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名古屋大学

藍藻の「時計たんぱく質」のリズミカルな構造変化を解明 -分子時計の鼓動が聴こえる-(2010/11/27)
JST 課題解決型基礎研究の一環として、名古屋大学 大学院理学研究科の近藤 孝男 教授と秋山 修志 講師らは、藍藻の時計たんぱく質注1)が、あたかも心臓が拍動するかのように形状をリズミカルに膨張・収縮させ、24時間周期で時を刻むことを明らかにしました。

藍藻(シアノバクテリア)は生物時計を備えた最も下等な生物で、その時計は3種類の時計たんぱく質(KaiA、KaiB、KaiC)からなります。本研究グループは、これまでの研究から、この3つの時計たんぱく質をATP注2)存在下で混合すると、KaiCのATP加水分解酵素(ATPase)活性やリン酸化状態が24時間周期で振動することを示してきました。このことは、KaiCのATPase活性が生物時計の周期を規定する重要な因子であると考えられ、ATPase活性の増減に伴ってKaiCの分子形態がどのように変動するのか、その分子機構の解明が期待されていました。

研究グループは今回、大型放射光施設 SPring-8注3)の理研構造生物学ビームラインI(BL45XU:X線小角散乱法注4))や蛍光分光法を用いて、溶液中のKaiC分子が24時間周期で形状をリズミカルに変化させることを解明しました。KaiCは、ドーナツを2つ積み上げたような二重のリング状構造をしていますが、片方のリングにあるATPaseの制御状態と密に連動して、もう片方のリング半径が大きく膨らんだり、縮んだりを繰り返します。KaiAやKaiBはこの膨張・収縮を感知することで、KaiCと結合・解離するタイミングを計っています。ATPaseの基準信号をKaiCの構造変化へと変換し、さらにそれを通じてKaiAやKaiBの結合・解離と連動させることで、より頑強で安定な24時間振動を実現しているものと考えられます。

本研究によってKaiCの構造変化の一端が解明され、KaiCがATPase活性の自己制御を通じてどのように24時間周期を実現しているのかを解明するための分子基盤が整備されました。シアノバクテリアで解明されつつあるATPを使った分子時計のフレームワークは今後、人間を含めた高等生物の時計研究の手がかりになるものと期待されます。

本研究成果は、2010年11月26日(英国時間)に欧州科学雑誌「The EMBO Journal」のオンライン速報版で公開されます。
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20101127/index.html

細胞運動の“ブレーキ”の特性が明らかに(2010/7/7)
 この度、名古屋大学大学院理学研究科の武田修一研究員、前田雄一郎教授を中心とする研究グループは、独立行政法人理化学研究所播磨研究所の似内靖先任研究員、名古屋大学大学院情報科学研究科の太田元規教授の研究グループ、及び東北大学大学院薬学研究科の山國徹准教授の研究グループと共同で、細胞運動を調節する重要なタンパク質である「アクチンキャッピングタンパク質」(CP)の活性制御の仕組みを明らかとすることに世界で初めて成功しました。
 高等生物の細胞運動は、タンパク質アクチンの離合集散によって行われており、その細胞運動において、アクチンは駆動力を与えるエンジンであり、CPはそれを制御するブレーキに相当します。今回の研究では、これまでほとんどわかっていなかったブレーキの特性が解明されました。本研究の成果は、細胞中にもっとも大量に存在するタンパク質であるアクチンの分子運動を理解する上で非常に重要であり、今後、がんや筋疾患などの治療研究への寄与も期待されます。
 なお、本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「前田アクチンフィラメント動態プロジェクト」(研究総括:前田雄一郎教授)の一環として行われたもので、平成22年7月6日付(米国東部夏時間)米国科学雑誌PLoS Biology電子版に掲載されます。

(論文) 
"Two Distinct Mechanisms for Actin Capping Protein Regulation - Steric and Allosteric Inhibition"
Shuichi Takeda, Shiho Minakata, Ryotaro Koike, Ichiro Kawahata, Akihiro Narita, Masashi Kitazawa, Motonori Ota, Tohru Yamakuni, Yuichiro Maéda, Yasushi Nitanai
PLoS Biology (2010)


《背景》
 私たちの身体を作っている細胞は、ある時期に活発に動きます。神経回路を形成するときには、神経細胞は“手”を伸ばし相手の神経細胞と“手”をつなごうとします。母胎内で身体が形成されるときには、個々の細胞は正しい配置を取るために、適切な場所へと移動します。免疫細胞は、細菌など異物が侵入した場所に駆けつけ、外敵を“飲み込み”ます。また制御不能な移動能を獲得したがん細胞は、別な組織に転移します。

 これらすべての細胞運動は、たった一種類のタンパク質アクチンの離合集散によって引き起こされます(アクチンの分子運動)。細胞内ではアクチン分子は二つの状態をとります。すなわち、個々バラバラに存在する状態と、多くの分子が数珠のように互いに連なって(重合)アクチンフィラメントを作っている状態です(図1)。アクチンが重合し、細胞膜を内側から押すことによって、細胞は移動します。

 細胞内には、アクチンの分子運動の速度を調節する多くの補助タンパク質が存在します。このような補助タンパク質の一つに、アクチンキャッピングタンパク質(CP)があります(図1)。CPはアクチンフィラメントの端に結合して、そこを塞ぐことによって重合を抑えます。CPが多すぎると、アクチンの重合が進まず、アクチンフィラメントができません。反対にCPが少なすぎると、細胞はアクチンフィラメントだらけになってしまいます。実際、細胞は時と場所に応じてCPの量を調節し、それによってアクチンフィラメントの量が調整され、それゆえ細胞運動の速度や強さを変動させることができます。つまりアクチンを細胞運動のエンジンに例えると、CPはブレーキに相当します。

 さらに細胞は、このCPのブレーキ能力を調節する仕組みを備えています。本研究では、二種類のタンパク質、V-1(ブレーキの数を減らす)とCARMIL(ブレーキをアクチンフィラメントから外す)がどのようにCPを調節しているのかを、世界で初めて明らかにしました。

《研究成果のポイント》
1. アクチンキャッピングタンパク質(CP)とその作用を抑制するタンパク質V-1、及びCARMILそれぞれとの複合体の詳細な立体構造を解明した。
2. V-1はCP上のアクチンフィラメント結合部位を直接覆い隠すことによって、CPとアクチンフィラメントとの結合を不可能にする。その一方CARMILはV-1とは全く別の位置に結合する。
3. これまで“硬い”タンパク質であると考えられていたCPが、実は常にねじり運動を繰り返す“柔らかい”分子であることが判明した。
4. CARMILはCPを束縛し、ねじり運動を抑えることによって、CPをアクチンフィラメント端から解離させると結論された。

《研究の内容》
 研究グループは今回の研究で大型放射光施設SPring-8※1の理研 構造ゲノム I ビームライン BL26B1を利用し、X線結晶構造解析法※2によりCPとV-1、及びCPとCARMILのそれぞれのタンパク質複合体の構造を解明することに成功しました。これによって、それぞれの分子同士がどこにどのように結合しているかを、詳しく知ることができました。

 V-1はCP表面上の、アクチンフィラメント端と結合する部位を覆い隠すように結合していました(図2)。そのためV-1が結合したCPは、もはやアクチンフィラメント端には全く結合することができなくなる、つまりブレーキとしては働けなくなります。

 一方CARMILはCP上のV-1とは反対側の位置、すなわちアクチンフィラメント端結合部位とは全く異なる場所に結合していました(図2)。これはCARMILがアクチンフィラメント端に結合しているCPにも結合できることを意味しています。

 CARMILはCPをアクチンフィラメント端から解離させる(ブレーキを外す)ことが知られていますが、それでは、なぜ離れた場所に結合するにもかかわらず、CARMILはCPをアクチンフィラメントから外すことができるのでしょうか?この遠隔操作を実現するためには、CARMILが結合することによってCP全体の形に何らかの変化を起こす必要があります。今回の研究では、その変化の実態を解明することができました。

 今回得られたいくつかのCPの構造を比較することによって、CPは大小二つの領域(ドメイン)から成り立っていることが示されました(図3)。二つの領域は互いにねじれるように揺れ動くことができるようになっており、それによってCPは分子の形を変えることができます。つまり、これまで“硬い”分子であると考えられていたCPが、実は“柔らかい”分子であることが判明しました。CPはアクチンフィラメント端にいったん接触すると、このねじり運動によって自身の形をアクチンフィラメント端にピッタリと合うように変化させるようです。CARMILはCPの二つの領域にまたがって結合しています。これらのことから、CARMILは二つの領域間のねじれ具合を変え、CPをアクチンフィラメント端とは合わない形に束縛するため、アクチンフィラメント端との結合を著しく弱めると考えられます(図4)。本研究では、この考え方を支持する証拠も得ることができました。


《成果の意義》
 冒頭に述べたように、アクチンの分子運動はすべての細胞運動の駆動力であり、アクチンと共に働く補助タンパク質も、CPを含めてすべての細胞に共通であります。よって今回明らかとなったCPの作用を調節する仕組みは、細胞運動全般の仕組みを理解する上で非常に重要な知見となります。すなわち免疫、がん、神経発生といった重要な生命現象のメカニズムを理解する上での基礎となります。またV-1は心臓肥大の原因タンパク質の一つとして知られており、今回の結果が心臓病の治療薬の開発につながると期待されます。さらにCARMILがアクチンフィラメント端に結合したCPを外す仕組みは、CP自身の形の揺らぎを巧みに利用したもので、タンパク質相互作用の制御の方式一般を考える上で非常に興味深い例です。
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2010/100707

X線繊維回折でアクチンフィラメントの構造を解明 - 生命の基本タンパク質「アクチン」が担う生理機能のメカニズム解明に一歩(2009/1/22)
◇ポイント◇
構造モデルの検証やアクチン変異体解析の検証を展開、新しい詳細構造モデルを得る
単量体から重合体へとフィラメントを構成するには、アクチン分子の平板化が必須
1つの細胞内のあらゆる生命現象を理解する鍵を獲得

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、独立行政法人科学技術振興機構(JST、北澤宏一理事長)および国立大学法人名古屋大学(平野眞一総長)は、生命維持機能を担う基本的なタンパク質の1つ「アクチン※1」が重合し、数珠状につながってできる「アクチンフィラメント※2」の詳細な構造を解明しました。アクチン単量体が持つねじれた2つの大きなドメインが、重合の際に相対的に回転して平板な構造になることなどが分かり、これらの構造から、謎となっていたアクチンが関わる細胞運動のメカニズムを解明できると期待されます。これは、理研放射光科学総合研究センターX線構造解析研究チームの小田俊郎チームリーダーと相原朋樹研究員、名古屋大学大学院理学研究科附属構造生物学センターの前田雄一郎教授と成田哲博助教、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「前田アクチンフィラメント動態プロジェクト」の岩佐充貞研究員が行った研究の成果です。
 アクチンは、真核細胞に多量に存在するタンパク質の1つで、細胞の運動、細胞内の運動、小器官の固定、細胞分裂など、生命の基本的な生理機能を担っています。このアクチンは、1個1個バラバラな単量体状態(G-アクチン)と、それが重合したフィラメント状態(F-アクチン)の2状態をとることが知られています。多くの細胞運動は、アクチンの単量体から重合体への変化により起こります。1942年にアクチンが発見されて以来、1950~60年代には名古屋大学・大阪大学の大澤文夫名誉教授らのグループが、アクチン重合の熱力学的研究を進め、1990年にはドイツのマックスプランク医学研究所のK.C.ホームズ (Holmes)ディレクターらが、アクチン単量体の結晶構造を解明しました。現在までの重合体の構造モデルは、この単量体結晶構造を積み上げただけのモデルが使われています。
 今回、理研が所有する大型放射光施設SPring-8※3を用いたX線繊維回折法※4により、F-アクチンの構造モデルを構築し、低温電子顕微鏡※5を用いたモデルの検証や、アクチン変異体解析による検証を経て、アクチンの重合に伴う構造変化は、2つの大きなドメインが相対的に回転する単純な変化である、という新しい詳細構造モデルを考案しました。これにより、フィラメントを構成するアクチン同士の結合、アクチン結合タンパク質との結合など、アクチンが担う生理機能のメカニズム解明の基盤が確立すると期待されます。
 これは、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「前田アクチンフィラメント動態プロジェクト」(研究総括:前田雄一郎教授)の一環として行われたもので、この研究成果は、科学雑誌『Nature』(1月22日付けオンライン版)に掲載されます。

1. 背景
(1) タンパク質アクチンの重要性
 アクチンは、真核細胞に多量に含まれているタンパク質の1つです。1942年、ハンガリーの生化学者FB.シトラウプ(FB.Strub)が筋肉組織から発見しました。発見後間もなく、アクチン溶液に塩を添加すると、アクチンが重合してらせん状の安定な長い繊維状の組織(フィラメント)を形成することや、アクチンには生体のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)が結合していること、さらに、そのATPは、重合に際して分解されることが明らかにされました。
 1950~60年代、大澤らのグループは、熱力学の観点から実験を行い、アクチンが、1個1個バラバラの単量体状態(G-アクチン)と、それが数珠状につながったフィラメント状態(F-アクチン)とを絶えず行き来し、この重合反応が“水が氷になる”というような相変化であることを示しました(図1)。ちょうどそのころ、アクチンが、筋肉以外の細胞にも普遍的に存在することが示されました。1970年代には、F-アクチンの一端で重合、もう一端で脱重合し、長さが変わらずフィラメントが移動する現象(トレッドミリングと呼ばれる)が、抽出されたアクチンで見つかりました。後にこの現象は、抽出・精製された系だけでなく、細胞内でも一般的に見られる過程であることが分かりました。
 現在では、ATP分解を伴ったアクチンの重合・脱重合が、細胞運動、例えば、フィロポディア(糸状仮足※6)やラメラポデリア(葉状仮足※7)の駆動力として認知されており、アクチンモーターと呼ばれています。アクチンは細胞運動だけでなく、細胞の形態維持、細胞内装置の固定、細胞分裂、記憶、転写など色々な場面で働いています。例えば記憶は、神経細胞上のスパインと呼ばれるとげ状の小さな突起が、刺激で活性化されたアクチンによって膨張し、隣の神経細胞と結合をつくることで獲得されます。このようなアクチンを中心としたシステムは、精巧にアクチン結合タンパク質によって制御されています。もしこの制御が壊れて、例えばがん化すると、隣と接着していなければならない細胞が自由に動き出し、転移の原因となります。
 アクチンを中心としたシステムの状態変化が、細胞の基本的な機能や病気と深く関係しており、その機構や制御の解明・応用が現代生物学・医学の潮流の1つになっています。また、アクチンはどの細胞にも存在する、普遍的で保存的なタンパク質分子です。「1タンパク質1機能」と考えられているタンパク質がほとんどですが、アクチンは「1タンパク質多機能」であり、細胞を理解する鍵であると考えられます。
(2) アクチンの構造研究
 アクチンは、発見された直後から構造研究が始まりました。1947年イギリスの物理学者アストベリー(W.T.Astbury)らは、アクチン凝集体を乾かしてX線回折を行い、約3Å(オングストローム)の周期性をもつ反射を確認し、アクチン凝集体が、きちんと並んだ分子の複合体であることを明らかにしました。これからアクチン単量体が重合したF-アクチンの構造解析研究がスタートしました。1963年、イギリスのハンソン(J.Hanson)とローリー(J.Lowy)は、電子顕微鏡を用いて、F-アクチンは数珠状に並んだアクチン単量体からなるひも(ストランド)2本が、お互いに巻きついた構造であることを突き止め、基本的な分子配置を初めて明らかにしました。
 アクチン単量体の結晶構造は、それから27年後の1990年に、ドイツの構造学者ホームズ(K.C.Holmes)のグループが明らかにしました。同時に彼らは、この結晶構造をもとに、F-アクチンのフィラメント構造モデルも提案しました。このF-アクチンの構造モデルは広く受け入れられ、アクチン研究をリードしてきました。しかし、このモデルでは、アクチンの基本的機能に関するいくつかの疑問に答えることができず、より詳細なモデルが望まれていました。例えば、アクチンがATPを加水分解する反応は、重合によって活性化されますが、そのメカニズムがどのようになっているのか? 何がF-アクチンの安定性を決めているのか? 塩を入れるとなぜアクチンは重合するのか?――などです。そこで研究チームは、F-アクチンの新しい構造モデルの構築を目指しました。

2. 研究手法と成果
 F-アクチンの長さは、不均一なため、良質な結晶を作れず、通常用いられるX線結晶構造解析法で解析することができません。そこで研究チームは、F-アクチンが自発的に液晶状に配向する性質を活用し、X線繊維回折法を用いました。この手法を用いると、X線結晶構造解析法と同じように、原子レベルの分解能で構造モデルを構築できますが、F-アクチンの結晶ではなく、F-アクチンが配向した試料が必要になります。そのため研究チームは、F-アクチンを高配向させるために磁場を活用しました。タンパク質は、酸素、炭素、水素、窒素原子で構成された有機物であり、金属のような強磁性体(磁石)ではありません。しかし、タンパク質は、磁場を感じる電子を含んでおり、F-アクチンの場合、磁場の向きに電子が沿う性質を持っています。研究チームは、磁石の強さが18テスラの超伝導電磁石(図2)を活用し、F-アクチンを奇麗に配向させることに成功しました。
 F-アクチン試料の配向は、磁場から出すと徐々に悪くなりますが、SPring-8は、その強力なX線の活用により、配向が悪くなる前に測定を完了できます。また、X線の平行性も高いので、X線回折点の広がりも狭く、くっきり、はっきりとしたパターンを撮ることができます。さらに、SPring-8のビームラインの測定はバックグランド・ノイズも少なく、理想的なX線回折パターンを得ることができます。
 得たX線回折パターンからF-アクチンの立体構造を抽出しますが、それにはいくつかの方法が考えられます。研究チームは、もとになるG-アクチンの立体構造を活用し、この立体構造を変形したモデルを作成して、実験から得られたX線回折パターンと比較する方法を用いました。具体的には、アクチン分子が変形しやすい方向を計算し、その方向に変形させた結果得られるX線回折パターンのシミュレーションと、実験のX線回折パターンを徐々に合わせる操作を繰り返し行い、フィラメント内のアクチン分子の構造を探索しました。その結果、モデリングに使用したアクチンの立体構造によらずに、実験のパターンをよりよく説明できるモデルを構築するこができました。さらに、分子動力学的手法などを用いたモデルの精密化も行いました。この構造モデルはSPring-8キャンパスにある低温電子顕微鏡を使用して独立に得たF-アクチンの再構成像と一致していました。

 アクチン分子は、2個の大きなドメインに囲まれたATPを結合する溝(クレフト)を持っています(図3)。通常のG-アクチンの結晶構造(図4左)ではこのクレフトは閉じており、さらに、2個の大きなドメインはお互いにねじれています。今回得た構造モデル(図4右)では、F-アクチン分子もクレフトは閉じていますが、2個の大きなドメイン間のねじれは解消し、平板な構造となっていました。
 この構造解析から、アクチンの重合に伴う構造変化は、2つの大きなドメインが相対的に回転する単純な変化であることが分かりました。詳細に構造を検討したところ、このアクチン分子の平板化は、フィラメント形成に必須であることが推察できます。また、平板化の回転軸にあたる部分には、ATPの加水分解に必須なアミノ酸があり、この平板化とATP加水分解反応の活性化は密接に関係していると思われます。ATPのエネルギーを利用して駆動力を発生するアクチンモーターのメカニズムが明らかになると期待されます。

3. 今後の期待
 今回のF-アクチンの構造は、謎であったアクチンに関する基本的疑問の解明に手がかりを与えるだけでなく、アクチン結合タンパク質との詳細な相互作用を議論するための基盤を与えるものです。例えば、ミオシン※8とアクチンとの相互作用で収縮する骨格筋では、ミオシンの結晶構造は複数判明していましたが、F-アクチンの構造が詳細に分かっていなかったため、筋収縮メカニズムは原子レベルで理解されていません。同様に、アクチンを中心としたシステム(アクチン細胞骨格)を制御する、複数のアクチン結合タンパク質(フォルミン、ゲルゾリン、コフィリンなど)の結晶構造はすでに解明されていますが、それらがどの様にF-アクチンと相互作用をするのか理解されていません。F-アクチンの詳細構造モデルにより、これらの現象を原子レベルで解明することができ、筋肉や細胞運動の研究が飛躍的に加速されると期待できます。また、アクチン細胞骨格を制御するタンパク質の異常により起こる疾病(例えば、ウィスコット・アルドリッチ症候群※9)の理解などに役立つと期待できます。

<補足説明> ※1 アクチン
真核細胞に最も多量に含まれるタンパク質で、進化的に離れた酵母とヒトのアクチンを比較するとアミノ酸の一致度は80%程度とアミノ酸配列の保存性が高い。分子量は42KDa(キロダルトン)でヌクレオチド1個と2価イオン1個を結合している。アクチンは普遍的で保存性の高いタンパク質であり、遺伝から細胞運動まで広範囲な細胞機能を担っている。

※2 アクチンフィラメント
アクチンは単量体の状態とそれが数珠状に結合したフィラメントの状態の2状態をとる。このフィラメントはらせん構造をしており、13個分子で6回巻きほぼ同じ配置に戻る。分子間の間隔は27.5Å程度である。筋肉では、このアクチンフィラメントにトロポミオシンとトロポニンが結合した安定なフィラメントがミオシンと相互作用して、すべり運動や力を発生する。このアクチンフィラメントがアクフィブな状態である。一方、トレッドミリングを駆動力とする細胞運動では状態転移自体に機能的意味がある。

※3 大型放射光施設SPring-8(スプリングエイト)
理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の大型放射光施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、細く強力な電磁波のことである。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。SPring-8は日本の先端科学・技術を支える高度先端科学施設として、日本国内外の大学・研究所・企業から年間1万4,000人以上の研究者が利用している。

※4 X線繊維回折法
液晶状にフィラメントが配向したゾルを調製し、そのゾルにX線を当てその回折パターンを記録して、フィラメント構造を明らかにする手法。回折パターンとして線状の構造が観察される。この回折パターンから構造を得る方法は、大きく分けて2つある。1)結晶構造解析法と同様に、電子密度図を作成してから構造モデルの構築を行う方法、2)知られている構造情報を用いて初期モデルを作成し、モデルから計算されるパターンと実験から得られたパターンを比較して、モデルを逐次的に改造していく方法―である。この手法の代表例としてタバコモザイクウイルスの構造解析が知られている。

※5 低温電子顕微鏡
電子線を用いて、液体ヘリウムあるいは液体窒素温度に冷却した試料を観察する方法。低温では電子線損傷を低く抑えることができるため、生体試料を用いる場合に有用である。以前から使われていた、試料をウランのような重原子で染めて観察する方法より、ありのままのタンパク質を観察できる利点があるが、コントラストが低い欠点がある。解析法には、らせん再構成法、単粒子解析法、2次元結晶法、トモグラフィ法がある。

※6 フィロポディア(糸状仮足)
糸状仮足とは、浮遊性細胞の運動様式の1つで、アクチンフィラメントの平行な束と、さまざまなアクチン結合タンパク質とからできた構造、生体膜から突き出した仮足を形成する。細胞間のシグナル伝達、化学誘因物質への誘導、創傷治癒などの接着において重要な役割を果たす。

※7 ラメラポデリア(葉状仮足)
葉状仮足とは、浮遊性細胞の運動様式の1つで、アクチンフィラメントがアクチン結合タンパク質により枝分かれし、盤状に生体膜から突き出した仮足を用いて運動する。がん細胞の浸潤や神経細胞の成長円錐で観察される。

※8 ミオシン
ミオシンはアクチンフィラメントと相互作用し、ATPを加水分解しながらフィラメントに沿って移動するモータータンパク質である。このアクチンとミオシンの相互作用で筋肉は収縮する。筋肉以外の細胞からも発見されている。

※9 ウィスコット・アルドリッチ症候群
X連鎖劣性遺伝形式をとる免疫不全の病気で、原発性免疫不全症候群として分類される。主な症状としては血小板減少、易感染性、難治性湿疹が有り、悪性腫瘍を併発することもある。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2009/090122/index.html

電子の磁石の強さを1兆分の1の精度まで計算(2007/8/22)
 理化学研究所、名古屋大学、米国コーネル大学は、1個の電子が持っている磁石の強さを1兆分の1の精度まで計算することに成功した。これは、磁石の強さを示すg因子の値を決める理論式のうち、光子個による寄与を従来の計算と独立に評価し、新たに決定し直したもの。その結果、2006年の米国ハーバード大学によるg因子の実験の測定結果とあわせて、電磁気力の強さを示す微細構造定数は1/137.035999070(98)と定まり、最後の3桁の数字が変更された。これは、仁科加速器研究センター川合理論物理学研究室の青山龍美協力研究員(現在は大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構研究員)ほか3人の共同研究による成果。
 本研究で自動化システムの検証が完了したことから、理論計算において迅速にα5(αの5乗)の項が得られるものと考えられる。ハーバード大学では、近くさらに実験の精度を上げる予定であり、理論値と実験値がともに更新されると、αの値をさらにもう1桁知ることができると期待される。

連携・協力協定を締結(2007/3/9)
 産総研と名古屋大学(以下「名大」)は、我が国の学術および産業技術の振興に寄与することを目指して、相互の研究開発能力および人材等の総合力を発揮し、協力が可能な全ての分野において、連携・協力を実施するための協定を、3月9日(金)産総研東京本部理事長室において調印した。
 本協定の下、名大と産総研は、共同研究を推進すると共に、研究施設・設備の相互利用を促進する。また、研究の交流を進め、人材育成に当たっては相互に支援を行う。
 当面は、名大「エコトピア科学研究所」ならびに「工学研究科」と産総研中部センターの間で、「環境」をキーワードとする低環境負荷製造技術、資源循環、環境浄化等の技術について社会科学的な視点を含めた議論を深め、我が国の産業を支える材料を基盤とするものづくりの分野において、それぞれの機関が持つ得意分野を活用しつつ協力して研究を推進する。

【 協定の内容 】
 ・我が国の学術および産業技術の振興に寄与
 ・共同研究の推進、研究施設・設備等の相互利用による戦略的研究拠点の構築、研究者の研究交流を含む相互交流、人材育成の推進および相互支援
 ・協定推進の戦略的な意志決定に関わる連携協議会、恒常的な情報交換と戦術的な方針決定に関わる連携推進会議を設置
 ・連携プロジェクトの選定と実施
 ・有効期間は単年度で双方合意の上更新

タンパク質「アクチンフィラメント」端での伸縮制御メカニズムを解明(2006/11/17)
 JST、理化学研究所、名古屋大学は、細胞に最も多く含まれるタンパク質”アクチンフィラメント”の端の立体的な構造を決定する新たな手法を開発し、それを用いてアクチンフィラメントとCapping Protein(キャッピング プロテイン)の複合体の三次元構造を決定した。アクチンフィラメント端でのタンパク質の形を見たのは本研究が世界で初めて。
 今回、研究チームは、Capping Proteinがアクチンフィラメント末端のアクチン分子と結合した複合体の構造の解明に成功した。これによりアクチンフィラメントの伸長と短縮の制御メカニズムが明らかになった。
http://www.jst.go.jp/
http://www.riken.go.jp/

新規がん治療法実用化のため新会社設立(2004/1/20)
 日本化薬は、名古屋大学大学院工学研究科の小林猛教授らが開発した温熱免疫療法を用いた新規ながん治療法の実用化および事業化に向けて、第一高周波工業株式会社、株式会社TTC(技術支援ベンチャー)らと新会社・株式会社ナノセラピー研究所を設立した。
 がん温熱免疫治療法は動物実験等で高い治療効果が得られており、この知見に基づいて本治療法の「製剤」および「装置(医療機器)」の早期実用化のために、新会社を設立。新会社は日本化薬および第一高周波工業から本温熱免疫治療法の開発を受託する。本治療法は「がん細胞に選択的に薬剤を送り届けるDDS製剤化技術」や「数多くの抗がん剤を実用化した実績」を有する日本化薬が、「高周波加熱の独自技術や装置製造力」を有する第一高周波工業らとともに事業化を目指すもの。
 本治療法は、磁性微粒子を脂質で覆いナノサイズに製剤化したイオン性磁性微粒子を腫瘍部に集積させる。ここに交番磁場を照射することで腫瘍部のみを急速に高温加熱させ、がん組織を熱で殺傷する。本治療法はがん細胞内部から加温するため、正常組織の温度上昇はほとんど認められず、治療中の患者への負担や治療後の副作用の心配がないと考えられている。
 また、本治療法ではがん細胞に対する免疫活性が強く誘導されることも発見されており、転移がん等への治療の応用も示唆されている。
 本治療法は、有効な治療法のない固形がんの分野で早ければ2010 年ころの実用化を目指しており、国内大学発(名古屋大学)の革新的がん治療法として国際展開も視野に入れている。