と透明性から液晶ディスプレイなどの透明導電膜として広く利用されている。しかしながら、その主元素であるインジウムは希少金属であり、今後の継続的な需要の増大に応えるには、現在のスパッタ薄膜化法に置き換わる省インジウムプロセスの開発が必須である。その有望な手法としてはITOナノインク塗布法が挙げられる。そのため、単粒子層で塗布し、かつ焼結後非常に緻密な構造体を作ることができる50~100nmのキュービックITO粒子の合成が鍵となっていた。今回の手法はきわめて簡単で実験室規模でできる上、大量合成に適した手法であり、実用化が一気に進むものと期待される。

酸化チタン多形の選択的合成に成功(2007/3/9)
 本学多元物質科学研究所の垣花眞人教授の研究グループは、先端光触媒材料として注目される酸化チタン多形を、天然有機酸-チタン錯体の水熱分解により選択的に合成する技術を開発したことをお知らせする。
今回独自に化学設計した天然有機酸―チタン錯体は酸化チタンの結晶構造の骨格の一部を反映しているので、目的の酸化チタンの選択的合成が実現できた。さとうきび、レモン、りんご、ぶどうの成分であるグリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸など身近な天然有機酸をチタン可溶化剤として、また水を溶媒として用いることで、安全なグリーンプロセスによる高活性な酸化チタン光触媒を得る技術を開発した。
 本内容については2007年3月に京都大学で開催される化学工学会春季大会にて発表予定である。

連携協力に関する協定締結(2007/3/6)
 東北大学とDOWAホールディングス(以下、「DOWA」)は、本日、産学の連携を通して我が国の科学・技術力向上や人材育成に資することを目的として、研究開発・人材育成など相互の協力が可能な全ての分野における連携協力協定を締結した。
 本協定に基づき両者は、相互の研究開発能力及び人材等を活かし、先端・基礎分野の共同研究とその応用研究、新事業の創出、世界で活躍できる教育・人材の育成等総合力を発揮することにより、我が国の学術並びに産業技術の発展に貢献することを目指す。

植物の根が水に向かって伸びるための遺伝子を発見(2007/2/27)
 東北大学大学院生命科学研究科の高橋秀幸教授・宮沢豊助手・小林啓恵研究員(産学官連携研究員)の研究グループは、植物の根が水の多い方向に伸びる(水分屈性という)ために必要な遺伝子を発見し、それが陸上植物によって進化の過程で乾燥を回避するために獲得された可能性を見出した。その成果が米科学アカデミー紀要(PNAS)電子版に発表される。
 根が水の多い方向に伸びるために働く遺伝子を明らかにしたのははじめてで、本研究成果は、乾燥条件下での生存を可能にした陸上植物の進化と戦略を理解する糸口になると期待される。また、環境・食糧問題と関連し、地球規模での水資源の有効利用が深刻になっている。植物による水利用効率を向上させて生産力をあげることは、乾燥地での作物生産や砂漠化防止のうえで極めて重要である。本研究成果は、そのための新たな技術開発につながる植物の機能と制御分子を明らかにした点でも意義深い。

CD38はオキシトシン分泌を調節して社会行動を制御する(2007/2/27)
 東北大学大学院医学系研究科先端再生生命科学(江東微生物研究所)寄附講座、高沢 伸教授、岡本 宏教授(現東北大学監事・名誉教授)らのグループは金沢大学・東田陽博教授らのグループとの共同研究により、CD38はオキシトシン分泌を調節して動物の社会行動を制御することを明らかにした。この成果は英国科学雑誌Nature(ロンドン標準時間2月7日)に掲載予定である。
 オキシトシンは脳の下垂体後葉で作られるペプチドホルモンで、分娩時の子宮筋の収縮、出産後の母乳の分泌などの作用が広く知られてきた。最近になり、(1)自閉症患者のオキシトシン濃度が低い。(2)オキシトシン遺伝子、オキシトシン受容体遺伝子を欠損したマウスで社会行動の広範な異常が認められる。(3)オキシトシンの投与によりヒト相互の信頼感が高まる。ことが報告され、オキシトシンと自閉症などの社会行動の異常との関連性が指摘されるようになっていた。
 東北大学のグループは酵素活性が低下するCD38遺伝子異常の他にCD38に対する自己抗体も見出しており、今後自閉症などの社会行動異常を呈するヒトの精神・神経疾患の原因解明と治療法開発への進展も期待される。

2メガビットの不揮発性RAMチップの試作に成功(2007/2/13)
 日立製作所と、東北大学電気通信研究所 大野英男教授は、このたび、共同で、素子の微細化に有利な「スピン注入磁化反転方式」を用いた2メガビットの不揮発性RAM(以下、スピン注入磁化反転RAM)チップを世界で初めて試作した。
 スピン注入磁化反転RAMは、SRAM(Static Random Access Memory)並みの高速性、DRAM並みの高集積性、フラッシュメモリの不揮発性という各種メモリの長所に加えて、小さな電源で動作する低消費電力性を併せ持った「ユニバーサルメモリ」の有力候補として注目されている次世代のメモリデバイス。本成果は、将来の「ユニバーサルメモリ」としてスピン注入磁化反転RAMの優位性を実証し、PCや携帯電話などに使われている従来の各種メモリを一種類のチップに集約することに道を拓くもの。
 なお、本成果は、文部科学省研究振興局の研究開発委託事業「ITプログラム:世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクト」の課題の一つである「高機能・超低消費電力メモリの開発」プロジェクトにおいて実施されたものである。
http://www.hitachi.co.jp/
http://www.tohoku.ac.jp/index-j.html

CD38に関する研究成果を発表(2007/2/7)
 東北大学大学院医学系研究科先端再生生命科学(江東微生物研究所)寄附講座、高沢 伸教授、岡本 宏教授らのグループは金沢大学・東田陽博教授らのグループとの共同研究により、CD38はオキシトシン分泌を調節して動物の社会行動を制御することを明らかにした。この成果は英国科学雑誌Nature(ロンドン標準時間2月7日)に掲載予定である。
 東北大学のグループは酵素活性が低下するCD38遺伝子異常の他にCD38に対する自己抗体も見出しており、今後自閉症などの社会行動異常を呈するヒトの精神・神経疾患の原因解明と治療法開発への進展も期待される。
http://www.tohoku.ac.jp/index-j.html

がん腫瘍に抗がん剤がたどり着くまでの過程を動画像化(2007/2/5)
 東北大学医学系研究科の大内憲明教授、多田寛医師及び先進医工学研究機構の樋口秀男教授のグループは、マウスのがん腫瘍に抗がん剤がたどり着くまでの過程を、直径数ナノメートルの粒子1個の蛍光を利用して、動画像化することに成功した。この成果により、抗がん剤の薬効を向上する道に明るいナノの光がともされることになるだろう。この成果はアメリカのがん専門雑誌(Cancer Research)で2月1日(アメリカ時間)に発表された。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/pub/pdf2007/20070205_gan.pdf
http://www.tohoku.ac.jp/index-j.html

残留歪の無いGaN自立基板の作製に成功(2007/1/29)
 東北大学学際科学国際高等研究センターの八百隆文教授と金属材料研究所のCHO Meoungwhan(チョ・ミョンファン)助教授の研究グループは、これまでに金属バッファー層を利用したケミカル・リフト・オフ技術の開発や縦型高輝度LED作製プロセス開発などGaN(窒化ガリウム)デバイスの基盤技術を開発してきたが、最近、サファイヤ基板上にZnOバッファー層を堆積し、次いでその上にGaN厚膜を成長することによって、残留歪の無いGaN自立基板の作製に成功した。これによって、デバイスの信頼性低下の一因である残留歪の問題が解決され、高輝度白色発光ダイオード(LED)や青色レーザダイオードの性能と信頼性が大幅に向上するものと期待される。
 この結果はApplied Physics Letters誌 2月5日号に発表される予定になっている。
http://www.tohoku.ac.jp/index-j.html

アスベスト廃棄物の処理技術確立にむけた実証実験を実施(2006/10/19)
 当研究所資源変換・再生研究センターの葛西研究室では、本年度環境省廃棄物処理等科学研究費補助金による研究プロジェクト採択を受け、10月24日~26日の日程で山形県最上町の最上クリーンセンターにおいて、アスベスト廃棄物の高効率で信頼性の高い処理技術確立にむけた実溶融炉による第一次実証試験を行う。
 高額な分析機器や高度な高温融体への知識を持たない現場技術者が、迅速かつ的確に溶融炉の操業状態を制御することができる汎用マニュアルの確立が目的。
http://www.tohoku.ac.jp/index-j.html

黄色色素オーロンの合成および黄色い花の作製(2006/7/11)
 サントリーは、東北大学大学院工学研究科と共同で、バイオテクノロジーによる黄色の花の開発に成功した。今後、従来黄色の品種がないゼラニウム、セントポーリアなどに黄色の花を咲かせる可能性が開かれた。
 黄色の花の色素には、キンギョソウやダリアに含まれる水に溶けるフラボノイド色素の一種であるオーロンと呼ばれるものと、トマトやチューリップなどの花に含まれるカロテノイドと呼ばれる水に溶けない色素がある。

 サントリーと東北大学は、鮮やかな黄色を呈するキンギョソウのオーロンという色素の合成経路の解明に取り組んできた。1998年には、オーロンを合成する酵素(AS)の遺伝子をキンギョソウから取り出した。さらに研究を進めた結果、オーロンが細胞内で合成されるためには別の酵素(カルコン配糖化酵素)の遺伝子が必要であることを明らかにし、その遺伝子をキンギョソウから取り出すことに成功。このキンギョソウから取り出した両方の遺伝子を青いトレニアに導入し、かつ青い色素ができる経路を止めることで、黄色のトレニアを咲かせることに成功したもの。
 現在まで遺伝子組換えで黄色色素オーロンを合成して黄色い花が誕生した報告はなく、今回の報告が画期的であることから、米国科学アカデミー紀要オンライン版に2006年7月10日に掲載された。

肝臓からの肥満を改善する神経シグナルを発見 肥満・糖尿病の治療に応用性(2006/6/14)
 東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センター・片桐秀樹教授、分子代謝病態学分野・岡芳知教授(ともに代謝学)らのグループは、肝臓から肥満・糖尿病を改善させる神経シグナルが発せられていることを発見した。
 過食などの生活習慣にもとづく肥満は糖尿病・高血圧・高脂血症を併発しやすいことから、これらはまとめてメタボリックシンドローム(生活習慣病)という一つの症候群と考えられている。メタボリックシンドローム患者は、動脈硬化を生じやすく、患者数の急増と相俟って、医学的にも社会的にも大きな問題となっている。このような患者では、脂肪肝(肝臓への脂肪の蓄積)も高頻度で合併することが知られており注目を集めている。本研究グループは、マウスに脂肪肝を誘発させたところ、意外にも、エネルギー消費(基礎代謝)が増え肥満が解消(脂肪組織が縮小)し、糖尿病が改善したという結果を得た。さらに研究を進め、肝臓がやせさせる神経シグナルを発していることをつきとめた。脳は、この神経シグナルを通じて肝臓に脂肪が蓄積しているという情報を得、全身の脂肪組織に対し、代謝を活発にし脂肪を分解するよう指令している、という仕組みが解明された。
 肝臓はカロリー摂取に応じ蓄積する脂肪量をダイナミックに変えることができる。つまり本研究は、肝臓がカロリーのセンサーとして働き、カロリー過剰時に基礎代謝を活発にして体重が増えないように調節するという、今まで全く知られていなかった「肝臓発のフィードバック調節システム」を発見したものである。この新規神経システムを活性化する薬剤を開発することは、肥満を解消し糖尿病を改善させる画期的な新しい治療薬となるものと考えられ、本研究の発展は、現在食事・運動療法を継続せざるを得ない肥満・糖尿病患者にとって、大きな福音となるものと期待される。

自然免疫における病原体認識分子の多様な役割を解明 (PGRP-LEの新たな機能)(2006/6/7)
 東北大学大学院薬学研究科 医薬資源化学分野の倉田祥一朗助教授らのグループは、自然免疫において、細胞外(血液中)で病原体構成成分を認識するPGRP-LEが、細胞表面では細胞膜上に存在する同じPGRPファミリー分子であるPGRP-LCの共受容体として病原体構成成分の認識に関わること、さらに、PGRP-LEは、細胞内においても病原体構成成分の認識に関わることを明らかにした。加えて、PGRP-LCとPGRP-LEはRHIM-likeモチーフと名付けた類似した構造を有しており、このモチーフが自然免疫反応の誘導に重要であることを示した。本研究は、(独)生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一環として、マサチューセッツ医科大学のNeal Silverman博士らの研究グループと共同して行われた。

マウスES細胞からほぼ全ての神経系細胞種創出可能性を発表(2006/4/28)
 東北大学先進医工学研究機構(TUBERO)の生命機能科学分野、加藤英政タスクチームはイギリスケンブリッジ大及びカーディフ大との共同研究を通じて、マウスES細胞からほぼ全ての神経系細胞種を創出しうることを証明した。
 これは、再生医療の分野で注目を浴びているES細胞を加工することにより、現在ほとんど根治療法の存在しない多くの神経系疾患に対して、その移植やこれら誘導細胞をテスター細胞として用いる新しい形態の装薬プロセスを通じて様々な臨床的ソリューションを提供できることを示した。

分子イメージング研究のための連携基本協定を締結(2006/2/21)
 放射線医学総合研究所と東北大学は、分子イメージングの研究教育拠点として、研究・教育を連携して推進するための基本協定を締結。
 本協定は、放医研が文部科学省の分子イメージング研究プログラムのPET疾患診断研究拠点に採択され、分子イメージング研究センターを発足させたことを機に、東北大学との間で研究・教育のための連携・協力体制の構築を目的にしている。
 従来の分子生物学的手法は生命を静的・定性的にしか研究できなかったが、分子イメージング研究の手法を用いれば、これら分子の変化を可視化し、動的・定量的にとらえることを可能にした。従来の方法に比べ生命をより正しく理解できる。生体(細胞、臓器、個体など)を生きたまま、丸ごと計測可能であることが特徴で、基礎的な医学・生物学への寄与はもちろんのこと、各種疾患の機構解明や診断法の確立、医薬品開発など広い分野への応用が期待されている。
 しかし、世界的に分子イメージング関連技術者・研究者の不足が深刻で、近年、ドイツやイギリスの大学で分子イメージングコースが開設されており、我が国においても、プロジェクト推進のための人材育成が急務となっている。
 今回の協定は、分子イメージング研究に関する研究・教育について、両機関間で包括的に連携、協力するためのものである。具体的には下記の8項目の連携協力を実施する。
 (1) 共同研究の推進
 (2) 人材育成の推進
 (3) 研究者の相互交流
 (4) 施設設備の相互利用
 (5) 研究資源の相互利用
 (6) 知的財産の管理活用
 (7) 関連する研究成果等の情報交換
 (8) 上記のほか両者間で合意した事項
 特に人材育成については、東北大学において、複数の研究科が連携し「分子イメージング教育コース」を発足させ、東北大学の教員と放医研の研究員による教育・研究指導などを行い、
 (1) PETを活用できる研究者育成
 (2) RIを利用した薬剤の活用ができる人材育成
 (3) PET薬剤合成ができる人材育成
などを目標としている。
 なお、基本協定の有効期間は、締結日より文部科学省の分子イメージング研究プログラムの実施期間が満了する平成22年3月31日までである。

癌遺伝子の新たな役割を解明  癌遺伝子ファミリーが先天異常症の原因に(2006/2/9)
 東北大学大学院医学部遺伝病学分野、青木洋子助手、松原洋一教授らのグループは、先天異常症であるCFC症候群が、癌遺伝子KRASとBRAFの先天性の遺伝子変異が原因で起こることを解明した。
 本研究は、大阪府立母子保健総合医療センター・神奈川県立こども医療センター・埼玉県立小児医療センターなどの遺伝科と、ヨーロッパの遺伝専門施設の協力を得て行われた。同研究グループが昨年明らかにした、コステロ症候群の原因が癌遺伝子HRASであるという報告(Nature Genetics10月号)の続報で、癌遺伝子がヒトの発生に重要な働きをしていることを明らかにしたもの。