未来に生き残れますか


キャリアを早くから考える人は、内定をもらえる割合が高い。当たり前のことであるが、何から始めたらよいか分からず、気がついたら周囲が内定をもらっていて、慌てて行動を始める薬学生が多いのではないだろうか。

 キャリアという言葉は、轍(わだち)という意味がある。轍は馬車が通った車輪の跡で、それを辿ることによって、自分がどのように生きてきたかが分かるという。それが将来を考えるうえで大きな意味をもつ。とくに、学生から社会人になるための就職活動においては、エントリーシートを作成するために「自分は何をやってきたのか」「自分は何ができるのか」「自分は何をやりたいのか」の自己分析が採用の合否を左右する。今まで漠然と生きてきたかもしれないが、振り返ることによって、今まで気づかなかった自分を発見することができる。

 次にキャリアを考える上で知っておきたいのは医療業界の現状である。薬学生は医療業界に就職する人が多いので、知らないではすまされない。高齢化に伴い医療費の増大が問題となっており、薬価や調剤基本料の引き下げ、後発品の推進などの医療の削減策が各分野に影響を及ぼしている。治療から予防、モノからヒトへのシフトが進んできており、働く環境や仕事の内容も大きく変わりつつある。常に変化を捉え、予測することが必要である。

 2016年の診療報酬改定では、かかりつけ薬剤師指導料の創設や健康サポート薬局の表示が条件を満たせばできるようになり、薬剤師の役割がさらに重要になってきていることはいうまでもない。しかし、就職活動前の大学薬学生に「かかりつけ薬剤師」についてアンケートを実施したところ、「詳しく知らない」と回答した薬学生が2割いたことは、少し職業意識に欠ける。

 ではこれからは、薬学生はどのようなキャリアを考えればよいのだろうか。薬剤師イコール病院・薬局というだけでなく、新しい働き方があってもいいように思う。もはや薬剤師の資格を取得すれば一生安泰であるという時代は未来にはない。薬剤師として何ができるか、どう働くかが問われる時代が来ている。最近では、薬剤師で弁護士の肩書のある方の名刺をもらうことがある。AIや人生100年時代といわれる未来に生き残るためには、こうしたマルチキャリアをもつことも、未来の新しいキャリアのひとつの考え方かも知れない。




斎藤由紀夫(さいとう ゆきお)
薬系キャリアコンサルタント
外資系製薬企業でMR、宣伝企画、教育・研修、プロダクトマネージャー、ヘルスケア、人事採用部門を歴任する。
その後大学院心理学研究科入学、修了後薬科大学に入職、キャリアセンター長としてキャリア・就職支援に携わる。
2015年に合同会社キャリアパフォーマンスを設立、イベント企画や研究会開催、講演、執筆などの活動を行っている。

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