京都大学大学院 薬学研究科 薬理学分野


痛みの研究をベースに脳などのネットワークを解明。大学病院で働きながら「博士」の学位取得をめざす道を検討中。

創薬研究と既存薬の副作用研究の両方で力を発揮

 薬物を投与したとき、生体で生じる反応。これを研究するのが薬理学だ。クスリの作用点は「受容体」、「酵素」、「膜輸送タンパク質、「核内受容体」に分けることができるという。金子教授に伺うと「臨床で使われる医薬品のうち約45%が「受容体」をターゲットにしたもの。また「酵素」をターゲットにするものが約30%、「膜輸送タンパク質」に作用する薬物はわずか5%にすぎない」そうだ。
 膜輸送タンパク質は、細胞膜の内外で物質の輸送・運搬を担当するタンパク室。イオンチャンネルもこの領域に含まれる。この膜輸送タンパク質に作用する薬剤は効き目がシャープで、臨床での利用も多い。創薬研究も、ヒトゲノムが解読されたことで「ゲノム創薬」研究が中心になっている。
 ヒトゲノムの中でクスリの作用点になりそうなタンパク質は6650種あるという。そのうち膜輸送タンパク質に関するものは15%もあるとみられており、創薬研究では有望な研究テーマなのである。
 金子教授は「私は、クスリを創る研究と使う研究の両方に興味があります。今あるクスリに関する副作用研究を主に中枢神経系の薬剤について研究しています。副作用が生じるメカニズムを解明して、副作用をなくす研究です。研究はモデル動物や細胞レベルの実験です。研究室では病態モデルのマウスを創り、病気のメカニズムを調べて何が悪役なのかを確認。医療施設や製薬企業にクスリの種になるものを提案していきます」という。

研究室の伝統的「痛み」の研究を過活動膀胱の研究に生かす

 「京都大学の薬理学分野は、伝統的に痛みに関する研究を行ってきました。今、オピオイドを用いた新しい痛みの研究としては、ヘルペスに関する研究があります。また既存の医薬品が効かない病気についても研究を進めています。例えば、神経障害や疼痛、糖尿病などで、これらの病態モデル(マウス)を創り、それぞれの病態で何が起きているのかを解明しています。痛みの研究は、現在では膀胱に焦点を当てた研究を進めています」と金子教授。
 膀胱関連の研究は過活動膀胱症(OAB=
overactive bladder、)に関して研究している。この病気は、膀胱の神経が過敏になり、尿が少ししか溜まっていなくても排尿を促すという症状がでる。患者さんにとってみると外出が不安であるし、睡眠の障害にもなって生活の質(QOL)を著しく低下させる。
 研究室では、モデルマウスを使って病態にかかわるタンパク質を解明している。研究室では、神経因性OABの病態と脳のつながりにも注目。神経細胞のモデルを作成し、脳の神経細胞死、なかでも脳組織に必須のグリア細胞について研究している。アルツハイマー病やパーキンソン病につながる脳の神経細胞の死が生じる時にグリア細胞に炎症が起きることが分かっており、遺伝子の側面からの研究も進めている。

6年制学科出身者に対する研究者養成も視野に

 「研究室には3人でチームを組む、7研究グループがあります。各グループに共通しているのがイオンチャンネル、遺伝子操作、電気生理の3つの方法で研究できることでしょう。モデル動物を創ったり、動物実験ができる人はたくさんいますが、イオンチャンネル、遺伝子操作、電気生理の3つの方法を用いた研究ができる人は他にはいません。さらに実験の技術を磨いて職人芸に達する学生もいます。
 数々の経験を積むことで何かトラブルがあったとき正しい対処ができます。6年制の学生は実務実習で臨床を体験します。治療のためのクスリがないという場面に直面することがあります。臨床では、医師が患者さんを救うため経験的に医薬品を投与することがあります。なんとか患者さんを救いたいという気持ちの一方で、生じる副作用も見逃せません。
 研究室では、副作用に関する基礎研究をおこない、動物実験では病態モデルのマウスを使って遺伝子レベルの研究を行います。研究には答がありません。失敗しながら解決方法を探します。学生たちには、他の分野もみなさい。俯瞰してみる能力をつけることで中枢が分かり、脳、脊髄、末梢神経などの関連が分かるわけです。この研究室では、分子レベルから臨床まで経験できるという特色があります」という。

大学病院での業務(就職)と大学院での研究を同時に行う

 6年制出身者のコースとして考えているのが、大学病院に就職して臨床経験を積みながら同時に大学院で研究を続ける博士課程だ。大学病院で働き、日々の業務の中から研究対象となるものを見いだし、大学院で研究する。1つの症例をどう解決するか、病院とタイアップした研究も進める。病院で働きながら大学院での学びを土日や平日の夜に行い、博士の学位を取得するのである。
 既存の医薬品は、薬効や副作用が把握されている。薬剤間の相互作用も明らかだ。薬価も新薬に比較すると低価格。既存薬に光をあてることは、患者さんのメリットにもなると考えられている。
 例えば抗がん剤などの副作用を抑えられれば、新薬に依存しなくてもすむ。
 学生たちの就職も臨床で培った能力を生かすことができると考えられる。研究は臨床に根ざした実践的な内容。製薬企業は即戦力を求めており、京都大学薬学部出身の博士は引く手数多という。
 金子教授は「薬理学分野は女子学生が多く、「実務家教員をめざす学生」や「就職を考える学生」もいます。就職活動は、ネットではどんな仕事か見えません。実社会で働く先輩たちに話を聞き、納得した就職活動ができるように指導しています」という。
(2013年5月取材)

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